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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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《境界遺跡ヴァル=アーク》調査編その13「守る場所」 ──帰還者たち——-

前書き(ニーヤ)


我が主人と共に帰ってきたのですニャ。

しかし、安堵する間もなく、また戦いですニャ。

我が主人は弱いニャ。

だから、守らねばならぬのですニャ。

……この学園都市は、

我が主人が初めて“帰る場所”と呼んだ場所なのですニャ。


――ゆえに、狩人共よ。

一匹たりとも通しはしないのですニャ!


白章隊の視界の先。

埃を巻き上げ、傷だらけの仲間を背負い――

トレノのライトが闇を切り裂いていた。


「おーい、ルフィ!やり過ぎんなよ!!」


ハンドルを握るのは、もちろんよっしー。

運転席の窓から半身を乗り出し、

いつもの軽いノリで叫ぶ。


助手席ではユウキが必死で手を振る。

その隣で父――いや、エリーが唖然。


後部座席にはクリフ、あーさん。

頭上にはニーヤたちの影。


周りを漂う光の粒――ブラックとリンクの

魔力援護が、薄い膜となって車両全体を包む。


「よっしゃ!拾えるだけ拾っていこか!

 白章隊の皆さん、乗りなはれ!!」


「し、指示が軽い!!」


シリウスがツッコミながらも、

隊員を次々と荷台へ押し込む。


その間、ルフィは狩人に向き直る。


「おい、逃げるなよ」


狩人は残されたマスクを押さえ、

再び迷彩を展開した――瞬間。


ドンッ!!!


ルフィの肘が肩口に突き刺さる。

迷彩が弾け、火花が散った。


「隠れるなら、もっと上手くやれ」


完全に遊んでる。


白章隊どころか、

ユウキたちですら実力差に鳥肌を立てる。


「ルフィ、お前……」


「ユウキ!見よ!

 これが“ちょっと本気出した私”だ!!」


「ちょっと!?」


言葉にしてはいけない疑念が全員の脳裏を過る。


(こいつ……怪物だ)


――だが。

味方だ。


それだけで十分すぎた。


「猿が来ますッ!!」


アリアの叫びとともに、

草陰から猿軍団の弓矢が一斉に降る。


リンクが鳴く。


「キュィッ!」


空間に淡い像が二つ生まれる。

分身――影のような幻体が盾となる。


【10秒の奇跡】が味方を守る。


「ありがとうリンク!」


ノクティアが中空で舞い、

夜気を刃に変える。


「《闇刃》」


放たれた黒い曲線が

弓兵の弦を切り裂く。

指を飛ばし、悲鳴が連鎖。


(殺していない……!)


クリフが気づく。

狙うのは急所ではなく、

戦闘不能にする関節・神経のみ。


「さすがです、ノクティア殿!」


ニーヤが拳を構える。


「我が主人のため!

 炎疾走魔法フレアアクセル!」


爆炎の加速。

地面に焦げ跡の線が残る。


続けざまにリンクの

《風脚》の乱舞が猿兵を薙ぐ。


ユウキが叫ぶ。


「ニーヤ、やりすぎないで!殺すな!」


「わかっておりますニャ!!

 爪を引っ込めておりますニャ!!」


(引っ込めてても普通にヤバい!!)


白章隊の誰かの心の声。


――そこへ。


足元の影が震えた。


地鳴り。

巨影が這い出てくる。


ティラノサウルス、再起動。


吹き飛ばされた顎は潰れているが、

まだ動く。

怒りの咆哮を放つ。


「うああああッ!!」

「逃げ――」


エリー(父)が腰の袋を握った。


「大丈夫だ!」


一振り。


銀色の液体が宙で形を変える。

実験台のような器具――


錬成術 Lv.1 / 硬化拘束具


ティラノの前脚へ絡みつき、

動きが止まる。


「お父さん!?」


「エリー様……すごい!」


ミアとネーナが感動して目を輝かせる。


クリフが声を張る。


「ユウキ殿、仕上げを!」


「ああ!」


ユウキの指輪が光る。

イシュタムの意志が動く。


「非致死・ほどほどで!!」


白い光がティラノの動きを奪い、

ぐったりと倒れ込む。


その瞬間――


「驚いたな」


低い声。

異様な気配。


樹上から、

猿の戦士とは明らかに違う

知性に満ちた眼がこちらを見ている。


王者。

帝国の頂。


肩には金属片。

腕には古代文明の装具。


「……よくも我らの遊び場に迷い込んできた」


猿王は二足で降り立つ。

その足音だけで、地が鳴る。


「人間……そして、貴様」


瞳は――ルフィを射抜いた。


「醜悪な“神の血族”よ」


風が止まる。

獣が黙る。

闇が笑う。


「お前たち全員を、

 見せしめとして引き裂いてやる」


ルフィが、

ゆっくりと。


とても、楽しそうに。


拳を鳴らした。


「――上等なのだ」


戦場が

再び、動き始めた。


ルフィの右ストレートが猿王の胸板に突き刺さる。

 次の瞬間、巨体が地面を転がった。


「な、なんという威力……!!」


 白章隊の生き残りが息を呑む。


「よし──!」


 ルフィは満足げに手を払う。


「これで邪魔者は全部終わりな──」


 ドォォォン!!


