第3話 奇妙な能力と新たな仲間
(主人公・相良ユウキの視点)
夜通し山道を走って、俺たちは小さな洞窟にたどり着いた。そこで一息つき、俺の「癒しの力」でクリフさんの傷を治した。彼は驚いていたが、それ以上に、俺たちが命がけで助けてくれたことに感謝していた。
夜が明けて、俺たちは再び旅を再開した。
山道は、バーグが言っていた通り、危険な魔物やモンスターがうじゃうじゃいる場所だった。
「ひぃっ! あれは……!」
あーさんが、怯えた声で木の陰から指をさす。
そこには、狼の体に蝙蝠の翼が生えたような奇妙な生き物が、倒れている鹿の死骸を貪っていた。あーさんの言っていた「魔物」ってやつだろうか。
「ユウキさん、あれは『ブラッドウルフ』です。とても凶暴で、近づかない方がいいわ」
クリフさんが、警戒しながら俺に耳打ちする。
幸い、俺たちは音を立てずにやり過ごすことができた。だが、道中には、人間だったであろう白骨死体や、まだ原形をとどめているものの、見るからにこの世のものではないと分かる変わり果てた人々の姿がそこかしこに転がっていた。きっと、魔物に襲われ、命を奪われたのだろう。
この世界には、こんなにもあっけなく命が失われる日常が溢れている。
そんな現実を目の当たりにし、俺は身震いした。
山道を走っている最中、運良く旅の商人と出会った。俺たちは、奴隷商人から逃げる際に、カバンの中にあった金目のものをいくつか失敬していた。それを使って、クリフさんの傷を完全に治すための傷薬を買い、飲ませた。
「これで、もう大丈夫ですね」
あーさんが、クリフさんの顔色を見て、安心したように微笑む。
「ああ。本当にありがとう」
クリフさんは、あーさんに頭を下げた。
俺たちは、旅の商人の好意で、彼のテントで一晩休ませてもらうことになった。
「コレで良しっと、ちょっと彼のステータスを確認してやってくれるかい」
旅の商人が、クリフさんを指差して俺に言った。
「へ?」
ステータス? ゲームかよ、おい。
「えっと、どうやって見るんスか?」
俺は、おずおずと旅の商人に尋ねた。
「ハッハハハーっ! なんや自分、この世界に来て真っ先に気づいとらへんかったんか?」
よっしーが、呆れたように笑いながら俺に言った。
「知るか!ってか、なんだよ、その情報通みたいな顔は」
俺は、ムッとしてよっしーに言い返した。
「視界の端っこにアイコンがあるやろ?」
「え?」
言われるまま、俺はぼんやりと視界をぼかしてみた。すると、確かに視界の端に、妙に自己主張の強いマークが見える。
「それに意識を集中するようにしてみぃや」
よっしーに言われるまま、俺はアイコンに意識を集中した。
ピコーン!
軽い音がして、まるでARのように、俺の視界に大きなステータス画面が表示された。
クリフ・カルロベーノ
* クラス:兵士、狩人
* レベル:15
* HP:186
* MP:43
* SP:50
* 攻撃:165
* 守り:185
* 速さ:79
* スキル:連続打ち、チャージショット、回復魔法、状態変化魔法、探知魔法
* 装備:鉄の鎧、鉄の盾、鉄の剣
* 進化:条件を満たしていません
クリフさんのステータスは、ゲームの主人公みたいに強い。
次に、俺は自分のステータスを見てみた。
相良ユウキ
* クラス:テイマー
* レベル:1
* HP:9
* MP:3
* SP:6
* 攻撃:14
* 守り:15
* 速さ:4
* スキル:探索、眷属化、進化促進、癒しの力
* 装備:旅人の服、初級冒険者の棒
* 進化:条件を満たしていません
クラスがテイマーになってる。それに、俺がクリフさんの傷を治した力が「癒しの力」として追加されていた。
そして、よっしーのステータスだ。
木幡良和
* クラス:盾士
* レベル:1
* HP:13
* MP:1
* SP:4
* 攻撃:16
* 守り:19
* 速さ:3
* スキル:風魔法1、虚空庫(特級)
* 装備:旅人の服、初級冒険者の棒
* 進化:条件を満たしていません
虚空庫
(特級)……なんだこれ?
「どうや、ワイのスキル、凄いやろ!」
俺が唖然としていると、よっしーがドヤ顔で胸を張った。
「虚空庫って、なんやねん?」
「ああ。これがあれば、どんなもんでもこの中に収納できるんや。食べ物から、武器、なんなら人間まで。しかも、中のもんはずっと鮮度が保たれるんやで」
よっしーはそう言って、俺の持っていた棒を虚空に投げ入れた。すると、棒は光の粒子となって消えていく。
「な……なんだこれ!?」
「すげぇやろ? ちなみに、このアイテムボックスは特級やから、容量も無限やで。なんや、ワイのレベルは1やけど、とんでもない当たりスキルらしいわ」
よっしーは得意げに笑った。確かに、これはとんでもないスキルだ。
俺は、あーさんのステータスも確認してみた。
あーさん
* クラス:???
