潮の拍、群島の兆し
1. 海峡を越えて
潮風が頬を切るように吹き抜け、砂舟は蒼玻群島へ向けて疾走していた。
太陽塔で得た古い潮図は正しかった。風の拍を合わせた舵取りに、舟は驚くほど素直に応えてくれる。
「よっしゃ、このまま真っ直ぐや!」
よっしーが舵を握り、バイクのエンジンのように足元で振動が伝わる。
「気持ちいいニャー!」
ニーヤが帽子を押さえながら、風を受けて耳を揺らす。
リンクは舳先で二段ジャンプを繰り返し、ブラックは空の高みを旋回して潮の裂け目を見張っていた。
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2. 群島の影
午後、水平線の向こうに大小の島が見えてきた。
白い砂浜と深緑のジャングル、その奥で古代の祭殿らしき石の尖塔が陽を反射していた。
「あれが蒼玻群島……」
あーさんが息をのむ。掌の盃が、光を受けてきらりと輝いた。
クリフさんは弓を握りしめたまま、低く言った。
「嫌な気配がする。潮がざわついている」
その言葉どおり、海面が不自然に泡立ち始めた。
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3. 潮の魔物
突然、舟の横で水柱が上がった。
姿を現したのは、銀色の鱗を纏った巨大な魚――リヴァイアサンの幼体だった。
「くそっ、またか!」
よっしーが盾を構え、俺は旗を握り直す。
「リンク、ブラック! 援護だ!」
「キューイ!」
「ン!」
ニーヤが詠唱を始めた。
「氷結弾・波環!」
青白い氷弾が連続して放たれ、海面を瞬時に凍らせる。幼体の動きが鈍り、クリフさんの矢が目の隙間を正確に射抜いた。
ブラックが風の刃で水しぶきを散らし、リンクが背に跳び乗って後頭部を蹴り飛ばす。
幼体は断末魔の声を上げ、海の奥へと沈んでいった。
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4. 島への上陸
夕暮れ前、俺たちは群島の南端の浜辺に舟を着けた。
白い砂浜、背後には鬱蒼としたジャングルが広がっている。
「とりあえず今夜はここで野営やな」
よっしーが虚空庫から簡易テントを取り出し、リンクが砂浜を駆け回る。
あーさんは掌の水で火を灯し、ニーヤは調理用の小さな鍋を杖先で浮かせた。
「うーん、久しぶりにまともな飯が食えそうだ」
クリフさんが干し肉を切り分け、ブラックはその上で静かに見張りを続けていた。
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5. 古代の祭殿
翌朝、俺たちはジャングルの奥へと足を踏み入れた。
湿った空気、絡み合う木の根、鳴き声の響き――そのすべてが異世界の拍を刻んでいる。
数時間の行軍の末、苔むした石の階段が姿を現した。
その先にあったのは、巨大な石造りの祭殿だった。
「……ここか」
俺は旗を肩に担ぎ、深く息を吸った。
壁面には、潮と風、そして輪を象徴する古代文字。
中心には青い宝珠が収められた台座があり、淡く脈動している。
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6. 白鎖の影
祭殿の奥から、あの声が響いた。
「よく来たね。輪の外側から、内へ」
白鎖が現れた。鎖の輪は肩に掛けられ、冷たい光を放っている。
その隣には炎糸、そして弓を携えた女――シャヒーンの姿もあった。
「今日は食べない、なんて言わないよ」
白鎖の目が笑う。
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7. 拍の戦い
ニーヤが杖を掲げ、日環の輪を三重に重ねた。
「氷結弾・潮輪!」
あーさんは掌の水を薄い面に変え、俺は旗で返礼の拍を刻む。
よっしーは盾で衝撃を受け止め、クリフさんの矢が空気を裂いた。
リンクとブラックが二重の軌跡を描き、炎糸の攻撃を逸らしていく。
だが白鎖の動きは速い。こちらの拍を真似し、さらに一歩先を読んでくる。
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8. 新たな輪
苦戦の最中、あーさんの掌の水が光を放った。
「……潮は、礼を返したがっております」
水の面が広がり、白鎖の足元を包み込む。
その隙を突き、ニーヤの氷結弾が鎖を凍らせた。
俺は旗を振り、返礼の拍を深く刻む。
「これが、俺たちの輪だ!」
白鎖は短く笑い、鎖を収めた。
「いい礼だった。……続きは、海のさらに向こうで」
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9. 静寂と余韻
戦いの後、祭殿は静寂を取り戻した。
中央の宝珠が淡く光り、潮の拍が穏やかに響く。
「次は……東の海か」
クリフさんが呟く。
「輪はまだ続くニャ」
ニーヤが笑い、リンクが小さく鳴いた。
俺は深く息を吸い、指輪を胸に押し当てた。
――この旅は、まだ終わらない。
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次回予告
蒼玻群島を抜け、さらに東の海域へ。
潮流を支配する“海王の祭殿”、そして白鎖との三度目の邂逅。
日環と水鏡が交わる拍の中で、新たな仲間と秘密が明らかになる――。




