表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/363

炉街、第三炉フォージ——鎚は手、炉は器


臨時の黒板を荷車から降ろし、工廠帯へ吹きおろす熱い風の上手に立てた。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行をすばやく添える。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

鎚は手。

炉は器。


胸骨の前で二拍。

とん・とん——B0.6。

静けさは扉。



1)炉街——焼印の名札、打ち付けられた職


北の工廠帯に入ると、レンガの煙突が林立し、鼓動のような槌音が大地を揺らしていた。

通りには鉄片が敷かれ、路肩に焼印機。番所の職吏が人の腕をつかみ、真紅の焼印で名を番号に焼き替えていく。


「354。役目は鋲打ち。笑わない。歌わない。休憩は槌八十打ごと」

「……ソウって呼んでやってください」

母親の声は槌音に溶け、職吏は耳を貸さない。少年の腕に354がじゅっと押し付けられ、かすかな焦げの匂いが漂った。


セレスが氷地図の炉街に炉印を落とした。

「主宰は第三炉フォージ。打ち付け/鍛接で“形を固定”。焼印は“火押し”。炉口の喉と鎚の口を座にできれば、火は器に戻る」


ガロットが槍尻で地をとん・とん。

「目的は三つ。

一、炉の喉(炉口蝶番・天井梁・煙道枠)と鎚の口(打面・柄継手)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、火押鎖と鍛接鎖の直結をほどほどに解き、“押す火”と“押す鎚”を“置く火”“触れる鎚”へ戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

風幕ブルーシート二十、フェルト幕(厚)、濡れ麻布束、消し灰袋、沈黙箱(細・中・太)、舌袋、返火鍵、返鎚鍵、角布・拭い布、鎖輪、チェーンブロック、楔、枡枕。

今日の腹は——牛すじと根菜の煮込み、焼きおにぎり、べっこう飴、麦茶。

(黒板の端にリナが小さく「おやつは二個まで」と追記。ルフィは三つ目のべっこう飴に手を伸ばしかけ、そっと戻した。今日もほんとうにえらい。)


