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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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172/360

冠の儀、第一冠クラウン——冠は飾、飾は礼

荷車から臨時の黒板をおろし、北冠丘の風の上手に立てる。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行を添えた。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

冠は飾。

飾は礼。


胸骨の前で二拍。

とん・とん——B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」——「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にございます」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。

後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊**」。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は今日も口は元気、膝は素直。


セレスが氷地図に冠印を落とす。

「冠の儀で人の頭上に見えない冠輪を押している。冠輪は“冠の喉”(冠口蝶番・冠梁・留め枠)で役目や威名を固定。主宰——第一冠クラウン。称号所の押冠を“座冠”へ戻せば、名は返る」


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

風幕ブルーシート/フェルト幕(厚)/遮光帆/沈黙箱(細・中・太)/舌袋/返冠鍵/返名鍵/冠留めピン(白印)/帯布/面取り板/角布・拭い布/鎖輪/チェーンブロック/楔/枡枕。

今日の腹は——ローストチキンと麦のサラダ、野菜スープ、王冠ビスケット、柑橘水。

黒板の端にリナが小さく**「おやつは二個まで」と書き足し、ルフィは三つ目のビスケットに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい**)。


ガロットが槍尻でとん・とん。

「目的は三つ。

一、冠の喉(冠口蝶番・冠梁・留め枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、称号鎖と名鎖の直結をほどほどに解き、“押す冠”を“飾る冠(座冠)”へ戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。出立。



1)冠丘のふもと——「役名」で呼ばれる人


丘のふもと、称号所と書かれた木札。

列の先で冠吏が見えない輪を両手で受け取り、人の頭へすっと載せる。

「市唱・二番手。今日からあなたは市唱補しかしょう・ほ。本名は台帳の中に」

母親が小声で言う。「……ミオって呼んでやってください」

冠吏は眉を寄せ、白に見える札を子の首へ。角に薄い黒膜——偽白。

子の目が遠くなり、肩が役名の角度で固まる。


リリアーナが五鈴法・冠版を開く。

一の鈴——名(B0.6でちり)。

二の鈴——ロウルがとん・とん

三の鈴——冠(あーさんが冠図を掲げる)。

四の鈴——口(ブラックが冠口を撫でる)。

五の鈴——返冠(置きどころは後で)。


「風幕一段」

よっしーのブルーシートが丘の上手にぱさ、フェルト幕が冷金の響き(高域)を毛布に落とす。

俺は扉縫合(Lv.2)で冠口蝶番の角に点。

カチ。

見えない輪の鳴きが半拍座った。



2)第一冠クラウン——威名の指、飾りの舌


冠の石段の影から、冠そのもののような人影が現れた。

肩は冠梁、胸は天蓋、指は宝飾ピン、喉に小さな留め舌。

第一冠クラウン。

声は上から落ちる残響で話す。

「本名は重い。冠は軽く、扱いやすい。

全員に飾りを——揃えば栄える」


あーさんが板を軽く立て、短く。

冠は飾。

飾は礼。

「礼は押さず、置くのです」


クラウンは留め舌をちりと鳴らし、笑んだ。

「置くのは遅い。市場は早い印を求める」



3)冠を“座”へ——舌凧×縦抱え×枡枕


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧が冠口と留め枠へふわ。

あーさんの似せ印を浅く、扉縫合で角に点。

ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ、カチ。

“押し冠”が“飾り冠”の角度へ座り始める。


ツグリの縦抱え帆柱が冠梁を抱え、よっしーの枡枕が冷金の鳴きを丸める。

チトセが面取り板で冠輪の縁をさっと撫で、逃げを作る。

白墨袋で白の口を二つ——授与台と返却棚。


冠吏が驚いて手を止めた。

「冠が……軽い?」

あーさんが微笑む。

「座が先にあると、飾りは軽くなるのです」



4)偽白の札——「役名」を外す“返名”