* レベル:1
* HP:10
* MP:15
* SP:5
* 攻撃:12
* 守り:13
* 速さ:5
* スキル:水流操作、紡織、???
* 装備:破れた着物、初級冒険者の棒
* 進化:条件を満たしていません
あーさんのクラスは「???」と表示されていた。まだ、その能力が覚醒していないのだろうか。しかし、スキルには「水流操作」とある。彼女が水を操る魔法を使えるようになったのは、このスキルのおかげだったんだ。
謎のカラスと新たな目的
テントで少し休んでいると、クリフさんが目を覚ました。
「よおクリフ、目が覚めたんかーっ! お前ケガの具合はどないやねん?」
よっしーが、クリフさんに声をかける。
「私は、確かあの黒装束に斬られて……」
「そうや! ワイがしばき回したろ思てガーって行ったら、アイツ突然、透明人間みたいにスーッと消えおったんやで」
「はぁ? 何言ってんだよ、このおっさんは?」
俺は呆れた。お前がかかっていったところで、どうにかなるわけないだろ。
「そうか。君たちが私をここまで連れて来てくれたのか?」
「そうだよ。あんた、超重かったんだけど」
「重ないわ! ユウキが軟弱なだけやがな」
よっしーと俺が軽口を叩き合っていると、あーさんが静かに言った。
「ところで、あそこにいるカラス……。さっきからずっと、私たちを見ていないかしら?」
俺は、あーさんの指さす方向を見た。
旅の商人のテントの前の木の枝に、一匹のカラスが止まっている。確かに、ずっとこっちを見ていた。しかし、別に危害を加えてくるような感じでもなかったので、俺たちは無視しておくことにした。
あとで、俺は自分のステータスをもう一度確認してみた。
俺のクラスはテイマー。魔物を使役することができるらしい。
そして、俺のスキル。
【探索】
これは、対象物をマップ表示できるスキルらしい。この能力があれば、敵の位置や地形を把握できる。これはかなり便利そうだ。
【眷属化】
これは、使役した魔物を自分の眷属にできるスキルだ。
【進化促進】
これは、眷属化した魔物に名前を与えることで、進化させることができるスペシャルスキルらしい。何がスペシャルなのかはよく分からねぇけど、なんだかワクワクしてきた。
これに加えてイシュタムの力も追加すると、けっこう使えるスキル多いな…・
旅の商人から、この山を一つ越えた先に「モンテーヌ」という町があるらしいと聞いた。俺たちは、まずはそこを目指すことに決めた。
クリフさんは、俺の「癒しの力」と傷薬のおかげで、ずいぶん回復したようだ。俺たちは再び山登りを再開した。しかし、やはりその足取りはまだおぼつかない様子だ。
すると、よっしーがクリフさんに、ちょうどいい長さの棒を渡した。
「さっきお前が休んどる間に、そこらへんから見つけてきたんやで! どうや、この木の棒、しっかりしとるやろ?」
「おお、確かにな! よっしー殿、ありがとう」
「殿はいらんがな、アホ♡」
よっしーはそう言って、クリフさんの肩をガシッと掴んだ。
なんなんだよ、この二人。超ヤベエぞ。ホモか? 俺は少しゾッとした。
国境越え
俺たちは、歩き続けてようやく国境の近くまでたどり着いた。
俺は、早速スキル【探索】を使ってみた。
ピコーン!
視界にマップ画面が現れ、国境の周りに5人の兵士が巡回しながら見張っているのが表示された。
「ワシ、あの兵士さんと酒が飲みとうなったんで、お前さんらはその間にサッサと国境を越えるなり好きにしな」
突然、旅の商人がそう言って、兵士のところへ行ってしまった。そして、こっそりと酒瓶を渡した。
すると、兵士は仲間を呼び出し、皆で酒を飲み始めた。なんだ、酒盛りを始めたぞ?
「ユウキさん、聖教国では酒類は禁止されているんです。だから、彼らはこうやって人目につかない場所で飲酒するしかないんですよ」
クリフさんが、俺に耳打ちする。
「へえ、そうなのか」
俺は、初めてこの世界の文化の一端を知った。
旅の商人が、ああやって兵士たちの注意を引いてくれたおかげで、俺たちは兵士に見つかることなく、無事に国境を越えることができた。
「よっしゃあ! これで聖教国からは完全に逃げられたな!」
よっしーが、安堵の声を上げた。
しかし、俺たちはまだ、この世界の右も左も分からない。これから一体どうすればいいのだろうか。
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ようやく聖教国の支配から逃れ、新たな一歩を踏み出したユウキたち。
次の町「モンテーヌ」で、彼らを待ち受ける運命とは……?
応援コメントや好評価をいただけると幸いです。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。