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第14話 妖精とユニコーンと盗賊どもと

前書き

静寂に包まれた夜の森で、一角獣ユニコーンとの出会いが、ささやかな旅団の運命を大きく揺るがす。

盗賊の凶刃に倒れた主人公・ユウキ。その一撃は、仲間たちの心に怒りの炎を灯す。

ユニコーンを狙う卑劣な影を追うため、彼らは二手に分かれ、それぞれの決意を胸に深い森へと足を踏み入れていく。

これは、かけがえのない命を守るため、小さな勇気と大きな絆が試される物語の、中盤戦である。





静かな夜、月明かりの下にそれは突然現れた。その一角の角が付いた白い馬は幻想的な美しさを持っていた。長い尾と鬣たてがみを風になびかせながら泉の中へと入って行く………

 オレは周囲に目を配るがみんなすでにグッスリと眠りについているのでオレ1人でゆっくりゆっくりと音を立てず近づいていくと一角獣ユニコーンはオレの方へと振り向いてバシャバシャと音を立てながら少しずつ近づいて来た。

 オレは一角獣ユニコーンの鬣たてがみを優しく撫でると頸が伸びて頭が上がり、鼻を伸ばして目を細めた。

 突然、どこからともなく矢が飛んで来てオレの右膝にグサッと刺さった。

「ぐぁああああ!」

 オレはあまりにもの痛さに倒れ込んだ。

「なんだよ、外したのかよゲバ」

「チッ、野郎に当たりやがったぜ。頭を射抜くチャンスだったのによ」

「オイ、ヴァロもしかしたらコイツも角を狙っていたんじゃねえのか?」

「ふざけんなオラ!!」

 オレは膝の痛みで立ち上がることが出来ず、倒れた状態で盗賊どもに何発か蹴りを浴びせられた。

「キュイイィィィン」

 一角獣ユニコーンは高い音でいななき走り去っていったので盗賊達も慌てて追いかけて行った。

「オイ、ユウキ君大丈夫か」

 クリフさんがオレの前へと走って来た。

 ああ、そうかフレリーヌがみんなを起こしてくれたのかな?

 アレ?……なんか妙にカラダがふわふわな感じがする。ダメだ、だんだん眩暈がして来た。

 オレは肩の痛みのせいかそのまま意識を失った。

 ◇

 まだ少しボンヤリするがようやく目が覚めた。

 どうやらオレはヨッシーが用意したテントの中で眠っていたようだ。

「あっ、気がついたニャ」

「ようユウキ坊、調子はどないや」

 どうやら矢には麻痺薬が塗られていたらしくブラックとニーヤの治療魔法、ヨッシーの持っていた回復薬ポーションによってなんとか元の体力に戻る事ができた。

「ユウキ君はあそこで一体何があったのだ?」

「突然、アンタの叫び声が聞こえたので急いでここのみんなを起こしたんだわさ」

 オレのまわりをクルクルと飛び回るフレリーヌはまるでデカいコバエのようで正直ウザい!