胸骨の前に二拍。

とん・とん。進発。



2)段取り——五鈴法・炉版/四鈴法・鎚版


リリアーナが耳鈴で一の鈴——名をB0.6でちり。

ロウルが二の鈴——拍で地へとん・とん。

あーさんが三の鈴——火の札を掲げ、ブラックが四の鈴——炉口で羽をひと撫で。

五の鈴——返火はまだ。炉の様子を見て置きどころを決める。


並行して、セレスが指で合図。

「四鈴法・鎚版。

一——名、二——拍、三——鎚口(打面の喉に“座”)、四——返鎚(叩くを触れるへ)」


よっしーが風幕を炉口の風上にぱさ、フェルト幕が炎の高域を毛布に落とす。

俺は扉縫合(Lv.2)で炉口蝶番の角に点。

カチ。

火の鳴きが半拍座った。



3)第三炉フォージ——鉗子の指、ふいごの胸、金床の笑い


母炉の影から、炉の形をした者が現れた。

胸はふいご、肩は金床、指は鉗子。胸元の小さな火口飾りがちり…と鳴る。

第三炉フォージ。

「名は柔らかすぎる。打てば形になる。焼けば忘れない」

フォージが鉗子で指示を出すたび、通りの焼印機がじゅっと鳴き、腕に354、228、619が増えていく。


あーさんが板を軽く立て、短く。

鎚は手。

炉は器。

「手は触れるため。器は置くため。押すためではありません」


フォージがかすかに笑い、ふいごをぶわと鳴らす。

「礼法は火を弱める。市場は強火を求める」



4)火を“座”へ——舌凧×縦抱え×枡枕


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧が炉口と煙道枠へふわ。

あーさんの似せ印を浅く、扉縫合で角に点。

ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜で高域を熱へ落とし喉へ温。

カチ、カチ。

“噛む火”が“座る火”の姿勢に変わる。


ツグリの縦抱え帆柱が天井梁を抱え、よっしーの枡枕が金床の鳴きを丸める。

チトセが消し灰を薄くまき、火押しのキンを湯気にほどく。

白墨袋で通りに白の返口を二つ——休憩場と祠。

焼印機の針が一拍遅れて沈み、押す前に座が割り込む。



5)鎚を“触れる手”へ——返鎚


職吏が大鎚を構え、少年ソウの肩へ振り下ろそうとする。

ロウルの裏拍、フェイのとん・とんが鎚の拍を外す。

俺は返鎚鍵で鎚口の角に点、あーさんが板で短く。

鎚は手。

手は触れる。

よっしーの濡れ麻布が鎚面をぴとと覆い、ブラックの羽衣が火花を湯気に変える。

カチ。

鎚は倒れず、座った。

ソウの肩は守られ、彼の胸骨の前で二拍がとん・とん。

「……ソウ」

合唱鍵がB0.6でちり。

焦げた「354」の縁が薄れ、皮膚の名が戻り始める。



6)火の徒弟たち——スパークインプとスラグゴーレム


炉口の奥からスパークインプが飛び出し、火の粉を撒いた。

リンクが梁から二段で降り、継手へちょん、ちょん。

ニーヤの薄膜、ブラックの羽衣、俺の扉縫合が炉口の角に点。

カチ。

インプは倒れず、座って火消し桶へ。


スラグゴーレムが通りの真ん中でどすん。

サジとカエナが屋根から滑り、藁布ふわりと消し灰を“薄く”。

「効きすぎはナシ」

よっしーの沈黙箱(太)がゴーレムの胸にふわ、非致死捕縛/麦茶済。

「……温いのは正義」

「節度や」よっしー。

ルフィが桶を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」

「非致死でほどほどに、ね」リナ。

ルフィはべっこう飴二個で止め、三個目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。



7)フォージの“鍛接歌”——押しの節をほどく


第三炉フォージが金床を指でちんと鳴らし、鍛接歌を口ずさむ。

「赤で乗せ、橙で打ち、白で閉じる。

名は鋼、人は鋲。外れぬよう、打て、打て、打て」

通りの焼印機が歌に呼応し、押しのリズムで腕が次々焦げる。


あーさんが板を立て、短く。

流れは拍。

交差は合拍。

「合拍に礼をのせ、拍を座に落とす」

リリアーナが指を上げる。

「五の鈴——返火」

耳鈴がB0.6でちり。

俺は返火鍵を掌でとん、炉口の角に点。

ブラックの羽衣が火の高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。

カチ。

歌の押しは湯気にほぐれ、拍だけが座へ残る。

焼印機の針は浮き、少年ソウの腕の354は縁の線だけになった。


「……名前、返ってきた」

母親の目が潤む。

ソウは胸骨の前で二拍、とん・とん。

「ソウ」

合唱鍵がちり、通りの数人がそれぞれ名を呼び直した。



8)勇者(選ばれた側)の顔——“鍛治フェス”“永久保証”“ライン最適化”“次の鐘”


白天幕の上、勇者レンは自動記録器に向かって笑顔。

「“レン、鍛治フェスの火を演出!”」

——炉は座に。映えは湯気へ溶ける。


仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかく囁く。

「永久保証契約に入れば、焼印は維持されます。社会的信用も優先通行も——」

人々が名を自分の声で置き直すと、紐は縁に戻り、サリアは微笑みながら舌打ち。


見晴台の勇者シュウは規律眼鏡の奥で工廠帯を見下ろし、図面に赤×。

「非効率。ライン最適化が最適」

図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。

眼鏡は曇ったまま。


砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。

「“火を座にされた……次は鐘だ”」

(——第二鐘ベル、来る)



9)炉の奥座敷——“最初の火”と古い名の借り


母炉の背に奥座敷。小さなビード玉が棚に並び、ひとつずつに人の最初の火が封じられている。

「最初の火を止めれば、名は冷える。君の胸骨の古い名……借りたい」

第三炉フォージの鉗子が俺の胸を指す。

——胸骨の裏でとん。イシュタム。

(貸さない。返すために置く)