冠吏が配っていた白に見える札は、角で黒膜が薄く光る。

よっしーが拭い布で角を一撫で、俺が押し戻しタンポで**〈名〉へ差し替え。

カチ。

リリアーナが四鈴法・名版を重ねる。

一——名、二——拍、三——名口(呼び口に“座”)、四——返名。

ミオの胸骨の前で二拍**。

「……ミオ」

合唱鍵がB0.6でちり。

子の肩がほどけ、冠輪は飾りの高さに座った。


第一冠クラウンの留め舌がぴく。

「返してばかり……序列が崩れる」

「崩れるのは押しです。座は整います」あーさん。



5)冠獣と紐猿——非致死、“ほどほど”


石段の両脇から冠獣が四体、角張った兜の肩で突進してくる。

サジとカエナが欄干を滑り、藁布ふわりと痺れ粉を“薄く”。

「効きすぎはナシ」

リンクが二段で降り、継手へちょん、ちょん。

俺の扉縫合が冠口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ。

冠獣は倒れず、座って縄籠へ。


欄間から紐猿(冠紐を操る小鬼)がぶら下がり、見えない紐で人の首筋をくいと引く。

よっしーの沈黙箱(中)がふわと被さり、非致死捕縛/柑橘水済。

「……冷たいのは正義」

「節度や」よっしー。

ルフィが籠を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」

「非致死でほどほどに、ね」リナ。

ルフィは王冠ビスケット二枚で止め、三枚目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。



6)第一冠の“威名歌”——押し飾りの節をほぐす


クラウンが留め舌をちりと鳴らし、威名歌を低く紡ぐ。

「第一の市唱、第二の衛士、第三の会計……呼べば跪く」

歌に街の冠輪が呼応し、肩が角度に収束する。


あーさんが板を立て、短く。

道筋は地図。

広場は皿。

「地図に飾りを置くのは礼。人の頭に押すのは乱」

リリアーナが耳鈴をB0.6でちり。

「五の鈴——返冠」

俺は返冠鍵を掌でとん、冠口の角に点。

ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。

カチ。

威名歌の押しは湯気にほどけ、冠輪は飾りの位置で座を取る。


母親が胸骨の前で二拍。

「……ミオ」

合唱鍵がちり。

子は手を取り、笑いが橋になった。



7)勇者(選ばれた側)の横顔——“戴冠ショー”“称号保証”“等級体系”“次の契”


白天幕の上、勇者レンは自動記録器に向かって笑顔。

「“レン、戴冠ショーを演出!”」

——冠は座に。映えは湯気へ。


仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかく囁く。

「称号保証契約に入れば、役名が一生ついて回ります。信用も待遇も——」

人々が名で置き直すと、紐は縁へ戻り、サリアは微笑みながら舌打ち。


見晴台の勇者シュウは規律眼鏡の奥で冠丘を見下ろし、図面に赤×。

「非効率。等級体系のほうが最適」

図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。

眼鏡は曇ったまま。


砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。

「“冠が座にされた……次は契(白紙契約)だ”」

(——第零契コントラクト、来る)



8)冠の奥間——“原名の冠”と古い名の借り


丘の最上段、奥間。

壁一面に薄い輪——原名の冠が段々に並び、それぞれに人の最初に呼ばれた名が薄く刻まれている。

第一冠クラウンの留め舌が俺を指した。

「君の古い名を借りよう。万冠の基準に」

——胸骨の裏でとん。イシュタム。

(貸さない。返すために置く)

あーさんの指が袖口で二拍。とん・とん。


「四鈴法・名版——四、返名」

リリアーナの耳鈴がちり。

俺は返名鍵で冠棚の口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。

カチ。

刻まれていた一音が盆にぽとり、持ち主の胸に返る。

チトセが面取り板で冠の縁をさっと撫で、「置くための逃げ」を作る。

ツグリが縦抱えで梁を抱え直す。

ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。

奥間の薄寒さが湯気に変わった。


第一冠クラウンはひとつ礼を置き、薄れた。

「退屈な丘だ。だから安定する」



9)落としどころ——冠丘は“飾の丘”、称号所は“見立所”


