表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この恋が叶わないなら、消えてしまえばいい~そう願ったら、イケオジ王弟の過保護マックス溺愛攻撃が始まりました~  作者: Alicia Y. Norn


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

番外編: 大人の男が堕ちた恋――ただ一人を想う夜

最愛の女性と結ばれる夜。

ノーラを待つ間、

テネシーの脳裏に浮かぶのは、積み重ねてきた二人の時間だった――。





 「わたしもう、幸せですよ?」



 エレオノーラが回した腕を抱きしめてそう言った瞬間、自分に理性が残っていたことに、心底感謝した。

 彼女は、自分のかわいさを理解していないようだ。

 いや、時折、理解しながらわざと"計算したかわいさ"を見せてくる。


 「今夜、覚悟しておけよ。」


 わざと耳元に低めの声を落とした。


 対抗するわけではないけれど、彼女の赤くなった顔が見たかった――でも、それがいけなかった。


 エレオノーラは一瞬、思考が停止したように固まったかと思うと、次の瞬間には頬に口づけをした。

 言うまでもなく、そのあとのわたしは、理性との戦いに全力を尽くすしかなくなった。


 思えば、エレオノーラはいつだってわたしの心を支配していた。

 無意識に、いや……おそらく無自覚に、彼女になら縛られてもいいと、そう思っていたのかもしれない。


***


 最初はただ、王太子妃教育中の彼女を、王宮で時折見かけるだけだった。

 苛烈な性格で、あまりいい噂が聞こえてこない。彼女の生家は有力な公爵家。両親も兄も有能なだけに、ひどく残念だと思った記憶がある。


 「その印象が変わったのは……あの時か?」


 公爵邸で行われた彼女の十六歳の誕生日。サミュエルはエレオノーラの婚約者として、自分は王家の名代代理という形で参加した。

 

 「あれは綺麗だった。」


 エレオノーラは薄紫のドレスで、髪には生花をあしらっていた。でも、視線を奪われたのはその容姿にではない。堂々と挨拶し、噂とは真逆の清廉な姿――その芯の強さに心を奪われた。伝え聞いた数々の噂が、誰かの悪意だったのではないかと思えるほど、輝き美しいあの姿を、わたしは一生忘れないだろうと思う。


 けれど、サミュエルとのダンスでその姿が一変した。笑顔が徐々に曇り、翳ったように見えたかと思うと、ダンスを終えた後、なにかを耐えるようにして彼女がバルコニーに消えていった。

 

 ――追わずにはいられなかった。


 サミュエルへの想いが痛いほど伝わるあのダンス。けれど、全身でその好意を向けた相手はひたすら無関心に踊るだけ。彼女の笑顔に応えることは一切なかった。


 「今思えば、あの時すでにノーラは自分の運命を知っていたんだな。」


 無意識に手にしたグラスを強く握る。

 バルコニーで見つけたエレオノーラの姿を思い出し、眉間に皺が寄る。


 ――バルコニーの片隅で、彼女は声を殺して泣いていた。


 暗闇に視線を送り、ふうっと自分を落ち着かせるように息をつく。


 あの時の自分は、悲しみに沈んでいく彼女を救う手立てがなくて、ただ壁になって周囲から彼女を隠すように立っていた。

 そして、彼女が一人涙しているとき、サミュエルは別の女性をダンスに誘った。今となってはその愚行に感謝しかないが、その姿に気づいたエレオノーラの瞳が凍ったのが忘れられない。十六歳の誕生日という特別な日を涙で曇らせたくないと思った。自分の身体で彼女の視界を遮って髪を直し、彼女の思考をサミュエルから逸らそうとした。でも今思えば、恐らくあれは、あまり意味のないことだっただろう。