 オレは泉で一角獣ユニコーンと出会い、突然現れた盗賊ども2人に襲われた事をみんなに話した。

「うむ、ウワサでは聞いた事があったがやっぱり一角獣ユニコーンの角を狙っている連中がいたんだな」

「なるほどね、アタシらがここんところ一角獣ユニコーンを見かけなくなったのはそいつらの仕業なのか」

「ほんならこれからどないするんや? そいつらを一網打尽にするんか」

「イヤ、そこはオレに考えがあるんだ」

「ほほう作戦ですかニャ?」

「一角獣ユニコーンを保護するチームと盗賊と戦うチームに分けようと思うんだ。

 まずは一角獣ユニコーンの居場所を突き止める事、そして盗賊どもを待ち伏せて迎撃するといったかんじだね」

「いいね!それだったらアタシも頑張っちゃうよ」

 一角獣ユニコーンを保護するチームがオレとヨッシー、そしてフレリーヌの3人……

 盗賊どもと戦うチームがクリフさん、ニーヤとブラックという感じで編成が決まった。

第二章:それぞれの夜明け

作戦会議を終え、それぞれが休息についた静かな夜。しかし、オレは全く眠れなかった。

右膝にはもう痛みはない。しかし、あの時、ユニコーンを守れなかった悔しさが、鈍い重りとなって胸にのしかかっていた。

「オレがあの時、もっと早く動けていたら…」

自問自答を繰り返していると、テントの入り口が静かに開いた。

「眠れないのかい、ユウキくん」

そこに立っていたのは、クリフさんだった。

彼は静かにオレの隣に腰を下ろし、焚き火の炎をじっと見つめている。

「すいません、クリフさん。心配かけて…」

「気にするな。それより、無理をしていないか?」

オレは首を横に振る。

「はい、もう大丈夫です。でも…なんだか、自分が情けなくて」

クリフさんは何も言わずに、オレの肩にそっと手を置いた。その手は、ゴツゴツと節くれ立っていたが、とても温かく感じられた。

「お前はよくやった。あの状況で、ユニコーンを前にして、矢を受けて…それでも、よく生き残ってくれた」

「でも、ユニコーンは…」

「逃げたのではない。身を守っただけだ。ユニコーンは賢い生き物だ。そして、お前を…信じたのだろう」

「信じた…ですか?」

「ああ。あの時、ユニコーンがもしお前を敵だと判断していたら、どうなっていたかわからない。だが、ユニコーンはお前を傷つけることなく、ただ逃げた。それは、お前がユニコーンに危害を加えるつもりがなかったと、ユニコーンが理解していたからだ。お前の心は、ユニコーンに届いていたんだよ」

クリフさんの言葉に、胸の奥で燻っていた重りが、少しだけ軽くなった気がした。

「ありがとうございます…クリフさん」

「それに、お前の作戦は理にかなっている。ユニコーンを守るチームと、盗賊と戦うチーム。お前はユニコーンを一番に考えている。それが嬉しい」

クリフさんの優しい笑顔に、オレは少しだけ安心した。

「クリフさんは、明日…盗賊と戦うチームなんですよね」

「ああ。ニーヤとブラックと一緒だ。心配するな。あの二人は強い。それに、私も伊達に長年生きてきたわけじゃない。任せておけ」

クリフさんはそう言って、再び焚き火を見つめた。

その横顔には、どこか憂いを帯びた表情が浮かんでいた。

「クリフさん…何か、心配事でも?」

クリフさんは、少し迷った後、静かに口を開いた。

「…いや、ただ、昔のことを少し思い出していてね。昔、ユニコーンの角を狙う連中を捕まえたことがあるんだ」

「え…そうなんですか?」

「ああ。その時、捕まえた連中が、ある男の名を口にしていた。…『銀狼のゾルグ』。そいつは、ユニコーンの角を専門に扱う闇の商人だ。おそらく、今回もそいつが絡んでいるだろう」

