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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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-地底探検の章- 第二十章 後編「水路へ(決着)」

前書き


(今回はユウキ視点/約600〜700字)


 不器用なまま、ここまで歩いてきました。

 思えばオレは「氷河期」なんて呼ばれる時代に生きてきて、ずっと片隅のまま、要らないものみたいに扱われてきた。

 場数を踏んだつもりでも、いざという時は足が竦み、胸がざわつく。……けれど、今は違います。


 仲間がいる。

 クリフが前を見据え、ニーヤが強く声を掛け、あーさんが柔らかに笑い、よっしーが場を和ませる。

 リンクもブラックもノクティアも、もうオレを一人にはしない。


 だから、偶然でも構わない。泥に転がっても恥ずかしくない。

 ――仲間と一緒なら、不器用なオレでも前に進める。


 今回の後編では、バジリスクとの決着が描かれます。

 暴走する怪物にどう挑むのか、そして仲間の絆がどんな形で勝機を生むのか。

 少しでも「一緒ならできる」という想いを、読んでいただければ幸いです。




 ――ズザァッ!

 転んだ拍子に、握っていた鉄棒が床の突起に弾かれ、跳ね上がった。

 それが、ちょうどバジリスクの片眼へ直撃した。


 ギャアアアアアッ!!!

 怪物が咆哮し、尾を振り回しながら天井を抉ってのたうつ。


「えっ……えっ!? い、今の俺……?」

「な、なんや……偶然やろ!」よっしーが口をあんぐり。

「偶然でもいいじゃないですか!」あーさんが二鈴を軽やかに鳴らした。


 ユウキは泥まみれになりながら立ち上がり、胸の奥で熱を感じた。

(不器用でも……俺はもう、一人じゃない。仲間と一緒なら、俺だって――!)


 だがバジリスクは倒れない。残った片眼がぎらりと光り、口から紫の毒霧を吐き出した。

 視界が曇り、酸の匂いが鼻をつんざく。


「くっ……ここからが本番ってわけか!」

 クリフが盾を掲げて毒を受け止め、仲間を庇う。

 ノクティアは黒衣を翻し、槍を突き出した。「――退け、邪竜!」

 その穂先は毒霧を裂き、怪物の鱗を穿つ。


 ニーヤの詠唱が重なった。

「氷結晶〈ダイヤモンド・シールド〉!」

 冷気が霧を封じ込め、透明な壁が仲間を包む。


 リンクが二段跳躍で宙に舞い、疾風脚を叩き込んだ。

 尾の一撃をかいくぐり、空を裂く蹴りが怪物の顎を跳ね上げる。


 よっしーが震えながらもスカジャンを翻した。

「こうなったら……1989年式の奥の手や! 紙コースターばら撒きや!!」

 怪物の足元に紙片が雪のように散り、踏み込む力を奪う。


 最後に、クリフが前へ出た。

「――ここだッ!!」

 剣と弓を同時に構え、矢を番えたまま踏み込みざまに斬り上げる。

 矢と刃が交差し、十字の閃光となってバジリスクの胸を裂いた。


 断末魔が響き、怪物は崩れ落ちた。

 毒霧は消え、石の床に静寂が戻る。


「……ふぅ」ユウキは大きく息をついた。

 胸の中で、さっきの熱がまだ消えない。

(俺でも……仲間となら、戦えるんだ)


 ノクティアが槍を収めて微笑む。

「あなた方の“絆”という力……。僧院で教わったどの祈りよりも強いようですわ」


 仲間たちは互いの顔を見合い、無言でうなずき合った。

 そして、暗い石段の下へと続く風が彼らを誘った。


 次なる階層――そこに待ち受ける「蛇影と眼光」を知らぬまま。

後書き


 ここで第二十章「水路へ」は一区切り。

 ユウキの偶然の一撃から、仲間との協力でバジリスク戦に決着をつけました。

 次回からは 「蛇影と眼光」編 が始まります。

 さらに地下深く、より不気味な影が待ち受けています。


 ――鐘を鳴らさず、蝶番を外せるかどうか。

 旅はまだ続きます。


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