冒険者たちとルーデンス聖教国の闇
(主人公・相良ユウキの視点)
夜が明けはじめた山道を、俺たちはゆっくりと歩いていった。
森の魔女アンリに言われた “イシュタムの魂” という言葉が、まだ胸の奥で燻っている。
――救う力にも、滅ぼす力にもなる。
そんな曖昧で不吉めいた予言をされて、落ち着けるわけがない。
冷えた山の空気を吸い込みながら手を見つめると、改めて「俺はもう日本の一般人じゃない」って実感が押し寄せてくる。
令和から来た俺。
明治から来たあーさん。
平成元年大阪から来たよっしー。
そして現地人のクリフさんと、白いカラスのブラック。
――妙な組み合わせの五人旅だよなぁ、とぼんやり思う。
◆旅商人との出会いと、よっしー無双◆
峠を越える手前で、運よく商人と遭遇した。
よっしーは嬉しげに 虚空庫 を開くと、例の“1989年の匂いがする物品”を次々と取り出した。
「おっちゃん、これと交換してくれへん?」
差し出したのは――
カップヌードルに、チョコ菓子、ポッキーにそっくりのお菓子。
商人のおっちゃんは、初めて見る品に目を白黒させる。
「な、なんじゃこれは……パッケージからして見たこともない……?」
「お湯入れるだけでラーメンになる最強の食いもんや。信じられへんやろ?」
よっしーは胸を張る。
試しにその場でお湯を沸かして食べさせると、商人は感動したように身を乗り出した。
「う、うまい! こんな手軽に……! いくつか売ってくださらんか!」
この世界の金もカードも使えないよっしーだが、虚空庫の“複製機能”があるせいで、商売が成り立ってしまう。
そして――
「よっしーさん……その能力、やっぱり規格外でございますねぇ……」
あーさんは糸目が開いた。
クリフさんも呆れたように笑う。
「収納魔法の類なら存在するが……その複製能力は聞いたことがない。やはり稀人の特性か?」
「稀人? なんやそれ?」
「別世界から来た者――つまり、君たちだ」
「えっ、他にもおるんかい!」
クリフさんは軽く頷いた。
「国によっては“稀人が三人いる村”なんて場所もある。もちろん、人間の姿とは限らん」
「魔物は嫌だなぁ……マジで……」
心底イヤな想像が浮かび、俺は肩を落とした。
◆夕暮れの焚き火と、クリフの過去◆
夕方、俺たちはテントを張って休んでいた。
よっしーの能力のおかげで、旅支度はかなり整った。
焚き火を囲みながら、よっしーが前から気になっていた事を切り出す。
「なぁ、クリフさん。何でワイらを助けてくれたんや?」
クリフさんは火の揺らぎを見つめ、低い声で語り始めた。
「……私はルーデンス聖教国の兵として志願した。民を守りたいと思ってな。だが、実態は酷かった。
亜人奴隷を弄び、町からは品物を脅し取り……」
その声には、怒りよりも失望が滲んでいた。
「極めつけは、お前ら異邦の民を“奴隷商人に売り飛ばす”と聞いた時だ。あまりの非道さに、もう耐えられなかった」
俺たちは言葉を失う。
「聖教国では、亜人は“家畜”と同じ扱いだ。痛めつけても、殺めても、咎められん。……おかしいだろう?」
あーさんが悲しそうに俯いた。
「……あまりにも、酷うございます……」
その静かな呟きが、焚き火の音に吸い込まれていった。
◆山霧の中、冒険者たちとの邂逅◆
翌朝、霧が立ちこめ始め、街道は急に視界が悪くなった。
ブラックも警戒し、俺たちは足を止めかけた――その時。
ゴオォッ……
「うおわっ!?」
霧の中から野犬が三匹、牙を剥いて飛び出してきた。
俺は転んだ拍子に、半泣きで短剣を振り回す。
「ユウキ殿、下がれ!」
クリフさんが前へ躍り出たその瞬間。
ヒュルルルル……
どこからか妙な笛の音が響き、野犬たちは怯えたように散っていった。
霧が割れ、四つの影が現れた。
耳の長い美形の青年――エルフのメルサローネ。
逞しい体格の小柄なドワーフのロディマス。
冷静そうなリザードマンのルーノ。
荷袋を抱えたハーフリングのワルツ。
四人は俺たちを見るなり、
「なんだ、見慣れない顔ぶれだな。髪の色も肌もバラバラ……どこから来た?」
と、警戒しつつ声をかけてきた。
◆口論は突然に(ただし殴り合いじゃない)◆
話すうちに、彼らはスタロリベリオから来た冒険者だと分かった。
焚き火を囲んで情報交換していると、俺の“野犬に腰が引けていた件”を、メルサローネがニヤニヤと突いてくる。
「で? あんた、“冒険者ギルド”も知らないんだろ? さっきのへっぴり腰でギルド登録? ハハッ、ウケる!」
「……ッ! へっぴり腰じゃねぇし! あれは、その……足場が悪かったんだよ!」
「はいはい、“足場が悪い”ねぇ?」
メルサローネは、わざとらしく頷きながら、俺の真似をして腰を引いてみせた。
「ほら見て? こんな感じぃ?」
うっぜぇ……!