あーさんの指が二拍。とん・とん。


リリアーナが静かに合図。

「五鈴法・炉版、四——炉口/五——返火」

俺は返火鍵で玉棚の口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ。

封じられた火は押しを失い、灯へ戻る。

チトセが消し灰を薄く撫で、座に落ち着かせる。

ガロットが槍尻でとん・とん。

「戻り火、確認」


第三炉フォージのふいごが小さく息を吐く。

「返してばかりで、市場は退屈する」

「退屈は安心の別名」あーさん。

フォージは金床を指でちんと鳴らし、礼をひとつ置くと熱のむこうに薄れた。



10)落としどころ——炉街は“座炉場”、鎚場は“合い拍工房”


セレスの声が短く速い。

「白を三口、市口・学童前・祠。炉街→座炉場、鎚場→合い拍工房。返火鍵/返鎚鍵の運用開始。非致死、ほどほど」


ツグリの帆柱が梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。

俺は扉縫合で炉口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。

カチ、カチ、カチ。

通りの焼印機は倒れず、返口の横で“印押し→印置き”の説明札に変わった。


ソウは母の手を握り、胸骨の前で二拍。

「……ソウ」

合唱鍵がちり。

バーグ兵士長はむくれて腕をさすり、牛すじ煮込みをおかわりに伸ばしかけ、リナに見られて手を引っ込めた(ルール順守)。



11)学園式の昼餉——“二個まで”と舌ならし


「ほな、飯や」

よっしーの屋台が牛すじと根菜の煮込みをよそい、焼きおにぎりを配り、べっこう飴を並べる。

「べっこう飴は二個まで! 麦茶はおかわり一回!」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

ルフィは三個目の飴に手を伸ばしかけ、そっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。


リリアーナが受け札を張り替える。

「炉街→座炉場。焼印→名札。返火鍵/返鎚鍵常設、返口は常時一口」


ジギーは骨騎士に合図し、工廠帯の外周に針入れを埋める。

「火箸も針も、まず座に仕舞え。返す時は糸を一本、座の長さで」



12)小稽古——“打つ前の二拍”


白が三口、学園広場へ。

「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨の前で二拍——とん・とん、一音一字を名盆に置く。

ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。

リナは炉学の札を掲げ、「打つ前の二拍。押さず、置く」。

チトセが濡れ麻布の使い方を示し、笑い声が橋になる。


耳飾りがちり。

『王都学院評議より、炉学/鎚学の常設承認。返火鍵/返鎚鍵/濡れ麻布/消し灰袋の規格化通過。

追記:北辺の鐘楼帯に“鳴り街”の徴。第二鐘ベル(鳴号/合図の独占)の気配。鐘と合図の押しに注意、四鈴法・鐘版(名/拍/鐘口/返鐘)の準備』ミカエラ。

セレスが氷地図に小さな鐘印を落とす。


よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」



13)終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添える。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

塔は柱。

声は橋。

鏡は面。

面は器。

鎚は手。

炉は器。

枠は型。

型は器。

箱は蔵。

蓋は布。

車は軸。

輪は縁。

工房は炉。

教室は広場。

櫂は手。

舵は蝶番。

港は掌。

舷は縁。

灰は跡。

跡は縁。

時は拍。

鐘は合図。

印は紐。

紐は縁。

砂は面。

面は器。

声は橋。

喉は蝶番。

影は跡。

路地は広場。

骸は器。

魂は名。

そして今日の二行。

鎚は手。

炉は器。


子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(返火鍵・返鎚鍵・濡れ麻布・消し灰袋・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・風幕・枡枕)の名を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「炉」の字を指でなぞり、木枡に麦茶を注ぎながら笑う。

ルフィはべっこう飴を二つで止め、三つ目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。



14)屋上の夜——次の扉、“鳴り街、第二鐘ベル”


星が近い。北辺の鐘楼帯で、鐘が間欠にぼうんと鳴り、そのたびに街の人が同じ動きで立ち止まる。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「合図を押されると、矢名は勝手に放たれる」

セレスが氷地図に鐘印を重ねる。

「第二鐘ベル。鳴号/合図の独占。対処は——風幕で残響を毛布に、舌凧で鐘口蝶番に点、縦抱えで梁を抱える。

四鈴法・鐘版(名/拍/鐘口/返鐘)と、五鈴法・合図版(名/拍/標/口/返標)の準備」


あーさんが板を抱え、静かに微笑む。

「講話は短く。

鐘は合図。

合図は礼。

——明日の黒板に、きれいに書こう」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