-地底探検の章- 第二十四章「黒糸の扉」
導入
バジリスクを討ち果たした一行は、宝を手にしつつも浮かれすぎることはなかった。
蛇影を倒した先の通路は、さらに深く暗い空洞へ続いている。
空気が変わった。生ぬるい湿気から、一転して乾いた冷気が頬を撫でる。
「……なぁ、みんな」
よっしーが肩を竦めた。
「空気がな、さっきまでの湿気とちごうてる。こっから先は“別物”やで」
ユウキも剣を握り直す。
「わかる……まるで、空気そのものが拒絶してるみたいだ」
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黒糸の広間
やがて、石の壁が途切れ、巨大な空洞に出た。
そこには一本の「門」があった。
いや、門と呼ぶには異様だった。
枠組みも扉板もなく、空間そのものに黒い糸が編み込まれている。
蜘蛛の巣のように幾重にも張り巡らされ、その中心には人影のような黒い塊が浮かんでいた。
「……これが、黒糸の扉……」
アーサンが二鈴を胸元で揺らし、眉を寄せる。
「鐘を鳴らさぬための“蝶番”……。しかし、この糸は異質にございます」
ノクティアが一歩前に出た。
「瘴気が濃すぎます。……このまま進めば、誰かの魂を喰われるでしょう」
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不穏な声
その時だった。
糸の奥から、嗄れた笑い声が響く。
『……来たか、旅の徒。
鐘を鳴らさず歩もうとする、お前たちよ……』
黒い塊がゆっくりと動き、人型の輪郭を帯びる。
顔はなく、ただ無数の糸が束ねられている。
その中心から、別の低い声が混じった。
『……だが、“蝶番”を撓めようとするなら、代償を払え。
血か、命か、記憶か……』
ユウキの背筋に寒気が走った。
「代償……? そんなもの払えるかよ!」
だが、黒糸はゆっくりと蠢き、彼らの進路を塞いでいく。
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仲間たちの決意
「ふむ……いよいよ正念場だな」
クリフが剣を構える。
「しっかりするニャ、我が主人! このためにわたしたちがいるんですニャ!」
ニーヤが火球を指先に灯す。
「オレらもいるぜ!」
サジが木刀を振り、カエナが竹槍を肩に担ぐ。
「へへっ、黒い糸? まとめて串刺しにしてやるよ!」
よっしーが額をぬぐいながら、1989ボックスから銀色のスプレー缶を取り出す。
「やっぱ来よったな……。ほれ、“バルサン”や。煙で糸くらい燻せるやろ!」
ノクティアは祈るように槍を構えた。
「ならば……わたくしたちは、命ではなく“意志”を代償に捧げましょう。
鐘を鳴らさぬ旅の誓いを――」
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クライマックスの幕開け
黒糸が門全体を覆い、空洞を震わせる。
その中心から、ゆっくりと“本体”が姿を現そうとしていた。
糸を束ねた巨大な影。
四肢を持ち、顔には仮面めいた白骨の面。
『我は――吸血公を導くもの。
黒糸の守り手にして、“扉”そのもの……』
床が揺れ、天井の stalactite が崩れ落ちる。
仲間たちが一斉に構えた。
ユウキは剣を掲げ、声を張り上げた。
「行くぞ、みんな!! ――鐘は鳴らさせない!」
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→ 次回、
「地底探検の章・最終局面」
黒糸の門をめぐる死闘と、さらなる試練。