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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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第三章 祠と水の試練

前書き(クリフ視点)


 剣を握るたびに、俺は思い出す。

 仲間の前に立つと決めた夜を。

 鐘を鳴らさせぬために斬ったあの瞬間を。


 祠はただの石の建物ではない。

 水の音が響き、壁には古い刻印が走っている。

 村人は「試練」と言った。ならば、俺の剣が試されるのだ。


 砕くのではない。斬り裂くのでもない。

 鍵穴を壊すのではなく、蝶番を外すように。

 ──それを胸に、俺は剣を抜く。




1. 祠の内部


 石造りの祠の扉が軋みを上げて開かれた。

 中には静かな水の流れが走り、床に刻まれた溝を伝って奥へと消えていく。

 壁面には古代文字のような刻印があり、淡く青白い光を帯びていた。


「これは……用水路の原型のようですな」

 ハッサンが感嘆の声を漏らす。

「ただの水路ではありません。祈りを込めた仕掛けだ……」

 あーさんが二鈴を胸に抱き、神妙に頷いた。


 奥の広間にたどり着いた瞬間。

 轟、と石が擦れる音。

 床に積まれた巨岩が組み上がり、ゆっくりと人の形を成していく。


「石の守護者……!」

 ユウキが息を呑む。



2. 石の守護者


 高さ三メートルを超える石の巨人。

 腕には苔むした岩を束ねたような盾、体の隙間から水が滴っている。

 瞳にあたる部分が青白く光り、広間に響くような声を発した。


「……シレン……」


 次の瞬間、巨腕が振り下ろされ、床が砕けた。



3. 戦闘


「行くぞ!」

 クリフが剣を構え、真正面から駆け出す。

 剣と岩腕が激突し、火花が散る。


「ファイアウォール!」

 ニーヤが炎の壁を広げ、巨人の足を阻む。

「アイスシールド!」

 氷の壁が二重に展開し、仲間を守る。


「よっしゃ! オレの出番や!」

 よっしーが虚空庫からチョークラインを取り出す。

 白い粉の線を床に走らせると、巨人の足が一瞬すべって体勢を崩した。

「ほら見てみぃ! 89年式の安全対策や!」

「……ただの滑り止めですニャ」

 ニーヤの突っ込みが飛ぶ。


 ブラックが飛びかかり、爪で光の核を狙う。

 リンクが「キュイ!」と鳴き、巨人の肩に飛び移って打撃を加える。



4. 鎮める


「クリフ様!」

 あーさんが二鈴を高らかに鳴らした。

 清らかな音が広間に響き、巨人の動きが一瞬止まる。


「今だ!」

 クリフが剣を振り上げ、核へと刃を突きつけた。

 だが刃は寸前で止まる。


 彼は思い出していた。

 ──倒すのではなく、鎮めるのだ。


 剣の柄を石床に打ちつけ、響きを伝える。

 鈴の音と剣の響きが重なり、巨人の核に亀裂が走った。

 光が揺らぎ、やがて静かに消えていく。


 巨体は崩れることなく、ただ膝をつき、動きを止めた。



5. 水路が開く


 直後、床の溝を流れていた水が勢いを増し、奥の壁が音を立てて開いた。

 暗い通路の先から、涼やかな風が吹き抜ける。


「……試練は、終わったのですな」

 あーさんが深く息を吐いた。


「鐘は鳴らさせなかった。上出来だ」

 クリフが剣を収め、仲間に頷いた。


 だがその奥から、微かな気配が迫っていた。

 それは水の王の予兆か、あるいは陰匿教会の影か──。



(つづく → 第四章「水竜王の気配」)


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