-地底探検の章- 第二十章 前編「水路と蛇影」
前書き(サジ視点)
ふむ……。
俺の名前はサジ。忍びの里で鍛えられた腕を持っているつもりだが、ここ学園の連中と動くときは、どうにもペースが違う。
仲間? ……まあ、一応そういう扱いになってるが、俺は別に群れるのが好きじゃねぇ。ただ、ジギーのお館様の言いつけで動いてるだけだ。
だがな……。
この異様な地下水路。鼻先にまとわりつく生臭ぇ湿気。足元をかすめていく冷たい流れ。
こういう不気味な場所を進むとき、仲間ってのも悪くねぇなって、少しだけ思うんだ。
「サジ、はぐれるな!」ってクリフが言いやがるから余計にな。
俺は肩をすくめつつ、木刀を握り直す。フン……。誰が後れを取るかってんだ。
──この先、蛇影が潜んでいようと、俺の撒菱も、罠も、無駄にはならねぇはずだ。
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本編
水音が轟く。
石造りの通路は幅広く、中央を黒々とした水路が走っている。苔むした壁には、ところどころに光苔が淡く灯っており、冒険者たちの影を水面に揺らしていた。
「うぅ……湿っぽいなぁ。髪の毛までペタペタするわ……」
よっしーがぼやく。
「なにを言う、よっしーや。この湿度は蛇影が潜む証左にござろう」
あーさんが涼しい顔で応じる。
「蛇影……?」ユウキが身を固くした。
ニーヤがすかさず小声で言う。
「わたしが感じる魔力……大きい、です。みんな、気をつけるです!」
その言葉と同時に──。
ばしゃんっ!!
水路の底から何かが飛び出した。
「うわっ!? なんやこれ、でっかい蛇やんか!」
よっしーが叫ぶ。
現れたのは、全長十メートルを優に超える巨蛇。鱗は岩のように硬質で、瞳は血のように赤い。
しかもただの蛇ではない。水路と同化するように揺らめく影が、もう一体、二体と増えていく。
「影をまとってやがる……分身か!?」クリフが弓を引き絞った。
「フン、任せとけ!」
サジがひらりと前へ出る。手から撒菱をばらまき、巨蛇の進行を阻んだ。
ジャリッ。
水路の石畳に散らされた銀色の棘。影の蛇が踏み抜いた瞬間、呻き声のような音が響き、幻影が弾ける。
「よっしゃ! やっぱ影やないか!」
しかし本体の巨蛇は止まらない。首をもたげ、ユウキに襲いかかる。
「し、しまっ──」
「ユウキ殿!」
あーさんの声。二鈴が鳴り、突如として水流の壁がせり上がる。蛇の牙はその水壁に食い込み、火花を散らした。
「クリフ!」
ユウキが叫ぶ。
「応!」
矢が唸りを上げ、蛇の片眼を正確に射抜いた。巨体がのたうち、水路の壁に叩きつけられる。
「まだですニャ! ファイヤーボールッ!!」
ニーヤの炎弾が直撃し、巨蛇の影を焼く。
その隙にリンクが二段跳躍で頭上に舞い上がり、疾風脚を叩き込んだ。
「はぁッ!!」
蛇の頭部が弾かれ、水面に激しく沈む。
……が。
「ぬぅ!? まだ動くのか!」
クリフの声。
沈んだはずの蛇の背後から、さらに巨大な影がゆらりと立ち上がった。
「二体目……いや、これは──」
サジが唸る。
「影が集まってる……!」ユウキが息を呑む。
水路全体が波立ち、影の塊がうねりをあげる。
現れたのは、先の蛇をさらに凌ぐ巨影。頭部は三つに分かれ、眼光が赤々と揺らいでいた。
「おいおい、マジかよ……これ、バジリスクやんかぁぁぁ!?」
よっしーが悲鳴を上げた。
その瞬間。
後方から、カエナの大声が響いた。
「サジ! いいな、それいけーッ!」
「うるせぇっ、わかってらぁ!」
サジは舌打ちし、木刀を逆手に構える。
巨大な蛇影と忍びの一行の戦いは、さらに苛烈さを増していく──。
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次回予告
蛇影の真の姿、バジリスクとの死闘。
しかし、偶然と笑いが交差する瞬間が訪れる──。