「銀狼の…ゾルグ?」

聞きなれない名前に、オレは眉をひそめた。

「ああ。そいつは、手下を雇ってユニコーンを狩らせる。自分は決して表に出ない。だが、裏で大きな富を築いている。今回の盗賊どもは、そいつの雇われだろう」

クリフさんの声には、怒りにも似た感情が込められていた。

「俺は、そいつらを二度とユニコーンに近づけさせたくない。だからこそ、お前たちにはユニコーンを守ることに専念してほしい。戦いは、俺たちに任せてくれ」

その言葉には、強い決意と、オレたちへの深い配慮が感じられた。

「…はい。任せてください。オレたちが、ユニコーンを必ず見つけ出してみせます」

「頼んだぞ、ユウキくん」

クリフさんはそう言って、オレの肩をもう一度叩くと、自分のテントへと戻っていった。

オレは再び一人になり、焚き火の炎を見つめる。

「銀狼のゾルグ…」

心の中でその名を反芻する。ユニコーンを狙う卑劣な存在。

オレたちの戦いは、ただの盗賊相手ではない。ユニコーンの命を狙う、大きな悪との戦いなのだ。

夜空には満月が輝いていた。

その光に照らされて、オレの心に新たな決意が宿った。

絶対に、ユニコーンを守り抜く。

翌朝。

朝霧が立ち込める森の中で、オレたちは二つのチームに分かれていた。

クリフさん率いる盗賊迎撃チームは、泉の周辺に身を潜め、盗賊どもが再び現れるのを待つ。

一方、オレとヨッシー、そしてフレリーヌは、ユニコーンの足跡をたどり、その居場所を探す旅に出る。

「では、健闘を祈る」

クリフさんの言葉に、オレは力強く頷いた。

「クリフさんたちも、気をつけてください」

「オウ、ユウキ坊。あんま無茶すんなや」

ブラックの言葉に、オレはニヤリと笑う。

「それはそっちのセリフですよ」

「ニャハハ、楽しそうニャ。気をつけてね、ユウキくん」

ニーヤも笑顔で見送ってくれた。

それぞれの決意を胸に、オレたちは異なる方向へと歩き出した。

オレたちユニコーン保護チームは、ユニコーンが走り去った方向へと進んでいった。

ヨッシーは、地面に残されたユニコーンの蹄の跡を、鋭い眼差しで追っている。

「ユニコーンは、人間が踏み入らない、もっと深い森の奥へと向かっているニャ」

「なんでわかるの?」

フレリーヌがヨッシーの肩でクルクルと回りながら尋ねる。

「ユニコーンの蹄の跡は、他の動物とは違う。それに、このユニコーンは、急いでいるけど、焦ってはない。きっと、隠れ家を知っているニャ」

ヨッシーの言葉に、オレは希望を感じる。

ユニコーンは、ただ逃げたのではなく、安全な場所へと向かっている。

その場所を、オレたちが見つけ出せばいいのだ。

森は次第に深く、木々は高く、鬱蒼とした様相を呈してきた。

道なき道を歩くにつれ、周囲の気配も変わっていく。

小鳥のさえずりは少なくなり、代わりに、聞いたことのない虫の声や、動物たちの鳴き声が聞こえてくる。

「ユウキ君、もうすぐだわさ」

フレリーヌが突然、オレの頭の上で叫んだ。

「え?何が?」

「いい匂いがするわさ! ユニコーンの匂いだわさ!」

フレリーヌはそう言って、オレの頭から飛び立ち、森の奥へと飛んでいった。

「おい、フレリーヌ!一人で先行くな!」

オレは慌ててフレリーヌを追いかけた。

ヨッシーもその後を追う。

フレリーヌの向かった先には、小さな谷があった。

谷底には、水晶のように透き通った水が流れる川が流れ、その川岸には、見たこともないほど色鮮やかな花々が咲き乱れている。

そして、その花畑の真ん中に…ユニコーンがいた。

しかし、その様子は、オレが知っているユニコーンとは少し違っていた。

ユニコーンは、その美しい白い毛並みに泥をつけ、うなだれるようにして水を飲んでいる。

