表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/404

宝箱の祝祭(前編)



 血と瘴気に濡れた石床に、静寂が戻っていた。

 巨躯の吸血鬼ティムは、なお赤黒い煙を立ちのぼらせながら崩れ落ち、その影からは祈りを絶やさぬ修道女が分かたれ──シスター・ノクティアが光に包まれて立っていた。


「……終わった、のか」

 クリフが荒い息を整えつつ剣を下ろした。

 ユウキはまだ掌に残る微かな光を握りしめ、頷いた。


 と、その瞬間。

 石壁に埋め込まれていたはずの装飾が淡く輝き、重厚な音を立てて床が開いた。

 黄金に縁取られた古代風の宝箱が、地の底からせり上がるように現れたのである。


「おおっ……ついに来たで! こ、これは絶対当たりや!」

 よっしーが目を輝かせ、前のめりになる。


 ユウキが慎重に蓋へ手を伸ばすと、蝶番が軋むように「ぱきん」と光り、封印が解けた。

 中には三つの光の奔流──。



軌跡の槍


 最初に浮かび上がったのは、青白く軌跡を残すように光を引く長槍。

 ユウキが手を伸ばすと、槍身はすうっと収まり、ノクティアの手に吸い込まれるように渡った。


「これは……槍?」

 彼女が驚きに目を見開く。

「いえ、もっと……軌跡そのものを射抜くような……」


 水底を照らす月光のような輝きが、彼女の存在を支えた。

 神官としての祈りに、槍使いの才覚が重なる──彼女の武器が定まった瞬間である。



魔破の剣


 二つ目に現れたのは、黒銀に縁取られた片刃の剣。

 手にしたクリフが唸る。

「重い……が、不思議と腕に馴染む。なるほど、“魔を破る”か」


 刀身が脈動し、血のような光を吸い取っては砕く。

 先ほどのティムの瘴気にすら対抗できる刃だ。



颯のリング


 最後に残ったのは、小さな銀環。

 嵌めた瞬間、そよ風が指先を撫で、空気の流れが軽やかになる。


「……これ、ええやんか!」

 よっしーがすぐさま指に通し、何度も拳を振っては笑った。

「見てみ、ワイの動き、めっちゃ軽快や! 颯や颯!」



 仲間たちがそれぞれ新装備の力に驚嘆する中、

 羨ましそうに瞳を細める影があった。


「いいですニャ……」

 ニーヤが耳をぴくりと震わせ、思わず漏らす。


 するとよっしーが、ニヤリと笑って鞄をごそごそ。

 次の瞬間、取り出したのは──粉末と水で作る、例の怪しげなお菓子。


「ニーヤには、特別なアイテムや!」

 どや顔で差し出された袋には、大きくこう記されていた。


 『ねるねるねるね』


「……な、なんですかニャ、これ」

 首をかしげるニーヤに、よっしーが例の笑いを真似て言う。

「ヘッヘッへ……混ぜれば混ぜるほど、色も味も変わる! 魔法のお菓子やで!」


「う、うさんくさいですニャ……」

 だが興味を隠せず、尻尾をぱたぱたさせながら受け取るニーヤ。

 場が一気に和み、重苦しい空気は吹き飛んだ。



 最後に、ノクティアが一歩前へ進む。

 まだ顔には疲労の影が残っているが、その瞳は確かに仲間を見ていた。


「……あらためて。わたしはノクティア。神へ祈りを捧げる身ですが……槍も持ちます。どうか、この旅路に同行させてください」


 ユウキは力強く頷いた。

「こちらこそ。鐘を鳴らさず進むには、あなたの力が必要だ」


 こうしてシスター・ノクティアが正式に仲間へと加わり、

 一行は新たな祝祭の余韻を胸に、さらなる地下の奥を目指すのであった。




あとがき


宝箱回、パーティの空気が一気に明るくなりましたね✨

ノクティアの加入で「神官枠」も埋まり、ますますオールラウンダーな布陣に。

次回は「黒糸が導く更なる奥」──地底アークの中盤戦へ進みます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