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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第五章 水竜王の騎士現る

前書き(ユウキ視点)


 舟を降り、湿った土に足をつけたとき、胸の奥にざわめきが広がった。

 この先にあるのは、ただの村ではない。

 水竜王を祀り、その加護を受けて暮らす人々の場所だ。


 もし彼らに受け入れられなければ、旅はここで途絶えるかもしれない。

 けれども──あの光を見たのは確かだ。滝壺の底で瞬いた、青い息吹。

 それが何であったのかを知るためにも、俺たちは進むしかない。


 二鈴の音が背を押す。

 仲間たちの足音が並び、ガガの笑い声が響く。

 ──水竜王の村へ。




3. 騎士オルタ、降臨


 水面のような静けさの中で、ひとりの戦士が前に進み出た。

 銀鎧が陽光を反射し、胸には青い紋章──水竜王の守護の証が刻まれている。


「我は水竜王の騎士・オルタ。

 外の者──その力量、真に測らせてもらう」


 声音は静かだが、圧がまるで違う。

 広場の空気そのものが、重力を増したかのように感じた。


 クリフが剣を抜く。

「……俺が行こう。みんなは下がっててくれ」


 だが次の瞬間、オルタは 一歩だけ前に出た。


 ──ドッ。


 その一歩だけで、地面が低く鳴動した。


「一騎打ちとは言っていない。

 “来るなら全員まとめて”かかってこい。外の者よ」


 村人たちが息を呑んだ。

 クリフは一瞬だけ仲間を見た。

 誰も引かない。

 そして──戦いが始まった。



4. 実戦、開戦


 オルタの剣がかすかに揺れた……と思った次の瞬間。


 ──ガギィィィンッ!!


「っ……!?」


 クリフの剣は受け止めたはずだった。

 しかし衝撃は壁のように重く、クリフの足が一瞬で抉れた。


 水の膜を纏った刃。

 一振りごとに水飛沫と同時に圧が爆ぜ、

 受けるだけで身体が軋む。


「来るぞ、ユウキ君!」


「はいっ!」


 俺とあーさんが風で側面を狙う──が。


「遅い」


 オルタが手を払った。

 ただの一閃。


 ──ゴウッ!!


「うわっ!?」「きゃっ!?」


 風の塊が俺たちを叩きつけ、二人まとめて吹き飛ばされた。

 視界がぐるりと回り、背中が地面を跳ねた。


 立てない。

 早すぎる……。



5. 仲間、次々と倒れる


「リンク──行くにゃッ!!」


「キュイイッ!!」


 リンクとブラックが左右から同時に跳ぶ。

 連携の高速突撃。

 ふだんならAランクでも反応できない。


 しかし──


「悪くはないが」


 オルタは動かない。

 ただ、足元の水をひと撫でした。


 ──ズドォンッ!!


 水柱が左右に爆ぜ、

 二匹はまるで大砲で撃たれたように吹き飛ばされた。


「リンクッ!?」「ブラック!」


 地面に転がり、二匹は気絶こそしていないが、戦闘続行は不可能。


「アイスシールド!」


 ニーヤの氷盾が広がる。

 しかしオルタはわずかに眉を動かすだけ。


「浅い」


 ──キィンッ!


 ウォータージェットが盾を一瞬で切断。

 氷片が雨のように散り、ニーヤは悲鳴を上げて仰け反った。


「にっ……にゃああっ!?」


 背後に倒れ込み、呼吸が乱れる。

 明確に“殺さない”調整がされているのに──それでも死を感じる威力。


 よっしーが叫ぶ。


「ま、待てオッサン! これほんとに試練やんな!? え、殺す気──」


「試練とは本来、死線だ」


 オルタが踏み込む。


 よっしーが慌てて盾を構えた瞬間──


 ──バキャァァンッ!!


