表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/360

骨寄せの群れ、第八骨マロー——骸は器、魂は名

朝の学園(仮)150階。

黒板の「今日の名」に昨夜の丸がまた増え、合唱鍵は薄布の下で静かに息をしている。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行の下に、今日の二行を書き足した。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

骸は器。

魂は名。


俺たちは扉の陰で胸骨の前に二拍。

とん・とん——B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」——「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にございます」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。

後詰はガロットとセレス、外縁はジギー、サジ、カエナ、ゴブリン若者隊。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート運用)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は本日も口は元気、膝は素直。


セレスが氷地図の北冠方面へ伸びる交易路に、薄い骨色の点線を二本引き、港側に小さな骨印を置いた。

「街道の下で骨鳴り。骨寄せ(ボーン・ラリー)の徴。地下骨室がいくつか破られ、骨が口を求めて上がろうとしている。主宰は未詳——“十逆の誰か”の線が濃い」


ガロットが槍尻で床をとん・とん。

「目的は三つ。

一、骨の喉(関節蝶番・骨盤座・骨列枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、骨押鎖と枠鎖の直結をほどほどに解き、“寄せる群れ”を“納める列(納骨列)”へ戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


耳飾りがちり。

『A-1〜A-5、白は太く維持。合唱鍵は二重輪“名→拍”。四鈴法・骨版(名/拍/梁/納口)を現地で解禁。呼べば戻る』ミカエラ。

リナが黒板の端に小さく「おやつは二個まで」と書き添え、ルフィは袖の三つ目をそっと戻した(今日もえらい)。


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

風幕ブルーシート十五枚、フェルト幕(厚)、吸音布、沈黙箱(細・中・太)、舌袋どっさり、骨袋、白布、石灰粉、骨手袋、角布・拭い布、鎖輪、チェーンブロック、楔。

今日の腹——根菜と鶏のスープ、雑穀パン、燻ソーセージ、黒胡椒クラッカー、麦茶、黒糖わらび餅。

「買いすぎニャ」

「要る。今日は骨や、腹でも拍を合わせとくんや」


胸骨の前にもう一度二拍。

とん・とん。出立。



1)糸広場の真昼——骨鈴の音、土の口


昨日“糸広場”に座らせた迷路街の中心で、昼の市が立つ。

焼きたての黒パン、鍋のスープ、合唱台の子ども達の発声練習——B0.6がちり……

——かん。かさかさ。こつこつ。

地面の下から骨鈴のような音。


「来るで」

セレスの声と同時、広場の端がぽこりと膨らみ、骨の手が土の口から伸びた。

ひとつ、ふたつ、十……目の前の石畳がぱき、ぱきと割れ、スケルトンが雨粒のように湧き始める。


「お、おいおいっ! お館さまのやつらか?」

よっしーが素で言って、すぐ首を振った。

「いや品が違う。ワイの見たジギー印の骨はもうちょい行儀ええ。これは…悪い匂いや」


「風幕一段!」

よっしーのブルーシートが地割れの上にぱさ、フェルト幕が骨鳴りの高域を毛布に落とす。

ブラックの羽衣がカチカチを熱に、ニーヤの薄膜が関節を温めて急を削ぐ。

俺は扉縫合(Lv.2)で骨盤座の角に点。

カチ。

最初の3体の肩が座り、歩幅が半拍短くなる。


あーさんが板を掲げ、短く。

「講話は短く。

骸は器。

魂は名。

器は受け、名は呼び、返す」


胸骨の前で二拍。とん・とん。

静けさは扉。



2)段取り——四鈴法・骨版


セレスが手で合図。

「四鈴法・骨版。

一の鈴——名(呼ぶ)。

二の鈴——拍(座らせる)。

三の鈴——梁(骨を梁へ戻す)。

四の鈴——納口(納骨の口に“座”を置く)」


リリアーナが一の鈴をB0.6でちり。

ロウルが二の鈴でとん・とん。

あーさんが三の鈴で白布を掲げ、ブラックが四の鈴で羽衣を土の口へ落とす。

四つが重なり、骨押の走りが座の拍へ。



3)骨を“梁”へ——舌凧×縦抱え×枡枕


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧が、先頭のスケルトンの肩甲骨蝶番と股関節へふわ。

あーさんの似せ印を浅く、俺の扉縫合で角に点。

ブラックの羽衣、ニーヤの霧膜。

カチ、カチ。

立てかけられた脚立のように、スケルトンの姿勢が梁を思い出す。肩の鳴きが**すう……**へ。


ツグリの縦抱え帆柱が骨列を抱え、よっしーの枡枕(沈黙箱・太)が地割れの縁を丸める。

