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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第十二章 吊り棚の黒祭壇



◆前書き(ナハル視点・空の棚守)


 風は人を選ぶ。

 浮島に生まれた我らは、その当たり前を知っている。

 同じ道を歩いても、風に嫌われる者は一歩で躓き、愛される者は十里を軽く駆け抜ける。


 昨夜、この棚を訪れた旅人たちは、不思議な調和を示した。鐘を鳴らさず、腕輪を前にして退いた。

 それがどれほど稀なことか、彼らは知らぬままだろう。


 だが同時に、不穏な噂が風を裂いて届いた。北の吊り棚に、黒き祭壇が築かれている、と。

 陰匿教会――大地だけではなく、空にまで根を張ろうとしているのか。


 守るべきは棚の静けさ。だが、あの旅人たちが再び風を揺らすなら、私はその証人となろう。








1.吊り橋の先


 天空の村を発ち、北の吊り棚へ。

 雲を渡る吊り橋は細く、足元から風が唸りを上げる。


「だいたいやな……下見たらアカンやつやんけ!」

 よっしーが腰を抜かしそうになり、ニーヤが尻尾でぐいと押す。

「???ですニャ、顔色が真っ青ですニャ」

「そら真っ青にもなるわ!雲しか見えん!」


 クリフは剣を背に収め、慎重に周囲を観察していた。

「気配が濃い。誰かが“ここ”を意図的に護っている」


 あーさんが二鈴を合わせ、声を落とす。

「鐘を鳴らさぬよう、歩を静めて」


 リンクが「キュイ」と鳴き、先を指す。

 そこには、黒い布を纏った人影が並んでいた。



2.黒祭壇


 吊り棚の中央、岩盤を削り出して築かれた壇。

 その上には黒い石の台座と、煤に似た煙を吐く火鉢。

 周囲を囲むのは、陰匿教会の信徒たち。


 ひとり、外套の幹部が壇上に立ち、両手を広げる。

「天空にまで届いたか、我らの祈りが!」


 ユウキの胸に、イシュタムの低い囁きが重なる。

――器だ。


 ニーヤの耳が跳ねる。

「……依代、ですニャ」


 クリフが剣を抜く。

「やはりそうか。ここで潰す」



3.戦端


 教会の信徒たちが叫び、次々に呪符を投げる。

 火花のような呪炎が吊り橋を焦がす。


「ウォーターボール!」ユウキが咄嗟に放ち、炎を打ち消す。

「アイスシールド!」ニーヤが氷壁を立て、飛来する矢を弾く。

 リンクが羽ばたき、「キュイ!」と叫びながら敵の視界をかき乱す。


 よっしーは腰袋から1989アイテム――カセットテープのケースを取り出し、反射で光を撒く。

「だいたいやな!アナログの輝き舐めんな!」

 光に怯んだ信徒が足をもつらせ、吊り橋から落ちかける。


 だが壇上の幹部は動じない。

「依代はすでに備わった……!」


 彼の背後、黒祭壇から異様な魔力が噴き上がる。

 空が揺れ、雲がざわめいた。



4.オルタ、前に立つ


 その時だった。

 青の外套を纏った影が、吊り棚の縁から跳躍して壇上に降り立った。


「オルタ!」ユウキが叫ぶ。


 騎士は剣を抜き、盾のように構える。

「下がれ。ここは我が受ける」


 幹部の足元から溢れる魔力が、人型の影を作り上げる。

 ――魔王種。

 黒き四肢を備えた異形が、吊り棚の岩を抉って立ち上がった。


 クリフが一歩前に出る。

「俺たちも!」

 だがオルタは首を振る。

「時間を稼ぐ。お前たちは祭壇を――鐘を鳴らさぬ解を探せ」


 剣が青光を帯びる。水竜王の加護が脈打つ。

 戦闘力は、3200へ。



5.守護騎士の戦い


 魔王種が咆哮し、黒爪を振り下ろす。

 オルタは盾のように剣を掲げ、衝撃を受け止めた。

 吊り棚が軋み、風が悲鳴を上げる。


「グレートウェイブ!」

 剣から放たれた水流が魔王種を押し返し、吊り橋を濡らす。

「ダイアモンドダスト!」

 続けて放たれた氷結の雨が、黒い皮膚を凍らせる。


 しかし敵も吠え、氷を割って前進してくる。

 爪が肩を裂き、オルタの血が風に散った。

「……まだ、立てる」


 仲間たちの背に風を送るように、オルタは一歩も退かない。



6.鐘を鳴らさず


 一方、ユウキたちは祭壇へ。

 黒い石には、奇妙な鍵穴のような刻印が走っていた。


「あーさん!」ユウキが叫ぶ。

「心得ております」二鈴が鳴り、音階が石の振動をずらす。

「鍵穴ではなく、蝶番へ……ですニャ!」ニーヤが魔法陣を横から押す。

 クリフの剣が刻印を撫でるように走り、よっしーのチョークラインが結界の継ぎ目を示す。


 重い音が一度だけ響いた。

 鐘ではない。蝶番が外れる音。

 祭壇の黒い光がしゅるしゅると縮み、依代の輝きが鎮まった。



7.終わらぬ影


 魔王種が呻き、オルタの前で崩れ落ちる。

 だがその残骸から、さらに濃い黒霧が立ち上がった。


「……これは」オルタが顔を歪める。


 黒霧が集まり、巨大な影の輪郭を描く。

 吊り棚全体が震え、風が悲鳴を上げた。


「まさか……背後に、まだ――」

 ユウキの胸に、イシュタムの声が響いた。

――器は倒れた。だが、大いなるものが目覚めようとしている。


 吊り棚の空は、一瞬で夜のように暗くなった。






◆あとがき


黒祭壇編の第一幕でした。

•オルタが「守護騎士」として仲間を護り、時間を稼ぐ。

•仲間は鐘を鳴らさず、蝶番を外す方法で祭壇を無効化。

•しかし、その背後に“大魔王級の気配”が迫る――。


次章、いよいよ「依代の正体」と「本物の影」が顕現します。

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