表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/359

吊工廠の秤――空喉を包み、母の母型を返す

朝の学園は、粉チョークの白がまだ柔らかい。

黒板の「今日の名」に昨夜の丸が増え、合唱鍵には薄い布。

俺たちは扉の影で胸骨の前に二拍。

とん・とん――B0.6。

静けさは扉。


「短く点呼」

「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」――「キュイ」

「あーさん、相沢千鶴にございます」

「……カァ(ブラック)」

《蒼角》「ロウル」「ツグリ」/《炎狐》「フェイ」「チトセ」

後詰「ガロット」「セレス」。外縁は「ジギー」「サジ」「カエナ」「ゴブリン若者隊」。


セレスが氷地図に淡墨で丸を打つ。

「目標は北縁氷棚の吊工廠。天蓋祈祷器の本枠を組む空中工房。子機三、空喉は極光で冷やされ、印の母型の母を子機に抱かせてる。

目的は三つ。

一、空喉を倒さず座らせる(舌凧×2+縦抱え帆柱+風幕)。

二、母の母型を返し、印と記録鎖の直結をほどほどに解く。

三、人は返す。非致死、ほどほど」


『A-1〜A-5、白は太く維持。合唱鍵は二重輪“名→拍”で待機、三鈴法は温存』ミカエラの声。

リナが「今日の名」の空欄をひとつ指先で叩き、終礼に備えてチョークを揃えた。


よっしーが虚空庫アイテムボックスをぼん。

沈黙箱(細・中・太)/吸音布/静電ブラシ/耳栓/粘土団子/水袋/丸太束/鎖輪/チェーンブロック/スポンジ弾。

毛糸頭巾・真綿ちゃんちゃんこ・湯たんぽ。そして誇らしげにブルーシート七枚。

「買いすぎニャ」

「要る」「いらんニャ」「要る。今日は風幕が主役や」



1)氷棚下の“索道鈴”を黙らせる


霜都ロージェンを抜けると、空に緑が薄く揺れ、氷棚の縁から索道が蜘蛛の巣のように伸びていた。

綱の支柱ごとに索道鈴が吊られ、拍が触れればB0.8で警鐘になる仕掛け。

「鍵班、喉と蝶番に浅く」

あーさんが似せ印を喉の裏へすっ、俺が扉縫合(Lv.2)を角に点。

ブラックが羽衣で高域を熱に落とし、ニーヤの霧膜が鈴の喉を温める。

カチ、カチ。

鈴は黙り、風だけが通る。


「裏拍で上がる」ロウルが石突でとん・とん。

B0.6の足並みで、俺たちは氷棚の影に舌袋を仕込み、橋脚の根に縦抱えの基礎を立てた。



2)吊工廠の空喉


頭上、黒鉄の梁が格子に組まれ、その中央に空喉の枠が宙吊り。

三つの子機が、母の母型を背骨に抱いたままB0.8で微震し、極光が喉を冷やしている。

足場では白衣の学匠局員と鉱夫たちが、印判の母板を磨いていた。

「捕らわれの工匠も混じってるニャ……」

「人は返す。ほどほどにな」ガロットが頷く。


「四段構え」

一、鍵班あーさん・ニーヤ・セレス・ユウキ:舌凧で子機の蝶番を丸め、母の母型を緩める。

二、泥舌班(よっしー・ロウル・フェイ・骸骨):梁の軸に舌短、床に舌袋。

三、寝かせ台班(ツグリ・骸骨):縦抱え帆柱で空喉の重みを抱える。

四、返送班チトセ・リンク・ブラック:雪洞に白を三口、受け渡しと粥。


「講話班はアタシが下で短くやる」あーさん。



3)舌凧×風幕×帆柱――倒さず座らせる


「揚げる」

俺たちは胸骨の前で二拍。とん・とん。

舌凧が極光の縁をかすめ、子機の蝶番にふわと触れた。

あーさんが似せ印を浅く、俺が針を角に点。

ブラックの羽衣が高域を熱に落とし、ニーヤの凍膜+霧膜が喉を温める。

カチ。

一子機、ためらい。

二子機、ためらい。

三子機は逆風で唸る。


「風幕、もう一枚!」

よっしーのブルーシートが空でぱさっと広がり、喉に毛布をかけるみたいに覆う。

「買い——」

「要る!」


ツグリの帆柱が鎖輪で抱え、空の重みを受け止める。

極光の鳴きはすう……に落ち、空喉は座った。


梁の上で白衣の数名が手を止め、下では鉱夫が肩の力を抜く。

「朝ごはん前の一勝や」よっしーが親指を立てる。



4)黒い外套の男と、“秤”


空の毛布の下、黒外套の男が梁の影から歩み出る。

肩章に十の刻印、手に天秤。皿の縁に細かい刻み、柱には衡印の金字。

「十逆騎士・第七秤バラン」セレスの囁き。

バランは皿を軽く揺らした。B0.6とB0.8の線が、皿の上で均ろうとする。

「秩序は釣合い。君達の拍が軽ければ、税として重くする。軽重を判ずるのが秤の役目だ」


よっしーが肩で笑う。

「ほなますを持って来よか。測るなら器も温めな」

「買いすぎニャ(枡)」

「要る」



5)門前の講話――地図の次は“枡”


