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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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150/363

詔告塔・大写し——塔は柱、声は橋

朝の学園(仮)150階。

黒板の「今日の名」に昨夜の丸がまたひとつ増え、合唱鍵は薄布の下で静かに息をしている。

あーさん(相沢千鶴)が白墨で三行に、きょうの二行を足す。


名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

塔は柱。

声は橋。


俺たちは扉の陰で胸骨の前に二拍。

とん・とん――B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」――「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にございます」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》「ロウル」「ツグリ」/《炎狐》「フェイ」「チトセ」

後詰「ガロット」「セレス」。外縁「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊」。

特記:リリアーナ(台帳・呼び戻し札)。バーグ兵士長(捕虜札「非致死捕虜/雑炊済」)。


セレスが氷地図の中心に濃い印を置く。

「詔告塔・大写し。第四灯ファロと第三鐘クラングが同時運転、塔芯から光と鐘の“合押”。塔脚に押捺壇、塔身に記録鎖、屋根裏に鐘口。本日黄昏、内郭全域に“詔名”をかけ直す予定」


ガロットが槍尻で床をとん・とん。

「目的は三つ。

一、塔芯と鐘口、押捺壇の喉を倒さず座らせる(舌凧×2+風幕重ね+縦抱え帆柱+枡枕)。

二、記録鎖の直結をほどほどに解き、“筆に戻せる器”へ。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


耳飾りがちり。

『A-1〜A-5、白は太く。合唱鍵は二重輪“名→拍”。三鈴法は“押捺壇”と“鐘室”で部分解禁。呼べば戻る』ミカエラ。

リナが黒板の空欄をとんと叩く。「おやつは二個まで」

ルフィは袖の三つ目をそっと戻した(今日もえらい)。


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

沈黙箱(細・中・太)/吸音布/静電ブラシ/耳栓/粘土団子/水袋/砂鉄袋/丸太束/鎖輪/チェーンブロック/スポンジ弾。

ブルーシート十二枚、パッチ布、縫い綱、舌袋どっさり。

食は――おでん大鍋、きつねうどん、あんドーナツ、ほうじ茶。

「買いすぎニャ」

「要る。夜は冷える、腹から拍を合わせる日や」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。出立。



1)塔脚の見取り――詔の喉、鐘の口


詔告塔は王都のど真ん中、石の“柱”が空へ寸分の狂いもなく伸びる。

塔脚の広場には押捺壇。黒い大台に押捺印と印座、脇に検札机、屋根縁に子機。

塔身には記録鎖が巻き付いて、屋根裏の鐘室へ伸びる。

桟の上に第四灯ファロ、鐘室の欄干に第三鐘クラング。

二人は互いに一礼――鐘灯合押の合図。


「段取り」

一、鍵班あーさん・セレス・ニーヤ・ユウキ:塔脚子機と押捺壇に舌凧、似せ印+扉縫合で角に点。

二、泥舌班(よっしー・ロウル・フェイ・骸骨):風幕重ねで光を毛布に、土舌と舌袋で走る叩きを受け、枡枕で喉を丸める。

三、寝かせ台班(ツグリ・骸骨):縦抱え帆柱で塔芯の落差を抱える。

四、返送班チトセ・リンク・ブラック・リリアーナ:白を三口、受け渡し・台帳・おでん。


「講話班はアタシが壇前で短く」



2)壇前の講話――塔は柱、声は橋


