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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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214/404

鍵街、第一鍵キー——鍵は歌、歌は合図

荷車から臨時の黒板をおろし、鍵台・錠座・音孔柱・音叉棚がびっしり並ぶ鍵街の大路——風の上手に立てた。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行を添える。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

鍵は歌。

歌は合図。


胸骨の前で二拍。

とん・とん——B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」——「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にござります」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。

後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊**」。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は今日も口は元気、節度は稽古中。


セレスが氷地図に鍵印を落とす。

「鍵街。各鍵台の鍵口が鍵歌と直結、『歌え=開けよ=従え』で施錠札を人と場に貼り付け、開閉権を歌える者に集中させる。主宰——第一鍵キー。鍵=歌の押し付けで拍を奪う。鍵口蝶番と梁を座へ戻せば、“命じる鍵”は“置く歌(座歌)へ」


よっしーの虚空庫アイテムボックスがぼん。

風幕(防鳴ブルーシート)/斜光帆(朱の照り落とし)/フェルト幕(厚)/消音布/押し戻しタンポ(〈鍵〉〈歌〉〈名〉)/返鍵鍵へんけん・けん/返歌鍵/舌凧(小×2)/音叉(B0.6印)/調律楔/錠蓋布/面取り板(鍵台角落とし)/縦抱え帆柱/枡枕/綴じ戻し櫛(歌詞ほつれ直し)/沈黙箱(細・中:歌鬼・鈴鴉用)/角布・拭い布/鎖輪。

腹は——いなり寿司、しじみ汁、みたらし団子、玄米茶。

黒板の端にリナが小さく**「おやつは二個まで」。ルフィは三本目のみたらしに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい**)。


ガロットが槍尻でとん・とん。

「目的は三つ。

一、鍵の喉(鍵口蝶番・梁・鍵枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、鍵歌鎖と施錠札鎖の直結をほどほどに解き、“歌えば開く/歌えねば閉じる”を“二拍→合わせ→開ける/閉じる(座歌)”へ戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。出立。



