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この恋が叶わないなら、消えてしまえばいい~そう願ったら、イケオジ王弟の過保護マックス溺愛攻撃が始まりました~  作者: Alicia Y. Norn


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14.勇気と希望

不用意な言葉で、愛する人が目の前で崩れ落ちる。

最後の試練の先で、二人が選び取る未来とは――。





 「ノーラっ!」


 目の前で崩れ落ちる身体を慌てて抱きとめる。


 冷たい。呼吸が弱い、意識は?


 頬から赤みが消え、真っ青だ。呼びかけに答える様子はない。

 あわてて抱き上げ、馬車へ戻る。


 「お、お嬢さま!」

 「大丈夫だ。念のため、わたしが馬で修道院まで彼女を運ぶ。」


 冷静さを装い、御者に指示を出す。

 抱きしめている腕はわずかに震えていたが、悟らせるわけにはいかない。


 「エレオノーラ嬢のことは、任せてくれ。」

 

 テネシーはノーラを抱いて自分の馬で駆けぬけた。

 腕の中にあるはずの温もりは、ほとんど感じられない。


 焦燥を掻き立てるように――馬の蹄の音だけが鳴り響いていた。




 修道院では、シスターが出迎えてくれたが視察どころではなかった。

 

 公爵から前世の記憶があると聞いたとき、それがノーラの"秘密"だと納得した。

 真偽はどうでもよかった――いや、その秘密ごと愛せると思ったから深くは考えなかった。

 でも……愚かだった。


 目の前で静かに眠るノーラを見つめる。


 彼女の"秘密"は"恐怖"に直結していた。

 俺が、見誤ったんだ。

 あんなに簡単に口にしてはいけないことだった。

 俺は――。

 なにが「護る」だ!

 なにが「大丈夫」だ!

 彼女をここまで追い詰めたのは、間違いなく俺だ――。


 静かに揺れる窓辺のカーテンが、ノーラの頬に影を落とす。

 

 どうすればいい……。


 君は、君だけは失いたくない。


 ノーラの手をそっと握り、額に寄せて祈る。


 風は止み、遠くで子供たちの笑い声だけが、別世界のように響いていた。


***


 ――深く沈む暗闇の中で、よく知る声を聞いた気がした。


 「心配するな。俺がついてる。」

 「お前は――お前が思う以上に価値のある女なんだよ。」


 その声の先に、淡い光が見える。


 わたし……行かなきゃ。


 手のひらに感じるぬくもりと、頬を撫でる優しい風に誘われるように、ゆっくりと意識が浮上する。


 「ここ……。」


 曖昧な記憶を少しずつ呼び起こす。

 ぴくりと手を動かすと、武骨だけれど、確かに覚えのあるぬくもりを感じる。


 「ノーラ。」


 目の前に飛び込んできたのは、安堵して泣きそうなテネシーの表情だった。


 男の人でも、泣くんだ――。


 彼の頬を伝う涙を、不思議な気持ちで見つめていた。


 無意識に手を伸ばす。




 「泣かないで……。」


 テネシーは自分の涙に気づいていないようだった。

 慌てて顔を逸らす。


 「泣くだけ泣いたら、忘れてあげる。

  あなたは――あなたが思う以上に価値のある人なのよ。」


 かつてテネシーに贈られた言葉を返す。

 彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、でもすぐに見慣れた笑顔が戻った。


 「よかった、笑ってくれて。」


 誰にも負けない強い彼をここまで追い詰めてしまった――。

 今こそ、自分の弱さに向き合う時ね。


 ノーラは、静かに身体を起こし、テネシーに向き合う。


 「話を……聞いてくれる?」





 静かに深呼吸し、テネシーが手に少し力を込めて頷いた。


 「転生者……あなたが言った通り、わたしは以前生きていた世界のことを覚えてる。」


 言葉に詰まる。

 胸の奥が、ひりひりと焼け付くように痛む。


 「……信じてもらえるかわからないけど、あなたには全部話したい。」


 うつ向いて、逃げ出したい気持ちを必死に抑える。

 手のひらの温もりに、罪悪感が増していく。


 テネシーは何も言わず、優しい眼差しでじっと見つめていた。

 ずっと守ってくれた眼差し――恐れも、迷いも、全て受け止めてくれる――あの瞳。


 「ノーラ、大丈夫だ。」


 大好きな心地いいバリトンの響きが、心をすくいあげてくれる。


 「俺を信じろ。」

 

