歌街、第一歌コーラス——歌は合図、合図は座
荷車から臨時の黒板をおろし、歌台・合唱塔・拍子柱・譜面棚がびっしり並ぶ歌街の大路——風の上手に立てた。
あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行を添える。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
歌は合図。
合図は座。
胸骨の前で二拍。
とん・とん——B0.6。
静けさは扉。
「短く点呼」
「ユウキ」
「よっしーや」
「クリフさん」
「ニーヤですニャ」
「リンク」——「キュイ」
「あーさん、相沢千鶴にござります」
「……カァ(ブラック)」
《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。
後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊**」。
特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は今日も口は元気、節度は稽古中。
セレスが氷地図に歌印を落とす。
「歌街。各歌台の歌口が歌歌と直結、『唱和せよ=揃えよ=黙るな』で合唱札を人と場に貼り付け、平声を禁じる。主宰——第一歌コーラス。歌=合図の過剰化で拍を奪う。歌口蝶番と梁を座へ戻せば、“命じる歌”は“置く合図(座歌)へ」
よっしーの虚空庫がぼん。
風幕(防鳴ブルーシート)/斜光帆(照り落とし)/フェルト幕(厚)/消音布/載せ歌タンポ(〈歌〉〈合〉〈名〉)/返歌鍵/返合鍵/休符札/小節枕/拍止め栓/面取り板(歌台角落とし)/縦抱え帆柱/枡枕/綴じ戻し櫛(歌詞ほどき)/沈黙箱(細・中:輪唱鬼・拍取り鴉用)/角布・拭い布/鎖輪。
腹は——塩むすび、鶏だんごの澄まし、芋ようかん、ほうじ茶。
黒板の端にリナが小さく**「おやつは二個まで」。ルフィは三切目の芋ようかんに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい**)。
ガロットが槍尻でとん・とん。
「目的は三つ。
一、歌の喉(歌口蝶番・梁・歌枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え+枡枕)。
二、歌歌鎖と合唱札鎖の直結をほどほどに解き、“常時唱和”を“二拍→合わせ→知らせる(座歌)”へ戻す。
三、人は返す。非致死、ほどほど」
胸骨の前で二拍。
とん・とん。出立。
⸻
1)合唱門——「一人は罪、四声で通れ」の札
通りの中央、合唱門。
額の札には**「一人は罪、四声で通れ」。
畑の荷車を押す老女**、喉を痛めた娘、仕事帰りの石工が列に並ぶ。
係が合唱札束をゆすって棒読み。
「女声二・男声二、和音揃い、声量はこの笛に合わせろ」
娘が一歩前へ。
「……ナエって呼んでください。今日は声が出にくいの」
「風幕一段」
よっしーの防鳴シートが門の風上にぱさ、斜光帆が札の照りを落とし、フェルト幕が金具の甲高い鳴きを毛布に吸う。
俺は扉縫合(Lv.2)で門頭の歌口蝶番へ角点。
カチ。
喉押しのぴと音が湯気に変わり、強制声量が半拍座った。
リリアーナが五鈴法・歌版を開く。
一——名(B0.6でちり)、
二——拍、
三——歌(あーさんが歌図を掲げる)、
四——口(ブラックが歌口を撫でる)、
五——返歌(置きどころは後で)。
ナエの喉元に落ちかけた合唱札の影がきゅっと外へ抜け、返し棚の高さに逃げができた。
⸻
2)第一歌コーラス——束の肩、歌舌
中央の歌台から歌の人が現れる。
肩は歌束、胸は譜面盤、指は指揮棒、喉に小さな歌舌。
第一歌コーラス。
声は主音句で話す——先に主音が落ち、のちに語が従う。
「名は歌詞欄。歌が主。
和で縛り、合で統べる——唱和は秩序」
あーさんが板を軽く立て、短く。
歌は合図。
合図は座。
「座は置くもの。誰かの声で他人の拍を奪うためではありません」
