鳴り街、第二鐘ベル——鐘は合図、合図は礼
荷車から臨時の黒板をおろし、鐘楼帯へ吹き上がる風の上手かみてに立てる。
あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に今日の二行を添えた。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
鐘は合図。
合図は礼。
胸骨の前で二拍。
とん・とん——B0.6。
静けさは扉。
「短く点呼」
「ユウキ」
「よっしーや」
「クリフさん」
「ニーヤですニャ」
「リンク」——「キュイ」
「あーさん、相沢千鶴にございます」
「……カァ(ブラック)」
《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。
後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊**」。
特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート運用)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は今日も口は元気、膝は素直。
セレスが氷地図の北辺に鐘印を置く。
「鳴り街。二刻ごとの鐘と指笛が人の動きを指図し、鳴らぬ時は誰も歩かない。鐘楼群を束ねる主宰——第二鐘ベル。鳴号(合図の独占)で拍を奪っている」
よっしーが虚空庫をぼん。
風幕/フェルト幕(厚)/消音布/遮光帆/沈黙箱(細・中・太)/舌袋/返鐘鍵/返標鍵/標札/合図旗/拍子木/角布・拭い布/鎖輪/チェーンブロック/楔/枡枕。
腹は——はちみつパンケーキ、ハムと豆のスープ、紅茶、ベルドーナツ。
リナが黒板の端にちいさく「おやつは二個まで」と書き足し、ルフィは三個目のドーナツに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。
ガロットが槍尻でとん・とん。
「目的は三つ。
一、鐘の喉(鐘口蝶番・梁・鐘楼枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。
二、鳴号鎖と標令鎖の直結をほどほどに解き、“命じる鐘”を“知らせる鐘(座鐘)”へ戻す。
三、人は返す。非致死、ほどほど」
胸骨の前で二拍。
とん・とん。出立。
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1)鳴り街の“止まる人々”
街へ一歩入る——ぼうん。
通りの人が同時に止まり、斜め四十五度の角度で首を傾け、同じ速さで歩き出す。
屋根の上では笛番が二度吹き、子どもが弁当を戻し、店主は戸を閉める。「鳴号一三七:昼仕舞い」。
女が囁く。「……ねえ、うちの子の名前を呼んでやってください」
笛番は顎で鐘楼を示した。「鳴りが名前だ」
リリアーナが四鈴法・鐘版を開く。
一の鈴——名(B0.6でちり)。
二の鈴——拍。
三の鈴——鐘口(あーさんが標持ち)。
四の鈴——返鐘(ブラックが羽をひと撫で)。
街の残響が半拍座へ落ちる。
「風幕一段」
よっしーのブルーシートが風上の鐘楼をぱさ、フェルト幕が残響の高域を毛布に落とす。
俺は扉縫合(Lv.2)で鐘口蝶番の角に点。
カチ。
鐘の鳴きが半拍座った。
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2)第二鐘ベル——鳴号の独占者
中央の大鐘楼。その影から、人型の鐘が歩み出る。
胸は中空、腹に舌、肩に梵字の刻印、指先は拍子木。
第二鐘ベル。
声は余韻で話す。言葉の後ろにもう一つの同じ言葉が遅れて鳴る。
「名は要らない。鳴れば揃う。揃えば安寧」
彼が指を三つ揃えてカンと鳴らすと、四つ角の鐘楼が応じ、合図の網が街を覆う。
あーさんが板を掲げ、短く。
鐘は合図。
合図は礼。
「礼は押しではなく、置きです」
第二鐘ベルの舌がふるえ、笑った。
「礼は制御に似ている。ならば独占が最良」
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3)鐘を“座”に——舌凧×縦抱え×枡枕
「揚げる」
俺とニーヤの舌凧が鐘口蝶番と鐘桁へふわ。
あーさんの似せ印を浅く置き、扉縫合で角に点。
ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。
カチ、カチ。
“命じる舌”が“知らせる舌”の角度へ座る。
ツグリの縦抱え帆柱が鐘楼梁を抱え、よっしーの枡枕が金属鳴きを丸める。
チトセが消音布を薄く撫で、叩き残響を湯気にほぐす。
白墨袋で白の口を二口、市場と学童前に太く。
鐘は倒れず、知らせとして座り直した。
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4)五鈴法・合図版——標を返す、“標札”を立てる
