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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第四章 水路を駆ける

前書き(あーさん視点)


 祠を抜けた先に広がる石の水路──それは古代の人々が築いた“もうひとつの道”でございました。

 流れは激しく、壁に刻まれた紋章は今も淡く輝き、荘厳さと遊戯めいた軽やかさが入り混じっております。


 いかなる仕掛けが待ち受けていようとも、我らがなすべきことは変わりませぬ。

 仲間を守り、鐘を鳴らさせぬこと。

 そして試練を、笑みと共に越えること。


 二鈴を胸にあて、私はひそかに思うのです。

 ──きっと、この道は楽しむものでもありましょう、と。




1. 丸木舟へ


 祠の奥に用意されていたのは、丸木を刳り抜いた舟だった。

 丈夫な蔓で補強されているが、いかにも頼りない。


「え、ええか……? これほんまに大丈夫なんか?」

 よっしーが顔を青ざめさせ、舟を覗き込む。


「ダイジョブ! タノシイ!」

 ガガが先に飛び乗り、両手を広げて笑った。

「ミズ! ハヤイ! イッショニ!」


「ひぃ……もう嫌な予感しかしないわ……」

 よっしーは渋々乗り込み、舟がぐらりと揺れた。



2. 急流へ突入


 合図もないまま、舟は水路へと滑り落ちた。

 瞬間、轟音と共に加速し、全員の体が後ろに押しつけられる。


「ぎゃあああああああ!!」

 よっしーの絶叫が響き渡る。


「タノシイーー!!」

 ガガは前のめりになり、歓声を上げる。


 ブラックは舟の先端で微動だにせず、仁王立ち。

 リンクは「キュイ!」と鳴いて飛び上がり、次のカーブを偵察して戻ってきた。



3. 罠の回廊


 水路の両側から石の扉が落ちてくる。

「頭下げろ!」

 クリフの声で全員が伏せ、髪の毛をかすめて扉が閉まる。


「ファイアウォール!」

 ニーヤが炎を放ち、壁から噴き出した火の罠を押し返した。


 次に槍のような杭がせり出し、舟を突き刺そうとする。

「ああっ!? 来る来る来るぅぅ!」

 よっしーが泣き叫ぶ。

 あーさんが二鈴を鳴らすと、音の波動が杭の動きを鈍らせ、舟は間一髪で抜けた。



4. よっしーの絶叫


「うわあああ! もうやめてぇぇぇ!」

 急流が大きく落ち込み、舟が宙に浮いた。


「タノシイイーーー!!」

 ガガは立ち上がって両手を振る。


「座れやぁぁぁ! 死ぬぞぉぉぉ!!」

 よっしーが涙目で引きずり下ろそうとするが、ガガは笑ってはねのける。


「……仲良しですニャ」

 ニーヤが呆れ顔で呟き、ユウキは苦笑しながら舵を支える。



5. 滝壺ダイブ


 最後に現れたのは巨大な滝。

 轟音と共に水煙が立ち昇り、下は見えない。


「ぎゃああああ!! オレもう無理やぁぁぁ!」

 よっしーが頭を抱える。

 クリフが剣を握り、ユウキが舟を支える。


「鐘は鳴らさせません──」

 あーさんが鈴を鳴らす。


 その瞬間、舟を包むように水が柔らかく膨らみ、落下の衝撃を和らげた。

 水竜王の加護が働いたのだ。


 舟は無事に滝壺へ着水した。



6. 水竜王の気配


 静まり返った滝壺の奥。

 水面が淡い青に光り、深淵から巨大な影が揺らめいた。


「……これが」

 ユウキが呟く。


「スイリュウオウ……」

 長老の言葉が脳裏によみがえる。


 仲間たちは息を呑み、次なる試練に備えて剣や鈴を握り直した。



(つづく → 第五章「水竜王との対面」)


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