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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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190/404

契街、第一契コヴナント——契は文、文は座

荷車から臨時の黒板をおろし、巻物屋と誓約屋がずらり並ぶ契街の大路——風の上手に立てる。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行を添えた。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

契は文。

文は座。


胸骨の前で二拍。

とん・とん——B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」——「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にござります」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。

後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊**」。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は今日も口は元気、膝は素直。


セレスが氷地図の縁に契印を落とす。

「契街。各店頭の契口が朗読台と直結、『読め=押せ=従え』で往来の手を止める。主宰——第一契コヴナント。契約文と同意の押し付けで拍を奪う。契口蝶番と読み梁を座に戻せば、“押し契”は“置き契(座契)”へ」


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

風幕(読気吸収ブルーシート)/遮字帆/フェルト幕(厚)/消音布/拡大鏡板/指読手袋(行送り補助)/返契鍵/返文鍵/押し戻しタンポ(〈契〉〈文〉〈名〉)/面取り板/縦抱え帆柱/枡枕/沈黙箱(細・中・太)/角布・拭い布/鎖輪/楔。

腹は——鶏そぼろの太巻き、胡麻だれの温豆腐、黒蜜ところてん、薄焙じ。

黒板の端にリナが小さく**「おやつは二個まで」と書き、ルフィは三皿目のところてんに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい**)。


ガロットが槍尻でとん・とん。

「目的は三つ。

一、契の喉(契口蝶番・読み梁・押印枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、朗読鎖と押印鎖の直結をほどほどに解き、“自動同意”を“合意礼(座契)”へ戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。出立。



