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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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幕間 夢の共有(未来の鐘)・後編

前書き(よっしー視点)


夢いうんは、ほんまやっかいやな。

寝てる間に勝手に舞台つくって、こっちの許可もなしに公演始めよる。

しかも今回は、みんな同じ脚本や。でっかい鐘が揺れて、街が沈んで、最後に鈴が鳴る──。

平成の商店街がシャッター街になるんと似た不気味さやわ。


オレも見た。

夢ん中やのに、手ぇ伸ばしたら紙コースターが出てきて、必死に鐘の腹に貼っとった。

なんやねん、夢にまで’89アイテムボックス出てくるんか。

……でもな、不思議と効いてた気ぃするんや。

紙一枚で音を遅らせて、座に吸わせる。

現実と同じ理屈が、夢でも通用してるみたいやった。


仲間らもそれぞれ夢ん中で動いてた。

にーや姐さんは「夢は糸ですニャ」言うて尾を揺らし、

あーさんは二すずを鳴らさずに持って、

リンクは「キュイ」と鳴いて座を広げ、

ブラックは黙ったまま周波をばらまいてた。

みんな、夢やのに息ぴったり。


ほんまに鐘が未来を見せとるんか、

それとも“名付けの網”が夢にまで手ぇ伸ばしてるんか──

答えはまだ出ぇへん。

せやけど、もし夢の中で鳴った鐘が現実を呼ぶんやったら、

オレらの仕事は一つや。


夢ごとたわめて、ほどほどに止める。

鍵穴じゃなく蝶番へ。

鈴も紙コースターも、使えるもんは何でも使う。


次は夢の後編。

未来を鳴らさせへんために、オレらは夢の蝶番を探しに行くんや。




小序──

夢は、ただの幻想にあらず。

すべてが同じ夢を見るとき、それは呼び声。

未来を鳴らす鐘の前触れかもしれぬ。



I 夢の再訪


その夜もまた、市の人々は同じ夢を見た。

広場に巨大な鐘。霧。沈黙。

そして鳴ろうとする寸前の揺れ。


ユウキはリングの熱で目を覚ましかけ、しかし夢に引き戻された。

仲間がそこにいる。

あーさんは二すずを握り、にーやは尾を撓め、リンクは「キュイ」と座を張る。

ブラックは沈黙を吸うように立ち、クリフは剣を抜かずに見守る。

よっしーは両手に紙コースターを抱え、「平成の鳴り止めダンパーや!」と叫んだ。


夢のはずなのに、互いの声が鮮明すぎる。

ユウキは悟る。

これは夢を越えて“網”に引きずり込まれている。



II 鐘の沈黙


鐘は揺れていた。

だが鳴らない。

沈黙そのものが圧力を帯び、空気を重くする。


「沈黙が、鳴りの前段階ですニャ」ニーヤの瞳が光る。

「糸を張り、待つのですニャ」


リンクが「キュイ」と低く鳴く。

座が広場全体を覆い、沈黙を撓める。

沈黙は少しやわらぎ、人々の夢の中の姿が呼吸を取り戻す。


あーさんが二すずをほんの少し傾ける。

鳴らさず、形で沈黙を支える。

「鐘は鳴らすものでなく、鳴らさぬために存在できます」



III 未来の残像


霧が裂け、街の残像が映る。

屋根が崩れ、人々が逃げ惑う。

だがよく見ると、それはまだ起きていない。

家並みは現実とは少し異なり、未だ存在しない建物も混じっている。


「未来の鐘や」よっしーが息を呑む。

「せやけど、まだ蝶番が緩んどるだけや。鳴らさせんよう撓めれば、未来は変わる」


クリフが頷く。

「鐘は象徴だ。夢の中でさえ、俺たちが剣を抜かずに支えれば、鐘は鳴らない」


ユウキはリングを掲げた。

熱が増し、半拍遅れて夢の中で鳴る。

それは合図。



IV ほどほどの工事


「行くで!」よっしーが紙コースターを鐘の腹に貼る。

夢のはずなのに、しっかりと貼り付いた。

「夢やから、昭和平成グッズでも効くんや!」


リンクの座がコースターを包み、沈黙を柔らかく受け止める。

ブラックが「キュイ」と鳴き、高周波で残響を相殺する。


「逆相を合わせます」あーさんが二すずを小さく鳴らした。

ちりん。

鐘の揺れが一瞬、逆相に吸われる。


「非致死・ほどほどですニャ」ニーヤが短く告げる。

夢の中でも、その言葉は合図になる。


鐘は、鳴らなかった。



V 目覚め


ユウキははっと目を覚ました。

汗が額を濡らし、リングはほんのり熱を帯びていた。

仲間たちも同じように目を覚まし、息を荒げていた。


「夢ん中で、ほんまに作業してた気がする」よっしーが呟く。

「紙コースター、まだ手ぇに残っとる気がするんやけど」

「夢を撓めたのですニャ」ニーヤが尾を揺らす。「未来はほどほどに変えられるですニャ」


あーさんは二すずを胸に当てた。

「夢もまた蝶番。鍵穴を覗くのではなく、蝶番を整えることが肝要です」


リンクは「キュイ」と鳴き、ブラックは黙ってうなずいた。



VI 余白


朝。

市の人々は語る。

「昨夜の夢は違った。鐘は揺れたけど、鳴らなかった」

「代わりに小さな鈴の音がして、目が覚めた」


それが誰の鈴の音だったのか、誰も分からない。

だが確かに未来の鐘は、今夜は鳴らなかった。


しかし。

市場の端に、見知らぬ旅人がいた。

「……俺も夢を見た」

そう言って名乗った名は──

「トレイ」


ゆうきのリングが、また半拍遅れて熱を帯びた。



後書き(しるし)

•夢の共有(未来の鐘)・後編:

 市の人々と仲間が同じ夢を見て、夢の中で鐘を“ほどほどの工事”で撓めた。

•夢と現実の接点:

 夢の中での作業が現実に影響を与え、市の人々の夢が変化した。

•余韻:

 最後に現れた“トレイ”の名乗りが、不気味に続編へ繋がる。



用語ミニ解説

•夢の座

 リンクが夢の中でも張れる座。呼吸の場を揃えることで夢の沈黙を撓める。

•ほどほど工事(夢版)

 紙コースターや洗濯ばさみなど、よっしーの’89小物が夢の中でも効力を持つ。

 「夢だから無理」ではなく「夢だから通用する」理屈。

•未来の鐘

 夢の中に現れる巨大な鐘。現実に鳴る前触れとも、未来を映す幻とも言われる。


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