骨寄せの群れ、第八骨マロー——骸は器、魂は名
朝の学園(仮)150階。
黒板の「今日の名」に昨夜の丸がまた増え、合唱鍵は薄布の下で静かに息をしている。
あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行の下に、今日の二行を書き足した。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
骸は器。
魂は名。
俺たちは扉の陰で胸骨の前に二拍。
とん・とん——B0.6。
静けさは扉。
「短く点呼」
「ユウキ」
「よっしーや」
「クリフさん」
「ニーヤですニャ」
「リンク」——「キュイ」
「あーさん、相沢千鶴にございます」
「……カァ(ブラック)」
《蒼角》ロウル/ツグリ、《炎狐》フェイ/チトセ。
後詰はガロットとセレス、外縁はジギー、サジ、カエナ、ゴブリン若者隊。
特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札・受付筆リモート運用)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)は本日も口は元気、膝は素直。
セレスが氷地図の北冠方面へ伸びる交易路に、薄い骨色の点線を二本引き、港側に小さな骨印を置いた。
「街道の下で骨鳴り。骨寄せ(ボーン・ラリー)の徴。地下骨室がいくつか破られ、骨が口を求めて上がろうとしている。主宰は未詳——“十逆の誰か”の線が濃い」
ガロットが槍尻で床をとん・とん。
「目的は三つ。
一、骨の喉(関節蝶番・骨盤座・骨列枠)を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。
二、骨押鎖と枠鎖の直結をほどほどに解き、“寄せる群れ”を“納める列(納骨列)”へ戻す。
三、人は返す。非致死、ほどほど」
耳飾りがちり。
『A-1〜A-5、白は太く維持。合唱鍵は二重輪“名→拍”。四鈴法・骨版(名/拍/梁/納口)を現地で解禁。呼べば戻る』ミカエラ。
リナが黒板の端に小さく「おやつは二個まで」と書き添え、ルフィは袖の三つ目をそっと戻した(今日もえらい)。
よっしーが虚空庫をぼん。
風幕十五枚、フェルト幕(厚)、吸音布、沈黙箱(細・中・太)、舌袋どっさり、骨袋、白布、石灰粉、骨手袋、角布・拭い布、鎖輪、チェーンブロック、楔。
今日の腹——根菜と鶏のスープ、雑穀パン、燻ソーセージ、黒胡椒クラッカー、麦茶、黒糖わらび餅。
「買いすぎニャ」
「要る。今日は骨や、腹でも拍を合わせとくんや」
胸骨の前にもう一度二拍。
とん・とん。出立。
⸻
1)糸広場の真昼——骨鈴の音、土の口
昨日“糸広場”に座らせた迷路街の中心で、昼の市が立つ。
焼きたての黒パン、鍋のスープ、合唱台の子ども達の発声練習——B0.6がちり……
——かん。かさかさ。こつこつ。
地面の下から骨鈴のような音。
「来るで」
セレスの声と同時、広場の端がぽこりと膨らみ、骨の手が土の口から伸びた。
ひとつ、ふたつ、十……目の前の石畳がぱき、ぱきと割れ、スケルトンが雨粒のように湧き始める。
「お、おいおいっ! お館さまのやつらか?」
よっしーが素で言って、すぐ首を振った。
「いや品が違う。ワイの見たジギー印の骨はもうちょい行儀ええ。これは…悪い匂いや」
「風幕一段!」
よっしーのブルーシートが地割れの上にぱさ、フェルト幕が骨鳴りの高域を毛布に落とす。
ブラックの羽衣がカチカチを熱に、ニーヤの薄膜が関節を温めて急を削ぐ。
俺は扉縫合(Lv.2)で骨盤座の角に点。
カチ。
最初の3体の肩が座り、歩幅が半拍短くなる。
