氷解の川、浮標灯と流路枠——櫂は手、舵は蝶番
朝の学園（仮）150階。
黒板の「今日の名」に昨夜の丸がまた増え、合唱鍵は薄布の下で静かに息をしている。
あーさん（相沢千鶴）が白墨で、いつもの三行に今日の二行を書き足した。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
櫂は手。
舵は蝶番。
俺たちは扉の陰で胸骨の前に二拍。
とん・とん——B0.6。
静けさは扉。
「短く点呼」
「ユウキ」
「よっしーや」
「クリフさん」
「ニーヤですニャ」
「リンク」——「キュイ」
「あーさん、相沢千鶴にございます」
「……カァ（ブラック）」
《蒼角》「ロウル」「ツグリ」／《炎狐》「フェイ」「チトセ」
後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊」
特記：リリアーナ（台帳・呼び戻し札）。バーグ兵士長（捕虜札「非致死捕虜／雑炊済」）は今日も口が元気、膝は素直。
セレスが氷地図の青線に指を置く。
「北縁大河。浮標灯と流路枠が据えられ、第三渠が拍を水に変換して押している。渡しは止まり、筏と小舟が足止め。浮標灯の光は第四灯の補助光を含む。強い眩暈に注意」
ガロットが槍尻で床をとん・とん。
「目的は三つ。
一、河の喉（浮標灯の脚、流路枠の継手、舵梁、給詔管）を倒さず座らせる（舌凧×2＋風幕重ね＋縦抱え帆柱＋枡枕）。
二、水拍鎖と枠鎖の直結をほどほどに解き、“渡す器”に戻す。
三、人は返す。非致死、ほどほど」
耳飾りがちり。
『A-1〜A-5、白は太く維持。合唱鍵は二重輪“名→拍”。四鈴法・舟版（名／拍／舵／櫂）を現地で解禁。呼べば戻る』ミカエラ。
リナが黒板の端に小さく「おやつは二個まで」を添え、ルフィは袖の三つ目をそっと戻した（今日もえらい）。
よっしーが虚空庫をぼん。
ブルーシート十五枚、フェルト幕（厚）、吸音布、沈黙箱（細・中・太）、舌袋どっさり、角布・拭い布、融雪塩、砂鉄袋（濃）、鎖輪、チェーンブロック、楔。
川用の櫂、舵羽、樽フロートも積む。
食は——しじみ汁、鮭のちゃんちゃん焼き、鮭茶漬け、甘酒、塩むすび。
「買いすぎニャ」
「要る。今日は水の上や、腹から温めるんが正義や」
胸骨の前にもう一度二拍。
とん・とん。出立。
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１）氷解の川、白と青の間
川面は半ば氷が解け、半ば薄氷が残る。
浮標灯が等間隔に立ち、流路枠が水を細い道に嵌める。
薄い光が水面ぎりぎりを走り、見ているだけで膝が落ちそうな押しが来る。
「風幕一段！」
よっしーのブルーシートが風上からぱさ。フェルト幕を重ね、粘土団子で杭に目止め。
ブラックの羽衣が光の高域を熱に落とし、ニーヤの薄膜が川風の喉を温める。
俺は扉縫合（Lv.2）で岸の導入角に点。
カチ。
押しはすう……に痩せ、浮標灯の唸りが一拍分だけためらった。
輪尺ではなく水尺を手にした細身の男が、対岸の枠上に立つ。
「第三渠チャネル」セレスが低く。
チャネルは水尺で水面を軽く叩いた。ぽんと乾いた音が返る。
「流は型に従う。型は道を選ぶ。押してでも並べる。——それが治水だ」
あーさんが板を掲げ、短く。
「講話は短く。
流れは拍。
舟は器。
櫂は手。
舵は蝶番。
並べるためでなく、渡すために」
胸骨の前に二拍。とん・とん。
B0.6が水面の下に沈み、押しの呼吸がひとつ座る。
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２）段取り——四鈴法・舟版
セレスが指で合図。
「四鈴法・舟版。
一の鈴——名（呼ぶ）。
二の鈴——拍（座らせる）。
三の鈴——舵（蝶番を“座”へ）。
四の鈴——櫂（押しを手に戻す）。」
リリアーナが一の鈴をB0.6でちり。
ロウルが二の鈴でとん・とん。
ニーヤが三の鈴で薄膜を舵梁へ、ブラックが四の鈴で羽衣を櫂の手元に。
四つが重なり、川の押しが自鳴の拍に変わる。
「段取り」ガロット。
一、鍵班：舌凧で浮標灯脚と舵梁の角へ浅く、風幕で喉を包む。
二、泥舌班（よっしー・ロウル・フェイ・骸骨）：土舌＋舌袋で水拍を受け、枡枕で脚を丸める。拭い布で灯面の押字をほどほどに拭く。
三、寝かせ台班（ツグリ・骸骨）：縦抱え帆柱で流路枠の倒れを抱える。
四、返送班：白を三口、受け渡し・台帳・しじみ汁。
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３）浮標灯の脚を座らせる——舌凧×枡枕
「揚げる」
俺とニーヤの舌凧が川風を掴み、浮標灯の脚継手へふわ。
あーさんの似せ印を浅く置き、俺の扉縫合で角へ点。
ブラックの羽衣、ニーヤの霧膜。
カチ、カチ。
灯脚のきしみがすう……に痩せ、光の押しが座った。
よっしーの枡枕（沈黙箱・太）が脚元へちょい。
舌袋を水中に垂らして水拍を吸わせ、フェルト幕で泡鳴きを毛布に。
「毛布は正義や」
ロウルが裏拍、フェイがとん・とんで支える。
チャネルが水尺で印を切る。
「追い枠——狭めろ」
