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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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地神の秘宝篇 その一 地竜王の影



 ――地鳴りが、止まらなかった。


 アルフェンヌ地下神殿。

 地脈が裂け、壁が光を噴き出す。

 ユウキたちは散り散りになりながらも必死に体勢を立て直していた。


 「ニーヤ! 結界もう一枚っ!」

 「やってるですニャ! でも、地が怒ってるですニャ!」


 石畳の割れ目から噴き出した光がひとつに集まり、

 形を取り始めた。

 ――それは竜だった。


 紅い瞳、黒銅の鱗、

 地を纏い、天井すれすれまで体を伸ばす。

 「地竜……!? で、でけぇ……!」

 よっしーが叫ぶ。


 クリフが剣を構える。「非致死・ほどほど……通じるか?」

 「やるしかねぇ!」ユウキがイシュナールを抜く。


 だが、地竜の咆哮は、

 まるで大地そのものの怒号だった。

 ドゴォォォォォン!

 衝撃波が走り、

 ニーヤの結界が砕ける。


 「ぐっ……! チトセたちの援護は!?」

 通信はノイズに消えた。

 ミカの信号も途絶。

 塔の支援が届かない――。


 「完全に、地の領域ですわね……!」

 あーさんが息を詰める。


 ユウキの足が沈む。

 地脈が生きている。

 動く床、脈打つ大地。

 イシュナールの刃が震えた。

 (やばい……押し切られる!)


 地竜が口を開く。

 咆哮とともに黒煙が奔流のように溢れ、

 それが触れるものを次々に石化させていく。

 よっしーの盾が弾かれ、

 クリフの守律剣が火花を散らす。

 「ぬぅっ、押し負ける……!」


 ユウキが叫ぶ。「みんな、下がれぇっ!」

 ニーヤが転がりながら魔法陣を描く。

 「地覆壁魔法アース・シェルター!」

 土壁が立ち上がり、彼らを包む――

 だが、次の瞬間。


 地鳴りが途絶えた。

 轟音のあと、奇妙な静寂。


 そして――聞こえた。


 チャリン……チャリン……

 金属の音。

 水滴のように澄んだ響き。


 ユウキが顔を上げる。

 「……この音……。」


 光が走った。

 地竜の背後、崩れた天井の隙間から、

 ひとすじの蒼が落ちてきた。


 「――水竜王の名において。」


 その声とともに、

 光が形を成す。


 剣が立っていた。

 誰もいなかった空間に、一本の剣が。

 刀身は透き通る蒼銀、刃に刻まれた竜の紋章が淡く脈打つ。

 それは、まるで呼吸しているようだった。


 風が止まり、水の匂いがした。


 次の瞬間、剣が人の形を取る。

 白銀の鎧、淡い青の外套。

 瞳は深海のように静かで、声は刃のように冷たい。


 「――我、オルタ。水竜王の剣にして、加護の執行者。」

 彼が歩き出すたび、水が床に散り、光の波紋が広がった。


 よっしーが口をあんぐり開ける。

 「ま、また出たで! 救世主枠やぁー!」

 クリフが頷く。「いや、今は笑ってる場合ではない。」


 地竜が再び咆哮する。

 だがオルタは一歩も退かない。


 「鎮まれ、地の竜よ。

 ――汝の怒りは、すでに理を越えている。」


 地竜が腕を振り下ろす。

 オルタは剣を抜いた。

 その動作、まるで“水が流れる”よう。

 刃が閃く。


 ヒュオォォ……ン!


 空気が震え、

 地竜の腕が水飛沫となって霧散する。


 ユウキ:「……スゲェ……!」

 あーさん:「まるで流転の刃でございますわ……!」


 オルタは言った。

 「退け、これは我が主の領域。

  おまえたちは拍を守れ。」


 しかしユウキが叫ぶ。

 「待て! オルタ! オレたちも戦う!」

 オルタがわずかに目を細める。

 「……人の子よ。汝らの拍、見せてみよ。」


 ユウキが頷き、イシュナールを構える。

 「蝶番を動かす、それがオレたちの戦い方だ!」



 地竜とオルタの斬撃が交錯した。

 火花と水飛沫。

 オルタの一撃は流れ、ユウキの一撃は響く。

 異なる拍が合わさり、波のように地竜を包み込んだ。


 ニーヤが詠唱する。

 「炎熱弾魔法フレアバースト!」

 よっしーが盾を掲げ、「いっけぇえええ!」

 クリフが守律剣を重ね、

 「――共鳴陣、発動!」


 大地が鳴った。

 地竜の動きが止まる。

 その胸部に“蒼”と“金”の光が重なり、

 泉の音が響いた。


 オルタが剣を収め、静かに囁く。

 「……鎮まりたまえ。」


 刹那。

 地竜の影が崩れ、水に還る。

 重い静寂のあと、蒼い光が地脈を伝って遠くへ消えた。



 「……やった、のか……?」

 ユウキが息をつく。

 オルタが振り返り、微かに頷いた。

 「うむ。汝らの拍、確かに届いた。」

 あーさんが微笑む。

 「剣もまた、人の心に通ずるのですね。」

 「剣とは理を断ち、道を繋ぐもの。」


 よっしーが笑う。

 「やっぱええとこ持ってくなぁ……オルタはん。」

 ルフィが跳ねる。「ダーリン! あの人、カッコイイのだぞ!!」

 ガガが目を輝かせる。「オルタ、すごかったダゾ!」


 オルタは一瞬だけ目を細めた。

 「……人の子らよ。

  この地は眠りについた。

  次に鳴るは“風の鐘”。

  ――拍を絶やすな。」


 そう言い残し、彼の身体は再び蒼い光に包まれる。

 剣の形に戻り、光となって消えた。



 洞窟の天井から、静かな光が降る。

 ユウキが呟く。

 「……やっぱり、オルタってすげぇな。」

 よっしーが笑う。「ほんまやな。救世主枠、確定や。」

 あーさんが二鈴を鳴らす。

 チリン、チリリン。

 「拍も剣も、人の想いを通わせますのね。」

 ニーヤが頷く。「非致死・ほどほど……今日も成功ですニャ。」


 クリフが剣を収め、

 「おぅ、飲もう。」


 笑い声が響く中、

 地の神殿の奥で微かな囁きがした。


 > 『……鐘を鳴らすな。蝶番を――。』



【あとがき】


オルタは“剣”であり、“水竜王の声”。

呼ばれずとも、拍の乱れを感じれば現れる。

彼の登場は、神話そのものの介入を意味する。

そして、地竜の理が鎮まった今、

次に揺れるのは――風の層。



→次回予告:

『地神の秘宝篇 その二 風鳴きのウィンドフォール

鐘はまだ鳴らさない。

風が、彼らを呼ぶ。


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