あーさんが板を掲げ、短く。
「講話は短く。
骸は器。
魂は名。
器は受け、名は呼び、返す」
胸骨の前で二拍。とん・とん。
静けさは扉。
⸻
2)段取り——四鈴法・骨版
セレスが手で合図。
「四鈴法・骨版。
一の鈴——名(呼ぶ)。
二の鈴——拍(座らせる)。
三の鈴——梁(骨を梁へ戻す)。
四の鈴——納口(納骨の口に“座”を置く)」
リリアーナが一の鈴をB0.6でちり。
ロウルが二の鈴でとん・とん。
あーさんが三の鈴で白布を掲げ、ブラックが四の鈴で羽衣を土の口へ落とす。
四つが重なり、骨押の走りが座の拍へ。
⸻
3)骨を“梁”へ——舌凧×縦抱え×枡枕
「揚げる」
俺とニーヤの舌凧が、先頭のスケルトンの肩甲骨蝶番と股関節へふわ。
あーさんの似せ印を浅く、俺の扉縫合で角に点。
ブラックの羽衣、ニーヤの霧膜。
カチ、カチ。
立てかけられた脚立のように、スケルトンの姿勢が梁を思い出す。肩の鳴きが**すう……**へ。
ツグリの縦抱え帆柱が骨列を抱え、よっしーの枡枕(沈黙箱・太)が地割れの縁を丸める。
ロウルの裏拍、フェイのとん・とんが群れの焦りを削ぐ。
サジとカエナは屋根から滑り、石灰粉を口だけにちょい、骨袋をふわ。
「効きすぎはナシね」「おうっ」
リンクは二段で跳び、関節の継手にちょん、ちょん。
折らない、砕かない、座らせる。
「キュイッ」
足音は暴から測へ変わった。
⸻
4)“名”の呼び戻し——骨札と白の道
ニーヤが低く唱え、リリアーナが呼び戻し札を広げる。
「名を呼ぶのです。ここに名がある子は声を貸して」
老人が呟いた。「……リュウノスケ。わしの爺の名じゃ」
あーさんがB0.6でちり、二拍。
とん・とん。
先頭の一体が膝を折り、骨袋へ座る。
「非致死納骨/麦茶済」リリアーナの札が静かに貼られる。
地割れの奥から、骨の旗がちらりと見えた。
——ギルバートの里印。
「ジギーのとこの古陣が混ざってる。誰かが骨列を無理に抜いてきたな」
クリフさんが弓弦をとんと鳴らした。
⸻
5)ジギー来る——墓守の礼
「やれやれ、呼んだかい?」
里からジギーが現れた。後ろに骸骨騎士十、旗の先に**“座”の札。
「誤解すんなよ、コレはアタシんとこのじゃない。ウチの骨共はまず挨拶を覚えとる」
ジギーの骨たちは胸骨の前で二拍**。とん・とん。
スケルトンの前に止まり木のように立ち、道を塞ぐのでなく座を示す。
「お館さま、墓守の礼、いきます?」
「あいよ」
ジギーは掌に薄札を一枚出す。「納骨札。誰のもんでもなく、座の場所だけ示す札だ」
俺は角布で土の口の四角をとん・とん、扉縫合で角に点。
カチ。
口は裂け目から“納口”に変わり、骨列はそこへ座り始めた。
「ユウキ、骨は梁だ。折るより立てかけ。骸は器、魂は名。名は呼んで返す。ええな?」
「わかってる」
⸻
6)骨寄せの仕掛け——骨針と膠臭
土の中から骨針が見つかった。
白い角針の頭に、黒い膠がべっとり。
セレスが鼻をしかめる。「骨膠。……十逆の仕業だ。骨寄せ針で地下骨室の列を引いている」
サジとカエナが路地を走り、骨針を結ぶ黒紐を見つける。
「こいつ、脈打ってるぜ」
「薄刃で“ほどほど”にな」
カエナの小刀がす…と走り、黒紐の鳴きがすう……に落ちた。
「非致死捕縛/温スープ済」糸番をしていた雇い兵たちは膝だけ落ち、スープを受け取る。
よっしーが根菜と鶏のスープをよそい、雑穀パンを割りながら言う。
「はいはい、燻ソーセージは一人一本やで。黒糖わらび餅は……二個まで!」
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