セレスが指で合図。
「五鈴法・合図版。
一——名、二——拍、三——標(目印を座へ)、四——口(合図口に“座”)、五——返標(独占標を共同標に)」
よっしーが標札と合図旗を配り、リリアーナが受け札を掲げる。
「昼仕舞いは笛三短ではなく、B0.6二拍の後“昼”と言葉で告げる。読める合図に」
ロウルの裏拍、フェイのとん・とん。
合唱鍵がちり、人々の肩がほどける。
第二鐘ベルが舌をカンと鳴らし、偽標(黒い縁の白旗)を出す。
よっしーが拭い布で角を一撫で、俺が押し戻しタンポで**〈標〉の印へ差し替え。
カチ。
旗は指図から目印へ座**った。
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5)鐘守と鳴鼠——非致死、“ほどほど”
鐘楼のはしごから鐘守が四人、鳴鼠群がざらざら。
サジとカエナが屋根から滑り、藁布ふわりと痺れ粉を“薄く”。
「効きすぎはナシ」
リンクが梁から二段、鐘守の継手へちょん、ちょん。
俺の扉縫合が鐘口の角に点、ブラックの羽衣、ニーヤの薄膜。
カチ。
鐘守は倒れず、座って縄籠へ。
ルフィが籠を覗き、「アタシがやっつけたって言ってよい?」
「非致死でほどほどに、ね」リナ。
ルフィはベルドーナツ二個で止め、三個目に手を伸ばしかけてそっと戻した(今日もほんとうにえらい)。
よっしーは沈黙箱(中)を笛番の口にふわと被せ、非致死捕縛/紅茶済。
「……温いのは正義」
「節度や」よっしー。
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6)第二鐘ベルの“鳴き写し”——遅れて喋る街
第二鐘ベルが胸を鳴らし、街じゅうの言葉が半拍遅れで響き始める。
「おはよう」「おはよう」——追い鳴き。
「休め」「休め」——二重鳴き。
合図が言葉をなぞる。人の先行は奪われる。
あーさんが板を立て、短く。
声は橋。
合図は礼。
「橋は先に架け、礼は後から置く」
リリアーナが耳鈴をB0.6でちり。
「四の鈴——返鐘」
俺は返鐘鍵を掌でとん、鐘口の角に点。
ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉に温。
カチ。
追い鳴きは湯気にほどけ、先を歩く声が戻る。
女が胸骨の前で二拍。
「……リオ」
合唱鍵がちり。
子は振り向き、彼女は泣き笑いで手を取った。
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7)勇者(選ばれた側)の顔——“鐘フェス”“通知契約”“統一時刻”“次の冠”
白天幕の上、勇者レンは自動記録器に向かって笑顔。
「“レン、鐘フェスを演出!”」
——鳴り街は鳴り合いへ。映えは座に溶ける。
仮設窓口の勇者サリアは金の細紐を指に絡め、柔らかに囁く。
「通知契約に入れば、優先合図と特別時報を——」
人々が自分の声と白の標で動き始めると、紐は縁の役に落ち着き、サリアは微笑みながら舌打ち。
見晴台の勇者シュウは規律眼鏡の奥で街を見下ろし、図面に赤×。
「非効率。統一時刻・単一鐘が最適」
図面の角にあーさんの一筆——秩序は座。
眼鏡は曇ったまま。
砂走りの狭間で勇者トウマは黒い栞を押さえ、短く記す。
「“鐘が座にされた……次は冠だ”」
(——第一冠クラウン、来る)
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8)鐘楼の奥——“最初の時刻”と古い名の借り
大鐘楼の内部、螺旋梯子の上に時標室。
壁一面に小鐘が並び、最初に呼ばれた時間が封じられている。
第二鐘ベルの舌が俺を指す。
「最初の時を止めれば、名は遅れる。君の胸骨の古い名……借りよう」
——胸骨の裏でとん。イシュタム。
(貸さない。返すために置く)
あーさんの指が袖に二拍。とん・とん。
「五鈴法・合図版、五——返標」
リリアーナの耳鈴がちり。
俺は返標鍵を小鐘の口の角に点、ブラックの羽衣とニーヤの薄膜が喉を温める。
カチ。
封じられた最初の時は押しを失い、拍へ戻る。
チトセが標札を掛け、「朝は二拍、声で“おはよう”」。
ロウルが拍を座に落とし、街の息が揃い過ぎずに合う。
第二鐘ベルは胸を一回ぼうんと鳴らし、礼を置いて薄れていった。
「退屈な街だ。だから安定する」
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9)落としどころ——鳴り街は“鳴り合いの街”、鐘楼は“合唱楼”
セレスの声が低く速い。
「白を三口、市口・学童前・祠。鳴り街→鳴り合いの街、中央鐘楼→合唱楼。返鐘鍵/返標鍵常設、非致死、ほどほど」
ツグリの帆柱が梁を抱え直し、よっしーが枡枕を角に置く。
俺は扉縫合で鐘口蝶番の角に点、ブラックの羽衣が最後のキンを熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温め切る。
カチ、カチ、カチ。
鐘は倒れず、知らせとして座った。
