灰港(はいこう)シャルナ ― 骨灯の街と新たな指標
1)港町への道
骨の総礼を後にしてから三日。
山を下り、潮の匂いが混じる風を肌で感じたころ、視界の先に広がったのは灰港シャルナだった。
港の外れには巨大な煙突がいくつも立ち、薄灰色の煙を空へ吐き出している。港全体が少し煤けた色をしているのに、海面だけは青く澄んでいて、逆にその対比が異様に鮮やかだ。
「……なんや、まるで昭和の造船所みたいやな」
よっしーがセドの窓から身を乗り出しながら言う。「けど、あの骨灯、えらい光っとるやんけ」
港の中央には三本の塔が立っていた。
白、赤、黒――三色の骨灯。それぞれが淡く光を放ち、波に拍を刻んでいる。
「骨の灯り、か」
クリフが小さく呟いた。リンクは荷台から飛び降り、港を見渡しながら跳ね回っている。ブラックは空高く舞い上がり、港全体を旋回していた。
⸻
2)港のざわめき
港町に足を踏み入れると、潮と煙の匂いが混ざった独特の香りが鼻をくすぐった。
路地には露店が並び、魚を捌く音と人々の活気が混じる。
「ニャ〜、この匂いは絶対に魚ニャ!」
ニーヤが鼻をひくひくさせながら走り回り、あーさんは盃を胸に抱きながら静かに周囲を見ていた。
よっしーは周囲を見渡しながら、「セドの駐車、どこにしよか……あそこやな」と広場の片隅に停め、虚空庫へ収納した。
その瞬間、周囲の視線が一斉に集まり、「おお……」とざわめきが走る。
「派手なことはするもんやないニャ」
「いや、今さらや」
俺が苦笑すると、クリフが肩をすくめた。
⸻
3)骨灯守との邂逅
港の中央にある三本の骨灯の根元には、白衣のような装束をまとった人々が立っていた。
その中の一人、背の高い男がこちらに歩み寄ってきた。
「旗の巡礼者か。ようこそ、灰港シャルナへ」
低く穏やかな声だった。「我らはこの灯を守る者――骨灯守」
「この港で第九断章が待っている、と旗が示している」
俺がそう言うと、男は深く頷いた。
「ならば、三色の灯を揃えよ。白鎖の白灯、炎糸の赤灯、黒涌の黒灯――三つの灯を“灯音”で繋ぐのだ」
⸻
4)灯音の試練 ― 第一段階
翌朝、俺たちは白灯の塔の下に立っていた。
塔の周囲には潮風が渦を巻き、拍が微かに乱れている。
「押す音で芯を示せ」
骨灯守の声が響いた。
旗を掲げ、押す音を立てる。
よっしーがセドのエンジンを回し、平成の鼓動を港に響かせた。
ニーヤが返鈴を重ね、あーさんが引く音で潮面を整える。
クリフは無音矢で節を結び、リンクが二段で灯の揺れを示す。ブラックは風背を撫で、乱れた潮を一筋に導いた。
――チ・リン・リ。
白灯が淡く明滅し、拍が安定した。
⸻
5)赤灯 ― 焔潮の揺らぎ
次は赤灯。
塔の周囲は熱を帯び、空気が焦げた匂いを放っていた。
「焔潮の拍、焦らされますニャ」
ニーヤが額の汗を拭った。
氷結弾を放ち、拍の縁を冷やす。
あーさんが静面を重ね、熱の層を柔らかく剥がす。
俺は旗を強く振り、押す音で芯を深く通す。
クリフの矢が熱の節を結び、リンクが二段で正しい足場を示し、ブラックが背風を落として熱を散らした。
――焔の灯が淡く脈動した。
⸻
6)黒灯 ― 黙潮の封印
最後は黒灯。
塔の周囲には重い静寂が漂い、耳の奥が詰まるような圧力を感じた。
「音が……消されていく」
クリフが弓を握る手に力を込める。
あーさんが静面を厚く重ね、ニーヤが返鈴を胸の奥で鳴らした。
俺は旗を握り、押す音を鳴らさず通す。
リンクが二段で足場を示し、ブラックが頭上で背風を固定した。
――チ・リン・リ。
黒灯がゆっくりと光を放ち、拍が蘇った。
⸻
7)三灯の共鳴
三つの塔が同時に鳴った瞬間、港全体が柔らかな光に包まれた。
旗の裏で鈴文が淡く光り、第九断章が刻まれていく。
「……完了や」
よっしーが深く息を吐いた。
「次は、宙海を渡る道。第十断章が待つ」
骨灯守の男が静かに告げた。「だが、その前に――お前たち自身を振り返る時間を持て」
⸻
8)港の宿で
港の宿の一室、俺たちは円になって座っていた。
よっしーが缶を配り、「さて、登場人物紹介・特別篇と行くか」と笑った。
「ニーヤからだな」
「任せるニャ!」
その夜は、これまでの旅と、それぞれの成長を語り合った。
旗の裏の鈴文は、仲間たちの拍を刻むように淡く光り続けていた。
⸻
次回予告
• 登場人物紹介・特別篇 ― 仲間たちの現在地と成長、旗に刻まれたそれぞれの拍を丁寧に紹介。
• その後、宙海を越え、第十断章が待つ新たな試練へ。




