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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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152/387

南縁補給庫の裁断――刃は道具、鞘は布

朝の学園(仮)150階。

黒板の「今日の名」に昨夜の丸がまた増え、合唱鍵は薄布の下で休んでいる。

俺たちは扉の陰で胸骨の前に二拍。

とん・とん――B0.6。

静けさは扉。


あーさん(相沢千鶴)が白墨でいつもの三行と、今日の二行を書き足す。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

刃は道具。

鞘は布。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」――「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にございます」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》「ロウル」「ツグリ」/《炎狐》「フェイ」「チトセ」

後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊」。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札)、バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)同行。


セレスが氷地図の南縁、川と街道が背中合わせに折れる地点へ薄墨で丸を打つ。

「南縁補給庫。帝国・聖教の混在拠点。帆倉庫と麻倉庫が並び、布索ぬのさくで拍連結箱を覆って“切って通す”第一刃エッジが指揮。風幕や舌凧を裁つための糸刃いとは装置が多数。白の道も狙われる」


ガロットが槍尻で床をとん・とん。

「目的は三つ。

一、補給庫の空喉と布索、糸刃を倒さず座らせる(舌凧×2+縦抱え帆柱+風幕重ね+枡枕)。

二、裁断線(記録鎖)をほどほどに解き、“縫い戻せる道具”に戻す。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


