第二章 水と石の村
前書き(ガガ視点)
ガガノムラ、ミズタクサン。
カワ、ウゴク。 イシ、ヒカリ。
ミンナ、ソコデイキル。
ケド、キケンモイル。
オオキイヘビ。 デンキノウナギ。 クモ、オソロシイ。
ソレ、アタリマエ。 ダカラ、ツヨクナイト、イキラレナイ。
キョウ、ガガ、ミタ!
ヘンナヒトタチ、タタカッテタ。
オオキイワニ、ヤッツケタ。
カミノヨウナ、ヒカリト、コエ。
ガガ、オモッタ。
──ナカマ、ニナリタイ!
1. 村の姿
湿地を抜けると、木々の合間に広がる集落が姿を見せた。
川の流れを利用して組まれた水車が幾つも回り、竹や石を組み合わせた用水路が縦横に走っている。
陽に照らされた水面が眩しくきらめき、まるで村全体が水と共に呼吸しているかのようだった。
「ほう……これは見事ですな」
ハッサンが感嘆の声を上げる。
「水の流れを巧みに使い、生活に取り入れている。文明と自然の調和というべきか……」
「川が……道みたいですニャ」
ニーヤが目を丸くする。
小舟が水路を行き来し、子供たちがその上で笑い声を上げていた。
村の中央には、石を積み上げた祠が鎮座している。
苔むした外壁には古い刻印が刻まれ、見上げるだけで厳かな気配を放っていた。
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2. 長老との対面
村人たちに導かれ、一行は祠の前に座す長老と対面した。
白髪を編み込み、首に貝殻の首飾りを下げた老いた男。
深い皺に刻まれた眼差しは、ただの老人ではない威厳を宿していた。
「……ヨソビト、キタ」
低い声でそう言い、仲間たちを順に見渡す。
「あの、突然の訪問をお許しくださいませ」
あーさんが裾を正し、深く一礼する。
「我らは旅の途上にて、この村に立ち寄らせていただきました。どうか、ご容赦を」
長老は静かに頷き、言葉を続けた。
「ツヨイ。 アナタタチ、ミタ。 ワニ、ヘビ、クモ……タタカッタ」
その声に、ガガが前へ飛び出す。
「ガガ、ミタ! アナタタチ、ナカマ!」
「お、おいちょっと待てや!」
よっしーが慌てるが、長老は口元に笑みを刻んだ。
「……オモシロイ」
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3. 村の食事
その夜、一行は村の火を囲んで食事に招かれた。
大きな葉に盛られた果実、香ばしく焼かれた小魚、そして見慣れぬ虫をすり潰した甘味。
「な、なんやこれ……アリの巣の……?」
よっしーが眉をしかめる。
「ミツアリ! アマイ!」
ガガが嬉しそうに差し出す。
「ええい、せっかくです。いただきます」
クリフが真っ先に口に運んだ。
「……甘いな。砂糖に似ている」
「ほんまかいな……」
よっしーも恐る恐る齧る。
途端に目を丸くした。
「……おっ!? うまいやんコレ!」
村人たちの笑い声が広がり、焚き火の周囲が和やかになった。
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4. 水竜王の伝承
食事が一段落すると、長老は低く語り始めた。
「ムカシ……コノムラ、ミズノオオカミ、マモッタ」
祠を指し、深い皺の中で目を細める。
「ミズノオオカミ、“スイリュウオウ”。 イマモ、ネムル」
その言葉に、仲間たちの表情が引き締まる。
ハッサンが声を潜めた。
「やはり……水竜王は実在するのですな」
「ヒホウ……アラワル。 ダレデモ、ツカエナイ。 ツヨク、トトノウ、モノノミ」
長老は両手を広げ、空を仰いだ。
「ソレ、アラワレレバ……ムラ、マモラレル」
よっしーが仲間を見回し、小声で呟く。
「なんや……“選ばれし者”パターンか」
ニーヤがしっぽを振り、「ありがちな展開ですニャ」と答える。
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5. 不穏な影
そのとき、村の外から低い咆哮が響いた。
水路がざわめき、炎が揺れる。
長老が目を閉じ、険しい声を放った。
「……マタ、ヨソビト。 ワルイヨソビト」
ユウキの胸に冷たいものが落ちる。
陰匿教会──奴らもこの森に来ているのか。
クリフが剣を握り直し、あーさんが二鈴を鳴らす。
「鐘は鳴らさせません」
村人たちの槍が一斉に掲げられ、焚き火の影が伸びる。
嵐の前の静けさが、夜を覆っていた。
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(つづく → 第三章「祠と水の試練」)




