第十章「天空への旅立ち」
◆前書き(エドラン視点)
――兵舎の窓辺に立ち、朝焼けを眺めながら。
私はまだ若輩にすぎない。けれど昨夜、王に呼ばれて「案内役を務めよ」と命じられた。
彼らは不思議な一行だった。異国風の衣をまとい、軽口を交わしながらも、どこか確かな絆で結ばれている。
……あの黒鐘の夜を鎮めたのも、彼らだと小耳に挟んだ。
私にできることは限られている。せめて町での道を示し、見送ること。
剣を抜くより難しいかもしれない。けれど「無事に帰ってこい」と伝える、それが兵としての矜持だ。
今日、彼らは天空を目指すという。
あの人々の歩みに、どうか光あれ。
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1.王城を出て
朝霧の中、ユウキたちは王城の門を抜けた。
石畳には露が残り、外堀を渡ると、背後からエドランの声が追いかけてくる。
「ご武運を!」
よっしーが手を振り返す。
「おう、兄ちゃん。鍋できたら呼んだるわ!」
エドランは戸惑いながらも笑みを浮かべ、胸に拳を当てて敬礼した。
仲間たちは街道へと歩みを進める。
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2.道すがら
「……さて、いよいよだな」クリフが言う。
「天空神の腕輪、だっけ?」ユウキが確認するように呟く。
ニーヤは尻尾を揺らし、魔力の匂いを探るように目を細める。
「???ですニャ。北東の空に、妙な揺らぎが感じられますニャ」
リンクが「キュイ」と鳴き、空を指差す。
そこにはまだ雲しか見えない。だが確かに、何かがあるのだと全員が直感していた。
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3.馬車と揺れ
街道を北東へ。
揺れる馬車の中で、よっしーが「ええか、だいたいやな……」と説教を始めかけた時、
ゴトン! と車輪が石に乗り上げ、よろけてニーヤの膝に頭をぶつけた。
「イタイ! なんやこの罠は!」
「……ただの石ころですニャ」
あーさんは口元に手を当て、可憐に笑った。
「旅の道も、蝶番のごとく揺らぎがあるものにござります」
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4.野営地の夜
夜、焚火を囲み、彼らは食事を取った。
ジギーからの伝令札が光り、塔の仲間の声が重なる。
「おーい、こっちは稽古の真っ最中だぞ」サジの軽口。
「鍋は任せろ!」カエナの笑い声。
遠く離れていても、仲間の存在が心を強くする。
だがその通信に、不意に割り込む大声があった。
「よっしーダーリン! 今度は空でデートやぞーっ!」
「やかましいわぁぁぁ!!」
焚火の火の粉が散り、よっしーがひっくり返る。
全員が呆れつつも、空気が緩んだ。
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5.噂話
翌朝、通りすがりの旅商人から奇妙な噂を聞いた。
「陰匿教会の幹部の一人が……人間じゃなかった、って話だ」
クリフが眉をひそめる。
「どういうことだ?」
商人は肩をすくめる。
「さぁな。ただ、他の幹部でさえ『聞いていない』と動揺してたとか」
ニーヤの耳がぴくりと動く。
「……依代、ですニャ」
ユウキの胸に、またイシュタムの声が響く。
――次に見えるのは天空。だが、その先に潜むものは……。
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6.空への兆し
昼を過ぎ、山道に入ると、突然空が裂けるような光景が広がった。
雲の狭間に、青白い光の筋。まるで天へ伸びる梯子のように。
「これが……天空への道か」ユウキが呟く。
リンクが「キュイ!」と跳ね、ニーヤの尾が膨らむ。
よっしーは青ざめ、「絶対これジェットコースターやんけ……!」とぼやいた。
あーさんは二鈴を静かに合わせ、仲間を見渡した。
「さあ、参りましょう。鐘を鳴らさず、蝶番を押すごとくに」
一行は光の梯子へと歩み出した。
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◆あとがき風
今回は「旅立ち」の章でした。
王城を後にし、仲間たちが次の舞台――天空神の腕輪へ。
道中の小さな掛け合いと、陰匿教会の不穏な噂を織り込みました。
次はいよいよ、天空の地での邂逅と試練が待ち受けます。