1)鍵門——「曲を示せ、声を出せ」の札


通りの中央、鍵門。

額の札には**「曲を示せ、声を出せ」。

荷車で薬草を運ぶ薬舗の婆**、指先に墨をつけた写本僧、古い三味線を抱えた盲の弾きが列に並ぶ。

係が指定旋律札を掲げ、棒読み。

「登録曲(主音A)なしは入場不可。声量・音域はこの板に合わせろ」


盲の弾きが一歩前へ。

「……シズエって呼んでおくれ。『無登録』じゃなくて名で」


「風幕一段」

よっしーの防鳴シートが門の風上にぱさ、斜光帆が朱のギラをやわらげ、フェルト幕が金具の甲高い鳴きを毛布に落とす。

俺は扉縫合(Lv.2)で門頭の鍵口蝶番に角点。

カチ。

音孔のぴと音が湯気に変わり、声量強制の半拍が座へ落ちた。


リリアーナが五鈴法・鍵版をひらく。

一——名(B0.6でちり)、

二——ロウルがとん・とん

三——鍵(あーさんが歌図を掲げる)、

四——口(ブラックが鍵口を撫でる)、

五——返鍵(置きどころは後で)。


シズエの喉元に落ちかけた指定旋律札の影がきゅっと外へ抜け、返し棚の高さに逃げができた。



2)第一鍵キー——束の肩、鍵舌けんじた


中央の鍵台から歌の人が現れる。

肩は鍵束、胸は音階盤、指は錠爪、喉に小さな鍵舌。

第一鍵キー。

声は旋律句で話す——先に主音が落ち、のちに語が従う。

「名は歌詞欄。鍵が主。

歌で開閉、合唱で統制——旋律は秩序」


あーさんが板を軽く立て、短く。

鍵は歌。

歌は合図。

「合図は置くもの。声で人を縛りっぱなしにするためじゃありません」


鍵舌がぴとと鳴る。

「礼法は合唱式。主音が法だ」



3)“鍵の喉”を座へ——舌凧×縦抱え×枡枕/チューニング台・返鍵棚・歌見席


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧が鍵口と鍵枠へふわ。

あーさんの似せ印を浅く、扉縫合で角に点。

ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ、カチ。

“登録口”が“置き口”へ、開閉歌の張りが座に落ちる。


ツグリの縦抱え帆柱が梁を抱え、よっしーの枡枕が盤鳴きを丸める。

フェイが調律楔で主音押し付けをすっと緩め、チトセが面取り板で鍵台の角をさっと落とす。

白墨で白の口を三つ——チューニング台(二拍+名+要件→置く(開ける前に合わせる))、返鍵棚(施錠札・指定旋律札の返却)、歌見席(歌=置きどころの席)。

「あわてず二拍。名→要件→置く」あーさん。



4)“登録旋律義務”の外し方——返歌・返鍵、名呼び、道標笛札を歌札へ


係がシズエへ指定旋律札をぺたり。

よっしーが拭い布で角を一撫で、俺が押し戻しタンポで**〈鍵〉印を〈歌〉へ差し替え。

カチ。

リリアーナが四鈴法・歌版を重ねる。

一——名、二——拍、三——歌口(歌見席に“座”)、四——返歌。

シズエは胸骨の前で二拍**、喉ではなく掌を軽く打って言う。

「……シズエ。道を知らせる歌は笛一つと合図二つで足りるよ。主音押し付けは返す」

合唱鍵がB0.6でちり。

指定札は返鍵棚へさらりと落ち、歌札『角:笛一吹/渡:拍手二つ/礼:二拍のあと』が掌にすっと。

——合唱強制はほどけ、歌=置きものが座った。


第一鍵キーの鍵舌がぴくと震える。

「返せば統一感が崩れる」

「崩れるのは支配の歌。合図は置くために」あーさん。



5)鍵守と歌鬼、鈴鴉——非致死、“ほどほど”


台下から鍵守が四人、腰に音叉束。

路地の陰から歌鬼(何でも合唱に変える小鬼)がひそひそ、空から鈴鴉がリーン。

サジとカエナが屋根から滑り、藁布ふわり→痺れ粉を“薄く”。

「効きすぎはナシ」

リンクが梁上から二段、鍵守の継手へちょん、ちょん。

俺の扉縫合が鍵口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ。

鍵守は倒れず、座って縄籠へ。

歌鬼はチトセの綴じ戻し櫛で歌詞の角を落とされ、唱和が呼びかけに変わる。

鈴鴉はよっしーの沈黙箱(細)+錠蓋布でふわと包んで非致死捕縛/玄米茶済。

「……温いのは正義」

「節度や」よっしー。

ルフィが籠を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」

「非致死でほどほどに、ね」リナ。

ルフィはみたらし二本で止め、三本目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。



6)“鍵歌”——一括開閉の節をほどく


第一鍵キーが鍵舌をちりと鳴らし、鍵歌を落とす。

「歌え・開けよ・従え——主音が主」

歌に呼応して通りの鍵台がずらりと起き、人の喉や扉や箱に旋律影が勝手に貼り付こうとする。


あーさんが板を立て、短く。

声は橋。

歌は合図。

「橋で合図、座に置く。歌は礼のあと」

リリアーナが耳鈴をB0.6でちり。

「五の鈴——返鍵」

俺は返鍵鍵を掌でとん、鍵口の角に点。

ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。

カチ。

鍵歌の押しは湯気にほどけ、二拍+名+要件→合わせ→知らせる/開ける→置く→礼の座歌が通りに広がる。

人々は自分の拍で笛と拍手と歌詞を選び、開けると閉じるを置き直した。



7)勇者(選ばれた側)の横顔——“キー・ショー”“アクセス保証”“統一鍵規格”“次は歌”


白天幕の上、勇者レンは自動記録器に笑顔。

「“レン、キー・ショーを演出! ワンタッチ合唱で街ぜんぶ一斉開扉!”」

——鍵街は音合わせの街へ。映えは座に溶ける。


仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかに囁く。

「アクセス保証契約に入れば、歌えない日も自動開錠。施錠札は遠隔更新、特典も——」

人々が返鍵棚に指定旋律札を返し、チューニング台で歌札を選び始めると、紐は縁へ戻り、サリアは微笑みながら舌打ち。


見晴台の勇者シュウは規律眼鏡で鍵街を見下ろし、図面に赤×。

「非効率。統一鍵規格で主音・拍数・開扉秒を一本化」

図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。

眼鏡は曇ったまま。


砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。

「“鍵が座にされた……次は歌だ”」

(——第一歌コーラス、来る)



8)鍵蔵の奥——“最初の鍵(棒鍵・櫛鍵・鐘鍵)”と古い名の借り


鍵台の裏、鍵蔵。

段棚に棒鍵、櫛鍵、鐘鍵、そして小さな木札に刻まれた拍手二つが並ぶ。

それぞれに人の最初の開けしるしが薄く刻まれている。

第一鍵キーの鍵舌が俺を指した。

「君の古い名を借りよう。万鍵の基準に」

——胸骨の裏でとん。イシュタム。

(貸さない。返すために置く)

あーさんの指が袖で二拍。とん・とん。


リリアーナが静かに合図。

「五鈴法・鍵版、四——口/五——返鍵。四鈴法・歌版、四——返歌」

俺は返鍵鍵と返歌鍵を鐘鍵の口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ、カチ。

封じられていた“歌えば従属”は押しを失い、置けば知らせ/開ける前に合わせへ戻る。

チトセが綴じ戻し櫛で逃げを作り、ツグリが縦抱えで梁を抱え直す。

ロウルの拍が座に落ち、合唱鍵がB0.6でちり。

鍵蔵の硬響が湯気に変わった。


第一鍵キーは鍵束の肩を少し下げ、一礼。

「退屈な鍵だ。だから続けられる」

余韻に薄れた。



9)落としどころ——鍵街は“音合わせの街”、鍵台は“礼のチューニング台”


