第7話 魔物に襲われた村と、残酷な現実
(主人公・相良ユウキの視点)
俺たちは、冒険者のルーノ、メルサローネ、ロディマスと別れ、モンテーヌの町を目指して歩き始めた。クリフさんから聞いた聖教国の歴史と、冒険者たちから知ったこの世界の残酷な一面。俺たちの心は、希望と同時に、暗く重い現実を突きつけられていた。
「ガサッ!」
その時、突然獣道から、傷だらけの少年が飛び出してきた。
「む…村が魔物に……助けてください…」
少年はそう言い残し、前のめりにバタッと倒れてしまった。背中には、何者かに引き裂かれたような深い傷跡があった。
「回復魔法!」
ルーノとメルサローネは、すぐさま回復魔法を唱え始めた。淡い光が少年の傷を包み込み、みるみるうちに傷口が塞がっていく。
「なんや? どうしたんや?」
よっしーが、慌てて少年に駆け寄る。
「ふむ、あれは回復魔法だな」
クリフさんが、冷静に状況を分析する。
「よっしゃ、ほんならワイらも!」
そう言って、よっしーは虚空庫から毒消しとポーションを次々とコピーし始めた。その様子を見た俺は、思わず「おいおい…」と呟いてしまった。この男、この間に、在庫を増やしておこうってのか。
しばらくして、少年はパチリと目を開けた。しかし、その瞳はうつろで、何かに怯えているのか、辺りをキョロキョロと見回している。
「近隣の村の子供だろう。傷跡から察するに、魔物の襲撃であろう。おそらくは、貯蔵してある作物が目的であろう」
クリフさんの言葉に、俺は愕然とした。
「マジかよ? 魔物って、そんな……どこにでもいるのかよ?」
「様々な種族があって、その特性があるんだろうけどな。山岳地帯、海、洞窟や地底などの場所に魔物は住んで、たいてい群れ単位で生きている。生活していく中で、人間の生活圏と干渉しちまったり、人間の移動経路と被っちまったりして、人間が騒ぎ立てることもまぁあるな」
ルーノが、淡々とした口調で説明する。
「だから、アタシたちのような冒険者なんて職業が、こうして活躍しているんだよな!」
メルサローネが、得意げに胸を張った。
少年の話によると、突然魔物どもに襲撃され、村を壊滅させられたらしい。
俺たちは、メルサローネたちと話し合った結果、彼の住む村へ行くことにした。
焼け野原と、残された命
数時間後、少年の案内で、俺たちは彼の村へ向かった。
村は、何もかもが奪われ、焼け野原と化していた。焦げ付いた木材の臭いと、腐敗した何かの悪臭が、鼻をつく。あたりには、逃げ遅れたであろう老若男女の死体が、そこら中に転がっていた。
「うえぇっ……マジ、吐きそう……」
俺は、思わず口元を押さえた。死体って、こんなに臭いものなのか。元の世界では、嗅いだことのない、生々しい悪臭だった。
「うえぇぇぇ!」
「き、気分がわるぅございます……」
あー、やっぱあーさんとよっしーもダメみたい!!
「あっ、うう……」
その時、誰かのうめき声が聞こえた。
俺たちは、声のする方へ駆け寄った。そこには、バーコード頭の中年男性が、辛うじて息をしながら横たわっていた。
メルサローネたちが、すぐに回復魔法をかけ、よっしーがポーションを飲ませた。男性は、なんとか話ができるくらいには回復した。
男は、目を開けるとメルサローネを見つめ、手を伸ばす。しかし、メルサローネは距離を取り、目を逸らした。
彼の話によると、村は突然の襲撃により、村人数人が殺害され、約30世帯の家族が、数キロ離れた村に避難したらしい。
「いきなり魔物がなだれこみ、家に火をつけ、住民の男性たちを処刑しだしたんだよ……」
「それでは、この村の者たちは皆殺しにあったのであるか……」
クリフさんが、悲痛な表情で尋ねる。
「分からない。何人か近くの村へ、助けを求めて走って行った連中もいた……」
なるほど。俺たちが助けた少年も、その一人だったのか。少年は、うつむいたまま、何も喋ろうとしなくなった。
- 緊張感と世代間の溝 -
「カキン!」
ルーノが、飛んできた矢をバトルアックスで払いのけた。
村の奥から、5匹のゴブリンがニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、俺たちを指差してきた。
「ギャギャーッ、ギャ!」
ゴブリンどもは、俺たちを見て笑っている。なんだよコイツら、超ムカつく!