あーさんが工床の端に立ち、板を掲げる。

「講話は短く。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

そして今日のもう一行。重みは枡。枡は返す器。人に押し付ける石ではない」


バランの瞼がわずかに動いた。

「枡は税を量る器でもある」

「粥を盛る器でもある」あーさんは静かに返す。


よっしーが沈黙箱(中)を枡型に仕立て、秤の下に枡枕として差し込む。

「秤の喉、鈴で鳴る構造や。枡で喉を包めば、鳴きは自分に戻る」

ロウルが石突でとん・とん。フェイが裏拍、ニーヤが薄膜。

バランの秤は、皿の上で自分の重みを量り出した。


リンクが梁から二段で降り、秤柱の蝶番にちょん。

俺は扉縫合(Lv.2)で角へ点。

カチ。

バランの膝がわずかに落ちる。

「膝が笑う拍だ」

「ほどほどにな」よっしーのスポンジ弾がぽす。



6)母の母型――“上”から外す


子機の背骨に抱かれた母の母型へ、舌凧の縁に仕込んだ薄板鍵が届く。

あーさんの似せ印、俺の針、ブラックの羽衣、ニーヤの水膜。

カチ。

緩む。

ツグリの帆柱が子機を抱え、よっしーがチェーンブロックで落差を消し、ガムテ(買いすぎ)で緩衝を巻いて母の母型をぽいと虚空庫へ。

「買いすぎニャ」

「要る。角を傷めずに返すんや」


工床の端で、白衣の学匠補チヌスが安堵の息を吐いた。

「印が撤収できる……記録鎖は二重。薄板をもう一枚、秤の足元の床に」

あーさんが頷き、木口楔をすっ。俺が点。

カチ。

記録鎖は角を丸め、拍連結箱は自分を鳴らすだけになった。



7)外縁の“ほどほど”――ジギーの鎮圧と受け渡し


氷棚の外縁では、ジギーが骸骨騎士を薄く展開し、非致死の座らせで周囲の巡回を柔らかく止めていた。

「眠れ、墓場の砂」

スリープサークル(ネクロ)に羽衣の熱が重なり、兵たちは毛布に頭を埋めるように座る。

サジとカエナは滑車に砂鉄をまぶし、索道を痩せさせる。

ゴブリン若者隊は焼き餅と粥を配り、札を読む。

「非致死捕縛/朝粥済」

受け渡しの白は三口、リリアーナの台帳が早い。

「名を呼んでから渡ってください」

「エイナ」「エイナ」

胸骨の裏に火がぽっ。肩が落ちる。


ルフィが白の縁からひょい。

「おやつは?」

「二個まで」ミカエラの声が耳飾りから落ちてくる。

「三個」

「明日の自由研究に回しましょう」

「要る(明日)」



8)“第七秤”の留め言葉、そして長官


バランは秤を抱え直し、短く言った。

「秤は敵ではない。重みを知るための道具だ。——枡の使い方を学び直す」

「粥を盛る器にもなる。朝ごはんを食ってから、戻って来い」よっしー。

バランはうなずき、静かに座った。


欄干に肘を置いて空を見ていたアウラントが、こちらに一瞥を寄こす。

「喉に布、秤に枡。……学びは美しい」

「印は?」あーさん。

「撤収だ。記録は帳に残すが、名は押さない。——今夜はな」