そして、その背中には、大きな矢が一本、深々と刺さっていた。

「ユニコーン…!」

オレは思わず声を上げた。

ユニコーンはオレたちの声に驚き、こちらを振り向いた。

その瞳は、怯えと警戒心に満ちている。

「落ち着いて…ユニコーン。オレたちは、キミを傷つけない。助けに来たんだ」

オレはゆっくりと、慎重にユニコーンに近づいていく。

ヨッシーとフレリーヌも、オレの後ろで静かに見守っている。

ユニコーンは、オレの言葉が通じたのか、警戒を解いたようだった。

そして、オレの前に膝をつき、痛々しい背中をオレに見せた。

「ひどい…」

フレリーヌが小さな声で呟く。

「この矢は…」

ヨッシーが背中の矢をじっと見つめている。

「普通の矢じゃないニャ。特殊な麻痺薬が塗ってある。しかも、ただの麻痺薬じゃないニャ。ユニコーンの力を弱める、呪いの薬だニャ」

呪いの薬…。

クリフさんが言っていた、闇の商人「銀狼のゾルグ」。

奴らの手口は、ユニコーンの角を狙うだけではない。ユニコーンそのものを、完全に無力化しようとしている。

「フレリーヌ、ユニコーンの治療はできるか?」

オレはフレリーヌに尋ねた。

フレリーヌはユニコーンの背中の矢をじっと見つめ、首を横に振った。

「ダメだわさ…この呪いは、フレリーヌの力だけではどうにもならない。ニーヤの治療魔法が必要だわさ」






- ニーヤの治療魔法 -


盗賊迎撃チームと、ユニコーン保護チーム。二つのチームは離れ離れになってしまった。

ニーヤが、ここにいない。

「…くそ!」

オレは悔しさに拳を握りしめた。

「ヨッシー、この呪いを解く方法はないか?」

ヨッシーは真剣な表情で考え込んだ。

「ユニコーンの呪いを解くには…『月の涙』が必要ニャ」

「月の涙?」

「この森の奥深くに、月の光を浴びて成長する特別な花があるニャ。その花の花弁を、ユニコーンに食べさせれば、呪いは解けるニャ」

「その花は、どこにあるの?」

「もっと奥の、深い洞窟の中ニャ。その洞窟は、**『夜想の洞窟』**と呼ばれていて、夜にしか開かないニャ」

夜想の洞窟…そして、月の涙。

ユニコーンを救うためには、その花を手に入れなければならない。

しかし、その洞窟は、夜にしか開かない。

時間は、あまりない。

一刻も早くユニコーンを治療しなければ、ユニコーンの命が危ない。

「オレが行く。夜想の洞窟に、一人で」

「ダメニャ!ご主人様一人で行くのは危険だニャ!夜想の洞窟は、魔物の住処ですニャ!」

ヨッシーが必死にオレを止めようとする。

「でも、時間がないんだ!ユニコーンは…このままじゃ…!」

オレはユニコーンの背中を、優しく撫でた。

ユニコーンは、オレの手に、そっと自分の頭を乗せてきた。

その瞳は、諦めと、わずかな希望に満ちていた。

「大丈夫だ。ユニコーン。オレが必ず、月の涙を持って帰ってくる」

オレはそう言って、立ち上がった。

「ヨッシー、フレリーヌ。ユニコーンのそばについていてくれ。オレは行ってくる」

「ユウキ君…!」

「ユウキ坊…!」

二人の心配そうな声を聞きながら、オレは再び森の奥へと足を踏み入れた。

一方、クリフさん率いる盗賊迎撃チームは、泉の近くの茂みに身を潜めていた。

クリフさん、ニーヤ、ブラックの3人は、それぞれが経験豊富な冒険者だ。

彼らの連携は完璧だった。

「ニーヤ、右側を頼むニャ」

「任せて下さいニャン!」

「クリフ、俺は左側だ」

「頼むぞ、ブラック」

三人は、まるで一つの生き物のように、互いの動きを読み合い、隙間なく警戒網を張っている。

ニーヤは、耳をぴくぴくさせて、周囲の音を探る。

「…何か来ましたニャ」

その言葉に、クリフさんとブラックは、すぐに臨戦態勢に入った。

茂みの奥から現れたのは、2人の男。