歌舌がぴとと鳴る。
「礼法は合唱式。黙は罪だ」
⸻
3)“歌の喉”を座へ——舌凧×縦抱え×枡枕/チューニング台・返歌棚・休符席
「揚げる」
俺とニーヤの舌凧が歌口と歌枠へふわ。
あーさんの似せ印を浅く、扉縫合で角に点。
ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。
カチ、カチ。
“押し付け口”が“置き口”へ、強制の張りが座に落ちる。
ツグリの縦抱え帆柱が梁を抱え、よっしーの枡枕が盤鳴きを丸める。
フェイが拍止め栓で無限カウントをすっと止め、チトセが面取り板で台角をさっと落とす。
白墨で白の口を三つ——チューニング台(二拍+名+要件→置く(歌う前に合わせる))、返歌棚(合唱札・指定旋律札の返却)、休符席(黙る=置きどころの席)。
「あわてず二拍。名→要件→置く」あーさん。
⸻
4)“常時唱和”の外し方——返合・返歌、名呼び、休符札と道標笛札
係がナエへ合唱札をぺたり。
よっしーが拭い布で角を一撫で、俺が載せ歌タンポで**〈歌〉印を〈合〉へ差し替え。
カチ。
リリアーナが四鈴法・合図版を重ねる。
一——名、二——拍、三——合口(休符席に“座”)、四——返合。
ナエは胸骨の前で二拍**、小さく頷く。
「……ナエ。今日は休符。角で笛一吹、人を見て拍手二つ。歌はおやすみ」
合唱鍵がB0.6でちり。
合唱札は返歌棚へさらりと落ち、休符札+道標笛札が掌にすっと。
——黙る権利が座り、合図=置きものが息をした。
第一歌コーラスの歌舌がぴくと震える。
「黙は罪だ」
「黙は座だ。礼のあとに置く」あーさん。
⸻
5)鍵守改め歌守と輪唱鬼、拍取り鴉——非致死、“ほどほど”
台下から歌守が四人、腰に拍子木。
路地の陰から輪唱鬼(何でも輪唱に変える小鬼)がくるくる、空から拍取り鴉がコロリン。
サジとカエナが屋根から滑り、藁布ふわり→痺れ粉を“薄く”。
「効きすぎはナシ」
リンクが梁上から二段、歌守の継手へちょん、ちょん。
俺の扉縫合が歌口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。
カチ。
歌守は倒れず、座って縄籠へ。
輪唱鬼はチトセの綴じ戻し櫛で歌詞の角を落とされ、回しが呼びかけに変わる。
拍取り鴉はよっしーの沈黙箱(細)+小節枕でふわと包んで非致死捕縛/ほうじ茶済。
「……温いのは正義」
「節度や」よっしー。
ルフィが籠を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」
「非致死でほどほどに、ね」リナ。
ルフィは芋ようかん二切で止め、三切目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。
⸻
6)“歌歌”——一括唱和の節をほどく
第一歌コーラスが歌舌をちりと鳴らし、歌歌を落とす。
「唱えよ・揃えよ・黙るな——主音が主」
歌に呼応して通りの歌台がずらりと起き、人の喉や耳に旋律影が勝手に貼り付こうとする。
あーさんが板を立て、短く。
声は橋。
歌は合図。
「橋で合図、座に置く。歌は礼のあと」
リリアーナが耳鈴をB0.6でちり。
「五の鈴——返歌」
俺は返歌鍵を掌でとん、歌口の角に点。
ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。
カチ。
歌歌の押しは湯気にほどけ、二拍+名+要件→合わせ→一吹/一拍手→置く→礼の座歌が通りに広がる。
人々は自分の拍で笛と拍手を選び、歌う/黙るを置き直した。
⸻
7)勇者(選ばれた側)の横顔——“コーラス・ショー”“声帯保証”“統一テンポ規格”“次は鏡”
白天幕の上、勇者レンは自動記録器に笑顔。
「“レン、コーラス・ショーを演出! ワンタッチ合唱で街ぜんぶ統一テンポ!”」
——歌街は座歌へ。映えは座に溶ける。
仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかに囁く。