バーグ兵士長はむくれて言う。
「昼の鐘が短くなったせいでおかわりのスープをのんびり飲めんではないか」
「節度や」リナ。
バーグは素直に紅茶をすする(ルール順守)。
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10)学園式の昼餉——“二個まで”と息ならし
「ほな、飯や」
よっしーの屋台がハムと豆のスープをよそい、はちみつパンケーキを配り、紅茶を注ぐ。
「ベルドーナツは二個まで! 紅茶はおかわり一回!」
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
ルフィは三個目のドーナツに手を伸ばしかけてそっと戻した(今日も最後までほんとうにえらい)。
リリアーナが受け札を張り替える。
「鳴り街→鳴り合いの街。鳴号→目印。返鐘鍵/返標鍵運用開始、返口は常時一口」
ジギーは骨騎士に合図し、街の外縁に針入れを埋める。
「合図旗も針も、まず座に仕舞え。返す時は糸を一本、座の長さで」
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11)小稽古——“合図は礼”の二拍
白が三口、学園広場へ。
「今日の名」が順に呼ばれ、子ども達は胸骨の前で二拍——とん・とん、一音一字を名盆に置く。
ロウルの拍が座り、合唱鍵がB0.6でちり。
リナは鐘学の札を掲げる。
「合図は先に置けない。礼で返す。二拍の後で声」
チトセが拍子木を配り、子らはとん・とんと鳴らしてから、思い思いに「ありがとう」と言った。
笑い声が橋になり、合図は礼になった。
耳飾りがちり。
『王都学院評議より、鐘学/合図学の常設承認。返鐘鍵/返標鍵/拍子木の規格化通過。
追記:北冠丘で“冠の儀”の噂。第一冠クラウン(称号・威名の押し付け)の気配。冠と名に注意、五鈴法・冠版(名/拍/冠/口/返冠)を準備』ミカエラ。
セレスが氷地図に冠印を落とす。
よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。
「毛布は正義、白も正義。湯屋は……」
「節度」全員。
「はい」
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12)終礼——黒板の二行
夕刻の終礼。
あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添えた。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
道筋は地図。
重みは枡。
車輪は縁。
橋は手。
流れは拍。
舟は器。
港は掌。
門は蝶番。
鍵は歌。
広場は皿。
交差は合拍。
刃は道具。
鞘は布。
重さは値。
秤は器。
街は器。
恐れは影。
塔は柱。
声は橋。
鏡は面。
面は器。
鎚は手。
炉は器。
枠は型。
型は器。
箱は蔵。
蓋は布。
車は軸。
輪は縁。
工房は炉。
教室は広場。
櫂は手。
舵は蝶番。
港は掌。
舷は縁。
灰は跡。
跡は縁。
時は拍。
鐘は合図。
印は紐。
紐は縁。
砂は面。
面は器。
声は橋。
喉は蝶番。
影は跡。
路地は広場。
骸は器。
魂は名。
そして今日の二行。
鐘は合図。
合図は礼。
子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(返鐘鍵・返標鍵・拍子木・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・風幕・枡枕)の名を撫でる。
黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。
ガンツは「鐘」の字を指でなぞり、木枡に紅茶を注ぎながら笑う。
ルフィはベルドーナツを二つで止め、三つ目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。
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13)屋上の夜——次の扉、“冠の儀、第一冠クラウン”
星が近い。北冠丘に金の輪がかすかに光り、人の頭上で見えない重みが回っている気配。
クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。
「冠を押されると、矢名は他人の名に従う」
セレスが氷地図に冠印を重ねる。
「第一冠クラウン。称号/威名の押し付け。対処は——風幕で冷金を毛布に、舌凧で冠口蝶番に点、縦抱えで梁を抱える。
五鈴法・冠版(名/拍/冠/口/返冠)と、四鈴法・名版(名/拍/名口/返名)を用意」
あーさんが板を抱え、静かに微笑む。
「講話は短く。
冠は飾。
飾は礼。
——明日の黒板に、きれいに書こう」
胸骨の前で二拍。
とん・とん。
静けさは扉。
稽古は続く。
開ける。閉める。そして、返す。




