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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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峡谷異変編 第1話 ギルド依頼、競合、そして“影”は迫る



 朝のスタロリベリオの空は澄み切っていた。

 東の尾根から差し込む光が、まだ眠たげな街路の屋根を淡く照らす。

 広場を掃除する老人のホウキの音。パン屋が煙突に火を入れる匂い。

 そんな――平和な朝だった。


「んぁ〜……眠っ。寝不足やわ……」


 あくびをしながら、ユウキは冒険者ギルドへと向かう石畳を歩いていた。

 隣には、妙に元気な男――よっしーが肩を組んでくる。


「ユウキ! 行くで! 今日は稼ぐで!!」


「うっ……腕くむな暑苦しい! 朝からテンション高すぎやって!」


「朝から全力で行かんでどうするんや。働け働け、中年!」


「言い方よ!」


 その後ろでクリフが苦笑をこぼす。


「まあまあ……君たちは本当に仲がいいな」


「だから仲良くないって言ってんねん!」


「だから仲良くないって!」


 またハモる。

 いつものメンバー――皆の笑い声に、街が少しだけ明るく見えた。


 あーさんは、和傘を小さく傾けて微笑む。


「今日も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ……あら、よっしーさん、襟が曲がっておりますわ」


「お、ほんまや。サンキューあーさん!」


 ニーヤは尻尾を揺らしながら跳ねるように歩いた。


「今日は魔物退治がええですニャ。

 炎弾魔法、撃ちたい気分ニャ!」


 リンクは跳ね回り、ブラックは頭上で旋回している。


 まだ戦いの気配なんてどこにもない。

 ――だけど、その日の依頼が“普通じゃない”ことは、この時の誰も知らなかった。


 


◆冒険者ギルド・スタロリベリオ支部


 ギルドに入ると、朝のざわめきと武器の音が響いていた。

 掲示板を眺める冒険者、受付前で報酬を待つ者、今日のメニューを考える料理人。

 いつも通り――のようで、どこか落ち着かない空気がある。


 受付のリリアーナが手を振った。


「クリフさん、ユウキさん、よっしーさん!

 ちょうどよかったです!」


「お、仕事あるんか? ええのあるんか?」

よっしーが飛びつくように受付へ寄った。


「はい! 今日のおすすめはこちらです!」


 机に置かれた依頼書。

 そこには“軽い依頼”らしき文字。


『リカント峡谷周辺で魔物の増加。

 主な種はゴブリン、オーク。

 調査および討伐。

 報酬 1万ゴルダ』


 ユウキが覗き込む。


「ゴブリンとオークか。ほな行けるやろ……17とかやし」


「いやユウキさん、“17とかやし”はおかしいですニャ」

 ニーヤがつっこむ。


 クリフは依頼書を手にとった。


「油断は禁物だが、問題はないだろう。

 ホブやオークソルジャーがいなければ、我々で十分だ」


 よっしーが胸を叩く。


「ウチらに任せろや。盾士の出番や!」


 あーさんが小さく頭を下げた。


「わたくしも……皆さまがお行きになるのであれば、ご一緒いたしますわ」


 リンクが跳ね、ブラックが低く鳴く。


 ――その時。


ギルドの扉がバンッと開いた。


 


◆CランクパーティA『銀の狸団』


「よっしゃあ!! その依頼、オレたちがもらった!!」


 筋肉の剣士ガロスが吠えながら入ってきた。

 後ろにはヒーラーのミーナと軽戦士トビアス。


「最近Cランク帯の依頼少なすぎなんですから、

 優先してもらわなきゃ困りますよ!」


「オークくらい余裕余裕! サクッと終わらせて酒だ!」


 よっしーが眉をひそめる。


「いやいや、ウチらも受けに来たんやけど?」


ガロス

「あぁ? クリフさん達か……

 強いのは知ってるけどよ、

 “ゴブリンとオーク”だぞ?

 俺らの稼ぎ場なんだよ!」


クリフ

「争うつもりはない。

 依頼は誰が受けても良いだろう」


 


◆CランクパーティB『黒羽の巫女隊』


リゼ(巫女魔導士)が溜息をつきながら近づく。


「その依頼、うちも狙ってるんだけどぉ〜?

 リカント峡谷って、うちらのホームなんだし〜」


前衛ダントが鼻で笑う。


「ゴブリンとオークの増加だろ?