「声帯保証契約に入れば、歌いすぎの痛みも補償。合唱札は自動更新、特典も——」
人々が返歌棚に合唱札を返し、チューニング台で休符札を選び始めると、紐は縁へ戻り、サリアは微笑みながら舌打ち。
見晴台の勇者シュウは規律眼鏡で歌街を見下ろし、図面に赤×。
「非効率。統一テンポ規格で拍数・休符長・声量を一本化」
図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。
眼鏡は曇ったまま。
砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。
「“歌が座にされた……次は鏡だ”」
(——第一鏡ミラー、来る)
⸻
8)歌蔵の奥——“最初の歌(子守唄・掛け声・舟歌・拍手二つ)”と古い名の借り
歌台の裏、歌蔵。
段棚に子守唄の札、掛け声の板、舟歌の舵柄、そして小さな木片に刻まれた拍手二つが並ぶ。
それぞれに人の最初の知らせが薄く刻まれている。
第一歌コーラスの歌舌が俺を指した。
「君の古い名を借りよう。万歌の基準に」
——胸骨の裏でとん。イシュタム。
(貸さない。返すために置く)
あーさんの指が袖で二拍。とん・とん。
リリアーナが静かに合図。
「五鈴法・歌版、四——口/五——返歌。四鈴法・合図版、四——返合」
俺は返歌鍵と返合鍵を子守唄の口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。
カチ、カチ。
封じられていた“黙は罪”は押しを失い、黙は休符/休符は座へ戻る。
チトセが綴じ戻し櫛で言葉の角を落とし、ツグリが縦抱えで梁を抱える。
ロウルの拍が座に落ち、合唱鍵がB0.6でちり。
歌蔵の硬響が湯気に変わった。
第一歌コーラスは歌束の肩を少し下げ、一礼。
「退屈な歌だ。だから日が回る」
余韻に薄れた。
⸻
9)落としどころ——歌街は“座歌の街”、歌台は“礼のチューニング台”
セレスの声が低く速い。
「白を三口。市口・学童前・祠。歌街→座歌の街、中央歌台→礼のチューニング台。返歌鍵/返合鍵/チューニング台/返歌棚/休符席を常設。非致死、ほどほど」
ツグリの帆柱が梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。
俺は扉縫合で歌口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。
カチ、カチ、カチ。
歌台は倒れず、“二拍→名→要件→合わせ→一吹/一拍手→置く→礼”の順で扱うチューニング台として座った。
バーグ兵士長はむくれながらほうじ茶をすすり、ぼそり。
「ワイのモテ歌、どのサビがええんや?」
「挨拶二拍がサビや」リナ。
バーグは素直に**「こんにちは」の二拍練習を続け、芋ようかんは二切**で止めた(ルール順守)。
⸻
10)学園式の昼餉——“二拍→合わせ→いただきます”
「ほな、飯や」
よっしーの屋台が塩むすびを配り、鶏だんごの澄ましをよそい、芋ようかんを並べる。
「甘いもんは二個まで! ほうじ茶はおかわり一回!」
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
ルフィは三切目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日も最後までほんとうにえらい)。
リリアーナが受け札を張り替える。
「歌街→座歌の街。歌歌→座歌。返歌鍵/返合鍵常設、返口は常時一口」
ジギーは骨騎士に合図し、外縁に針入れを埋める。
「産院のあやし歌は小声で、工房の掛け声は一拍手、祠は夕刻の輪。押す歌やなく置く合図でいこか」
⸻
11)小稽古——“見る→二拍→一吹→一拍手→渡す→戻す”
白が三口、学園広場へ。
「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨二拍——とん・とん、
見て、二拍、笛一吹、拍手一つ、渡し、戻す。
ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。
チトセが綴じ戻し櫛を見せ、刺さる言い方の角を落とす言い直しをゆっくり。
笑いが橋になった。
耳飾りがちり。
『王都学院評議より、歌学/休符学の常設承認。返歌鍵/返合鍵/チューニング台の規格化通過。
追記:北の鏡街に鑑務省の徴。第一鏡ミラー(鏡=面の押し付け/映せ=服従)の気配。鏡と面に注意、五鈴法・鏡版(名/拍/鏡/口/返鏡)と四鈴法・面版(名/拍/面口/返面)を準備』ミカエラ。
セレスが氷地図に鏡印を落とす。
よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。
「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」
「節度」全員。
「はい」
⸻
12)落し歌の小騒動——“ほどほど”の実演
広場の端で、落し歌(誰かの持ち歌札)がころり。
「ワイのモテ歌どこいったんや!」バーグ。
「落し歌書いて、二拍や」よっしー。
バーグは渋々、胸骨の前でとん・とん。
「バーグ。まず挨拶、次に合図、歌うのは最後」
合唱鍵がB0.6でちり。
札は屋台の幕からぴょいと顔を出す(※実際はゴブリン若者の気働き)。
バーグは礼に澄ましをよそい、芋ようかんは二切で止めた(今日もルール順守)。
⸻
13)外縁連絡——産院のあやし歌・工房の掛け声・祠の輪
外縁でジギーが骨騎士の肩をとん。
「産院は母の拍で、工房は作業の拍で、祠は夕刻だけ。黙も礼や、胸骨の二拍で通すよう教えといた。
ほな、次は鏡や」
喉を休めたナエが休符札を二拍で掲げる。
「黙っても、届くね」
胸骨の内側が、静かにとんと鳴った。
⸻
14)終礼——黒板の二行
夕刻の終礼。
あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添えた。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
道筋は地図。
重みは枡。
車輪は縁。
橋は手。
流れは拍。
舟は器。
港は掌。
門は蝶番。
鍵は歌。
歌は合図。
広場は皿。
交差は合拍。
刃は道具。
鞘は布。
重さは値。
秤は器。
街は器。
恐れは影。
塔は柱。
声は橋。
鏡は面。
面は器。
箱は蔵。
蔵は座。
蓋は布。
印は紐。
紐は縁。
契は文。
文は座。
そして今日の二行。
歌は合図。
合図は座。
子どもたちがB0.6でそれぞれの名を呼び、道具(返歌鍵・返合鍵・拍止め栓・綴じ戻し櫛・角布・拭い布・沈黙箱・風幕・枡枕)を撫でる。
黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。
ガンツは「歌」の字を指でなぞり、木枡にほうじ茶を注ぎながら笑う。
ルフィは芋ようかんを二切で止め、三切目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。
⸻
15)屋上の夜——次の扉、“鏡街、第一鏡ミラー——鏡は面、面は器”
星が近い。鏡街の鏡台で鏡歌が回り、見張札が人と場に視線の向きを貼り付け、映し方を一方に集める気配。
クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。
「鏡が押しになると、矢名は的ではなく自分を見てしまう」
セレスが氷地図に鏡印を重ねる。
「第一鏡ミラー。鏡=面の押し付け/映せ=服従。対処は——風幕で鏡歌を毛布に、舌凧で鏡口に点、縦抱えで梁を抱える。
五鈴法・鏡版(名/拍/鏡/口/返鏡)と四鈴法・面版(名/拍/面口/返面)の準備」
あーさんが板を抱え、静かに微笑む。
「講話は短く。
鏡は面。
面は器。
——明日の黒板に、きれいに書こう」
胸骨の前で二拍。
とん・とん。
静けさは扉。
稽古は続く。
開ける。置く。結ぶ。閉じる。そして、返す。