中流の流路枠が狭まり、渦が強くなる。
セレスが眉を動かす。「拍を渦に変える気ね」
「縦抱え！」
ツグリの縦抱え帆柱が枠の上から抱え、落差を殺す。
俺は扉縫合で枠角に点、ニーヤの薄膜で枠喉を丸める。
カチ、カチ。
流れは座の道を思い出す。
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４）灯面の押字を“ほどほど”に拭う
浮標灯の面には押字が彫られている。〈封〉〈順〉〈罰〉。
リリアーナが拭い布を受け取り、一枚ずつ面を一撫で。
墨の匂いが軽くなり、文字の角が丸む。
「非致死捕縛／甘酒済。灯面は保管蔵に転用、筆記に移行します」
灯守の老人が頷き、札を受け取った。
「わしらも押すつもりはなかったんだ。押せと言われただけでな」
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５）舵と櫂——“押し”を“手”に戻す
中州の陰に渡し舟。
舵梁が詔の押しで重くなり、櫂を取る者の膝が折れる。
「三の鈴——舵」
ニーヤの薄膜が舵蝶番に被さり、ブラックの羽衣がきんと鳴る高域を熱へ。
俺は扉縫合で舵座の角に点。
カチ。
舵は倒れず、座って回る。
「四の鈴——櫂」
あーさんが撚り布を櫂の根元に結び、手の座を示す。
ロウルが裏拍、フェイがとん・とん。
櫂の重みが値へ戻り、舟頭の肩が落ちた。
「名を呼んでから渡ってください」リリアーナ。
「コウタ」「コウタ」
胸骨の裏に火がぽっと入る。
チトセが白を三口、受け渡しが始まる。
よっしーのしじみ汁が湯気を立て、鮭茶漬けが配られる。
「はいはい茶漬け行きまーす、おやつは二個までやでー」
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのです」あーさん。
ルフィは鮭ハラスの三切れ目に手を伸ばしかけ、そっと戻した（今日もほんとにえらい）。
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６）チャネルの“水言”——流は型、型は器
チャネルが近づいてくる。水尺の目盛りを指で弾き、短く言葉を落とす。
「流は型に従う。型は枠。枠は押すことで保たれる」
あーさんが板で返す。
「枠は型。型は器。器は受けて返す。
押すための枠は檻。渡すための枠は橋」
ブラックの羽衣が高域を熱へ、ニーヤの薄膜が喉を温める。
俺は扉縫合でチャネルの足元の流路枠角に点。
カチ。
水の鳴きがすう……へ痩せ、チャネルの目の奥に淡い座が灯る。
「……座らせる、か」
チャネルは水尺を膝に寝かせた。
「第三渠は道を作る。押しではなく、座で。——学ぶ」
よっしーのスポンジ弾がぽす。
「ほどほどにな」
チャネルは倒れず、座った。
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７）流路枠の“追い締め”——逆手を“抱え”で返す
上流で補助枠が立ち、追い締めが来る。
「縦抱え、もう一本！」
ツグリの縦抱え帆柱が補助枠を抱え、よっしーのチェーンブロックが下げ重りをほどほどに掛ける。
俺は扉縫合で角に点、ニーヤが薄膜、ブラックが羽衣。
カチ、カチ。
枠は倒れず、座って堤台に化ける。
サジとカエナが岸の控え杭に痺れ粉を“薄く”。
「効きすぎはナシだよ」
丸太ドーンではなく藁布ふわり。見張りの膝が落ちる。
「非致死捕縛／甘酒済」札が飛ぶ。
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８）川の中の“小箱”——名欠け首輪の鍵
中洲の小祠に小箱。金縁、鍵は複式。
角に角布、蝶番に薄膜、蓋に羽衣、俺の扉縫合で角に点。
カチ。
箱は座り、自ら開いた。
中から名欠け首輪の解除札と呼び戻し札束。
リリアーナが受け取り、台帳に筆を入れる。
「戻り道、太くします」
合唱鍵がちり。
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９）押し舟の来襲——“倒さず、座らせる”
下流から押し舟が三艘、詔投光を前に立てて突進。
リンクが梁から二段で継手にちょん。
俺の扉縫合で角に点、ニーヤの薄膜、ブラックの羽衣。
カチ。
投光は熱に変わり、舟の舳先が座る。
ロウルの裏拍とフェイのとん・とんが乗り手の焦りを座らせた。
「非致死捕縛／しじみ汁済」リリアーナの札が飛ぶ。
「お、おい新兵、俺様を——」
ぽす。
よっしーのスポンジ弾。
クリフさんが弓袋をとん。
「決闘は朝ごはんの後だ」
バーグはむくれて鮭茶漬けを二杯だけすすり（ルールは守る）、静かになった。
「……温いが、腹に重い」
「値のある重さや」よっしー。
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10）受け渡しの終盤——“流れの広場”
白が三口、中州と両岸に太く開く。
「名を呼んでから渡ってください」
「ユラ」「ユラ」——昨日の少女が母を連れて戻る。
「ありがとう」
あーさんが小さく頷き、二拍。とん・とん。
座が一段落ちる。
