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第5話 深き森の魔女と、イシュタムの記憶

(主人公・相良ユウキの視点)

山道を歩く俺たちの足取りは、国境を越えたことで少し軽くなっていた。それでも、この先の不安が消えたわけじゃない。俺たちは、この黄昏の異世界で、ただの異邦人。いつまた理不尽な悪意に襲われるか分からない。

俺は、道中、再び**スキル「探索」**を使い、周囲の魔物の気配を察知しながら進んだ。ブラックも、俺の肩に止まり、鋭い眼差しで周囲を警戒している。

数時間が経った頃、あたりに急に濃い霧が立ち込めてきた。

「なんや、急に霧が出てきよったな」

よっしーが、怪訝な顔で言った。

「ユウキさん、マップにバグが発生しています」

クリフさんが、俺の腕を掴んで警告する。

俺は、すぐに表示していたマップを閉じた。確かに、霧が濃くなってからは、マップ上の表示が点滅を繰り返していた。この霧には、何か特別な力が働いているのだろうか。


「うぅ、痛ててて」

「とりあえず、このクリフの傷、なんとかせなあかんなぁ」


よっしーと俺は、クリフさんの肩を支えながら歩く。いくら俺が魔法で治したとはいえ、完治にはもう少し時間がかかりそうだ。


「ねえ、クリフさん。アンタ、どうして私たちを助けたの?」


あーさんが、おずおずとクリフさんに尋ねた。


「アンタってお前なぁ! このクリフさんは、ワイらを逃がそうとしてくれたんやで! 自分の危険も顧みずにやな! 何でそんなことしたかは分からんけど、あのままほっといたら、裏切りとか言われて、仲間の兵士や貴族どもに処刑されてまうで!」


よっしーが、あーさんに詰め寄って、クリフさんを庇う。


「落ち着いて、よっしー。あーさんは、ただ、理由が知りたかっただけだよ」

俺は、二人をなだめながら、霧の奥に目を向けた。

その時、霧の中に、ぼんやりと光る明かりが見えた。


「おい、あれ、家か?」


俺たちは、その明かりを目指して歩いた。そこには、小さな家がポツンと建っていた。


「開けちゃダメだよな、普通は」


そう思いつつも、クリフさんの傷が気になり、俺は薬を求めて扉を開けた。

家の中には、可愛らしい幼い女の子が、すやすやと眠っていた。歳は、小学校低学年くらいだろうか。





(アンリの視点)

「むぅ……誰じゃ、ワシの安眠を妨げるのは……」


ワシ、アンリは、森の奥深くで暮らす魔女じゃ。齢はとっくに二桁を越え、数百年生きておる。こんな森の奥で一人、長〜〜いこと男性との出会いがない。

そろそろ素敵な年下の王子様に、お姫様抱っこされたいと、森の神々に願ったばかりじゃというのに、目が覚めたら、目の前にワシより幼い男の子が立っておるではないか。


「んっ、何じゃお主らは?」


ワシは、ムクッと起きて、その男の子に手を差し出した。


「そこの可愛い坊主や。それは何じゃ? お主の仲間が美味そうな食い物を持っておるのう。ワシに寄こすのじゃ」

ワシがそう言うと、坊主は目を丸くしておった。


「ぼっ……坊主だって??」


ワシから見れば、お主はまだ坊主じゃ。いや、それより、隣にいる、変な髪形の男が持っている、甘い香りのするものが気になって仕方がない。


「なんや、なんで虚空庫アイテムボックスの中にある物がわかったんや??」


変な髪形の男が、驚いた顔で言った。


「ほぅ……『虚空庫アイテムボックス』と申すか。面白い能力じゃな」

ワシは、ニヤリと笑う。ワシは、この森の魔女じゃ。お主らのことなど、すぐに分かってしまうわ。

「何かさっき気付いてんけど、前の世界で所有していた物は、虚空庫アイテムボックスっちゅう能力スキルの中に入ってるんや」

「何だよそれ。そんなの、俺には無かったぞ」

坊主が、不満そうに呟いた。

ワシは、その坊主の言葉を聞いて、確信した。こやつこそ、ワシの運命の相手じゃ。

ワシは、坊主にダイブして、お姫様抱っこを催促する。

「よこせ!」

魔女の願いとユウキの使命

(主人公・相良ユウキの視点)