『A-1〜A-5、白は太く。合唱鍵は二重輪“名→拍”。三鈴法は“帆倉庫前限定”で解禁。呼べば戻る』ミカエラ。

リナが空欄をとんと叩き、チョークをそろえる。

よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

沈黙箱(細・中・太)/吸音布/静電ブラシ/耳栓/粘土団子/水袋/砂鉄袋/丸太束/鎖輪/チェーンブロック/スポンジ弾。

そして誇らしげにブルーシート十枚(!)、パッチ布(帆の継ぎ当てセット)、裁縫針束、ロープ山。

食は――豚汁大鍋、塩むすび、カツサンド、ほうじ茶。

「買いすぎニャ」

「要る。今日は布と腹の二重や」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。出立。



1)南縁補給庫――帆の町、糸の刃


南へ下るにつれ、空気は乾き、麻縄の匂いが濃くなった。

土塁の内側に帆倉庫が三棟、麻倉庫が二棟。屋根の棟に子機が四、梁から布索が幾筋も垂れ、糸刃の枠が風でうなっている。

白衣の学匠局員と聖教の神官隊が混じり、手押し車の列が拍を合わせずに行き交う。

その中央、銀灰の外套に細長い箱を背負った人物がいた。

「第一刃エッジ」セレスの声が硬い。「裁断という“秩序”の代表格」


「段取り」

一、鍵班あーさん・ニーヤ・セレス・ユウキ:舌凧で子機の蝶番へ浅く、糸刃の“結節”に点。

二、泥舌班(よっしー・ロウル・フェイ・骸骨):風幕重ねを張り、土舌+舌袋で走る叩きを受ける。枡枕で裁断線の喉を丸める。

三、寝かせ台班(ツグリ・骸骨):縦抱え帆柱で布索の重みを抱え、落差を潰す。

四、返送班チトセ・リンク・ブラック・リリアーナ:白を三口、受け渡し・台帳・豚汁。


「講話班はアタシが帆倉庫前で短くやる」

「ワイはカツで刃を無害化する係や」

「言い回しの切れ味が悪い」俺。



2)帆倉庫前の講話――刃は道具、鞘は布


帆倉庫の扉(布巻き)前で、あーさんが板を掲げる。

「講話は短く。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

刃は道具。道具は使いよう。

鞘は布。布は重ねるほど強い」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。

倉の喉がひと呼吸、B0.6に沈む。

背負い箱の人物がこちらへ歩いてきた。

細身、短髪、瞳は冷たく、しかし虚ろではない。

箱の蓋を外すと、中には薄刃が何十枚も。彼――エッジはそれらを指の腹で撫でた。

「切るのは線を戻すため。混じったものを分け、秩序を透かすためだ」


よっしーがブルーシートを両肩に担いでニヤリ。

「混ぜたる。鍋や」

「食べ物で論破しないでください」ニーヤ。



3)糸刃の“結節”を座らせる――舌凧×縫合


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧二張が風を掴み、棟の子機へふわ。

あーさんの似せ印が蝶番に浅く、俺の扉縫合(Lv.2)が角に点。ブラックの羽衣が高域を熱へ落とし、ニーヤの凍膜+霧膜が喉を温める。

カチ。

一子機、二子機がためらい、糸刃枠の結節が**すう……**と痩せた。


エッジが薄刃を二枚、空へ放つ。

刃は風に乗り、風幕の端を狙って滑る。

「重ねる!」

よっしーのブルーシート二枚がぱさ・ぱさと順に張られ、その間に吸音布、さらにパッチ布。

刃は一枚目を裂き、二枚目で止まり、吸音布で鳴きが座る。

「買いすぎニャ(ブルーシート)」

「要る。鞘は重ねが肝や」



4)布索の“重み”を抱える――縦抱え帆柱


ツグリの縦抱え帆柱が梁の荷を抱え、抱え鎖で落差を消す。

ロウルが裏拍、フェイがとん・とんで呼吸を合わせ、枠の軋みがすうに沈む。

エッジは眉一つ動かさず、次の刃を取り出した。

「布を重ねるなら、こちらは薄く枚を重ねるだけ」

薄刃が六、七、八――シャラと連ねられ、風に紛れて散る。

「糸刃来るよ!」ニーヤ。

「土舌で受ける!」

よっしーが土舌を敷き、終端へ舌袋二段、継ぎ目に粘土団子。

ジャリがすうへ。

刃の叩きは粘土に吸われ、鈍る。



5)“三鈴法・帆倉庫前版”――縫い鈴の拍


合唱鍵の布を外す。

リリアーナが一の鈴で名、ロウルが二の鈴で拍、ニーヤが三の鈴で膜――そこへあーさんが裁縫針をちょんと触れた。

「縫い鈴」

針先が鈴の蝶番に浅く触れ、音が糸みたいに細く強くなる。

B0.6の縫い拍が帆倉庫の中へ通り、内側の押捺机が筆を受け取る準備に座った。

「受け渡し開通!」セレス。



6)受け渡し――“切られても戻る”手順


チトセが白を太く三口、リリアーナが台帳に「非致死捕縛/豚汁済」「呼び戻し札」を記す。

「名を呼んでから渡ってください」

「ミーナ」「ミーナ」

胸骨の裏に火がぽっ。肩が落ちる。

麻倉庫から運び出されたのは、名欠け首輪の織子や帆縫い。

よっしーの豚汁が湯気を上げ、塩むすびとカツサンドが列に回る。

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるの」あーさん。

「おかわりは一回、おやつは二個まで」リナの声。

ルフィは袖の三個目をそっと戻した(今日もえらい)。



7)第一刃エッジ――刃を“座”らせる言葉


エッジは刃箱を閉じ、こちらを見た。

「切るのは道だ。混ぜ物は腐る。清い線が人を救う」

あーさんが板を掲げる。

「刃は道具。道具は使いよう。

鞘は布。布は約束。重ねて返すためにある。

“戻れる道があるなら、切らなくても通れる」