ルフィはわらび餅三つ目に手を伸ばしかけ、そっと戻した(今日もほんとうにえらい)。
バーグはむくれてソーセージを二本目に伸ばしかけ、リナに見られて手を引っ込めた(ルール順守)。
「……温いのは正義だ」
「節度や」よっしー。
⸻
7)勇者たちの影——四者四様、骨を見て
白天幕の見張り台。
勇者レンは自動記録器を胸に、骨の群れを背景に笑顔を作る。
「“悪しき骸を俺の導きで弾き返す!”」
——骨は弾かれず、座っていく。レンの笑顔が一瞬引きつった。
市門前の仮設壇。
勇者サリアはやさしい声で囁く。
「私の紐であなたの家の墓を守るわ。従えば」
群衆が名を呼ぶと、紐は縁に変わり、彼女は笑顔のまま舌打ち。
軍幕の机。
勇者シュウは図面に赤い×を付ける。
「非効率。焼却が最善だ」
彼の部下が「現地は納骨列に」報告すると、シュウの眼鏡が曇る。
薄灯りのテント。
勇者トウマは古びた書片に黒い栞を挟み直す。
「“骨列は門の梯子に転用できる”。……記録だけはしておこう」
(やめろ。それは座に返す)
⸻
8)“白”の広場を太く——骨の祝詞と返名
合唱台に子ども達。
リナが合唱鍵をB0.6でちり、四鈴法・骨版の一の鈴を添える。
「名は呼ばれて返る。返名は礼」
子ども達が墓標帳から一人ずつ名を読み上げ、白が太くなる。
納口に座る骨列の鳴きが、**すう……**と静かに収まっていく。
ジギーが骨騎士に合図。「土の口を結べ」
骨騎士が枡枕を置き、角布で四隅をとん・とん、沈黙箱を薄く挟む。
口は裂でなく座になった。
「よし、第一波は収まったな」
俺が息を吐くと、風向きが変わった。
——膠の匂いが濃い。
ジギーの表情がぴたりと固まる。
⸻
9)彼方から“骨音”——気配、ぬめる声
街道の北、廃れた石塔の影。
黒い骨旗が三本、ぬめった帯のようにたなびく。
骨鈴が逆さに鳴り、骨笛の音が湿る。
リリアーナの耳飾りがちり、ミカエラの声。
『信号源、確認。十逆・第八骨マロー。骨寄せ針の製作者、骨列の反転専門。白に対して黒格子(逆白)を展開する癖あり。呼べば戻る——けど、ほどほどで』
よっしーが肩を回す。
「名前からして**髄**かいな……髄までキモい匂いやで」
「言い方」あーさんが笑って、板を抱え直す。
骨旗の前に、それは現れた。
痩せた躯に骨の飾りを外から縫い付け、髪は膠で貼り付けたように湿り、唇の端で骨笛を舐め回す。
肌は灰青、舌が細く、喉の奥が鳴るたびに、どこかの骨が応える。
第八骨マロー。
「……ああ、いい匂い。返名の匂い、白の匂い、君の中の古い名の匂い」
マローの視線が、まっすぐ俺を貫いた。
胸骨の裏で、とんとひと拍。
(——イシュタム。お前の名の欠片に、触れようとしている)
あーさんの手が俺の二の腕に軽く置かれ、二拍を合わせてくれる。とん・とん。
マローは骨のオルガンのような装置を広げ、背骨を束ねた鍵盤に長い指を置く。
「骨列は梁。梁は架橋。橋は渡れば従う。さあ、君の名を冠へ」
(やっぱり来たな。冠と骨が繋がってる)
セレスが短く告げる。
「白を三口、市門・合唱台・納口に。防舷材、枡枕、風幕を一段ずつ。四鈴法・骨版は開戦形」
ロウルの裏拍、フェイのとん・とん。
リンクが一歩、前に出る。
よっしーがブルーシートを肩に担ぎ、「毛布は正義。湯屋は……」
「節度」全員。
「はい」
マローの指が骨鍵を叩く。
——がらがら、こつこつこつ。
遠くの納口が逆白で黒格子に塗られ始める。
俺は息を吸い、胸骨の前に二拍。
とん・とん。
静けさは扉。
「行くぞ。倒さない。座らせる。——骨は梁、骸は器、魂は名だ」
第八骨マローのぬめる声が笑った。
「うつくしいお作法。……だから壊したくなる」
——骨鳴りが街じゅうの梁へ走った。