「坊主だって?? いや、誰がどう見ても、目の前の少女の方が幼いだろ!」

俺はそう思ったが、その前に、よっしーが不思議そうな顔で、幼い少女に尋ねた。

「なんや、なんで虚空庫アイテムボックスの中にある物がわかったんや??」

「何だ? どういうこと?」

俺は、状況が分からずに首を傾げた。

「何かさっき気付いてんけど、前の世界で所有していた物は、虚空庫アイテムボックスっちゅう能力スキルの中に入ってるんや」

「何だよそれ。そんなの俺には無かったぞ」

俺がそう思った矢先、幼い少女はなぜか俺のところにダイブしてきた。

「よこせ!」

結局、この幼い少女は俺の膝の上に乗り、ものすごい勢いでお菓子を頬張りまくっている。口の周りにチョコレートを付けたまま。

「のう坊主や、おぬし名前は何というのじゃ?」

俺は、この幼い少女の頭を撫でながら答えた。

「俺は相良ユウキ。こっちがよっしーで、怪我している方がクリフさん」


「おう、ユウキか。ワシはアンリと申すのじゃ。ちょっと訳あって今だけこの森に住んでおる魔女じゃよ。んでおぬしらは一体何故、ワシの家に不法侵入して来たんじゃ? やはりそこの傷ついた男のことでかえ?」

「魔女??? 何言ってんだこの子供は?」


俺は、魔女ごっこのつもりなんだろうと思いながら、クリフさんの傷のことを話した。

すると、よっしーが前に出てきて、頭を下げて言った。


「なあ、すまんけど、コイツの傷まだ酷いんやわ。薬かなんかあったら譲ってくれへんやろうか。コイツ、ワイらの命の恩人やねん。頼むわ」


「うむ、お主らから強引にお菓子も貰ったし、それくらいならかまわん。そこの棚の中にワシが育てた薬草があるので、使うがええぞ」

アンリの言葉に、俺たちは安堵の息を漏らした。

クリフさんの治療が終わり、よっしーはクリフさんが心配なので、奥の部屋のベッドで眠っているクリフさんの隣で椅子に座っていた。俺は、一時間ほどこの自称魔女っ子のアンリとお菓子を食べながら一緒にいた。

なぜかアンリは俺をじーっと見つめてくる。


「そうか。森の神々が、ワシの願いを聞き届けてくれたんじゃな」


「願い? なんのことだよ?」


俺はそう尋ねるが、アンリは何も答えなかった。

この近くに村は無いかと尋ねると、数時間歩けばあるそうなので、俺たちはとりあえずそこへ寄ってみようかと話していた。その時、汚いボロボロの黒い野良猫が、お菓子を欲しそうに家に入ってきた。


「何じゃこの子! 汚い野良猫は、ワシとユウキの楽しい時間を邪魔するでないぞ! 何の用じゃ!」


アンリがそう言うと、俺はアンリを右手で遮り、野良猫に声をかけた。


「なんだ、欲しいのか? いいよ、ほら」


俺がスナック菓子をあげると、猫はバリバリと食べ始めた。どうやらスナック菓子が気に入ったらしい。俺は、野良猫の頭を撫で、抱きしめてやった。野良猫は、俺に懐いてきた。それを見たアンリは、俺と野良猫の間に入ってきて、


「コラっ、そのポジションはワシじゃぞ! さっさと退くのじゃ!」


俺はアンリの目を見て、優しく言った。


「ダメだよ、アンリ。動物をもっと大事にしなきゃ」


その言葉に、アンリの目はウルウルしていた。俺は、彼女を落ち着かせようと頭を撫でると、彼女の顔が真っ赤になり、俺に抱っこを催促してきた。俺は、仕方なく抱っこしてあげた。


