宝箱の祝祭(前編)
血と瘴気に濡れた石床に、静寂が戻っていた。
巨躯の吸血鬼ティムは、なお赤黒い煙を立ちのぼらせながら崩れ落ち、その影からは祈りを絶やさぬ修道女が分かたれ──シスター・ノクティアが光に包まれて立っていた。
「……終わった、のか」
クリフが荒い息を整えつつ剣を下ろした。
ユウキはまだ掌に残る微かな光を握りしめ、頷いた。
と、その瞬間。
石壁に埋め込まれていたはずの装飾が淡く輝き、重厚な音を立てて床が開いた。
黄金に縁取られた古代風の宝箱が、地の底からせり上がるように現れたのである。
「おおっ……ついに来たで! こ、これは絶対当たりや!」
よっしーが目を輝かせ、前のめりになる。
ユウキが慎重に蓋へ手を伸ばすと、蝶番が軋むように「ぱきん」と光り、封印が解けた。
中には三つの光の奔流──。
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軌跡の槍
最初に浮かび上がったのは、青白く軌跡を残すように光を引く長槍。
ユウキが手を伸ばすと、槍身はすうっと収まり、ノクティアの手に吸い込まれるように渡った。
「これは……槍?」
彼女が驚きに目を見開く。
「いえ、もっと……軌跡そのものを射抜くような……」
水底を照らす月光のような輝きが、彼女の存在を支えた。
神官としての祈りに、槍使いの才覚が重なる──彼女の武器が定まった瞬間である。
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魔破の剣
二つ目に現れたのは、黒銀に縁取られた片刃の剣。
手にしたクリフが唸る。
「重い……が、不思議と腕に馴染む。なるほど、“魔を破る”か」
刀身が脈動し、血のような光を吸い取っては砕く。
先ほどのティムの瘴気にすら対抗できる刃だ。
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颯のリング
最後に残ったのは、小さな銀環。
嵌めた瞬間、そよ風が指先を撫で、空気の流れが軽やかになる。
「……これ、ええやんか!」
よっしーがすぐさま指に通し、何度も拳を振っては笑った。
「見てみ、ワイの動き、めっちゃ軽快や! 颯や颯!」
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仲間たちがそれぞれ新装備の力に驚嘆する中、
羨ましそうに瞳を細める影があった。
「いいですニャ……」
ニーヤが耳をぴくりと震わせ、思わず漏らす。
するとよっしーが、ニヤリと笑って鞄をごそごそ。
次の瞬間、取り出したのは──粉末と水で作る、例の怪しげなお菓子。
「ニーヤには、特別なアイテムや!」
どや顔で差し出された袋には、大きくこう記されていた。
『ねるねるねるね』
「……な、なんですかニャ、これ」
首をかしげるニーヤに、よっしーが例の笑いを真似て言う。
「ヘッヘッへ……混ぜれば混ぜるほど、色も味も変わる! 魔法のお菓子やで!」
「う、うさんくさいですニャ……」
だが興味を隠せず、尻尾をぱたぱたさせながら受け取るニーヤ。
場が一気に和み、重苦しい空気は吹き飛んだ。
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最後に、ノクティアが一歩前へ進む。
まだ顔には疲労の影が残っているが、その瞳は確かに仲間を見ていた。
「……あらためて。わたしはノクティア。神へ祈りを捧げる身ですが……槍も持ちます。どうか、この旅路に同行させてください」
ユウキは力強く頷いた。
「こちらこそ。鐘を鳴らさず進むには、あなたの力が必要だ」
こうしてシスター・ノクティアが正式に仲間へと加わり、
一行は新たな祝祭の余韻を胸に、さらなる地下の奥を目指すのであった。
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あとがき
宝箱回、パーティの空気が一気に明るくなりましたね✨
ノクティアの加入で「神官枠」も埋まり、ますますオールラウンダーな布陣に。
次回は「黒糸が導く更なる奥」──地底アークの中盤戦へ進みます!