一人は、矢筒と弓を持った細身の男。もう一人は、大きな斧を持った大柄な男。

矢でオレを射たゲバと、オレを蹴りつけたヴァロだった。

「チッ、また外れかよゲバ」

「うるせえ!あのユニコーン、どこに逃げやがったんだ!」

二人の盗賊は、苛立っているようだった。

彼らは泉に近づき、水面を覗き込む。

「…どうやら、こっちにはいないみてえだな」

「チクショウ…ユニコーンの呪いの矢を、せっかく準備したってのに…」

「呪いの矢…!」

茂みに隠れているクリフさんの目が、鋭く光った。

やはり、クリフさんの予想は当たっていた。

奴らは、ユニコーンの命を奪うつもりだったのだ。

「…よし、行くぞ」

クリフさんの合図とともに、ブラックが飛び出した。

「フンッ!」

ブラックは、斧を持った盗賊・ヴァロの背後から、素早くその肩を掴んだ。

「なっ…なんだテメエ!」

ヴァロは驚いて振り返るが、ブラックの力は圧倒的だった。

「悪いが、お前らの相手は俺たちだ」

ブラックはそう言って、ヴァロを地面に叩きつけた。

「ヴァロ!」

ゲバは、慌てて弓をブラックに向けたが、その前に、クリフさんが現れた。

「そうはいかない」

クリフさんは、ゲバの弓を片手で掴み、そのまま弓をへし折った。

「な…なんだと…!」

「お前らのような輩が、ユニコーンに手を出すことは許さん」

クリフさんの静かな、しかし威圧的な声に、ゲバは恐怖に顔を歪めた。

「…くそ、覚えてろ!」

ゲバはそう言って、懐から煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。

あたり一面に、白い煙が立ち込める。

「チッ、逃がすか!」

ブラックはそう言って、煙の中へと飛び込んでいった。

クリフさんもその後に続く。

しかし、煙が晴れた時には、すでにゲバとヴァロの姿はなかった。

「くそ…逃がしてしまったか…」

「残念ニャン…でも、あの二人、呪いの矢のことを口にしていたニャ」

ニーヤが悔しそうに呟く。

「やはり、ゾルグの手下か…」

クリフさんは、険しい表情で地面に落ちた矢の破片を拾い上げた。

その矢の先端には、不気味な黒い液体が付着していた。

「…ユウキくんたちの、無事を祈るしかないな」

クリフさんは、遠い空を見上げ、呟いた。







- 夜想の洞窟の守護者 -


オレは、森の奥深くへと進んでいた。

夜想の洞窟…その入り口は、巨大な岩壁に隠されていた。

月の光が、岩壁に差し込むと、岩壁に描かれた古代の文字が、淡い光を放ち始めた。

『夜を求める者よ、闇の心を持たぬ限り、扉は開かれん』

岩壁に浮かび上がった文字を読み上げた途端、岩壁がゆっくりと、左右に開いていった。

中から吹き出す冷たい風と、不気味な気配。

オレは、少し震えながらも、一歩足を踏み入れた。

洞窟の中は、真っ暗だった。

オレは、持っていたランタンに火を灯し、足元を照らしながら進む。

洞窟の壁には、まるで生きているかのように、奇妙な模様が浮かび上がったり消えたりしている。

進むにつれて、洞窟の気配はさらに異様なものになっていった。

ゴツゴツとした岩肌には、苔が生え、まるで魔物の皮膚のようだ。

そして、洞窟の奥から、不気味な唸り声が聞こえてきた。


「…魔物か…」


オレは、腰に差したナイフを握りしめ、警戒を強めた。

その唸り声は、次第に大きくなり、オレのすぐ近くから聞こえてきた。


「グルルル…」


オレは、ランタンの光をそちらに向ける。

そこにいたのは、黒い毛並みを持つ、巨大な狼だった。

その瞳は、血のように赤く輝き、牙を剥き出しにして、オレを威嚇している。

「…うわっ!」

オレは、思わず後ずさった。

その狼は、ただの狼ではない。

