-地底探検の章- 第二十二章「第一回廊/眠る王家の印章」(後半)
石の扉がきしみ、重々しく開いた。
冷たい風が吹き抜け、灯した松明が揺れる。
「……目を逸らせ。睨まれたら終わりだ」
ノクティアの声に、緊張が走る。
扉の奥、玉座めいた石座に、巨大な影が身を丸めていた。
鱗は鉛色、瞳は青緑に輝く。
――バジリスク。
「くっ……! 蛇影、ここに来て顕現か!」
クリフが剣を構え、仲間をかばうように前に出る。
その刹那、巨蛇が頭をもたげ、鎌首を打ちつけた。
轟音と共に石床が砕け、砂塵が舞い上がる。
「行けるニャ! ユウキ、今こそ!」
ニーヤの火弾が尾を焼き、リンクが二段跳躍でその鱗に蹴りを入れる。
だが硬い。足の骨にまで衝撃が響く。
「こいつ……並じゃねぇ!」
リンクが舌打ちする。
サジは腰を抜かしかけながらも木刀を振り、
「わ、わりぃが! 俺はこっちで援護だ!」
と壁際に仕掛けた撒菱をばら撒いた。
カエナは竹槍を構え、笑いながら突っ込む。
「ほらサジ! お前が足止めしたから効いてんじゃん!」
その撒菱に、巨蛇の尾が乗った。
一瞬だが動きが止まる。
「今だ、クリフ!」
ユウキの声に応え、クリフは新たに覚醒した技を放った。
弓から矢が光を帯び、蛇の片眼を撃ち抜く。
「ギィィィィィ――ッ!!」
地底に響き渡る絶叫。
だが、バジリスクはなお生きている。
青緑のもう一つの眼が、ユウキたちを睨みつけた。
空気が重くなり、視界が歪む。
「ダメだ……これ以上は直視できん!」
ノクティアが祈りの言葉を唱え、光の障壁を展開する。
しかし圧力は止まらない。
そのとき、後方で静かに手を挙げたのはアーサンだった。
「……鐘を鳴らすな。蝶番を撓めるのは、いまです」
二鈴が澄んだ音を鳴らし、場の空気が微かにずれる。
――睨みの線が、ほんの一瞬だけ外れた。
「チャンスだ! 総攻撃!!」
ユウキが叫ぶ。
仲間たちの力が束ねられ、バジリスクとの死闘は佳境へと突入していった。




