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この恋が叶わないなら、消えてしまえばいい~そう願ったら、イケオジ王弟の過保護マックス溺愛攻撃が始まりました~  作者: Alicia Y. Norn


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13/18

13.告白

決意の先に向かえるこの恋の結末。

真実の告白の先にあるものは――愛か、信頼か、それとも残酷な現実なのか。





 後がない――。


 戦場でも、王宮でも、これほどまで追い詰められたことはなかった。

 修道院到着は、もう目の前だ。


 今、この一歩を踏み出さなければ、ノーラをこの腕に抱きしめる日は二度と来ない。

 焦る気持ちを隠し馬車を止める。


 ノーラには、のんびりと景色を楽しむ時間も持てればと告げたが……それはあくまでも口実だ。

 この森を抜ければ、修道院が見えてくる。


 もう、後はない――のだ。


 静かに吹き抜ける風が、名もなき花々の優しい香りを運ぶ。

 穏やかな景色とは対照的に、テネシーの心は嵐のように吹き荒れていた。




 「これ、とってもおいしいわ。」


 宿でランチにと用意してもらったサンドイッチを、ノーラは笑顔でほおばる。


 笑顔が……かわいい。 


 不意に目にしたノーラの満面の笑みに、テネシーは、胸の奥で渦巻く感情を持て余し、戸惑っていた。

 拳を握りしめ、何かに耐えるような難しい顔になる。

 声の出し方を思い出すこともできないくらい、頭の中で言葉が忙しく行き来する。


 「食べないの?」


 返事を忘れていると思ったのか、ノーラが無邪気に顔を覗き込む。

 突然、目の前にあらわれた愛らしい姿に、感情と一緒に鼓動も暴れ出す。


 「いや、食べる。」


 かろうじて絞り出した言葉が、あまりにも幼くて自分でも驚く。




 カサカサと不器用に包みを外し、丸かじりする。


 味なんて、わかるはずがない。


 それでも、必死にサンドイッチを噛みしめながら、一緒に自分の固まった思考もかみ砕く。

 嵐が少しずつ収まる兆候が見え、散らばった思考の欠片が形を取り戻し始める。

 何を言うべきかはまだまとまらない。

 でも、「何を伝えたいか」くらいは、見えそうな気がした。





 視界の端で、すっかり安心しきったノーラの姿をとらえる。


 意を決して口を開こうとするが、言葉が出ない。

 口をパクパクさせるだけ……。

 もし、この姿に気づかれていたら、さぞかし間抜けに見えるに違いない。

 握った拳がわずかに震え、無意識に息をするのを忘れる。


 ――言いたいことは、ただ一つ。


 ゆっくりとノーラに視線を向ける。


 彼女と目が合った途端、何も聞こえなくなった。

 鳥の声も、木々のざわめきも、一瞬で音が消えた。

 暴れまわっていた自分の鼓動さえ、今はどこか遠くに聞こえる。

 胸に渦巻く気持ちを、何一つ整理する間もなく、最後の一歩を踏み出した。


***


 ランチを食べ終えて、森を抜けた先の開けた場所までノーラを誘い出す。

 いつもとは違う空気に、必然的に互いを伺いあう。


 「ノーラ……。」


 やっとの思いで名前を口にした。

 握りしめた拳を緩め、柔らかく細められた瞳に魅入られる。


 「ノーラ、俺は、」


 耳元で鳴り響く鼓動がうるさい。


 ――途切れた言葉をつなごうと思考が動き出す。


 最適な言葉を考えては崩し、組み立てなおしては崩す。

 途中で途切れたままの言葉の続きを、ノーラが不思議そうに待っている。


 「俺は、お前と一緒にいたい。」


 思い出したように大きく息を吸う。

 同時に、バクバクとなる鼓動の音も数倍に聞こえる。


 さっきまでの静寂とは真逆だ。

 何もかもが自分の思考を邪魔するように音を立てる。


 目の前のノーラの表情が、スローモーションで笑顔に変わる。


 「まだ、時間はあるのでしょう?」


 聞こえてきた声に、唖然とする。


 「あっ、ああ、そうだな。」


 勘違いされたことに気づいて、慌てて言葉を濁す。


 「どうしたの?なんか、変だよ?」


 コテンと小首をかしげて流れ落ちる髪から、ノーラの香りがする。

 その香りに、抱きしめたときの柔らかい感触を思い出す。


 何を考えてるんだっ!