ロウルの裏拍、フェイのとん・とんが群れの焦りを削ぐ。

サジとカエナは屋根から滑り、石灰粉を口だけにちょい、骨袋をふわ。

「効きすぎはナシね」「おうっ」


リンクは二段で跳び、関節の継手にちょん、ちょん。

折らない、砕かない、座らせる。

「キュイッ」

足音は暴から測へ変わった。



4)“名”の呼び戻し——骨札と白の道


ニーヤが低く唱え、リリアーナが呼び戻し札を広げる。

「名を呼ぶのです。ここに名がある子は声を貸して」

老人が呟いた。「……リュウノスケ。わしの爺の名じゃ」

あーさんがB0.6でちり、二拍。

とん・とん。

先頭の一体が膝を折り、骨袋へ座る。

「非致死納骨/麦茶済」リリアーナの札が静かに貼られる。


地割れの奥から、骨の旗がちらりと見えた。

——ギルバートの里印。

「ジギーのとこの古陣が混ざってる。誰かが骨列を無理に抜いてきたな」

クリフさんが弓弦をとんと鳴らした。



5)ジギー来る——墓守の礼


「やれやれ、呼んだかい?」

里からジギーが現れた。後ろに骸骨騎士十、旗の先に**“座”の札。

「誤解すんなよ、コレはアタシんとこのじゃない。ウチの骨共はまず挨拶を覚えとる」

ジギーの骨たちは胸骨の前で二拍**。とん・とん。

スケルトンの前に止まり木のように立ち、道を塞ぐのでなく座を示す。


「お館さま、墓守の礼、いきます?」

「あいよ」

ジギーは掌に薄札を一枚出す。「納骨札。誰のもんでもなく、座の場所だけ示す札だ」

俺は角布で土の口の四角をとん・とん、扉縫合で角に点。

カチ。

口は裂け目から“納口”に変わり、骨列はそこへ座り始めた。


「ユウキ、骨は梁だ。折るより立てかけ。骸は器、魂は名。名は呼んで返す。ええな?」

「わかってる」



6)骨寄せの仕掛け——骨針と膠臭


土の中から骨針が見つかった。

白い角針の頭に、黒い膠がべっとり。

セレスが鼻をしかめる。「骨膠。……十逆の仕業だ。骨寄せ針で地下骨室の列を引いている」


サジとカエナが路地を走り、骨針を結ぶ黒紐を見つける。

「こいつ、脈打ってるぜ」

「薄刃で“ほどほど”にな」

カエナの小刀がす…と走り、黒紐の鳴きがすう……に落ちた。

「非致死捕縛/温スープ済」糸番をしていた雇い兵たちは膝だけ落ち、スープを受け取る。


よっしーが根菜と鶏のスープをよそい、雑穀パンを割りながら言う。

「はいはい、燻ソーセージは一人一本やで。黒糖わらび餅は……二個まで!」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

ルフィはわらび餅三つ目に手を伸ばしかけ、そっと戻した(今日もほんとうにえらい)。

バーグはむくれてソーセージを二本目に伸ばしかけ、リナに見られて手を引っ込めた(ルール順守)。

「……温いのは正義だ」

「節度や」よっしー。



7)勇者たちの影——四者四様、骨を見て


白天幕の見張り台。

勇者レンは自動記録器を胸に、骨の群れを背景に笑顔を作る。

「“悪しき骸を俺の導きで弾き返す!”」

——骨は弾かれず、座っていく。レンの笑顔が一瞬引きつった。


市門前の仮設壇。

勇者サリアはやさしい声で囁く。

「私の紐であなたの家の墓を守るわ。従えば」

群衆が名を呼ぶと、紐は縁に変わり、彼女は笑顔のまま舌打ち。


軍幕の机。

勇者シュウは図面に赤い×を付ける。

「非効率。焼却が最善だ」

彼の部下が「現地は納骨列に」報告すると、シュウの眼鏡が曇る。


薄灯りのテント。

勇者トウマは古びた書片に黒い栞を挟み直す。

「“骨列は門の梯子に転用できる”。……記録だけはしておこう」

(やめろ。それは座に返す)



8)“白”の広場を太く——骨の祝詞と返名


合唱台に子ども達。

リナが合唱鍵をB0.6でちり、四鈴法・骨版の一の鈴を添える。

「名は呼ばれて返る。返名は礼」

子ども達が墓標帳から一人ずつ名を読み上げ、白が太くなる。

納口に座る骨列の鳴きが、**すう……**と静かに収まっていく。


ジギーが骨騎士に合図。「土の口を結べ」

骨騎士が枡枕を置き、角布で四隅をとん・とん、沈黙箱を薄く挟む。

口は裂でなく座になった。


「よし、第一波は収まったな」

俺が息を吐くと、風向きが変わった。

——膠の匂いが濃い。

ジギーの表情がぴたりと固まる。



9)彼方から“骨音”——気配、ぬめる声


街道の北、廃れた石塔の影。

黒い骨旗が三本、ぬめった帯のようにたなびく。

骨鈴が逆さに鳴り、骨笛の音が湿る。

リリアーナの耳飾りがちり、ミカエラの声。

『信号源、確認。十逆・第八骨マロー。骨寄せ針の製作者、骨列の反転専門。白に対して黒格子(逆白)を展開する癖あり。呼べば戻る——けど、ほどほどで』


よっしーが肩を回す。

「名前からして**マロー**かいな……髄までキモい匂いやで」

「言い方」あーさんが笑って、板を抱え直す。


骨旗の前に、それは現れた。

痩せた躯に骨の飾りを外から縫い付け、髪は膠で貼り付けたように湿り、唇の端で骨笛を舐め回す。

肌は灰青、舌が細く、喉の奥が鳴るたびに、どこかの骨が応える。

第八骨マロー。


「……ああ、いい匂い。返名の匂い、白の匂い、君の中の古い名の匂い」

マローの視線が、まっすぐ俺を貫いた。

胸骨の裏で、とんとひと拍。

(——イシュタム。お前の名の欠片に、触れようとしている)