体からは黒いオーラを放ち、周囲の空気を歪ませている。

明らかに、普通の魔物ではない。

『夜想の洞窟の守護者』。

ヨッシーが言っていた魔物とは、こいつのことか。

オレは、ナイフを構え、狼と対峙した。

狼は、オレに向かって飛びかかってきた。

オレは、とっさにナイフで攻撃をかわすが、狼の動きは素早く、オレは体勢を崩してしまった。

「くそっ…強い…!」

狼は、オレが倒れた隙に、オレの喉元に牙を突き立てようとする。

その瞬間、オレの肩から、かすかに光が放たれた。

フレリーヌが、オレの肩に止まったまま、眠っていたのだ。

「ユウキ君…!」

フレリーヌは、目を覚まし、オレの窮地に気づくと、小さな体から、まばゆい光を放った。

「わさわさわさわさ…!」

フレリーヌは、小さな声で呪文を唱え、狼の目に、光の矢を放った。

「ギャン!」

狼は、突然の光に驚き、一瞬怯んだ。

その隙に、オレは素早く立ち上がり、ナイフを構え直した。

「フレリーヌ!サンキュー!」

「フレリーヌだって、ユウキ君を一人にはしないわさ!」

フレリーヌの言葉に、オレは勇気をもらった。

オレは、再び狼と向き合う。

今度は、オレも本気だ。

狼は、再びオレに飛びかかってきた。

オレは、今度は正面からそれを受け止めず、横に避け、狼の側面に回り込む。

そして、狼の腹に、ナイフを突き立てた。

「ガアアアアアアア!」

狼は、苦痛の叫びを上げ、オレを突き飛ばした。

オレは、岩壁に背中をぶつけ、そのまま地面に倒れ込んだ。

「ハァ…ハァ…」

しかし、狼も無傷ではなかった。

腹から、黒い血を流し、息を切らしている。

「…こいつ、もう一度攻撃すれば…」

オレは、再び立ち上がろうとした、その時だった。

「待て!」

突然、洞窟の奥から、聞きなれない声が響いた。

オレは、声のする方を向いた。

そこに立っていたのは、一人の少女だった。

年の頃は、オレと同じくらいだろうか。

長い銀色の髪を持ち、月のように淡い光を放つローブを纏っている。

その手には、まるでユニコーンの角を思わせるような、杖を握っていた。

「ユニコーンの角…?」

オレは、少女の手にある杖を見て、思わず呟いた。

杖の先端からは、銀色の光が放たれており、その光は、狼の傷を、ゆっくりと癒やしていく。

「お前は…誰だ?」

オレは警戒しながら、少女に尋ねた。

少女は、オレの質問には答えず、ただ静かにオレを見つめていた。

その瞳は、まるで夜空に輝く星のように、深い色をしていた。

「…お前は、ユニコーンを救いに来た者か」

少女の声は、透き通るように美しく、洞窟の中に響き渡った。

「…どうして、それを?」

「…わたしは、この夜想の洞窟の守護者。そして、ユニコーンの守護者。すべての出来事は、わたしの目に映っている」

少女は、そう言って、ゆっくりとオレに近づいてくる。

オレは、警戒を解くことができなかった。

もしかしたら、この少女も、ユニコーンを狙う仲間かもしれない。

少女は、オレの目の前で立ち止まると、その杖を、ゆっくりとオレの額に当てた。

「…心に闇はない。お前は、本当にユニコーンを思っている」

「…オレは、ユニコーンを救いたい。呪いを解くために、『月の涙』を探しに来た」

少女は、オレの言葉に、小さく微笑んだ。

「…わかっている。だからこそ、この洞窟の守護者である『夜の狼』は、お前を襲わなかった。あれは、ただお前の覚悟を試しただけだ」

「…試した、だけ?」

オレは、信じられない思いで、狼を見る。

狼は、すでに傷が癒え、大人しく少女の足元に座っていた。

「…すまない」

「気にするな。すべては、ユニコーンを守るため。そして、わたしの役目」

少女は、そう言って、オレを洞窟のさらに奥へと案内した。

