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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第十一断章:紅環(こうかん)の環礁 ― 火と鈴の試練

1)宙海の紅い兆し


 青嶺せいれいの環を後にして三日。

 空気が変わったのを最初に感じたのは、リンクだった。

 荷台の上で耳をぴくりと動かし、「キューイ」と短く鳴く。


「潮の匂いが……焦げてるニャ」

 ニーヤが杖を撫でながら目を細める。

 宙海の彼方、水平線の向こうで紅い光がゆらめいていた。


「あれが“紅環こうかんの環礁)”か」

 よっしーがセドの操縦席から前方を指した。

 あーさんが盃を胸に抱き、静かにうなずく。


「拍の層が複雑でする。火と鈴、二つの拍が絡み合っています」



2)紅環の姿


 近づくにつれ、海面に巨大な環礁が姿を現した。

 岩肌は朱色に染まり、中心の塔には鈴が連なっている。

 赤い火柱が時折、海面を駆け抜けては消えていった。


「火の拍が荒ぶってるな」

 クリフが矢羽根を指でなぞりながら低く言う。

 ブラックが上空から旋回し、風背を何度も試すが、すぐに弾かれている。


「鈴の拍を合わせないと進めんってことやな」

 よっしーが小さく舌打ちした。



3)試練の開始


 紅環の中心で、鈴の音が響いた。

 澄んだ、しかし刺すような高音。


「第十一断章を求める者たちよ」

 声が海面を震わせる。

 「火の拍と鈴の拍をひとつに繋げ。揃わぬ者は、ここで灰となれ」


 旗が熱を帯び、指輪が脈打った。

 あーさんが盃を掲げ、静の面を厚く張る。


「主様、鈴座を――三つ、分けて展開を」


「了解!」

 旗を掲げ、押す音を三つに割った。鈴座が三方向へ伸び、火と鈴の乱れを少しずつ整えていく。



4)炎の奔流


 突然、環礁の内側から炎が噴き上がった。

 紅い奔流が波の上を走り、セドを呑み込もうと迫る。


「危ない!」

 ニーヤが杖を振り、「氷結弾・連珠!」と叫ぶ。

 複数の氷球が炎にぶつかり、蒸気を上げて爆ぜた。


 よっしーがハンドルを切り、セドを横滑りさせる。

 リンクが二段ジャンプで拍のズレを示し、ブラックが背風を細く通した。


「押す音、もう一段深く!」

 あーさんの声に合わせ、旗を強く振る。

 炎の拍が鈴の拍に寄り添い、荒ぶる流れが少しずつ穏やかになっていく。



5)鈴座・多層展開


 乱れた拍を整えるため、旗の裏で鈴文を重ねた。

 三層、四層、五層――鈴座が多層に展開し、環礁全体を包み込む。


「回転数、段階的に合わせるで!」

 よっしーがエンジンを三段階に調整する。

 クリフは矢を複数の節に張り、ニーヤが返鈴を三相で響かせる。

 あーさんが静面を重ね、ブラックが背風を安定させる。


 ――チ・リン・リ。

 鈴の音が澄み渡り、炎が収まっていった。



6)灯を喰う者


 その時、海面の下から影が浮かび上がった。

 細長い体に赤い目――**灯を喰うランプ・イーター**だ。


「きやがったか!」

 クリフが矢を番え、リンクが飛び出す。


 灯を喰う者が水面を割って跳び、セドに襲いかかる。

 ブラックが背風で軌道を逸らし、ニーヤの氷結弾が直撃する。

 リンクが月面二段で跳び、体を蹴り飛ばした。


「もう一匹来るぞ!」

 よっしーが叫び、舵を切る。

 俺は旗を掲げ、押す音を叩き込んだ。

 鈴の波が灯を喰う者を包み込み、海底へと引きずり込んだ。



7)試練の終焉


 環礁の中心で、火と鈴の拍が完全に重なった。

 海面が光を放ち、旗の裏で鈴文が刻まれていく。


 ――第十一断章:紅環の誓い、授与完了

 ――火と鈴、ひとつの輪となる


「……終わったな」

 よっしーがハンドルを軽く叩き、息を吐く。

 ニーヤが杖を撫で、リンクが胸の上で跳ねた。

 ブラックが帆の上で羽を震わせ、クリフは静かに矢羽を整える。

 あーさんは盃を胸に寄せ、静かに微笑んだ。



8)環礁での休息


 試練を終えたあと、環礁の外縁で停泊した。

 よっしーが虚空庫からタコ焼きを取り出し、「祝いじゃ!」と叫ぶ。

 リンクは一番大きなタコ焼きを抱え、ブラックは小さな欠片をもらって満足げに羽を震わせた。

 ニーヤが塩を振り、「旨味倍増ニャ」と笑う。

 あーさんは盃を撫で、「拍、穏やかになりました」と言った。



9)新たな指標


 指輪が熱を帯び、旗の裏に鈴文が刻まれる。


 ――次の舞台:“蒼裂そうれつの峡”

 ――風と鈴の骨を合わせ、道を裂け


「蒼裂……また難儀そうな名前やな」

 よっしーが笑い、エンジンの点検を始める。

 クリフは無言で矢羽を整え、ニーヤが杖を握った。

 リンクが「キューイ!」と跳ね、ブラックが肩で羽を震わせる。

 あーさんは盃を胸に寄せ、「拍を崩さず進みましょう」と静かに言った。



10)宙海の夜


 夜の宙海は静かで、星だけが灯りだった。

 リンクが膝の上で丸くなり、ブラックが帆の上で羽を畳む。

 よっしーが舵を固定し、クリフは目を閉じて矢を整える。

 ニーヤが杖を抱き、あーさんが盃を撫でていた。


 旗の裏で鈴文が淡く光り、指輪が短く鳴いた。


 ――チ・リン・リ。



次回予告

• 蒼裂の峡 ― 風と鈴が交錯する試練

• 鋭い突風と渦を突破する新技“鈴座・連鎖展開”

• 灯を喰う者の“親”と噂される影が現れる

• 旅はさらに険しく、そして深く、仲間たちの拍を試す

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