 「苛烈な性格なら、自分のパーティーで婚約者に無断でパートナーを選び踊ることなど許さないだろうに……彼女は何も言わなかった。」


 手中にあるグラスの中で、氷がカランと乾いた音を立てる。

 特別な夜……お酒の力を少しだけ借りるつもりで軽くグラスに口をつけると、重く甘いブランデーの味と香りが広がる。


 「何から何まで想定外……もっとも、あの時のインパクトのほうがよほど強烈だったけれどな。」


 思い出して思わず笑みがこぼれる。


 公爵令嬢が市井の町人、しかも少年のような格好をし、言葉遣いも変えて狼藉者相手に真正面からやりあっていた。


 「足を踏みつけ、みぞおちに肘を叩きつけるなんて、とんでもないお嬢さまだったもんだ。」


 美しいドレス姿の後のあの姿を見た衝撃は、そのまま心に焼き付いた。

 衝動に駆られ、公爵邸へ向かい、気が付けば彼女の護衛を申し出ていた。


 後にも先にも――いや、彼女と出会ってからは随分と自分の行いが変わったのだが――とにかく、"冷静"と評判だったわたしを真逆にひっくり返した最初の出来事だった。


 「驚きに公爵殿が言葉を失くしていたな……無理もないが。」


 手にしたグラスを楽しげにくるりと回す。カランと小さくなった氷が音を立て、心地よく響いた。


***


 ふうっと大きくため息をつく。結婚式の喧騒は消え。あたりは静寂に包まれていた。涼しい風が部屋の温度を下げる。逸る気持ちを落ち着かせる温度がありがたい。


 部屋の片隅に目をやり、いまなら理由がわかる数々の己の愚行を思い出す。


 「護衛任務初日に愛称で呼び合い、わけのわからん王命で傷ついたノーラを抱きしめた。心底、彼女を守りたい……そう思ったんだ。」


 エレオノーラに関してだけは、"冷静"とは対極の性格が引き出されるらしい。

 王家からの理不尽な要求――教育係の仕事も、彼女は懸命にこなしていた。けれど、そんな彼女を貶めようと暗躍する馬鹿どもが思いのほか多くあらわれた。それを排除するのに忙しくなったが、結果的には王宮の掃除もできた。彼女に対する明確な悪意。これ以上傷ついてほしくなくて、あれこれ裏で手を回した。


 「まぁ、おかげで一連の黒幕もわかったのだから、結果的には良かったんだろうな。」


 十六歳になったばかりだというのに、ふと大人の顔を見せる不思議な少女。転生とやらの影響だとしても、あの凛とした姿に惹かれない理由はなかった。


 「ようやくお前を愛せる。」


 身支度を整えたであろうエレオノーラを思うと、自然と身体が熱くなる。手にしたグラスには、もう氷は残っていなかった。グラスをテーブルに置くと、テネシーは彼女の待つ寝室へ向かって歩き出した。


***


 エレオノーラが待っているはずの寝室。扉の前で深呼吸を一つ……。


 「柄にもなく緊張か、俺が?」


 伸ばした指先がわずかに震えていることに気づく。


 王弟として申し分のない身分に生まれた。

 健康であり、国王となる兄を支えると決めて文武両道であろうと努力した。

 その努力に見合っただけの力に恵まれ、気が付けば有力貴族たちの標的にされていた。

 兄と後継を争うつもりもなかったし、なにより興味を引く令嬢がいなかった。

 後腐れないわり切った関係以外に興味がないことを示し、早々に「結婚目的」の令嬢たちを蹴散らすことにも成功した。


 「その俺が、扉を開けることさえ躊躇するとはな……。」


 自分の行動に苦笑する。

 どうしようもなく惹かれた十六歳の少女が、一人孤独の中で戦う姿に、手を差し伸べたいと思った。

 気が付けば、失いたくないほど大切になっていた。

 何をしてでも守りたいと願った。

 エレオノーラにはそれだけの価値がある。

 

 もう一度、大きく息を吐いて、今度こそ、その扉を開けた。


***


 「ノーラ、待たせたか?」


 ベッドの端にちょこんと座る可愛らしい影を見つけて声をかける。

 ビクリと肩を揺らした様子から、彼女の緊張が伝わる。

 いつもよりはるかに薄着の彼女の艶やかな姿に、息を呑む。


 「疲れてないか?」


 平静を装い、そっと横へ座ると、エレオノーラの肩を抱き寄せた。早鐘を打つ鼓動を悟られるわけにはいかない。彼女を落ち着かせるように、抱き寄せた肩を撫でる。かえって緊張させてしまったかもしれない――身体がピクリと固くなった。


 「だ、だいじょう……。」

 

 言い終える前に、素早く一瞬だけ唇を奪う。


 「えっ!?ちょっ!?な、なに!?」


 予想通り、真っ赤になってオロオロしている。緊張は……ほぐれたようだ。

 ひとしきりあわてた後、わたしの行動に少しむくれた顔をする。


 ――可愛すぎる。


 「どうしてお前はそんなに怒っているんだ?」


 謁見の間から颯爽とエレオノーラを連れ出した後、拗ねていた彼女にかけた、同じ言葉で尋ねてみる。


 「照れ隠し……だろ?」


 あの時と同じ言葉を繰り返してみる。

 その意図に気づいたのか、エレオノーラが微笑む。

 