 クリフさん達みたいな強豪が行くまでもないよなー?」


弓のユラ

「むしろクリフさん、そんな雑魚狩り来ちゃっていいんですか?」


ユウキ

(いや……実際は雑魚ちゃう可能性高いねんけどな……

 言われへん……)


 


◆ギルマス登場


ギルマス

「ふむ……では、こうしよう。


 “先に村に到着したパーティが優先”

 で、よいか?」


ガロス

「OK!!」


リゼ

「もちろん〜」


クリフ

「構わん」


よっしー

「競争やんけ!! 行くでユウキ!!」


ユウキ

「走らんでええねん!!」


リリアーナ

「みなさん、お気をつけて〜!」


 こうして、三つのパーティは競うようにギルドを飛び出した。


 


◆◆道中/クリフの“違和感”


 森へ向かう街道。

 日差しは明るいのに、風が妙に冷たかった。


クリフ

「……妙だな」


「ん? どしたんクリフさん」


「鳥の声が少ない。

 あと、獣道の踏み跡が……大きすぎる」


よっしー

「そらオークもおるやろ?」


「いや……これはオークのものではない。

 もっと……重い」


 ブラックが「カァ……」と低く鳴いた。

 ニーヤが耳をぴくりと動かす。


「我が主人……魔物の気配が多いですニャ……」


ユウキ

「やっぱヤバい系か……?」


あーさん

「……水の流れが、乱れております。

 良くない……風向きですわ」


リンク

「キュイッ……!」


 空気が変だ。

 “何かが潜んでいる”気配だけが、ひたひたと迫る。


 


◆◆村に到着/そして“ミレイの話”


 三つ巴の競争……だったはずが。

 村に到着したのはクリフ達が一番だった。


よっしー

「お、ウチらが一着やな!」


ユウキ

「別に競争した覚えはないんやけどな……」


 村の入口には、痩せた男性と少女がいた。


「あなた方……冒険者の方ですか?」


クリフ

「そうだ。依頼を受けて来た」


少女ミレイ

「よかった……でも……」


あーさん

「どうかなさいました?」


ミレイ

「出るのは……オークとゴブリンだけじゃ、ないんです!」


ユウキ

「ほら来た!!」


クリフ

「どんな魔物を見た?」


「夜……山の上の方で、

 デカい影が吠えるんだ。

 オークじゃない……リカントでもない……

 もっと……恐ろしい……」


ミレイ

「村、何度も襲われそうになって……

 さっき、銀の狸団の人たち……

 谷のほうへ行っちゃって……!」


ユウキ

「え!? もう!?」


ブラック

「カァ!!(危険!!)」


クリフ

「急ぐぞ!」


あーさん

「ミレイさん、どうかご無事で……」


ニーヤ

「我が主人、気ぃつけるニャ!」


リンク

「キュッ!」


 緊迫した空気の中、クリフ達は谷へと駆け出した。


 


◆◆第1話ラスト/“影の咆哮”


 森の奥へ進むほど、静けさが増した。


よっしー

「静かすぎるんや……

 森が……死んどるぞこれ……」


クリフ

「みんな、構えろ。

 これは……普通じゃない」


 その瞬間。


——ガァァアアアアアアアアアッ!!!


 山全体が震え、鳥が一斉に飛び立つ。

 木々が揺れ、地面の土が震えた。


ユウキ

「な……んや今の!!?」


ニーヤ

「リカントじゃ……ないですニャ……!

 もっと魔力が濃い……!」


リンク

「キュイイィ……(震え)」


ブラック

「カァァッ!!(警告!!)」


あーさん

「み、皆さま……! 下がって……!」


 木々の奥。

 暗がりの中で、巨大な何かが動いた。


 地面が沈むほどの“重い足音”。


 影がゆっくりと姿を現す。


 狼のようであり、獣人のようであり、

 赤い瞳がこちらを見た瞬間、空気が凍った。


ユウキ

「な、なんやあれ……!? デカすぎる……!」


クリフ

「……違う。

 これは“普通のリカント”じゃない。

 進化している……!」


ニーヤ

「魔力……300近いですニャ……!」


よっしー

「Aランク魔物やんけ……!」


 進化リカント《ルーガ》が、

 こちらをにらみつける。


リカント

「グルルルル……」


 赤い目が光り、巨体が一歩――踏み込んだ。


——ドッッ!!!


地面が割れ、土が跳ねる。


クリフ

「構えろ!! 来るぞ!!」


ユウキ

「くっ……!」


――第1話・完。


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