「おーっ、キターっ! 待っておったぞー!!」

「えっ? 何が?」

「お主は優しいのう。これがお姫様抱っこというやつか! 良いぞ! 良いぞ! さあ、ユウキよ、もっと顔を近付けるのじゃ!」


俺は、よく分からないが、アンリの言う通りに顔を近づけた。すると、アンリは俺の唇にキスをしてきた。


「んっ??」


「なっ、コラ! 何するんだ、この子供は!?」

「決めたぞ! ワシはユウキと結婚するぞい! のう、これをやろう。ワシとお主の愛の証。動物に優しいお主の今後の冒険にも役立つ、結婚指輪じゃ」


アンリはそう言って、俺に銀色の指輪をはめた。

おままごとのつもりなのだろうか? 俺は突然のことで頭が真っ白になった。今、自分の目の前で何が起きているのか、もうわけが分からない。


「では、ユウキにはさらにこれもやろうぞ。ワシからのプレゼントじゃ!」


えっ、目の前に突然、一冊の本が出てきた。


「それは魔導書といって、魔法を覚えるための本じゃ。今後の旅に役立てるが良い」


「あはは! ありがとうね。じゃあ、アンリがもっと大きくなったら、結婚しちゃおうかな」


俺がそう言った瞬間、アンリは大喜びしていきなり野良猫と踊り出した。

イシュタムの記憶、魔女の助言

(主人公・相良ユウキの視点)

「さて、お菓子も食べたし、おしゃべりもしたし、ワシもそろそろ眠くなってきたのじゃ。最後に、ワシからのアドバイスじゃ」

アンリはそう言って、俺の目を真っ直ぐに見つめた。


「お主は、その身にイシュタムの魂を宿しておる。それに気づいておるかえ?」

「イシュタム……?」


俺は、頭の中で響いた、あの声のことを思い出した。


「おぬしが眷属をテイムし、進化させることができるのは、その魂の力じゃ。じゃが、その力は諸刃の剣。使い方を誤れば、お主自身をも滅ぼす」


アンリの言葉は、まるで俺の心を読んでいるかのようだった。


「どういうことだよ……?」


「イシュタムの魂は、この世界を滅ぼすほどの力を持っておる。だが、その力は、お主の心が弱ければ、たちまち闇に染まってしまう。ゆえに、お主の優しさが、その力を制御する鍵となる。決して、その優しさを忘れるでないぞ」

アンリの言葉は、まるで夢の中の出来事のように、俺の心に深く刻み込まれた。


「それに、お主が手に入れた『魔導書』。あれは、お主の魂が成長するにつれて、ページが埋まっていく仕組みじゃ。そして、この『結婚指輪』。これも、お主の魂を守るためのワシからの贈り物じゃ。お主の魂が、闇に染まりそうになった時、この指輪が光を放ち、お主を救うであろう」


「……ありがとう」


俺は、ただそれだけしか言えなかった。

アンリは、俺の頭を優しく撫でると、そのままスヤスヤと眠りについてしまった。


翌朝、クリフさんが目を覚まし、俺たちはアンリの家を出た。とりあえず、近くの村を目指すことにした。

それにしても、何だったんだ一体? 変な子供だったなぁ。できれば、もう会わないことを願いたい。俺は子供が好きな方ではないので……。

ちなみに、もらった魔導書は、何かの皮で作られた表紙だが、とにかく硬い。パラパラとページをめくってみたが、何も書かれていない。白紙だった。


「全く意味が分からん? 一体何の役に立つんだよ?」


俺は、もらった指輪を見つめた。銀色の指輪には、小さな宝石がはめ込まれていた。

とりあえず、ステータスを確認してみた。どうやら、**「不思議な指輪」**というアイテムを貰ったらしい。これもさっぱり分からないが。

俺は、アンリの言葉を、まだ完全に信じることができていない。だが、俺の心には、彼女の言葉が、まるで呪文のように、深く深く刻み込まれていた。


「イシュタムの魂……か」


俺は、もう一度、もらった指輪を強く握りしめた。





後書き

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ユウキは、森の魔女アンリと出会い、自身の能力の核心に触れました。彼の心に刻まれた「イシュタムの魂」という言葉は、今後の旅路にどのような影響を与えるのでしょうか?

応援コメントや好評価をいただけると幸いです。

まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。


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