あーさんが板を掲げ、押捺壇の端に短く落とす。

「講話は短く。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

塔は柱。柱は持つためにある。

声は橋。橋は渡すためにある」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。

B0.6が石に浸み、壇の鳴きが一瞬ためらう。


屋根でファロが光笏を傾ける。

「光は戒めを示す。影を燃やす」

鐘室でクラングが槌を持ち替える。

「鐘は秩序を分ける。重いものは沈み、軽いものは浮く」

……こっちはいつも通りにやるだけだ。



3)舌凧×風幕×縦抱え——大写しの喉を包む


「揚げる」

俺とニーヤの舌凧二張、極光の薄縁を帆に、子機と屋根裏の鏡筒へふわ。

あーさんの似せ印が蝶番に浅く、俺の扉縫合(Lv.2)が角を点。

ブラックの羽衣が高域を熱に落とし、ニーヤの凍膜+霧膜が喉を温める。

カチ、カチ。

光はすう……に痩せ、鐘室の鳴きが自鳴へ。


「風幕!」

よっしーのブルーシートが塔脚にぱさ、屋根縁へぱさ。

二重・三重に重ね、間へ吸音布とパッチ布。

ツグリの縦抱え帆柱が塔芯を抱え、落差を消す。

ロウルが裏拍、フェイが杖でとん・とん。

走る叩きは土舌と舌袋で受け、枡枕で喉が丸む。


「買いすぎニャ(ブルーシート)」

「要る。毛布は正義や」



4)“三鈴法・塔版”——呼ぶ鈴、渡す橋


合唱鍵の布を外す。

「一の鈴——名」リリアーナが台帳を読み、鈴がB0.6でちり。

「二の鈴——拍」ロウルが板拍子でとん・とん。

「三の鈴——蝶番」ニーヤが薄膜で音を膜へ、ブラックが羽衣で高域を熱に。

三つが重なって、塔脚の喉が歌を思い出す。

押捺は痩せ、筆記が器へ戻る。


チトセが白を太く三口、受け渡しが滑り出す。

「名を呼んでから渡ってください。おでんは熱いのでゆっくり」

「アタシここ一生いたい」

「出るために食べるのです」あーさん。

「おやつは二個まで」リナ。

(ルフィ、あんドーナツ三つ目で手が止まり、そっと戻す。今日もえらい)



5)鐘灯合押の逆手——“名”に重しを掛ける詠


ファロとクラングが同時に笏と槌を落とす。

B0.9の光詠とB0.8の鐘打が合わさり、空気が押してきた。

壇の上の書記官が詔名の紙を広げ、押捺印に手を伸ばす。

名に重しを掛けて橋を反らすつもりだ。


「帳は筆やろ?」俺。

あーさんが板を掲げ、短く。

「声は橋。橋は渡す」

リリアーナが台帳を前へ。

「呼び戻し札、大布で展開します」

よっしーが白布をどんと広げ、周縁に縫い綱をかける。

あーさんが似せ印を浅く置き、俺の扉縫合で角を点。

カチ。

押す詠は痩せ、呼ぶ詠が座った。


クラングが副鐘を追加、ファロが補助灯を増光。

「追い押しか!」

よっしーが砂鉄袋を枡へ流し、ツグリの縦抱えを一本追加。

ロウルが裏拍、フェイがとん・とん。

カチ、カチ。

橋は倒れず、座ったまま水平を保つ。



6)塔内側――サジとカエナ、鎖の“結び目”へ


塔芯のらせん通路。

サジとカエナが忍び足で上り、記録鎖の結び目へ痺れ粉を“薄く”。

「効きすぎは禁止な」

「わかってるって。今日は座らせる日」

木口楔をちょん、角に点――カチ。

鎖の直結は痩せ、筆へ戻る隙間ができる。

すれ違った塔番の足元に撒菱……ではなく小豆をぱら。

「非致死。すべるけど、痛くないやつ」

塔番はずるっと座った。



7)第三鐘クラング——“ほどほど”の留め


鐘室の欄干。

クラングがこちらを見て、短く言う。

「鐘は合図。裁つための石ではない――と、きみらは言うのだな」

あーさんが頷く。

「名を呼ぶための橋です」

俺は扉縫合で鐘口の蝶番に点。ニーヤの薄膜、ブラックの羽衣。

カチ。

鐘の鳴きはすう……へ痩せ、クラングの膝が落ちる。

よっしーのスポンジ弾がぽす。

「ほどほどにな」

クラングは倒れず、槌を膝へ置いて座った。



8)第四灯ファロ——“灯は包む”