セレスの声が低く速い。

「白を三口。市口・学童前・祠。冠丘→飾の丘、称号所→見立所。**返冠鍵/返名鍵/冠留めピン(白印)**を常設。非致死、ほどほど」


ツグリの帆柱が冠梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。

俺は扉縫合で冠口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。

カチ、カチ、カチ。

輪は倒れず、“飾ってから礼を置く”場所として座った。


バーグ兵士長はむくれながら王冠ビスケットを見つめ、二枚目をもぐ。

「冠が軽くなったせいで偉い感じが減ったぞ」

「節度や」リナ。

バーグは素直に柑橘水を飲んだ(ルール順守)。



10)学園式の昼餉——“二個まで”と帯の結び


「ほな、飯や」

よっしーの屋台がローストチキンと麦のサラダを配り、野菜スープをよそい、王冠ビスケットを並べる。

「ビスケットは二個まで! 柑橘水はおかわり一回!」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

ルフィは三つ目のビスケットに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日も最後までほんとうにえらい)。


リリアーナが受け札を張り替える。

「冠丘→飾の丘。押冠→座冠。返冠鍵/返名鍵常設、返口は常時一口」


ジギーは骨騎士に合図し、丘の外縁に針入れを埋める。

「留めピンも針も、まず座に仕舞え。返す時は糸を一本、座の長さで」



11)小稽古——“冠を置く”二拍


白が三口、学園広場へ。

「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨の前で二拍——とん・とん、紙冠を頭の上で一呼吸置いてから結ぶ。

ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。

リナが札を掲げる。

「冠は押さない。置いて、礼を言う。二拍のあと」

笑いが橋になった。


耳飾りがちり。

『王都学院評議より、冠学/名学の常設承認。返冠鍵/返名鍵/冠留めピン(白印)の規格化通過。

追記:冠丘の裏手に白野、白紙の契約盤が風に鳴る。第零契コントラクト(白紙契約/空名押し)の気配。契と名の押しに注意、五鈴法・契版(名/拍/契/口/返契)を準備』ミカエラ。

セレスが氷地図の白野に契印を落とす。


よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」



12)終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添えた。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

塔は柱。

声は橋。

鏡は面。

面は器。

鎚は手。

炉は器。

枠は型。

型は器。

箱は蔵。

蓋は布。

車は軸。

輪は縁。

工房は炉。

教室は広場。

櫂は手。

舵は蝶番。

港は掌。

舷は縁。

灰は跡。

跡は縁。

時は拍。

鐘は合図。

印は紐。

紐は縁。

冠は飾。

飾は礼。

砂は面。

面は器。

声は橋。

喉は蝶番。

影は跡。

路地は広場。

骸は器。

魂は名。


子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(返冠鍵・返名鍵・冠留めピン・面取り板・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・風幕・枡枕)を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「冠」の字を指でなぞり、木枡に柑橘水を注ぎながら笑う。

ルフィは王冠ビスケットを二つで止め、三つ目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。



13)屋上の夜——次の扉、“白野の契、 第零契コントラクト”


星が近い。冠丘の裏手に広がる白野で、白紙の契約盤が風にぱらと鳴る。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「契を押されると、矢名は他人の文に縫いとめられる」

セレスが氷地図に契印を重ねる。

「第零契コントラクト。白紙契約/空名押し。対処は——風幕で乾冷を毛布に、舌凧で契口蝶番に点、縦抱えで盤梁を抱える。

五鈴法・契版(名/拍/契/口/返契)と、四鈴法・印版(名/拍/印口/返印)を用意」


あーさんが板を抱え、静かに微笑む。

「講話は短く。

契は文。

文は座。

——明日の黒板に、きれいに書こう」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。


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