 思い浮かべた感覚を、慌てて打ち消す。


 「テネシー?」


 純粋な眼差しは、時に鋭い武器になることを初めて知った。

 

 「ノーラ。」

 「ん?」

 「俺は、ずっと、お前のことを見てきた。守ってきた。」


 ノーラの眼差しが、胸に突き刺さって痛いほどだ。

 とにかく何か伝えなくてはと、焦りだけが募る。


 「うん、感謝してる。」

 「その役目を、これからも続けさせてくれ。」


 ちゃんと伝えたい気持ちがあるのに、どうしてこう上手くいかないんだ。


 どんな公務もそつなくこなしてきた。自分は器用なほうだと自負していた。

 けれどそんな経験値は一気にマイナスにまで落ち込んだ。


 ノーラが少し驚いて、考える仕草をする。

 表情が翳り、うつむきがちに申し訳なさそうな顔をした。


 「それは……難しいのではなくて?」

 「……?」

 「わたしはもう、修道院へ行くでしょう……」

 「……!?」

 「だから、一緒にいられるのは……」

 

 喉が焼け付くように熱くなる。


 「違うっ!そういう意味じゃないっ!!」


 二度目の告白がまったく意味をなさなかったことで、テネシーの中で何かが弾けた。

 派手にバチっと弾けたのは、テネシーの理性だった。


 「俺は、お前を一生守っていきたい。隣で、夫として……」


 ノーラの顔がリンゴのように真っ赤になる。

 つられて自分の体温も上がった気がした。


 「もともと、サミュエルの婚約者として、君のことは知っていたんだ。我儘だとか高飛車だとか、いろんな噂が聞こえてきた。でも、俺には……俺の目には不器用な子にしか見えなかった。」


 ノーラが過去の行動を思い出したのか、元気なくうつむいた。

 

 絶対、変なふうに伝わった。


 「君の行動は、サミュエルへの想いが空回りして、すべてが悪い方向へ向かってしまった。俺には、そんなふうに見えていた。」


 ありえない失敗をした気がして、慌てて取り繕う。


 「初めて言葉を交わしたあのバルコニーで、声を殺して泣いていた姿を見たときは、守ってやりたいと思った。市井で会ったときも……いつだって、君は真っすぐに努力していただろ?」


 ノーラの頬に光るしずくを見た気がして、焦る。


 「理不尽な要求も見事にやり遂げた。冤罪にだって負けなかった。」


 とにかく『良いこと』をしていたんだと告げたくて、好意を伝えたくて必死になる。


 「そんな君が、最近になって何かに怯えている……その正体がわからなくてもどかしかった。」


 泣かせるつもりはなくて、肩を優しくつかむ。顔をあげたノーラの瞳から、大粒の涙があふれる。

 あふれる涙も美しいと思った。

 じっと見つめて微笑むと、ゆっくりと膝をつく。


 「修道院へは行かせない。お前の帰る場所は、俺だ。一緒にいよう。何があっても、お前を守るから。」


 一気に言いきって、肩を落とす。


 情けない。

 

 あまりの醜態に、収拾の仕方さえ見当もつかない。


 勢いあまって告げた数々の言葉が、森の静けさの中に消えていく。

 その沈黙が何を意味するのか、考えることもできずにうつむいていた。

 永遠に続くかと思われた静けさの中に降ってきたのは、ノーラの柔らかい笑い声だった。


 ふふふっ。


 ひとしきり瞳から涙が零れ落ちたノーラが、声を出して笑いだしたのだ。


 ――泣きながら笑うなんて、反則だろ。


 安心しきったその笑顔に、テネシーもつられて笑いだす。

 悲しい涙を見るよりは、笑ってくれた方が数倍いいと思う。


 「ごめんなさい。でも、一生懸命なあなたが愛おしくて……」


 木漏れ日のような笑顔から聞こえてきた言葉は、とても信じられないものだった。


 「知らなかった?嬉しくても、涙ってあふれてくるの。」


 ノーラがいたずらっぽく笑う。

 全身の力が抜けていくようだった。


 「一世一代の大切な場面で、こんなに情けない男でも、君は受け入れてくれるのか?」


 これ以上ない、情けない質問が口をつく。


 「完璧じゃないあなたも大好きよ。」


 たまらずノーラを抱きしめた。


 「完璧な俺も、もちろん大好きってことでいいんだよな?」

 「あっという間に、調子が戻ったのね。」


 ノーラがまた花のように笑った。


***


 二人でひとしきり笑いあった後、ちょうどいい切り株を見つけてわたしはそこに腰掛ける。

 テネシーはすぐ横にドカッと腰を下ろした。


 「行き先は、変更ってことでいいんだよな?」


 不安そうに尋ねる姿が、なんだか可愛らしい。

 大人の男性に向かって失礼かもしれないが、さっきの告白だって、本当に愛おしかった。

 しょんぼりする大型犬のようで、頭を撫でてあげたくなる。


 「でも、そんな急に変更してしまっていいのかしら。」

 