 地鳴り。

 大気が裂けるような咆哮。


 林をなぎ倒して、

 異常に巨大な肉食竜が姿を現した。


「Tレックス……!!?」


「ッ、なんて大きさだ……!?」


 白章隊は、ボロボロの状態で後退を余儀なくされる。


「何匹もいる……!!」

「ち、近づくなァ!!」


 視界の奥、影が動く。

 小型の肉食恐竜、ラプトルの群れも戻ってくる。


「囲まれている!」


 絶望が走るその瞬間──


「ルフィ!! 戻れッ!!」


 クリフの怒号が響いた。


 彼らは必死に道を切り開いた。

 火球。閃光。煙幕。

 それでも焼け石に水だ。


「クソッ、数が……!」


 白章隊隊長シリウスの声も震えている。


「ダーリンのがんばりが無駄になるのは、絶対に嫌なのだ!」


 ルフィは拳を握る。

 が──


「今は戦わない!退く!」


 あーさんの声が鋭く響いた。


「此度は“鐘を鳴らさぬ”が肝要でございます!」


「むぅ……分かったのだ!」


 ルフィは歯を食いしばり、後方へ跳ぶ。

 Tレックスのアゴが、地面を粉砕する寸前だった。





◇撤退戦へ


「おい、あれ!」


 白章隊の一人が指差す。

 谷の向こう側──


微かに白い光柱。


「ポータル……!」

「まだ生きている!!」


 ミカが開いた救援門が、かろうじて稼働を保っていた。


「全員ポータルに突っ込め!!!」


 クリフの咆哮で、

 崖上の全員が一斉に駆け出した。


 ラプトルが追う。

 猿の生き残りが追う。

 Tレックスが破壊しながら迫る。


「間に合えェェェ!!」


 リンクが分身し、ラプトルの顔面に跳び蹴り。

 ノクティアが闇膜を張り、敵の視界を奪う。

 ニーヤが魔力で負傷者を担いで走る。


「もっと気張れ!歩みを止めるなぁぁ!!」


 よっしーが叫ぶ。


 そして──


「踏み込めッ!!」


 全員が光の中へ飛び込んだ。



◇帰還──


 世界が、反転する。


 轟音。衝撃。

 しかし次の瞬間──


 見慣れた天井。

 学園都市・治療フロア。


「……帰って、来た……?」


 倒れ込む白章隊。

 仲間を抱きしめる子どもたち。


「成功……した!」


 ミカの声が震える。


 その時。


ポータルの向こうに、黒い影が立ちすくんだ。


 光学迷彩が一瞬、破れる。


「……狩人だ!!」


「閉じろポータル!!早く!!」


 だがポータルが閉まるより、

 敵が動く方が速かった。


 カシュン…!


 音もなく飛来したワイヤーブレードが、

 治療装置の柱を切断する。


「クソッ!! 上位個体かッ!!」


 闇魔法が走る。

 衝撃波が床を震わせる。


 狩人は──300体

 門の向こうに群れを成していた。


 その視界奥で、

 Tレックスがまだこちらを睨んでいる。


「来るぞ……!!」



◇夜明けの攻防


 ニーヤ(魔力回復)

 ノクティア(闇魔法Lv2)

 リンク(分身10秒)


──三体、制限解除。


 ユウキの指輪が、カッと熱を放つ。


「みんな……」


 拳を震わせ、立ち上がる。


「ここは、俺たちの帰る場所だ!!!」


 狩人の影が、壁を駆け──

 殺到してくる。


その瞬間。


「ルフィ、頼むッ!!」


「任せるのだァァァァ!!!」


 銀髪が閃き、

 闘いの幕が再び上がった。



→次回


▶ 学園都市防衛戦:開幕

 狩人300体 vs 帰還組・フルパワー


◆今回の補足

・転移門の残存エネルギーにより、狩人部隊が学園都市側へ侵入。

・光学迷彩種の戦闘力は個体差あり:

  平均:600〜800相当

  射撃+ワイヤー装備型

・ユウキの「名付けの権能」が帰還時に進化:

  範囲バフ付与が本格化(次回から活きます)

・非致死〈ほどほど〉方針は継続ですが、

  今回は“討ち漏らしゼロ”が防衛ライン目標です。


次回:防衛戦火蓋――!

300体 vs 帰還組フルパワー

お楽しみに!


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