よっしーのちゃんちゃん焼きが大板で香り立ち、甘酒が配られる。
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
「おやつは二個まで」リナ。
ルフィは塩むすび三つ目に手を伸ばしかけ、そっと戻した（今日もほんとうにえらい）。
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11）仕舞い——跡は薄く、流れは太く
風幕は一枚だけ細く残して風上へ括り、フェルト幕は薄く畳む。
舌袋の水は抜いて粘土を岸へ返し、枡枕は灯脚の喉に薄く残す。
拭い布で灯面を清拭し、筆記の器に。
角布は舵座へひと結び。
痕跡は薄く。
《蒼角》《炎狐》が受け渡しを引き継ぎ、白は太いまま。
浮標灯と流路枠は倒れず、“巡回の道標／渡しの台”として座った。
チャネルがこちらに歩み寄り、細い水尺札を差し出す。
「水尺の端札。拍を水に写す“ほどほど”の印だ。返す時は洗って返せ」
「約束します」俺。
遠くの堤で第二枠フレームが矩尺を胸に置き、第五輪リムが輪を膝に寝かせた。
二人とも座る。
アウラントは短く言う。
「設計は対話。流は拍、拍は人。——王都筋へ伝える」
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12）学園（仮）・広場——川の祝祭と二個まで
広場に白が滑り込み、今日の名が次々と呼ばれる。
合唱鍵がB0.6でちり、ロウルが拍を打つ。
よっしーのしじみ汁は木枡に、鮭茶漬けは器に、ブラックの甘酒は小徳利に。
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
ルフィは鮭皮の三本目をそっと戻し（今日も最後までえらい）、ミカエラの視線（気配）にうんとうなずいた。
ガロットが氷地図の青線を一本消し、代わりに点を三つ打つ。
「浮標灯・流路枠、座のまま保守へ。第三渠チャネルは離座、水尺札を置いていった。
別線——河口の浮標帯に外つ国の商標船が一隻。輪塔ではなく帆、だが詔の残火を積む噂」
耳飾りがちり。
『河口に潮目の乱れ。外商標に第四灯類似の鏡箱。名の押しを輸出している可能性。港湾ギルドが照会』ミカエラ。
セレスが地図の端へ指。
「潮は拍、港は掌。鏡箱は面。面は——器に戻せる」
よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。
「風幕は正義。毛布も正義。湯屋は……」
「節度」全員。
「はい」
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13）終礼——黒板の二行
夕刻の終礼。
あーさんが黒板に三行＋二十行を書き連ね、今日の二行を添える。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
道筋は地図。
重みは枡。
車輪は縁。
橋は手。
流れは拍。
舟は器。
港は掌。
門は蝶番。
鍵は歌。
広場は皿。
交差は合拍。
刃は道具。
鞘は布。
重さは値。
秤は器。
街は器。
恐れは影。
塔は柱。
声は橋。
鏡は面。
面は器。
鎚は手。
炉は器。
枠は型。
型は器。
箱は蔵。
蓋は布。
車は軸。
輪は縁。
工房は炉。
教室は広場。
そして今日の二行。
櫂は手。
舵は蝶番。
子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具（櫂・舵羽・輪縁札・水尺札・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・ブルーシート・フェルト幕）の名を撫でる。
黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。
ガンツは「櫂」の字を指でなぞり、枡に甘酒を注ぎながら笑う。
ルフィは塩むすび二つで止まり、三つ目をそっと戻した（ミカエラの視線は今日も鋭い）。
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14）屋上の夜——次の扉、“河口の鏡箱、港は掌”
星が近い。川面の黒は静かで、風は少しだけ生温い。
クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。
「妹と母は舟で帰れた。……だが河口で名が押されるなら、また削られる」
セレスが地図の端に小さな四角。
「外商標船の鏡箱。第八鏡スペクルが面を、第二枠フレームが型を、第三渠チャネルが潮を見に来るだろう。
対処は——風幕で潮光を毛布に、舌凧で舷蝶番に点、縦抱えで桟橋を抱える。四鈴法・港版（名／拍／舷／掌）を試す」
あーさんが板を抱えて微笑む。
「講話は短く。
港は掌。
掌は受けて返す器の面。
——明日の黒板に、きれいに書こう」
よっしーが親指を立てる。
「風幕は正義。毛布も正義。湯屋は……」
「節度」全員。
「はい」
胸骨の前に二拍。
とん・とん。
静けさは扉。
稽古は続く。
開ける。閉める。そして、返す。
（つづく）