 「なぁ、ノーラ。少しだけ、俺の思い出話に付き合ってくれるか?」


 肩を抱きしめた手に少しだけ力を込めて、ゆっくり話しかける。何も言わずにコテンと頭を寄せたことを、同意と受け取った。


 「お前はまだ、俺との未来が怖いか?」


 あえて護衛のテネシーとして話しかける。修道院へ向かう宿屋で、泣き崩れたエレオノーラを思った。

 肩に寄せられた顔がゆっくりと左右に揺れる。


 「もう、大丈夫。あなたがいてくれる。」

 「俺は、お前を護れているか?」


 思ったより、自信のない声が出る。守れたつもりで傷つけたあの日がフラッシュバックする。

 気持ちが通じたと思いあがって、彼女が目の前で崩れ落ちた。あの日の冷たい彼女を思い出す。


 「俺は……」

 「あなたは――あなたが思う以上に価値のある人なのよ。」


 あの時と同じ言葉をエレオノーラが呟いた。


 いつだって君は、俺の心を救ってくれる。


 腕の中にあるぬくもりが、確かな未来に繋がっている。


 「どんな言葉も、どんな秘密も、わたしたちの未来に繋がってる。あなたがそう教えてくれた。」


 ポツリとつぶやくエレオノーラの言葉が、修道院で交わした言葉に重なる。時どき、彼女は驚くほど大人びた姿を見せる。それは、彼女が"転生者"だから……なのかもしれない。


 「君が……あきらめないと言ってくれた。一緒に生きてくれと……そう、言ってくれた――嬉しかった。」

 「わたしは……ありのままのわたしがあなたと共にいるその未来が一番、大事だって言ってくれた。その言葉が、何より嬉しかった。」


 静かに互いを見つめ合う。新月の闇に、うっすらと浮かぶ二つの影がゆっくりと重なっていく。

 重ねた口づけが次第に深くなる。エレオノーラが応えてくれることに、仄暗い嫉妬と喜びが浮かぶ。


 「君の前世の記憶には……」


 言いかけてはっとする。情けない思考がよぎったことを瞬時に恥じた。


 自分の行いは棚に上げて……わたしは何を気にしているんだ。


 あまりの情けない思考に、言葉の続きはとうてい口にできない。

 そんな気持ちを彼女が素早く察した。


 「何も、ないわ。

  あなたが……初めて……だから。」


 言わせてしまった一言に、強い罪悪感と深い後悔を覚える。


 「恰好悪いな。」


 情けない本音がポツリとこぼれる。


 「完璧じゃないあなたも大好きだって言わなかった?」


 いたずらっぽく笑ったエレオノーラの笑顔がたまらなく愛おしかった。


 「もう一度、君に誓うよ。わたしの生命(いのち)は、わたしたちの幸せな未来へ捧げる。一人で泣く夜も、泣かせる理由さえ奪うから。」

 「わたしの居場所は、もう"ここ"以外にないですよ。」


 そっとエレオノーラの手のひらが胸元に重なる。


 「愛してる。」


 飾らない気持ちが自然と声になる。重ねられた手のひらをとって、口元へ運ぶ。指先に口づけると、エレオノーラの身体がピクリと揺れた。


 「全力で、君との未来を守らせてくれ。」


 耳元で囁いた低めの声に、彼女から熱のこもった吐息がこぼれる。

 その柔らかな感覚に、じわりと理性が溶けだしたのを感じた。

 

テネシーは酸いも甘いも経験した大人の男。

王弟ですからね……いろいろあったことでしょう(色恋含めw)

そんな彼を本気にさせたエレオノーラ。

転生したアンバランスな彼女に惹かれたのだとすると、

ノーラの覚悟が本当の意味で実を結んだのかもしれないです。

あまり不幸になる人を書きたくないというわがままで、

わたしの小説の悪役は「小悪党」になりがち。

でも、そのぶん幸せになる人たちが多くいればいいのかな?とか

これまたわがままなことを考えています。


機会があれば、また二人の幸せな時間が描けたらいいな……と思っています。

ブクマ・リアクションなどが励みになりますで、

「読んだよ~」の痕跡を残していただければ幸いです。


お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