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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第八章 森を抜けて



前書き(よっしー視点)


 ええか、オレはな──戦いやら陰謿教会やら、なんやかんやで死にかけたんや。

 せやのに、まだ「帰り道が待ってる」ってどないやねん。

 普通やったら「やれやれ一件落着」でエンディングやろ。


 せやけどな、ここは異世界。しかもジャングルや。

 ヘビは出るし、足元はぬかるむし、ガガは「タノシイ!」言うて走り回るし。

 ……あかん、オレの寿命が削れてる気ぃする。


 まあ、それでも仲間がいる。

 せやからオレも、文句言いながらでも歩くしかないんやろな。



本編


1. 村の出発


 翌朝、俺たちは水竜王の村を出立した。

 広場ではノリエガとオルタが待っていた。


「旅人たちよ」

 ノリエガの声は低く響く。

「水竜王の導きは汝らと共にある。だが、外の影はなお迫ろう。気を抜くでないぞ」


 オルタが剣を胸に当て、一歩前に出る。

「我は村を守らねばならぬ。だが──次に試練が待つ時、必ずその名を聞き届けよう」


 クリフは力強く頷いた。

 ニーヤは杖を握り、あーさんは二鈴を軽く鳴らして一礼する。

 よっしーは「もうちょっと休ませろや……」とぼやきながらも背負い袋を担いだ。



2. 先住民族の集落へ


 ガガが両手を振って前に飛び出す。

「ムラ! イッショ! イクーー!」


「お、おい、ちょっと待て!」

 俺たちは慌てて後を追った。


 やがて森を抜け、小さな集落に辿り着いた。

 石造りの竪穴住居が並び、木の橋が水路を渡している。

 ここがガガの属する先住民族のテリトリーだった。


 族長らしき老人が現れ、厳しい目で俺たちを見た。

 言葉は通じにくいが、あーさんが二鈴を鳴らし、深く礼を尽くす。

 鈴の音に導かれるように、老人は表情を和らげた。


「……この子を連れて行く、と?」

 通訳の若者が問い返す。


 ガガは胸を張り、にかっと笑う。

「イッショ! イク! ミズ! タノシイ!」


 老人はしばし沈黙し、やがてゆっくりと頷いた。

「ならば託そう。外の道を、この子に見せてやってほしい」


 そうして、ガガは正式に俺たちと旅を共にすることになった。



3. 帰路の冒険


 ジャングルを抜ける道のりは決して楽ではなかった。


 まずは大蛇の襲撃。

 木々の間から巨体がうねり出し、牙を剥いた。

 クリフが剣で受け止め、リンクが跳びかかる。

「アイスシールド!」

 ニーヤが氷の壁を展開し、蛇の突進を逸らした。

 ブラックが素早く首筋に打撃を入れ、巨体は地に崩れ落ちた。


「アカン! 寿命縮んだわ……」

 よっしーが顔を青くする。


 次は沼地。

 ぬかるみに足を取られたよっしーが悲鳴を上げる。

「うわぁぁ! 沈むぅ! 宝塚ファミリーランドより怖いわ!」


 慌てて手を伸ばすも、泥が引きずり込むように絡みつく。

 よっしーはバッグからチョークラインを引っ張り出し、木に括りつけた。

「オレを信じろ! これでも工事現場で使うんや!」

 タイラップで即席のハーネスを作り、なんとか引き上げられた。


 村を出てまだ一日も経っていないのに、もう波乱万丈だった。



4. 陰匿教会の影


 夕暮れが近づく頃、俺たちは森の外れに差しかかった。

 その背後で、黒い影が木々の間に消えるのを見た。


「陰匿教会の残党……」

 クリフが眉をひそめる。


「つけられてますニャ」

 ニーヤが低く告げる。


 だが追撃はなく、ただこちらを見張っているようだった。

 不気味な沈黙が漂う。



5. 森を抜けて


 やがて木々が途切れ、眼下に広がる草原の向こうに街の灯が見えた。

 懐かしい光景に胸が熱くなる。


 その瞬間──俺の頭の奥で、別の声が響いた。


 > 『……次にお前たちが向かうべきは、天空神の腕輪の地……』


 低く、重い響き。

 それはイシュタムの魂の囁きだった。


 山脈、雷鳴、空を翔ける影が脳裏に浮かぶ。

 俺は思わず立ち止まり、胸を押さえた。


「ユウキ?」

 あーさんが心配そうに声をかける。

「……なんでもない。行こう」


 俺は微笑んでごまかし、仲間の背中を追った。

 だが胸の奥で、確かにその言葉は燃え続けていた。


 天空神の腕輪──新たな導きが、俺たちを待っている。



(つづく → 第九章「再会と噂」)


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