次回、キモい死霊術師が白を噛みに来る。
⸻
仕舞いと段取り——“白”は太く、“跡”は薄く
風幕は一枚だけ細く残して納口の喉へ、フェルト幕は薄く畳む。
舌袋の水は抜いて粘土を口へ返し、枡枕は角に薄く残す。
角布は骨盤座へひと結び、拭い布で骨列を清拭。
痕跡は薄く、白は太く。
《蒼角》《炎狐》が受け渡しを引き継ぎ、合唱鍵はB0.6でちり、呼べば戻る。
⸻
学園(仮)・広場——骨の昼餉と“二個まで”
白が三口、広場へ。
「今日の名」が次々呼ばれ、ロウルが拍を打つ。
よっしーの根菜と鶏のスープ、雑穀パン、黒胡椒クラッカー。
「アタシここ一生いたい」
「出るために食べるのよ」あーさん。
「おやつは二個まで」リナ(譲らない)。
ルフィは黒糖わらび餅を二つで止まり、三つ目をそっと戻した(ミカエラの視線は今日も鋭い)。
ガロットが氷地図の道路に骨印を二つ置き直し、座の丸。
「骨寄せ→納骨列。土の口→納口。第八骨マローの骨針は回収、逆白が来る」
耳飾りがちり。
『別線:王都学院評議より、納骨学/墓守室の承認。納骨札と骨袋の規格化も通過。
追記:北冠の砦から“冠紋の命名”の圧。第一冠コロナが骨と冠を同調させる動き。五鈴法・冠版を準備』ミカエラ。
あーさんが板を抱え、穏やかに微笑む。
「講話は短く。
骨は梁。
墓は座。
——明日の黒板に、きれいに書こう」
⸻
終礼——黒板の二行
夕刻の終礼。
あーさんが黒板に三行+二十行を書き連ね、今日の二行を添える。
名は輪郭。
輪郭は境界。
境界は——蝶番。
道筋は地図。
重みは枡。
車輪は縁。
橋は手。
流れは拍。
舟は器。
港は掌。
門は蝶番。
鍵は歌。
広場は皿。
交差は合拍。
刃は道具。
鞘は布。
重さは値。
秤は器。
街は器。
恐れは影。
塔は柱。
声は橋。
鏡は面。
面は器。
鎚は手。
炉は器。
枠は型。
型は器。
箱は蔵。
蓋は布。
車は軸。
輪は縁。
工房は炉。
教室は広場。
櫂は手。
舵は蝶番。
港は掌。
舷は縁。
灰は跡。
跡は縁。
時は拍。
鐘は合図。
印は紐。
紐は縁。
砂は面。
面は器。
声は橋。
喉は蝶番。
影は跡。
路地は広場。
そして今日の二行。
骸は器。
魂は名。
子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(納骨札・骨袋・角布・拭い布・沈黙箱・舌袋・風幕・骨手袋・石灰粉・枡枕)の名を撫でる。
黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。
ガンツは「骨」の字を指でなぞり、木枡に麦茶を注ぎながら笑う。
ルフィは黒糖わらび餅を二つで止め、三つ目をそっと戻した(今日も最後までほんとにえらい)。
⸻
屋上の夜——次の扉、“冠紋の命名、第一冠コロナ/骨の逆白”
星が近い。北の空に薄い輪冠がかかり、遠くで骨笛の湿がまだ残る。
クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。
「名を押されると、矢名が奪われる。……冠と骨が繋がると厄介だ」
セレスが氷地図の北冠の砦に小さな冠印を二つ重ねる。
「第一冠コロナ。冠紋で名を固定、返名を奪う。第八骨マローと同調の形跡。対処は——風幕で冠光を毛布に、舌凧で冠蝶番に点、縦抱えで戴冠台を抱える。五鈴法・冠版(名/拍/呼/冠口/返名)を用意」
あーさんが板を抱え、微笑みのまま目だけ鋭くなる。
「講話は短く。
名は輪郭。
呼びは返名。
——明日の黒板に、きれいに書こう」
胸骨の前で二拍。
とん・とん。
静けさは扉。
稽古は続く。
開ける。閉める。そして、返す。