あーさんの手が俺の二の腕に軽く置かれ、二拍を合わせてくれる。とん・とん。


マローは骨のオルガンのような装置を広げ、背骨を束ねた鍵盤に長い指を置く。

「骨列は梁。梁は架橋。橋は渡れば従う。さあ、君の名を冠へ」

(やっぱり来たな。冠と骨が繋がってる)


セレスが短く告げる。

「白を三口、市門・合唱台・納口に。防舷材、枡枕、風幕を一段ずつ。四鈴法・骨版は開戦形」

ロウルの裏拍、フェイのとん・とん。

リンクが一歩、前に出る。

よっしーがブルーシートを肩に担ぎ、「毛布は正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」


マローの指が骨鍵を叩く。

——がらがら、こつこつこつ。

遠くの納口が逆白で黒格子に塗られ始める。


俺は息を吸い、胸骨の前に二拍。

とん・とん。

静けさは扉。

「行くぞ。倒さない。座らせる。——骨は梁、骸は器、魂は名だ」


第八骨マローのぬめる声が笑った。

「うつくしいお作法。……だから壊したくなる」


——骨鳴りが街じゅうの梁へ走った。

次回、キモい死霊術師が白を噛みに来る。



仕舞いと段取り——“白”は太く、“跡”は薄く


風幕は一枚だけ細く残して納口の喉へ、フェルト幕は薄く畳む。

舌袋の水は抜いて粘土を口へ返し、枡枕は角に薄く残す。

角布は骨盤座へひと結び、拭い布で骨列を清拭。

痕跡は薄く、白は太く。

《蒼角》《炎狐》が受け渡しを引き継ぎ、合唱鍵はB0.6でちり、呼べば戻る。



学園(仮)・広場——骨の昼餉と“二個まで”


白が三口、広場へ。

「今日の名」が次々呼ばれ、ロウルが拍を打つ。

よっしーの根菜と鶏のスープ、雑穀パン、黒胡椒クラッカー。

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのよ」あーさん。

「おやつは二個まで」リナ(譲らない)。

ルフィは黒糖わらび餅を二つで止まり、三つ目をそっと戻した(ミカエラの視線は今日も鋭い)。


ガロットが氷地図の道路に骨印を二つ置き直し、座の丸。

「骨寄せ→納骨列。土の口→納口。第八骨マローの骨針は回収、逆白が来る」


耳飾りがちり。

『別線:王都学院評議より、納骨学/墓守室の承認。納骨札と骨袋の規格化も通過。

追記:北冠の砦から“冠紋の命名”の圧。第一冠コロナが骨と冠を同調させる動き。五鈴法・冠版を準備』ミカエラ。


あーさんが板を抱え、穏やかに微笑む。

「講話は短く。

骨は梁。

墓は座。

——明日の黒板に、きれいに書こう」



終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添える。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

塔は柱。

声は橋。

鏡は面。

面は器。

鎚は手。

炉は器。

枠は型。

型は器。

箱は蔵。

蓋は布。

車は軸。

輪は縁。

工房は炉。

教室は広場。

櫂は手。

舵は蝶番。

港は掌。

舷は縁。

灰は跡。

跡は縁。

時は拍。

鐘は合図。

印は紐。

紐は縁。

砂は面。

面は器。

声は橋。

喉は蝶番。

影は跡。

路地は広場。

そして今日の二行。

骸は器。

魂は名。


子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(納骨札・骨袋・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・風幕・骨手袋・石灰粉・枡枕)の名を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「骨」の字を指でなぞり、木枡に麦茶を注ぎながら笑う。

ルフィは黒糖わらび餅を二つで止め、三つ目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。



屋上の夜——次の扉、“冠紋の命名、第一冠コロナ/骨の逆白”


星が近い。北の空に薄い輪冠がかかり、遠くで骨笛の湿がまだ残る。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「名を押されると、矢名が奪われる。……冠と骨が繋がると厄介だ」

セレスが氷地図の北冠の砦に小さな冠印を二つ重ねる。

「第一冠コロナ。冠紋で名を固定、返名を奪う。第八骨マローと同調の形跡。対処は——風幕で冠光を毛布に、舌凧で冠蝶番に点、縦抱えで戴冠台を抱える。五鈴法・冠版(名/拍/呼/冠口/返名)を用意」


あーさんが板を抱え、微笑みのまま目だけ鋭くなる。

「講話は短く。

名は輪郭。

呼びは返名。

——明日の黒板に、きれいに書こう」


胸骨の前で二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