「ついて来い。月の涙は、この奥にある」

オレは、少女の後を追う。

洞窟の奥には、まるで天空に繋がっているかのような、巨大な空間が広がっていた。

空間の中央には、泉があり、その泉の水面には、満月が映し出されている。

そして、その泉の周りに、無数の花が咲いていた。

花は、月明かりを浴びて、淡い銀色の光を放っている。

「…これが、『月の涙』」

オレは、その幻想的な光景に、息をのんだ。

「ああ。この花は、月の光を養分として咲く。ユニコーンの呪いを解くには、この花の花弁を、ユニコーンに食べさせる必要がある」

少女は、そう言って、花の一つにそっと触れた。

花は、少女の指先に触れると、まるで星屑のように、キラキラと輝きながら消えていった。

「お前の手で、この花を摘むことはできない。ユニコーンを守ろうとする、清き心を持つ者でなければ、この花は触れることさえできない」

「じゃあ…どうすれば…?」

「わたしが、この花を摘んでやろう。ただし…」

少女は、オレをじっと見つめる。

「ただし…なんだ?」

「…お前は、わたしの質問に答えなければならない」

「質問…?」

「ああ。もし、ユニコーンの命を救うことができたとしても、再びユニコーンを狙う者が現れたら、お前はどうする?」

オレは、一瞬言葉に詰まった。

クリフさんが言っていた、闇の商人『銀狼のゾルグ』。

奴らがいる限り、ユニコーンは永遠に狙われ続ける。

「…奴らを、捕まえる」

オレは、迷うことなく、そう答えた。

「ユニコーンの角を狙う者たちを、二度とこの森に近づけさせない。それが、オレの使命だ」

少女は、オレの答えに、満足したように微笑んだ。

「…そうか。ならば、お前はユニコーンの守護者となる資格がある」

少女は、そう言って、杖を天に掲げた。

すると、無数の花が、一斉に銀色の光を放ち、オレの掌の中に、一輪の『月の涙』の花を咲かせた。

「…ありがとう」

オレは、少女に深く頭を下げた。

「礼には及ばない。これは、ユニコーンへの、わたしの願いでもある」

「…名前は?」

オレは、少女に尋ねた。

少女は、月明かりの下で、静かに微笑んだ。

「わたしの名は、『ルナ』。月の光を宿す者。そして、ユニコーンの最後の守護者だ」

ルナ…月の光を宿す者。

その名前は、ユニコーンと、そしてこの幻想的な洞窟に、とてもよく似合っていた。

「ユウキくん、急ぐわさ!」

フレリーヌが、オレの頭の上で叫んだ。

「ああ、わかっている!」

オレは、ルナに別れを告げ、月の涙を胸に抱き、夜想の洞窟を後にした。

ユニコーンの元へ、一刻も早く戻らなければならない。





あとがき

物語の中盤は、それぞれのチームの奮闘と、ユウキの新たな出会いを描きました。

ユニコーンを狙う盗賊たちの背後に潜む、闇の商人「銀狼のゾルグ」。

彼の存在が明らかになったことで、物語は単なる盗賊退治から、ユニコーンの命運をかけた壮大な戦いへと発展していきます。

そして、ユウキが出会った新たなキャラクター、月の光を宿す少女「ルナ」。

彼女は、ユニコーンを守るために、ユウキに試練を与え、そして共にユニコーンを守る仲間となります。

ユニコーンの呪いを解くために必要な「月の涙」を手に入れたユウキ。

しかし、物語はまだ終わりません。

クリフさんたちが追っていた盗賊たちは、逃亡。そして、ユニコーンはまだ、呪いの矢に苦しんでいます。

物語のクライマックスは、次章へと続きます。

ユウキとルナ、そして仲間たちは、ユニコーンを守り抜くことができるのでしょうか。

次章の展開に、どうぞご期待ください。


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