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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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-地底探検の章- 第二十六章「王家の第一墓所」


 ふむ……と、クリフが足を止めた。

 石灯籠のようなものが並び、天井の岩肌に刻まれた古いルーン文字がかすかに光を帯びている。

 冷たい空気と、湿った苔の匂い。ここまで降りる間にも数度の戦闘があり、パーティは自然と武器に手をかけたまま進む癖がついていた。


 「……ここ、だな」

 よっしーが呟く。

 光を投げ込むと、石室の中央には巨大な石棺。左右には兵士の像が二体、槍を構えた姿勢で立ち並んでいた。


 「王家の墓所か。さすがに雰囲気が違うな……」

 ユウキの声には、氷河期世代特有の卑屈さがほんのり混じる。

 「けど……今の俺には仲間がいる」

 その言葉に、ニーヤがすかさず被せた。

 「そのとおりです、我が主! 鐘を鳴らさず、蝶番を外す術を考えるのはあんたの役目なんですニャ!」

 強い眼差しに、ユウキは小さくうなずいた。


 ──しかし。


 石棺の表面が、がらりと揺れた。

 まるで空気ごと軋むような響きが洞窟全体に広がり、兵士像の目が真紅に点る。

 「モンスターハウスか!」

 クリフの叫びと同時に、兵士像が石を砕いて歩み出した。


 「来るぞ!」


 リンクが盾を構え、あーさんが二鈴を軽く鳴らす。ノクティアは冷たい笑みを浮かべ槍を回転させた。

 「下僕ども、出番だ」

 漆黒の魔力から浮遊霊と骸骨騎士が湧き出し、前衛を支える。


 「がーはっはっは! ダーリン、これは宴の始まりか!」

 ルフィの声が通信水晶に割り込んできて、場の緊張を逆に掻き乱す。


 ──だが次の瞬間。


 サジがふっと影から滑り出て、木刀を構えた。

 「フン……影の呼吸、一ノ型」

 石兵士の足首を払うように一閃。わずかな隙を生み出した瞬間、カエナが竹槍で横から突きを叩き込む。

 「よし! サジ、今だ今だ!」

 「チッ……調子に乗るなよ」


 見えぬ位置にはすでに撒菱。動きを鈍らせた兵士像に、クリフの矢が突き刺さる。

 「うむ、ここで決める!」

 矢は魔力に輝き、石の亀裂をさらに広げた。


 「ユウキ、今っ!」

 ニーヤの叫び。


 ユウキは深呼吸し、掌を棺へと向ける。

 「──非致死、ほどほど! 鍵穴じゃなく、蝶番へ!」

 掌に宿った淡い光が蝶番めいた継ぎ目へ流れ込み、重苦しい圧力が解けていく。


 兵士像が崩れ落ちた。


 残るは中央の石棺。

 その蓋が、ひとりでに開き始めた。


 「来る……!」


 現れたのは、漆黒の鎧に身を包んだバジリスク騎士。蛇の鱗が甲冑の隙間から覗き、眼光は毒そのもの。

 「我は王家を護る影……侵入者は許さぬ」


 ノクティアが前へ出る。

 「ならば、影と影で競おうじゃないか」

 槍を構えたその姿は、僧侶でありながら戦士、そして夜の眷属らしい妖しさを帯びていた。


 「がーはっはっは! 面白い! やれやれ、ダーリンの下僕の下僕の戦いを見せてみろ!」

 ルフィの豪快な笑いが、墓所の冷気に木霊した。

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