1)契街の押し声——「読んだとみなす」の札


通りの中央、朗読台ががらりと開いて巻物が滑り出す。

朗読人が抑揚たっぷりに読み上げ、文末で印章蟹が脇から出てきてぺたんと朱を押す。

通り過ぎただけの娘の袖にも薄朱の判がじわっと滲む。


「お嬢さん、通過同意を頂戴した。三年契ねんけいの自動継続、途中解約違約金は——」


母が静かに前へ出た。

「……メエって呼んでください。『三年契』じゃなくて名で」


「風幕一段」

よっしーのブルーシートが朗読台の風上にぱさ、フェルト幕が押し声の高域を毛布に落とす。

俺は扉縫合(Lv.2)で契口蝶番の角に点。

カチ。

文が湯気になり、判の押し手が半拍だけ鈍る。


リリアーナが五鈴法・契版をひらく。

一——名(B0.6でちり)、

二——ロウルがとん・とん

三——契(あーさんが契図を掲げる)、

四——口(ブラックが契口を撫でる)、

五——返契(置きどころは後で)。


メエの袖に浮いた薄朱がきゅっと離れ、返し棚へ逃げ場ができた。



2)第一契コヴナント——巻綴の肩、条舌じょうじた


大きな巻綴まきとじを肩にかけ、契の人が朗読台の影から現れる。

肩は巻綴束、胸は条文盤、指は押印針、喉に小さな条舌。

第一契コヴナント。

声は条で話す——先に条が整い、のちに語が追いかける。

「名は余白。文が主文。

読めば押す。通れば従う。

——街は規定を愛す」


あーさんが板を軽く立て、短く。

契は文。

文は座。

「座のない文は網です」


条舌がぴとと鳴る。

「礼法は脚注。主文に服従」



3)“契の喉”を座へ——舌凧×縦抱え×枡枕/合意台・解約棚・読書席


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧が契口と押印枠へふわ。

あーさんの似せ印を浅く、扉縫合で角に点。

ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ、カチ。

“押す口”が“置く口”へ、朗読角が座に落ちる。


ツグリの縦抱え帆柱が読み梁を抱え、よっしーの枡枕が紙鳴きを丸める。

フェイが遮字帆を張り、罫線の視覚圧を湯気に落とす。

白墨袋で白の口を三つ——合意台(二拍+名+要約復唱)、解約棚(返印・破棄・説明)、読書席(拡大鏡板+指読手袋)。

「読む→置く→選ぶ。押さない」あーさん。



4)“自動同意”の外し方——返文・返契、名呼び、三択札


朗読人が判蟹を滑らせ、メエの袖へぺたり。

よっしーが拭い布で角を一撫で、俺が押し戻しタンポで**〈契〉印を〈文〉へ差し替え。

カチ。

リリアーナが四鈴法・文版を重ねる。

一——名、二——拍、三——文口(読書席に“座”)、四——返文。

母と娘は拡大鏡板で条文を一段一段**。

俺は返契鍵を合意台の角へ点。

三択札が現れる——同意/不同意/保留。

メエは胸骨の前で二拍、はっきり言った。

「保留」

合唱鍵がB0.6でちり。

薄朱は返文棚に降り、判蟹は読書席の灰にちいさく潜った。


第一契コヴナントの条舌がぴくと震える。

「返せば流通が鈍る」

「鈍るのは押し売り。座れば回る」あーさん。



5)契守と巻物蛇、印章蟹——非致死、“ほどほど”


机の下から巻物蛇がとぐろを巻き、脇から印章蟹がぺたぺた。

桟の上には契守(灰衣の役人)四人、腰に割印棒。

サジとカエナが屋根から滑り、藁布ふわり→痺れ粉を“薄く”。

「効きすぎはナシ」

リンクが梁上から二段、契守の継手へちょん、ちょん。

俺の扉縫合が契口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ。

契守は倒れず、座って縄籠へ。

巻物蛇はチトセの面取り板で縁をさっと落とし、印章蟹はよっしーの沈黙箱(細)でふわと拾い、非致死捕縛/薄焙じ済。

「……温いのは正義」

「節度や」よっしー。

ルフィが籠を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」

「非致死でほどほどに、ね」リナ。

ルフィは黒蜜ところてん二皿で止め、三皿目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。



6)“朗読歌”——同意上書きの節をほどく


第一契コヴナントが条舌をちりと鳴らし、朗読歌を落とす。

「読んだとみなし、押したとみなし、従ったとみなす——」

歌に呼応してみなし条が空へ糸を伸ばし、往来の手が止まる。


あーさんが板を立て、短く。

声は橋。

文は座。

「橋で渡し、座で置く。みなしは礼のあと」

リリアーナが耳鈴をB0.6でちり。

「五の鈴——返契」

俺は返契鍵を掌でとん、契口の角に点。

ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。

カチ。

歌の押しは湯気にほどけ、合意台の周りに二拍→要約→選択の座が広がる。

往来は読む人の速さで流れ、声が戻る。



7)勇者(選ばれた側)の横顔——“コントラクト・ショー”“同意保証”“統一契約規格”“次は鏡”


白天幕の上、勇者レンは自動記録器に笑顔。

「“レン、コントラクト・ショーを演出! 歩くだけで同意完了!”」

——契街は読み会の街へ。映えは座に溶ける。


仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかに囁く。

「同意保証契約に入れば、読む時間を省略しても効力は完全。特典も——」

人々が読書席で要約復唱し、合意台で二拍して三択札を挙げ始めると、紐は縁に戻り、サリアは微笑みながら舌打ち。


見晴台の勇者シュウは規律眼鏡で契街を見下ろし、図面に赤×。

「非効率。統一契約規格で二百条の定型に」

図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。

眼鏡は曇ったまま。


砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。

「“契が座にされた……次は鏡だ”」

(——第二鏡ミラー、来る)



8)契蔵の奥——“最初の約束(指切り)”と古い名の借り


誓約屋の裏、契蔵。

段棚に古い手形と小指の赤糸が並び、それぞれに人の最初の約束が薄く刻まれている。

第一契コヴナントの条舌が俺を指す。

「君の古い名を借りよう。万契の基準へ」

——胸骨の裏でとん。イシュタム。

(貸さない。返すために置く)

あーさんの指が袖で二拍。とん・とん。


リリアーナの合図——

「五鈴法・契版、四——口/五——返契。四鈴法・文版、四——返文」

俺は返契鍵と返文鍵を手形棚の口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ、カチ。

封じられていた“指切り”は押しを失い、握手と目合わせの礼に戻る。

チトセが面取り板で判木の角をさっと落とし、逃げを作る。

ツグリが縦抱えで梁を抱え直す。

ロウルの拍が座に落ち、合唱鍵がB0.6でちり。

契蔵の紙埃が湯気に変わった。


第一契コヴナントは押印針の指を少し下げ、一礼。

「退屈な契だ。だから安定する」

条文の静けさに薄れた。



9)落としどころ——契街は“読み会の街”、誓約屋は“相談所”