「扉は多い。拍は一つ」俺。

「覚えておく」



9)吊工廠の撤収――喉に布、道に息


空喉の毛布(風幕)は一枚だけ細く残し、舌袋の水は抜いて粘土を耕土へ返す。

帆柱は一重の抱え鎖を残して柱に戻し、痕跡は薄く。

白は太いまま、《蒼角》《炎狐》が受け渡しを引き継ぐ。


工床の端で、学匠補チヌスが粥椀を持って頭を下げた。

「印は母から外した。帳は名を返すために書き直す」

「台帳ならうちの受付嬢が上手い」よっしーが笑う。

リリアーナは目だけで「当然です」と返し、竹札を追加した。

「印撤収/証言協力」



10)霜都へ――湯屋は“節度”


氷棚を離れると、ロージェンの庇から垂れる氷柱が光った。

よっしーが湯屋の赤提灯を見て、未練たっぷりに立ち止まる。

「節度」

「はい」

「飯テロ・オーロラは成功やったしな……」

「最後の一言いらない」ニーヤ。


アーレンが梁の影で待っていた。

外套の襟を下げ、目の縁に疲れ。

「黒工房は?」

「母の母型を返した。印は撤収、帳は書き直す。朝粥は効く」

「……学園に行ってもいいか」

「朝ごはんを食べてから門を叩きなさい」あーさん。

「要る」



11)学園の夕刻――「地図」と「枡」


150階・学園(仮)。

終礼。

あーさんが板に三行と一行。

名は輪郭。

輪郭は境界。

境界は——蝶番。

道筋は地図。

そして小さくもう一行。

重みは枡。


子どもたちがB0.6で名を呼び、拍を合わせ、道具(枡・鍋・槌)の名を撫でる。

合唱鍵は二重輪のまま、三鈴法は温存**。

おやつは二個まで。

ルフィは三個目を袖に隠し、ミカエラに無言で見つかり、そっと戻した。


黒板の「今日の名」に新しい丸。エイナ、シェナ、チヌス。

ガンツは「枡」の字を少し照れて書き、子らが拍で撫でた。



12)忍びの報――次の扉


日が沈む頃、サジとカエナが雪の匂いを連れて駆け込んだ。

「北縁のさらに奥、吊工廠の補給路から搬送列が分岐。雪箋谷せっせんだに経由で帝国黒縁の奥へ収容者の移送開始!」

「名簿にクリフの伯父の名、鍛冶見習いの束も」

クリフさんは矢羽根を二度撫で、B0.6で短く。

「人は返す。非致死、ほどほど」

ガロットが地図に印。

「順序はこうだ。

•学園は合唱鍵で防護継続。

•雪箋谷へ鍵班先行、鈴管を黙らせ、搬送列を座らせる。

•印の残り鎖があれば角を折る。

•受け渡しは《蒼角》《炎狐》」


耳飾りがちり。

『氷棚吊工廠、天蓋の本枠は座ったまま。帝国学匠局長アウラントの動きは沈。十逆は第七秤を後方に、別番の第八車ラートの印を遠探知』ミカエラ。

「扉が増える」セレス。

「蝶番に油。朝ごはんは食べてから」あーさん。

「要る」よっしー。


俺たちは胸骨の前に二拍。

とん・とん。

静けさは扉。


稽古は続く。

開ける。閉める。そして、返す。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