だが殴り合いはさすがにまずいので、俺がムッとするだけで止めていると――
「まあまあまあ、お姉ちゃん。甘いもんでも食べへんか? 心落ち着くで?」
よっしーが 森永ミルクキャラメル と ホームパイ、ついでに UCC缶コーヒー を取り出した。
メルサローネの耳が一瞬でピンと立つ。
「なにそれ!!? おいしそ~~っ!」
次の瞬間、さっきまでの挑発的な態度はどこへやら、きらきらの瞳でキャラメルを頬張っている。
「んん~~~っ! 甘っ! 最高!!」
態度の変わりように、ドワーフのロディマスがため息をついた。
「……メルサローネ、話が進まんだろうが」
◆ギルドとランク制度の解説◆
甘味で機嫌が直った彼女は、今度は人が変わったように説明を始めた。
「まずね、冒険者ギルドは戦闘系の依頼を扱う場所。ランクはGから始まって――」
ルーノが補足として本を出す。
“冒険者ギルド 初級ガイダンス” と書かれた入門書だった。
Aランクは災厄級の魔物討伐。
Bランクが災害級。
C、Dと下がり、Fで素材採取、Gが初期ランク。
基本だが分かりやすい。
「倒した魔物の素材はギルドが買い取る。商業ギルドは店持ち向け、生産者ギルドは工房や錬金術だな」
ワルツが補足しながら地図を広げる。
俺たち、誰一人としてギルドに登録していない。
この世界で生きるなら、避けて通れない道なんだろう。
◆聖教国の歴史と、彼らが警戒する理由◆
よっしーが冒険者に“護衛を頼めないか”と声をかけると――
ロディマスが首を横に振った。
「悪いが、ギルド外の依頼は受けられん。……それに、ワシらは“聖教国”とは関わりたくない」
クリフさんも表情を曇らせた。
メルサローネが小声で尋ねる。
「ねぇ……なんで亜人は、あの国では奴隷なの?」
クリフさんは少し考え、静かに話しはじめた。
「三千年前の光魔戦争――天使・悪魔・人間が争った大戦の話を知っているか?
勝利に導いた“聖戦士ニーヤ”が国の始祖とされていてな……」
ニーヤは人間も亜人も平等に扱い、平和を築いた。
だが、その教えを破ったのが“亜人側”だとされ、人間が制圧。
その歴史観が今の聖教国に“受け継がれている”。
「……全部が真実とは限らんが、あの国では“人間以外は裏切り者”として扱われている。だから君たちと群れるわけにはいかんのだ」
静かな山風の中で、焚き火の火が小さく揺らめいた。
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
冒険者ギルドの存在を知り、この世界で生きていくための道筋が見えてきたユウキたち。しかし、彼らが目指すモンテーヌの町への道は、まだ始まったばかりです。
応援コメントや好評価をいただ