屋根の縁。

ファロが笏を胸に抱えた。

「灯は包む――きみらに教わった。……今夜は包む」

ブラックが羽衣をひと振り、ニーヤが霧膜で光に毛布。

塔の大写しは、標だけを残して膝を落とした。



9)押捺壇――“筆”の返還


壇の上の押捺印に沈黙箱(細)、枡として薄く。

リリアーナが筆を置き、書記官に短く言う。

「非致死捕縛/温粥済。本日より筆記運用に。呼び戻し札はここで配る」

書記官はおずおずと頷き、筆で「案内」と書いてみせた。

押しの匂いは消え、文字は座った。


あたりでは白が太く、受け渡しの列。

よっしーのおでんが湯気を上げ、きつねうどんで腹に拍。

「アタシここ一生いたい」

「おやつは二個まで」リナ。

ルフィは三つ目のあんドーナツをそっと戻し(ほんとうにえらい)、ブラックがカァと誇らしげ。



10)ギルド本部・召喚——筆の席


塔脚の片隅に冒険者ギルド本部の使い。

副ギルド長メルキオ、Aランクのバルド、サーラ、ニコが合流した。

「リリアーナ、召喚は無効にならぬ。だが今なら“話し合い”に変えられる」

リリアーナが頷く。

「筆を返してもらいます。受付は呼ぶための橋です」

俺たちは塔脚の白を一本、本部へ太く伸ばした。



11)王都ギルド本部——受付の不在席へ


石造りの大庁。

窓口の端に“リリアーナ席”――名札だけ残り、席は空。

事務の娘が慌てて走り寄る。

「本日、詔告塔への従事命令で席外でした。……でももう、塔は座ったのですね」

リリアーナが微笑む。

「座りました。筆を返してください」

ギルド長代理が奥から出てきて、羊皮紙と木札を差し出した。

「受付筆、呼び戻し札束、台帳三冊――返還する。王都筋の受け渡しは本部で引き継ぐ」

バルドが親指を立てる。

「二拍、とん・とん。覚えたさ」

サーラが窓口の鈴をB0.6でちりと鳴らした。

橋は戻った。



12)外縁・影の人影


帰路、塔の影の欄干に短剣の鞘が一度だけ光った。

濃紺の外衣――第一刃エッジが遠くからこちらを見、刃箱を軽く持ち上げて座る。

(刃は道具、鞘は布。……約束は生きてる)

そのさらに奥、黒衣の袖がすっと引く。

第七衡バランだ。彼も分銅を迷わず地に置き、座った。

(今日は倒さず、座る日だ)



13)学園(仮)・終礼——黒板の二行


夕刻の終礼。

あーさんが黒板に三行+十二行。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

重みは枡。

車輪は縁。

橋は手。

流れは拍。

舟は器。

港は掌。

門は蝶番。

鍵は歌。

広場は皿。

交差は合拍。

刃は道具。

鞘は布。

重さは値。

秤は器。

街は器。

恐れは影。

そして今日の二行。

塔は柱。

声は橋。


子どもたちがB0.6で自分の名を呼び、道具(槌・鉗子・ふいご・枡・車輪・橋・舟・櫂・筆・鍵鈴・小鈴・針・分銅・扇・笏・槌)の名を撫でる。

黒板の「今日の名」に新しい丸が増え、リナが丁寧に色を変えて丸を付けた。

ガンツは「笏」の字を少し照れて書き、枡にうどんをよそいながら笑う。

ルフィは二個目のあんドーナツで止まり、三つ目をそっと戻した(ミカエラの視線は今日も鋭い)。



14)屋上の夜——次の扉、“北の白い罠”


星が近い。風は冷たいが、押しの匂いは薄い。

クリフさんが弓弦をとんと鳴らす。

「母は戻れた。王都の筆も戻った。……だが北縁で白い罠が増えている。帝国学匠局の“雪鏡せっきょう”装置、光を雪で散らして押す」

セレスが氷地図の北に指を置く。

「雪鏡帯。反射の押し。対処は――風幕で熱を載せ、舌凧で角をちょん、縦抱えで支える。三鈴法は短く、白は太く」

あーさんが板を抱え、柔らかく笑う。

「講話は短く。

鏡は面、面は器。返すために磨き、押すために照らさない」

よっしーがブルーシートを肩に担ぎ直す。

「風幕は正義。毛布も正義。湯屋は……」

「節度」全員。

「はい」


胸骨の前に二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。


(つづく)

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