 見覚えのある力強い眼差しに、ありったけの勇気を振り絞る。

 

 「前の世界で、わたしは殿下とベルさまのことを知っていたの。そして、あなたのことも……」

 「……。」

 「わたしが体験した世界では、わたしは……。」


 言葉にするのが怖い。

 "悪役令嬢"なんて言えない。

 断罪、国外追放、公爵家追放――。


 どんな言葉を選んでも、現実味がなかった。


 「幸せになる方法を……探したんだろ?」


 戸惑うわたしの代わりに、テネシーが言葉を紡ぐ。

 重く何重にも重なり合った罪悪感が、ゆっくりと光に消えていく。


 言葉の代わりに涙がこぼれる。


 泣くんじゃなくて、ちゃんと話したいのに……。




 困ったように笑ったテネシーが、ノーラを抱き寄せた。 


 「俺の未来は、おまえに繋がってる。どんな言葉も、どんな秘密も……。」


 頭に柔らかい感覚が落ちた。


 ――あっ。


 それが唇だと気づいて、頬が一気に熱くなる。


 「お前の過去も、どんな記憶も、それはお前の一部だろ?」


 見つめている表情が、王宮で見た()()()()()に重なる。


 「わたしには――君が君であることが何より一番大切なんだ。」

 

 初めて彼を美しいと思った。

 いろんな彼を見てきたけれど、目の前の彼は、強く美しい――愛する男性(ひと)だった。


 「そして、ありのままの君が俺と共にいてくれる。その未来が一番、大事なんだ。」

 

