第十三章 依代の正体
◆前書き(クリフ視点)
剣は、斬るためだけにあるのではない。
俺がこの異郷で学んだのは、蝶番を外すように道を開く剣筋だ。鐘を鳴らさぬための剣だ。
だが、吊り棚の黒祭壇に立ち上った“あの影”は――ただの敵ではなかった。
依代。器。幹部だと信じていた存在が、実はもっと深い闇への入口だった。
オルタが前に立ち、守護騎士として踏み止まっている。
あの背中を無駄にしないためにも、俺は剣を構え続ける。
剣の役目は、戦うことだけじゃない。仲間を繋ぐことだ。
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1.黒い夜
吊り棚の空が黒く染まった。昼であるはずなのに、闇が覆い、風は悲鳴を上げる。
崩れ落ちた魔王眷属の残骸から、濃密な黒霧が巻き上がり、祭壇の幹部の身体に吸い込まれてゆく。
「こ、これは……!」
教会の信徒が怯えた声を上げる。
「幹部殿、何を……! 聞いていない!」
壇上に立つ外套の男の瞳は、すでに人のものではなかった。
口元から黒霧が漏れ、声が幾重にも重なる。
「……我は、ただの人にあらず。大いなるものの“依代”なり」
信徒たちが後ずさる。幹部自身も、既に自我を残しているのか定かではない。
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2.守護騎士の奮戦
「下がれ!」
オルタが一喝し、剣を正面に構えた。青い光が刃に宿り、風の流れを巻き込む。
「戦闘能力、凡そ三千……魔王眷属に対抗する力を、竜王より賜った。今こそ!」
黒霧が幹部を包み、別の姿を形成していく。
角を持ち、巨大な腕を備えた魔の影――魔王眷属が再び現出する。
爪が振り下ろされる。
オルタは剣を盾に掲げ、衝撃を受け止めた。吊り棚の岩盤が悲鳴を上げ、裂け目が走る。
「オルタ!」ユウキが叫ぶ。
「構うな! お前たちは祭壇を――鐘を鳴らさぬ道を探せ!」
血を滲ませながらも、オルタは踏み止まる。
風竜王の加護が光を強め、彼の背を大きく見せていた。
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3.鐘を鳴らさず
ユウキたちは祭壇へ走る。
黒い石の表面には新たな紋が浮かび、依代の脈動と同調している。
「これを潰すしかない……!」クリフが剣を振る。
だが斬撃は、黒い霧に吸われて消えた。
あーさんが二鈴を合わせ、響きを変える。
「鐘を鳴らさず……蝶番を探しましょう」
ニーヤが魔力を重ねる。
「アイスミラー!」氷の鏡が現れ、紋の歪みを映し出す。
よっしーは腰袋から古いルーペを取り出し、微細な継ぎ目を覗いた。
「だいたいやな……ほら、ここが甘い」
ユウキが掌を翳す。
「ウォータースライス!」水の刃が継ぎ目を裂き、黒紋がぱきんと音を立てて外れた。
祭壇の光が一度、弱まる。
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4.幹部の絶叫
外套の幹部が両手を掻きむしり、声にならぬ叫びを上げた。
「……ぐ、ぅ、ああああっ!」
その身体はもう人の形を留めていなかった。黒い鎧に覆われ、瞳は深淵のように空洞。
「我は……依代……大いなるもの、顕現の器……」
信徒たちが動揺し、口々に叫ぶ。
「幹部殿! そんな話は聞いていない!」
「我らは利用されていたのか!?」
組織の内部すら騙していた真実。
その混乱は、祭壇をさらに不安定にする。
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5.迫る影
黒霧が渦巻き、吊り棚全体を覆う。
オルタが剣を振り払い、水流を巻き起こして霧を押し返すが――それでも止まらない。
「これは……ただの眷属ではない!」オルタが声を張る。
「背後に……大魔王の気配がある!」
風が絶叫する。
雲海の底から、何か巨大なものが這い上がろうとしていた。
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6.繋ぐ誓い
「鐘は鳴らさない!」ユウキが叫んだ。
「俺たちがやれることは、蝶番を外して、扉を閉じることだ!」
クリフが剣を掲げ、ニーヤが魔力を合わせる。
よっしーがチョークラインを描き、あーさんが二鈴を響かせる。
リンクが「キュイ!」と鳴き、ブラックが短く「カァ」と応えた。
仲間の力が一つに重なり、祭壇の黒紋が次々に外れてゆく。
鐘は鳴らない。代わりに、蝶番が音もなく外れる。
だがその背後で――黒い巨影が、ついに姿を現そうとしていた。
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◆あとがき
今回は「依代の真実」を描きました。
•陰匿教会の幹部が実は“大魔王顕現の器”だったこと。
•オルタが守護騎士として前に立ち、戦闘能力を解放して仲間を護ったこと。
•そして鐘を鳴らさずに祭壇を無効化したものの、背後には大魔王の気配が迫る――。
次章、ついに“魔王”が顕現します。オルタが耐え、仲間が解法を探すその時――誰が現れるのか。