「よし、ブラック、いけ!」
俺の肩に止まっていたブラックが、空に舞い上がり、魔法を唱えた。
「クァッ!」
水しぶきが形成され、勢いよくゴブリンどもに向かって飛んでいく。水しぶきを受けてひるんでいる隙に、メルサローネが放った矢が、ゴブリンどもの喉や顔面に突き刺さる。さらに、とどめと言わんばかりに、ロディマスがゴブリンの一匹一匹に剣を突き刺していった。
ドサッ、ドサッ
ゴブリンどもの死体が、目の前に転がっている。
「マジ、えげつねえ……」
俺は、その光景を直視できなかった。正直、元の世界に帰りてえ。
確かに、中東やアフリカの紛争地域なんかでは、老若男女の死体とか、そういった光景が日常茶飯事なのかもしれない。でも、俺が住んでいる日本では、こんなのない。
俺は、頭の中で、元の世界の記憶を必死に思い出そうとした。コンビニの煌々とした明かり、スマートフォンの画面、満員電車……。しかし、それらは、この目の前の惨状の前では、まるで遠い夢のようだった。
よっしーが、両手を広げて、ゴブリンの死体に近づいていく。
「なあ、自分ら。いくら魔物とはいえ、殺すことはないんちゃうんか? これはあまりにもむごいわ」
「よっしー! やめろ!」
俺が叫ぶが、遅かった。
メルサローネが、彼の喉元に短剣を突きつけた。
「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ! 殺さなきゃ、今度はアタシらが背後をやられんだよ!」
「お姉ちゃん、怒らんとって。ワイはただ……」
「黙ってろ! あんたらの世界の常識を、この世界に持ち込むんじゃない!」
メルサローネの鋭い言葉に、よっしーは言葉を失う。彼は、昭和の義理人情を重んじる男だ。彼の常識からすれば、たとえ魔物であれ、無益な殺生は避けるべき、という考えなのだろう。しかし、この世界の現実は、そんな甘いものではなかった。
「メルサローネ殿、彼らは稀人で、やはりまだこの世界の世情に疎い部分がある。どうか剣を収めてはくれぬだろうか?」
クリフさんが、よっしーとメルサローネの間に割って入る。
ルーノとロディマスが、彼女をなだめると、彼女はため息をついて、俺たちを見た。
「悪いけど、護衛はやっぱりここまでだね」
「我等も、依頼クエストを放ってはおけないのである」
冒険者3人は、受注した依頼クエストも達成したいので、俺たちとはここで別れると言い出した。
よっしーとクリフさんが、3人に駆け寄る。
「そうか。なら、これは警護代金だ。少ないかもしれないが、受け取ってくれ」
クリフさんが、懐からお金を取り出して渡した。
「3人とも、ありがとうな。ゴブリンが出てくるまでは、安全な旅ができて助かったわ。これは、ワイからのお礼やで」
よっしーは、虚空庫の中でコピーしたポーションや毒消しなどをいくつか、3人に渡した。彼らは、とても喜んで受け取ってくれた。さらにメルサローネは、お菓子の催促をしてきたが、よっしーは快く、不二家のホームパイをいくつか渡していた。
「全く、あつかましい奴だ!」
俺は、そう思ったが、この世界で生きていくには、これくらいの図太さが必要なのかもしれない、とも思った。
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
魔物に襲われた村で、この世界の残酷な現実を目の当たりにしたユウキたち。彼らは、メルサローネたち冒険者と別れ、再び旅に出ます。
よっしーの優しさが、この世界では通用しないことを知った今、彼らはどのような選択をしていくのでしょうか?
そして、あーさんは、この残酷な光景をどう受け止めたのでしょうか?
応援コメントや好評価をいただけると幸いです。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。