 素朴な疑問が口をついた。


 「実は、最初から、修道院へは視察ということになっているんだ。」

 「えっ?」

 「公爵家から手を回してもらった。」


 言葉の意味が分からない。

 正確には、理解できているけれど、理解したくないと抗ってしまう――そんな感覚。


 「ここを訪れる前、公爵と話をした。修道院行きを止めて、ノーラに了承を得ることができたら、婚姻を結ばせてほしいって……。」


 戸惑うわたしに、テネシーが気まずそうに話す。


 「えっ、待って。じゃあ、最初から……。」

 「……あぁ、最初から、俺はお前をここへ置いていく気などなかったよ。」


 ざわざわと風が木の葉を揺らす音が聞こえる。

 ゆっくりと事実が身体に受け入れられていく感じがした。


 「でも、修道院行きは王家に了承を得て……」

 「あんなわからずやたちに、お前が気をつかう必要はないっ!」


 突然の大声に驚く。

 王家の理不尽さに怒りが募っていたのだろうか。

 こんな厳しい表情のテネシーを、初めて見た気がした。


 「わからずやって……。」

 「だってそうだろ。百歩譲って相性が悪くて婚姻が成り立たなかったとしても、お前の誕生日にほかの女に惚れてダンスに誘ったんだぞ。その後のお前の努力に対抗するように彼女の奉仕活動を援助。挙句に、お前をあんなふうに罵って冤罪をかけたんだ。我が甥ながら、本気でぶんなぐってやろうかと思ったよ。」

 「テネシーに殴られたら、殿下はひとたまりもないわね。」


 思わず想像してしまって、サミュエルが気の毒になってしまった。

 でもなぜか、その姿は、不思議と仲が良いからこその喧嘩のようにも感じた。


 「兄上だって同罪だ。元婚約者を教育係にするなんて、配慮の欠片もないっ!」

 「お怒りですね。」

 「あぁ、取っ組み合いの喧嘩にならなかっただけ、褒めてもらいたいよ。」

 「王弟の謀反ですか?」


 ノーラが楽しそうに茶化す。

 冷静になってくると、テネシーが癇癪をおしているようにも見えるのだ。

 素直に感情を爆発させている彼が、うらやましくてからかいたくなってしまった。


 「きっちり話は通した。俺との婚姻に王家は口を挟まない。いや、挟ませない。」


 ノーラを正面から見つめる。


 「俺は、お前と幸せになりたいんだ。そのための根回し……っ、準備なら、どんなことも惜しまないさ。」


 抱き寄せられた肩がピクリと反応して、身体がこわばる。

 楽しい会話だったのに、突然現実を思い出した。


 わたしには、まだ"秘密がある"。


 そう思ったら、急に怖くなった。


 「どうした?」


 大好きなバリトンが耳元で響く。


 「わたし……。」


 もうダメ。ちゃんと言わなきゃ。

 速くなる鼓動に合わせて、呼吸も浅く早くなる。

 


 ただ静かに言葉を待っていた彼の瞳が、何か確信めいたものを宿した。


 「君の秘密のことかい?」


 その一言に、息をのんだ。


 「転生者……っていうんだって?」


 その言葉に、心臓を鷲掴みされたような痛みを覚える。


 すべてを巻き込んで破壊する――一瞬で景色は色あせ、周囲の音が消えた。

 



 聞き間違えじゃない。

 誤魔化しも、言い訳も通用しないことは、彼の顔を見ればわかる。


 「ノーラ、まずはゆっくり息をしろ。」


 どんどん早くなる呼吸を落ち着けるように、深いリズムで呼吸を促してくれる。


 「……ど、どうしてそれを……。」


 かろうじて絞り出した声は、震えていた。

 テネシーは少しの間だけ、気まずそうに口元に指をやると、覚悟を決めたのか話しだす。


 「ご両親から聞いた。」


 一人、カタカタと震える身体を抱きしめる。


 「……いや、正確には強引に聞き出したんだ。」



 テネシーが、知っている……?


 頭の中が一瞬で真っ白になる。


 転生者……

 前世の記憶……

 シナリオだと……

 未来のわたしは…… 


 ……思考も、言葉も、すべてが絶対零度に凍りついた。



 「驚かせてすまない……。」


 全身が凍りついて、心臓まで凍ってしまいそうな冷気を感じた。


 「っ……!」


 声にならない言葉を発して、わたしの意識はそこで途切れた。



ようやく思いが重なった二人。

残酷なまでに心を縛る真実は、二人を結ぶ奇跡となり得るのか――?


次回「十四話:勇気と希望」

お楽しみに!

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