ブラックの羽衣が高域を熱へ落とし、ニーヤの霧膜が喉を温める。

俺は扉縫合(Lv.2)でエッジの薄刃枠の継手に点。

カチ。

刃の座りがひとつ増え、エッジの膝がほんの少し落ちた。


「ほどほどにな」よっしーのスポンジ弾がぽす。

エッジは倒れず、刃箱に手を置いたまま座る。

「布で刃を抱く、か。……汚れがつかぬうちに返すことだ」

「豚汁で手を温めてからにしよか」

「……それは混ぜすぎだ」口元がわずかに揺れた。笑ったのかもしれない。



8)走る裁断――糸刃の“横切り”を縫い戻す


補給路の上を、糸刃枠を背負った兵が二人、白の口へ向けて走る。

「白を切りに来る!」

リンクが梁から二段で落ち、兵の肩紐の蝶番にちょん。

俺が扉縫合で点、ニーヤの薄膜、ブラックの羽衣。

カチ。

枠の鳴きが座り、兵は膝を落として座った。


それでもひと筋、白の縁が裂けた。

「継当て!」

よっしーのパッチ布がぽん。

リリアーナが台帳で名を呼び、あーさんが縫い鈴をちり――B0.6の縫い拍が裂け目を縫い合わせ、白は太さを取り戻す。



9)外縁――ジギーの「首無しの縫い物」


土塁の外で、ジギーが薄く展開した骸骨騎士に麻の網を持たせ、非致死の“座り網”で巡回兵をやわらかく座らせていく。

「眠れ、墓場の砂」

ブラックの羽衣が重なり、眠りは毛布に。

サジとカエナは糸刃枠の起動索に痺れ粉をまぶし、次の“切り”を先に鈍らせる。

「お館様、刃は鈍らせたけど、言葉は切れ味あるわ」

「なら、飯で座らせな」ジギーは笑い、豚汁の鍋を一口すすった。「効く」



10)押捺の間――“帳は筆”、縫い合わせる列


帆倉庫の奥、押捺机。

机の上の押捺印は沈黙箱で枡がされ、脇に筆。

リリアーナが座り、台帳を筆で走らせる。

「非致死捕縛/豚汁済。呼び戻し札」

「名を呼んでから渡ってください」

「ヘルタ」「ヘルタ」

胸骨の裏に火がぽっ。肩が落ちる。


隅で、バーグがまた口を開く。

「お、おい新兵、俺様は――」

よっしーのスポンジ弾がぽす。

クリフさんがとんと弓袋を叩いた。

「決闘は朝ごはんの後だ」

バーグはむくれて座り、豚汁をひと口すすって目を丸くした。

「……うまい」

「せやろ」よっしーが親指を立てる。



11)神官長ネイザン――父の目、退く拍


土塁の階段に神官長ネイザンが立ち、こちらと、受け渡しの列と、空の布索を見た。

あーさんが板を掲げる。

「刃は道具。鞘は布。押すより、呼ぶ方が軽い」

ネイザンは目を細め、娘(ヨシキの仲間のあの子)を伴って後ろへ合図した。

「退く。……朝の鐘でまた話そう」

(いい。座ったまま、話ができる)



12)第一刃エッジの“置き土産”


受け渡しの終盤、エッジがこちらへ歩いて来て、薄刃を一枚、鞘に入れたまま俺に差し出した。

「切れない刃だ。鞘に入っている間だけ、道具として働く」

受け取ると、中は鏡のように鈍い。

「返す時は布ごと返せ。約束だ」

「約束する」俺。

エッジは短く頷き、刃箱を閉じて座った。



13)後始末――跡は薄く、白は太く


風幕は一枚だけ細く残して風上へ括り、パッチ布は二枚残して縫い跡を保守へ。

舌袋の水は抜いて粘土を土に返し、枡枕は裁断線の喉に薄く残す。

痕跡は薄く。

《蒼角》《炎狐》が受け渡しを引き継ぎ、白は太いまま。

帆倉庫は倒れず、“縫い戻せる”まま座った。


耳飾りがちり。

『南縁補給庫、座のまま保守へ。第一刃エッジ、現場を離座。帳は筆で運用へ移行。……別線、王都外郭で鐘架の再建と押捺再開の兆し。十逆の第七衡バラン(はかり役)の動き』ミカエラ。

ガロットが地図に印。

「秤で重みを傾けるタイプ。枡と相性が悪い」

よっしーが枡(沈黙箱)をぽんぽん叩く。

「枡は正義。毛布も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「わかっとる」



14)学園(仮)・終礼――黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+八行。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

そして今日の二行。

刃は道具。

鞘は布。


子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(槌・鉗子・ふいご・枡・車輪・橋・舟・櫂・筆・鍵鈴・小鈴・針)の名を撫でる。

黒板の「今日の名」にミーナほか多数が増え、リナが丸をつけた。

ガンツは「針」の字を少し照れて書き、枡に豚汁をよそいながら笑う。

ルフィは二個目のケーキで踏みとどまり、袖の三個目をそっと戻した(ミカエラの視線が今日も怖い)。



15)屋上の夜――次の扉、“王都外郭のはかり


星は高く、風は乾いている。

クリフさんが弓弦をとんと弾いた。

「親族の名、まだ帳の端に滲む。王都外郭で秤を使うらしい。重みで人を傾けるやり方は、昔から嫌いだ」

ガロットが短く。

「第七衡バラン。重しで拍を偏らせる“秩序”。枡を多重に、風幕は帯で補強。舌凧は二重帆。縦抱えは三本で抱える」

あーさんが板を抱えて笑う。

「講話は短く。

重さは値、値は枡。秤は器。押し付ける石ではない」

よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「風幕は正義。毛布も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。


(つづく)

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