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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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太陽塔ヘリオポラ ― 黙字の太陽




夜明け前、塩の大地に響くエンジン音


白く乾いた塩床を、セドの古いエンジンが低く唸りながら進む。まだ空は群青の底で、東の地平にだけ朱が滲んでいる。

助手席のニーヤは杖を抱きしめたまま半分うとうと、後部座席ではリンクが小さく丸くなり、ブラックが屋根の上で翼をたたんでいた。


「今日中に塔の麓まで行けるか?」

俺が前を見ながらつぶやくと、よっしーが口角を上げた。


「いける。相棒の底力見せたるわ。風の裂け目も夜明けのうちはおとなしいはずや」


その声にクリフさんが後ろから頷く。

「問題は昼の熱気だな。太陽が上がれば、裂け目が暴れる。塔の周辺はとくに強い風脈が走るそうだ」


「そのための“日環”ニャ」

帽子のつばを押さえながら、ニーヤが薄く笑った。杖の先には、昨夜編み込んだ新しい魔法陣の残光が揺れていた。



道中の影、白鎖の気配


街道を進むたびに、空気が少しずつ重くなっていく。

塩床の地表に刻まれた、細い鎖の跡のような筋が、東へと続いていた。


「……あいつだな」

俺がつぶやくと、あーさんが小さく扇を握り直す。

「白鎖殿、もうすぐそこに」


よっしーが舌打ちをしながらも、スピードを落とさずに進む。

「こっちを試してきとるんや。向こうが待っとる間は、こっちも油断せんでええ」


リンクが小さく鳴き、ブラックが翼を広げて短く「ン」と応える。

その緊張感の中、地平の向こうに塔の影が見えた。



ヘリオポラ ― 太陽塔の麓


昼前、俺たちは塔の麓に広がる街へ到着した。

石と白砂で築かれたこの都市は、昼の太陽を反射して眩しいほど明るい。市場のざわめき、潮と香辛料の匂い、そしてどこからか響く鐘の音――全てがここが「太陽の都」であることを主張していた。


「すごいな……」

あーさんが思わず声を漏らす。

「ええ、ここから見える塔は……圧巻にございます」


塔は空を突き刺すように高く、表面には幾重にも刻まれた紋様が輝いていた。

よっしーは腕を組み、低く呟いた。

「見た目はただの塔やけど、なんか嫌な気配がするわ」



市場での準備


街の中心部に近い市場で、俺たちは必要な物資を補充することにした。

乾燥肉、水袋、治療用の薬草、そして塩避けの布――塔周辺の風を防ぐための必需品だ。


「ユウキさん、こちらの布は風を柔らげる効果があるそうです」

あーさんが選んだ薄い水色の布を見せてくれる。

「……ありがとう。これで体力の消耗を少しでも減らせる」


ニーヤは新しい魔力石を吟味し、クリフさんは矢羽根の補充を終える。よっしーは軽食の串焼きを買ってみんなに配り、リンクは果物屋の前で尻尾を振っていた。



塔への道 ― 崖と風


午後、俺たちは塔へ続く一本道を進み始めた。

塩床の地面は次第に傾斜を増し、ところどころに亀裂や崖が口を開けている。風は強く、砂塩が視界をかすめる。


「裂け目、右方向三十メートル先!」

ブラックの警告に合わせて、よっしーがハンドルを切る。


「ニーヤ、準備は?」

「いつでも行けるニャ!」


塔の麓の高台に差しかかった瞬間――。



襲撃 ― 崖、空、森


崖の上から、ポイズンビーが五匹。

空からはハーピーが二匹。

森の影からは、コボルトの魔物が六匹。


「……マジかよ、同時か」

俺の声がかすれる。


「我が主人、ハーピーはアッシに任せるニャ!」

ニーヤが杖を構える。


「ポイズンビーは俺が――」

クリフさんが前に出ようとするのを止め、俺は叫んだ。


「ポイズンビー五匹は無理だ! まずは全員で地上からだ!」



ポイズンビーとの死闘


よっしーが盾を構え、先頭のポイズンビーの突進を正面から止める。

砂塩を蹴る爪の音が耳に響く。後ろの個体が押し寄せ、前線が崩れそうになる。


「今だ、弓と魔法!」

ニーヤが詠唱する。

「風刃魔法・ウインドカッター!」


鋭い風が一匹の肩を裂き、体勢を崩したところをクリフの矢が貫く。

二匹目はリンクのサマーソルトと二段ジャンプで空中に放り投げられ、踵落としで地面に叩きつけられた。


「リンク、ナイスだ!」


三匹目は俺とエレオノーラで同時に斬りかかり、四匹目と五匹目はブラックの水魔法とクリフの矢、俺たちの追撃で仕留めた。



空の戦い ― ハーピー


「クリフさん、地上は片付いた! 上は任せろ!」

ニーヤが杖を掲げ、空のハーピーに狙いを定める。


リンクが二段ジャンプで飛び出すが、距離が足りずに落下。

その瞬間、ブラックが風の盾を作り、リンクが再加速する。


「もう一度だ、リンク!」

「キュイ!」


サマーソルトがハーピーの顎を砕き、一撃で即死。

落下するリンクをブラックが水のクッションで受け止め、最後はクリフさんがキャッチした。


二匹目のハーピーには、ニーヤの氷結弾が羽を凍らせ、俺とクリフの連携で地面に叩き落とした。



森の影 ― コボルトの群れ


「次は森だ!」

よっしーとエレオノーラが盾と短剣で前に出る。

あーさんが水鏡を広げ、胞子の霧を防ぐ。


俺は旗で拍をずらし、クリフの矢が次々と核心を貫く。

最後の一匹をリンクの跳躍が押さえ、エレオノーラが短剣で止めを刺した。



戦いの後


砂塩に横たわる魔物たち。

リンクが胸を張り、「キュイ!」と鳴いた。

ブラックは短く「ン」と答え、ニーヤがその頭を撫でる。


「……やっぱり強えな、俺たち」

よっしーが息を整えながら笑った。


俺は旗を肩に担ぎ、東の塔を見上げた。

白い陽炎の中で、塔がゆっくりと呼吸しているように見えた。



次回予告


塔の内部、螺旋階段と無数の封印。

白鎖との再会、そして新たな“拍”の戦いが始まる――。

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