 口調は王族の()()なのに、くしゃりと笑った笑顔に、護衛として出会ったときのことを思い出す。


 ――ありのままの自分。


 恐怖も秘密も、すべてありのままに受け止めてくれる人。


 振り絞った勇気が、明日の希望を連れてきてくれた。

 探し続けた幸せの姿を、目の前のテネシーの笑顔に見つけた。


***


 あれほど苦しかった罪悪感が溶け、最後まで燻っていた"秘密の炎"が、静かにその熱を失っていく。

 深く息を吐き、心に静かな凪を迎え入れる。


 「……これで、全部よ。」


 テネシーは何も言わず、"ありのまま"を受け入れて、静かに頷いた。


 「ノーラ。」


 小さく肩が揺れる。


 「……話してくれてありがとう。」


 安堵の笑みでも、受容の笑みとも違う――。

 愛しさと誇らしさが混じった微笑みが、テネシーの顔に浮かんでいた。


 「俺の惚れた女は、やっぱり勇気のある女性(ひと)だ。」


 その一言に、緊張がゆるむ。


 こういうところはやっぱり大人ね……かなわないわ。


 思わず苦笑いがこぼれる。




 「少し混乱しているの。一つ聞いても?」


 ふと、いたずら心が湧いたノーラが、わざと眉をひそめて、真剣な顔で問いかける。

 目元を緩めると、テネシーが答えを促した。


 「わたしは今、誰と話しているのかしら?ウィンスレット公爵?それともテネシー?」


 真顔で顔を覗き込んだノーラに、テネシーがははっと声を出して笑う。


 「君のお望みのままに。」


 彼は軽く肩をすくめ、道化師のようにおどけてみせる。


 ……やっぱり、好き。


 この人の隣が、一番安心――掴まったのがこの人でよかった。


 心の底から愛おしさが溢れた。


***


 「もう一度、ちゃんと話した方がいいことがあるよな。」


 二人の間に笑顔が戻ると、テネシーがばつの悪そうな顔で呟いた。


 「この修道院行きのことだ。」


 最後にその話をしたときは、あの森の中だった。

 けれど今、二人はすでにその最終目的地に到着している。




 「ここを訪れる前、公爵と話をした。修道院行きを止めて、ノーラに了承を得ることができたら、婚姻を結ばせてほしいって……。」


 意識を失う前の会話が蘇る。


 「お前の修道院行きは、慈善事業の下見、視察ということになっている。」


 確かにそう聞いた。




 「単なる時間稼ぎ……正確には、俺に必要な時間を作るための工作だった。」

 「こう、さく?」


 予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出る。


 「君のご両親には、修道院に着くまでに君が頷いてくれれば婚姻を許す、という約束を取りつけたから……。」

 「それが、根回し?」


 テネシーが言い直した言葉をしっかり覚えていたわたしに、彼は苦笑いして頷いた。


 「あぁ、しっかり根回しした。」

 「開き直ったわね。」


 視線が合い、二人同時に笑いあう。




 「陛下の許可も……」


 曖昧にしたくなくて、トーンを変えて尋ねた。 


 「あぁ、兄に協力させた。せめてもの罪滅ぼしだって……」

 

 その言葉に、つらかった日々が一瞬で蘇る。

 無意識に腕をつかみ、息を整える。


 テネシーが心配そうにわたしを見つめる。


 『もう、大丈夫』――そう思いを込めて、微笑んだ。


 「さっきはすいぶん乱暴な言い方をしたけれど、俺としても……君に対して罪滅ぼしをしてほしいって意味合いの方が強かった。」

 「王家に罪はないわ。」


 傷ついたことは本当。でも償ってもらいたいほどの罪ではない。

 サミュエルの心を縛ることは誰にもできないし、ベルの教育係だったことも、後悔はしていないからだ。

 


 「――って、ちょっと待って。それじゃあ、わたし、修道院で一生を終えるはずじゃなかったってこと?」

 「そんなこと、させてたまるか!」


 弾けるように飛び出したテネシーの声に、身体がびくりと震えた。

 荒げた声に自分でも驚いたのか、彼がすっと目を伏せた。

 けれど、その切羽詰まった息づかいに、彼の真剣な思いが滲んでいた。

 

 


 「そんなことはさせない。――させたくない。」


 見つめる瞳に、確かな熱が宿っている。


 「君は俺の唯一だ。欲しいものなんて、今までなかった。」


 射貫くような瞳に捕らわれ、目が離せない。


 「どれも諦めてしまえば済むものだった。……でも、君だけは違った。

  ――どうしても、諦めたくなかったんだ」


 飾らない言葉が、心の奥に真っすぐ届く。

 取り繕えないその姿が、彼の真実を告げてくれる。


 わたしの中にあるこの感情は、紛れもない"わたしのもの"。

 痛みも、悲しみも、そして――愛おしさも。




 「あらためて、ちゃんと答えを聞かせてほしい。」


 窓から入るそよ風に、ノーラの髪がふわりと揺れる。


 「――俺の妻になってくれるか?」




 その一言に、世界が止まった。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 ただ目の前にいる愛しい人だけが、わたしの世界のすべてだった。



 この想いに応えれば、未来は確定する――



 決まっているはずの答えを口にするだけなのに、心臓が暴れる。

 呼吸が乱れ、自分の身体なのに、指一つ思うように動かない。

 けれど、瞬きひとつしないテネシーの姿を見て気づく。


 ――この人も、今のわたしと同じ。この一瞬に賭けているのね。




 「……わたしも、あなたを、あきらめたくありません。」


 ようやくこぼれた一言に、不安も戸惑いも、嬉しさも喜びも――感情が堰を切ってあふれ出した。

 心の枷は、その大きな感情の波に流されて消えていった。


 「わたしと……生きてください。」


 声にした言葉も、わたし自身も――テネシーのたくましい腕が、すべてを受け取るように包み込んだ。


 「俺も、君と生きていきたい。」


 永遠を誓う言葉が、今ようやく交わされた。





二人にしか乗り越えられない試練――

――二人だからこそ見つけられた、未来への希望。


次回:「第十五話:未来という名の永遠」

いよいよシリーズ完結。

お楽しみに!

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