セレスの声が低く速い。

「白を三口。市口・学童前・祠。鍵街→音合わせの街、中央鍵台→礼のチューニング台。返鍵鍵/返歌鍵/チューニング台/返鍵棚/歌見席を常設。非致死、ほどほど」


ツグリの帆柱が梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。

俺は扉縫合で鍵口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。

カチ、カチ、カチ。

鍵台は倒れず、“二拍→名→要件→合わせ→知らせる/開ける→置く→礼”の順で扱うチューニング台として座った。


バーグ兵士長はむくれながら玄米茶をすすり、ぼそり。

「ワイのモテ鍵、どの歌がええんや?」

「挨拶二拍が座や」リナ。

バーグは素直に**「こんにちは」を二拍に乗せて練習し、みたらしは二本**で止めた(ルール順守)。



10)学園式の昼餉——“二拍→合わせ→いただきます”


「ほな、飯や」

よっしーの屋台がいなり寿司を配り、しじみ汁をよそい、みたらし団子を並べる。

「甘いもんは二本まで! 玄米茶はおかわり一回!」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

ルフィは三本目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日も最後までほんとうにえらい)。


リリアーナが受け札を張り替える。

「鍵街→音合わせの街。鍵歌→座歌。返鍵鍵/返歌鍵常設、返口は常時一口」


ジギーは骨騎士に合図し、外縁に針入れを埋める。

「湯屋の下駄箱、倉の合鍵、祠の鐘、ぜんぶ座から。歌わす鍵やなく置く歌で」



11)小稽古——“息を合わせ→二拍→一吹→一拍手→開ける→戻す”


白が三口、学園広場へ。

「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨二拍——とん・とん、

息を合わせ、笛を一吹、拍手を一つ、開けて、戻す。

ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。

チトセが調律楔を見せ、刺さる言い方の角を落とす言い直しをゆっくり。

笑いが橋になった。


耳飾りがちり。

『王都学院評議より、鍵学/歌学の常設承認。返鍵鍵/返歌鍵/チューニング台の規格化通過。

追記:北の歌街に歌務省の徴。第一歌コーラス(歌=合図の過剰化)の気配。歌と合図に注意、五鈴法・歌版(名/拍/歌/口/返歌)と四鈴法・合図版(名/拍/合口/返合)を準備』ミカエラ。

セレスが氷地図に歌印を落とす。


よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」



12)落し鍵の小騒動——“ほどほど”の実演


広場の端で、落し鍵(誰かの私鍵)がころり。

「ワイのモテ鍵どこいったんや!」バーグ。

「落し鍵札書いて、二拍や」よっしー。

バーグは渋々、胸骨の前でとん・とん。

「バーグ。まず挨拶、次に合図、開けるのは最後」

合唱鍵がB0.6でちり。

鍵は屋台の幕からぴょいと顔を出す(※実際はゴブリン若者の気働き)。

バーグは礼にしじみ汁をよそい、みたらしは二本で止めた(今日もルール順守)。



13)外縁連絡——下駄箱の符・倉の合鍵・祠の鐘


外縁でジギーが骨騎士の肩をとん。

「下駄箱の符は二拍で返す、倉の合鍵は当番札、祠の鐘は夕刻だけ。歌を押し付けんと置くように教えといた。

 ほな、次は歌や」


盲の弾きシズエが歌札を二拍で掲げる。

「道は一吹で開いたよ」

胸骨の内側が、静かにとんと鳴った。



14)終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添えた。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

歌は合図。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

塔は柱。

声は橋。

鏡は面。

面は器。

箱は蔵。

蔵は座。

蓋は布。

印は紐。

紐は縁。

契は文。

文は座。

そして今日の二行。

鍵は歌。

歌は合図。


子どもたちがB0.6でそれぞれの名を呼び、道具(返鍵鍵・返歌鍵・調律楔・音叉・角布・拭い布・沈黙箱・風幕・枡枕)を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「歌」の字を指でなぞり、木枡に玄米茶を注ぎながら笑う。

ルフィはみたらしを二本で止め、三本目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。



15)屋上の夜——次の扉、“歌街、第一歌コーラス——歌は合図、合図は座”


星が近い。歌街の歌台で歌歌が回り、合唱札が人と場に一斉唱和を貼り付ける気配。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「歌が押しになると、矢名は的より合図を見てしまう」

セレスが氷地図に歌印を重ねる。

「第一歌コーラス。歌=合図の過剰化。対処は——風幕で歌歌を毛布に、舌凧で歌口に点、縦抱えで梁を抱える。

五鈴法・歌版(名/拍/歌/口/返歌)と四鈴法・合図版(名/拍/合口/返合)の準備」


あーさんが板を抱え、静かに微笑む。

「講話は短く。

歌は合図。

合図は座。

——明日の黒板に、きれいに書こう」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。置く。結ぶ。閉じる。そして、返す。


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