-地底探検の章- 黒糸の門(後半)
地下祭壇を揺らすほどの咆哮が、石壁を震わせた。
黒糸に操られた吸血鬼の巨躯。
背丈は二メートルを優に越え、肩は樽のように盛り上がり、皮膚は灰白に硬化している。
まるでバイオ怪物のごとき肉塊に、血走った眼光がぎらついた。
「来るぞッ!」
クリフが即座に弓を構える。
ニーヤの詠唱が走った。
「ファイヤーボール!」
火弾が連射され、敵の肩口に炸裂。だが再生の速さが尋常ではない。
リンクが「キュイ!」と跳ね、疾風脚を叩き込む。
巨腕が風を切り、空気が唸った。
寸でのところで回避するも、床石が砕け、砂塵が舞う。
「ええか、だいたいやな……」よっしーが口を開いた瞬間、
巨腕が横殴りに迫り、彼の身体をかすめる。
「うわあああっ!? ちょ、聞けやッ!」
間一髪でユウキが引き戻した。
「クリフ、今だ!」
「任せろッ!」
矢が閃き、吸血鬼の眼窩に突き刺さる。
だが巨体は止まらない。矢を引き抜き、血を噴きながら笑う。
後方で、あーさんが両の鈴を鳴らした。
「鐘を鳴らさず、蝶番を撓める……水よ、縛れ」
水流が巨体の足を絡めとり、一瞬、動きが止まる。
「今だ! いっせいに!」
ユウキが叫び、剣を振る。
クリフは短剣を抜いて側面から斬撃。
ニーヤの氷弾が追い討ちをかけ、ブラックが風刃を飛ばす。
しかし、その背後。
影のように控えていた修道服の少女が、震える声を漏らしていた。
「……ごめんなさい……わたしは……」
瞳は紅く、牙が覗く。吸血鬼に堕ちたシスターだ。
「しまった、こいつも!」
彼女が魔力を解放しかけたその時、巨体の主が咆哮する。
黒糸が暴れ、少女をさらに縛り付けた。
「苦しんでやがる……!」ユウキは思わず駆け寄る。
目の前に、あの表示が浮かんだ。
――『吸血鬼シスターを眷属化テイムしますか? YES/NO』
「またか!」
よっしーが驚きの声を上げる。
「ええい、やるしかねえ!」
ユウキは迷わず「YES」を選んだ。
次の瞬間、少女の身体が光に包まれた。
黒糸が弾け飛び、彼女の瞳から苦悶の影が消える。
『吸血鬼シスターの眷属化に成功しました。名前を付けてください』
「……そうだな。夜を照らす者、ノクティア。お前は今日からそうだ」
名を告げると、光はさらに強く輝き、少女の姿が変わっていった。
槍を手にし、背には小さな十字紋。
その気配は、回復と加護の気を纏っている。
「……わたしは……ノクティア。あなたに仕える者……」
新たな仲間が、闇の中で静かに跪いた。
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あとがき
ついにボス吸血鬼との激闘を越え、シスター・ノクティアが仲間に加わりました!
僧侶枠でありながら槍を使いこなすオールラウンダー。
回復、補助、そして亡者の召喚までこなせる強力な戦力です。
次回は──
「戦利品の宝箱」から新装備が!?
颯のリング、魔破の剣、軌跡の槍……誰の手に渡るのか、お楽しみに!




