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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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-地底探検の章- 深層「黒糸の門」

前書き(ノクティア視点・約700字)


 わたしはかつて“影”に囚われし身。

 血を啜り、影を従え、人を脅かす側に堕ちていた。

 それがいまは……ユウキ殿の名付けと光により、歩むべき道を得た。

 仲間として、僧侶として。


 だが、この地の深層に漂う気配は、わたしの血を震わせる。

 同族の残滓。否、それ以上。

 かつて仕えていた主に似た“公爵”の威圧が、糸のざわめきと共に這い上がってくる。


 恐れがないと言えば嘘になる。

 けれども、わたしは誓ったのだ。

 もはや闇の下僕には戻らない。光を纏い、仲間を守る者になると。


 二鈴の音が、遠くで鳴る。あーさんの慎ましい祈り。

 そして「しっかり立て!」と叱咤するクリフ殿の声。

 ニーヤの爪、リンクの疾風、ブラックの羽音、よっしー殿の懐かしい箱菓子の匂い……。

 わたしを“こちら側”に留めるものは、こんなにもある。


 だから恐怖に勝つのではない。

 恐怖を抱えたまま、それでも前に進む。


 黒糸の門が軋む。

 その先に待つのは、わたしの過去の象徴か。

 それとも、わたしたちの未来を阻む影か。


 祈りと槍を携え、わたしは挑む。




1.黒糸の門


 幾重もの黒い糸が、石壁に縫い付けられるように絡み合っていた。

 それはまるで生き物のようにざわめき、近づくユウキたちをじっと見ているかのようだ。


「……門?」

 ユウキが思わず声を洩らす。


「ただの扉ではございませぬ」

 あーさんが二鈴を揺らし、慎重に踏み出す。

「糸そのものが封印であり、同時に招き入れる仕掛け。鐘を鳴らさぬよう撓めて外さねば、誰かの名を攫うでしょう」


 ユウキの喉が鳴った。

 足元には古代の魔法陣。そこに刻まれた文字が光り、こう告げている。


『名を告げよ』


 仲間たちが顔を見合わせる。


「俺の名は……ユウキ!」

 そう叫んだ瞬間、黒糸がざわりと動き、ユウキの身体を絡め取ろうとした。


「ご主人っ!」

 ニーヤがすぐさま火弾魔法を撃ち込み、糸を焼き払う。

「しっかりするです! ここで迷うと名を奪われるのですニャ!」


「……悪ぃ」

 ユウキは汗を拭い、深呼吸を繰り返した。

 怖い。だが今は仲間がいる。


「ユウキ、立て!」

 クリフが一喝する。

「不器用でも構わん。名は、俺たちが覚えている!」


「……そうだな」

 ユウキは再び名を告げた。今度は、仲間たちの声を背に。

 すると黒糸は静かにほどけ、重々しい扉の形を成した。



2.蛇影の残滓


 門が軋みを上げて開いた瞬間、濃い影が広間にあふれ出た。

 蛇影――かつて戦ったバジリスクの残滓だ。


「またかっ!」

 よっしーが後ずさる。


 だが、今度は違った。

 リンクが颯のリングを輝かせ、疾風脚で影を裂く。

「キュイッ!」

 風が走り、蛇影は一刀両断に砕け散った。


「前より速い……!」

 ユウキは目を見張る。

「俺たち、強くなってる」


 仲間たちが短く頷いた。

 そして奥から、さらに重い足音。



3.吸血公の影


 姿を現したのは、黒衣をまとった異形の巨躯。

 半ば人の姿を保ちながら、背には蝙蝠の翼。目は紅く輝き、足元から無数の黒糸を操っている。


「……吸血公」

 ノクティアの声が震えた。

「わたしの……過去を映す影」


 公は嘲笑を浮かべ、腕を振る。

 黒糸が蛇のように仲間を縛り、幻惑の声が響いた。


『名を差し出せ。我が糧となれ』


 ユウキの耳に、かつての挫折や孤独が囁きかける。

 ――お前には居場所がない。

 ――仲間はすぐ離れていく。


「黙れ……!」

 ユウキは頭を振る。


 その瞬間、ノクティアが槍を突き出し、祈りを紡いだ。

「光はここにあり! わたしは下僕ではない!」


 槍先が糸を裂き、仲間たちが動けるようになる。



4.覚醒の連携


「俺の番だ!」

 クリフが弓を構え、剣を抜いた。両手が閃き――新たな技が生まれる。


双牙連撃。

 矢と剣が同時に走り、吸血公の肩を貫いた。


「ご主人、今ですニャ!」

 ニーヤが火弾と氷弾を同時に重ね撃ち。

 ブラックが風で火を煽り、水で氷を補強し、複合魔法が生まれる。


「キュイッ!」

 リンクが疾風脚で敵の幻影を切り裂く。


 仲間たちの一撃が次々と重なり、吸血公の影が揺らいでいく。


 ユウキの胸が熱を帯びる。

「イシュタム……今だけでいい、力を貸せ!」


 共鳴の光が拳に宿る。

 不器用な一撃でも、仲間の支えがあれば――!


「うおおおおっ!」

 ユウキの拳が突き抜け、吸血公の胸を打ち砕いた。



5.戦利品


 影が消え、黒糸の門が砕け落ちる。

 残ったのは古びた宝箱。


「……また出たで!」

 よっしーが歓声を上げる。


 箱の中には――

•黒糸断ちの短剣:影を裂く特殊武器。

•深淵の護符:闇への耐性を高める護符。

•蒼光の羽衣:魔法防御を大幅に上げる装束。


「これは……次の戦いに備えよということですニャ」

 ニーヤが呟いた。


 ユウキは短剣を手に取り、仲間を見渡した。

「……これで、また一歩前に進める」



6.次なる予兆


 だが、崩れた門の奥から、さらに黒糸の残滓が漂ってきた。


『さらに下に……』


 深層はまだ続いている。

 そして“地下世界アーク”のクライマックスが待っていることを、一同は悟った。


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