「えぇぇぇぇぇ!? 俺の盾ぇぇぇ!?」


 金属盾は中心から“花が咲くように”砕け、

 よっしーは吹っ飛びながら派手に回転して土埃の中へ消えた。


「よっしーさん!?」


「だ、大丈夫……いや大丈夫ちゃうッ!」



6. クリフ、氷嵐に呑まれる


「クリフ、下がれ!!」


 叫んだが、間に合わない。


 オルタの周囲に冷気が集まり──


「──【氷霧ダイアモンドダスト】」


 霜が空気を白く塗りつぶし、

 クリフの鎧も剣も、みるみる氷で覆われていく。


 動きが鈍り……膝が落ちた。


「くっ……まだ……!」


 オルタの剣が、静かに、しかし確実に迫る。


「終わりだ。

 ──外の騎士よ、よく戦った」


「まだや……ッ!」


 それでもクリフは剣を振るう。

 だが、届く前にオルタの剣が横薙ぎに走る。


 ──ゴォォンッ!


 氷の破片と共にクリフが派手に吹き飛び、地面に沈んだ。


 仲間が……

 全滅だ。


 俺は叫ぶしかできなかった。


「まだ……終わってないッ!!」


7. 大津波ダイダルウェーブ


 オルタが剣を天に向けた。


「ならば──最後だ」


 空気が、一瞬で海の底のように重くなる。


「【大津波ダイダルウェーブ】!!」


 村の広場全域が、

 まるで巨大な海の中に丸ごと投げ込まれたかのように揺れ動いた。


 轟音。

 水の壁が天を覆い──

 次の瞬間、俺たちは飲み込まれた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」


「タス、たすけ……ッ!」


 水圧に体が潰れそうになり、

 洗濯機の中に投げ込まれたかのように回転し、

 上下の区別もつかず、誰の声も届かない。


「ワーー! タノシイーー!!」


 ガガだけはなぜか大喜びで流されていた。



■よっしー、1989アイテムを展開する


「ッ……ぶはぁぁっ!! や、やべぇ……!」


 水中でよっしーの目が開いた。

 片手は折れた盾の破片を握ったまま、反対の手で腰のポーチを探る。


「こない時のための──

 1989サバイバルセットや!!」


 反射的に引っ張り出されたのは、

 昔ながらの黄色いパッケージに入った ゴムボート(手動空気入れ付き)。


 ドンッ!!

 水中で膨張し、丸い影が広がる。


「おお!? 浮いた! わ、割れへんのかコレ! えらい丈夫やな!!」


 さらにもう一本、

 **ピンク色の“キャンプ用補助ロープ”**を引き抜く。


「みんなぁぁ!! つかまれぇぇ!!」


 水流の中で声はほぼ届かない。

 しかしよっしーはロープを大きく振り回し、

 波に飲まれていく仲間たちへ向けて放り投げた。



■救出開始


「ユウキーーー!!」


 ロープの先端が流される俺の腕に絡まる。


「ぐっ……つかんだ!!」


 次にニーヤ。


「にゃにゃっ!? にゃにゃにゃにゃっ!?(なにこれ引っ張られるにゃ!?)」


 ロープがしっぽに絡み、彼女は半回転しながらボート側へ。


 リンクは浮かび上がった瞬間、

 ブラックが噛みついて一緒にロープへしがみついた。


 クリフは意識こそあるものの、氷に体力を奪われている。


「クリフさん!!」


 ボートのよっしーが叫ぶ。


「ほら!! ほらもうちょい!!

 “宝塚ファミリーランドの急流すべり”よりはマシやろ!!」


「どっちも知らん!!」


 クリフは半分キレ気味に手を伸ばし、

 よっしーの差し出したロープをかろうじて掴んだ。


 よっしーは全身を使ってボートへ引き上げていく。

 波は絶えず襲いかかるのに、ボートだけは不思議と転覆しない。


「よし……全員そろた!!

 みんな、俺のボートにしがみつけ!!