セレスの声が低く速い。

「白を三口。市口・学童前・祠。契街→読み会の街、中央誓約屋→相談所。返契鍵/返文鍵/合意台/解約棚/読書席を常設。非致死、ほどほど」


ツグリの帆柱が梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。

俺は扉縫合で契口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。

カチ、カチ、カチ。

誓約は倒れず、“読む→要約→選ぶ→礼”の順で扱う相談所として座った。


バーグ兵士長はむくれながら薄焙じをすすり、ぼそり。

「細けぇ字は男の敵や。一行にしてよこせ」

「節度や」リナ。

バーグは素直に太巻きを一切戻し、胡麻だれ温豆腐を多めにした(ルール順守)。



10)学園式の昼餉——“二拍→要約→いただきます”


「ほな、飯や」

よっしーの屋台が鶏そぼろの太巻きを配り、胡麻だれの温豆腐をよそい、黒蜜ところてんを並べる。

「甘いもんは二個まで! 薄焙じはおかわり一回!」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

ルフィは三皿目の黒蜜に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日も最後までほんとうにえらい)。


リリアーナが受け札を張り替える。

「契街→読み会の街。自動同意→合意礼。返契鍵/返文鍵常設、返口は常時一口」


ジギーは骨騎士に合図し、外縁に針入れを埋める。

「押印針も糸も、まず座に仕舞え。返す時は一本、座の長さで」



11)小稽古——“読む→要約→選ぶ(同意/不同意/保留)”


白が三口、学園広場へ。

「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨二拍——とん・とん、

短い文を声に出して読む→自分の言葉で要約→三択札を挙げる。

ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。

チトセが指読手袋の使い方を見せ、子らは行送りを一段ずつ。

笑いが橋になった。


耳飾りがちり。

『王都学院評議より、契学/文学の常設承認。返契鍵/返文鍵/合意台の規格化通過。

追記:北の鏡街で映写省の徴。第二鏡ミラー(虚飾と自己像の押し付け)の気配。鏡と面に注意、五鈴法・鏡版(名/拍/鏡/口/返鏡)と四鈴法・面版(名/拍/面口/返面)を準備』ミカエラ。

セレスが氷地図に鏡印を落とす。


よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」



12)終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添えた。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

塔は柱。

声は橋。

鏡は面。

面は器。

枠は型。

型は器。

箱は蔵。

蓋は布。

車は軸。

輪は縁。

櫂は手。

舵は蝶番。

港は掌。

舷は縁。

灰は跡。

跡は縁。

時は拍。

鐘は合図。

印は紐。

紐は縁。

冠は飾。

飾は礼。

契は文。

文は座。

そして今日の二行。

契は文。

文は座。


子どもたちがB0.6でそれぞれの名を呼び、道具(返契鍵・返文鍵・拡大鏡板・指読手袋・面取り板・角布・拭い布・沈黙箱・風幕・枡枕)を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「契」の字を指でなぞり、木枡に薄焙じを注ぎながら笑う。

ルフィはところてんを二皿で止め、三皿目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。



13)屋上の夜——次の扉、“鏡街、第二鏡ミラー——鏡は面、面は器”


星が近い。鏡街の掲示板に金縁の鏡が吊られ、映しが自己像を上書きする気配。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「映に押されると、矢名は姿で縫い止められる」

セレスが氷地図に鏡印を重ねる。

「第二鏡ミラー。虚飾と自己像の押し付け。対処は——風幕で照り返しを毛布に、舌凧で鏡口蝶番に点、縦抱えで梁を抱える。

五鈴法・鏡版(名/拍/鏡/口/返鏡)と、四鈴法・面版(名/拍/面口/返面)の準備」


あーさんが板を抱え、静かに微笑む。

「講話は短く。

鏡は面。

面は器。

——明日の黒板に、きれいに書こう」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。

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