 ここが“1989最終防衛ライン”や!!」


「そんなラインあるのかよ!!」


「あるんや!! 俺の中の少年雑誌が言うてる!!」



■最後の渦へ


 ボートは波に流され続けたが──

 よっしーがロープを柱に投げつけ、引っ掛け、

 なんとか“流され過ぎ”を食い止める。


 ガガはボート上でなぜかジャンプしている。


「オーー!! オモシロイーー!!」


「ガガちゃん! 跳ねんといて! バランス崩れるやろ!!」


「ナンデー!? タノシイノニー!」


「たのしいけど今はアカン!!」


 よっしーの涙目の叫びが、波に飲まれず響いていた。



■静止


 その瞬間──

 世界そのものが凍りついた。


 水が、波が、渦が、

 ボートの揺れすら、止まる。


 耳ではなく、頭蓋の内側へ直接響く声。


『……オルタよ』


 空気が震え、全員の頭に直接響く声があった。

まるで海そのものが語りかけてくるような、深い声だった。



7. 水竜王の声



 その声は重く、深く、海底から響くようでありながら、澄んでいた。


『剣を納めよ。その者たちを……我がもとへ連れて参れ』


 青い光が広場を満たし、広場を覆っていた激流が、静かに、ほどけるように消えていった。




8. 終幕


 オルタは膝をつき、剣を地に伏せた。

「御心のままに……水竜王よ」


 村人たちは息を呑み、ノリエガは深く頭を垂れた。

 クリフは剣を杖にして立ち上がり、荒い息を整えつつ仲間を守るように前に出る。

 よっしーはぐるぐる目を回して地面に倒れ込み、ガガは相変わらず「タノシイ!」と笑っている。


 俺は青い光を見上げた。

 ──ついに、水竜王が俺たちに道を示したのだ。



(つづく → 第六章「水竜王との対面」)


■後書き


本話では、水竜王の騎士オルタとの戦闘を「模擬戦」ではなくほぼ実戦レベルに引き上げた形で描きました。

オルタの側からはあくまで“殺さぬ調整”が完璧に施されているものの、外部者視点では明確に“死が迫る”圧力となり、今回の大津波ダイダルウェーブも、試練としては極めて異例の規模になっています。


ただし、水竜王の庇護下にある村という設定上、

「大きく見えて、失わせない」

──というバランスを最後まで崩さないよう調整しました。


今回のポイントは三つです。



●1:よっしーの“1989サバイバル思考”の本領発揮回


よっしーのアイテムボックスは、

「本人の少年時代の心のクセが、緊急時に勝手に選択を走らせる」

という仕様があります。

なので本話のように、水中で思考が追いつかない場面ほど、1989年の“当時の自分が信じた最強アイテム”が反射的に出てくるという仕組みです。


・ゴムボート

・補助ロープ

・手動空気入れ

・謎の黄色いパッケージ


このあたりの“昭和〜平成初期の安心感”を、よっしー最大の武器として描いています。


今回の救出も、

「戦力では全滅だが、よっしーが“生活知識で仲間を救う”」

という本作らしい形になりました。



●2:オルタ戦は“非致死のまま、死線級”という本作の柱


本作の戦闘方針である


「鍵穴じゃなく蝶番へ」

「非致死・ほどほど」

「鐘は鳴らさない」


は、どんな派手なバトルも“殺し”ではなく“成長のための危機”として描く指針です。


今回のオルタは、この方針の極限を狙った存在で、

•殺す気は全くない

•でも殺気の“圧”は本物

•落としどころは水竜王の試練


という構造で作りました。


仲間の武器や魔法が全く通らない描写も、

**“力量差という壁”**を視覚的に示すための演出です。



●3:ガガだけ謎のテンションで流されるのは伏線


今回、

ガガだけ「楽しいーー!!」と波に乗っていましたが、


これは単なるギャグではなく、

彼女が水竜王領域の“気配”になぜか適応している

という伏線です。


次話以降、

ガガが水流や水気の気配に“異常な順応性”を見せるシーンを入れる予定です。



次回は、

水竜王の声の真意、

オルタの試験結果、

そして村の宴──

あるいは“秘宝への道”のさらなるヒントなどを書き進めていきます。


それでは、次話もよろしくお願いします。

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