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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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アレクサル潜入編・第1話 静けさは扉、そして覚悟の前夜

ここから物語は、これまでの“非致死・ほどほど”では越えられない領域に入っていきます。


 アレクサル北鉱区――そこは、名を奪われた者たちが収容され、クリフの家族も囚われている場所。

 敵は遠慮なく命を取りに来る。こちらも覚悟を決め、**「非致死は守るが、手加減はしない」**という方針へ切り替えます。


 いつもよりシリアスで、少し重い回になるかもしれませんが、仲間たちの絆や“名を取り戻す”というテーマがより深く描ければと思います。

 どうぞお付き合いください。


――本編へ続きます。



人工の黄昏が、塔の第三階層を静かに染めていた。

食堂兼“学び部屋”となった空間には、今日救い出された子どもたちの名が黒板に丸く並んでいる。


ミン。ソラ。タロ。エイミ。

名は輪郭。輪郭は境界。境界は、扉の蝶番。


あーさんが白墨の粉を払っていると、

耳飾りが軽く震え、ミカエラの声が降りてきた。


『第四階層との接続安定。

 外周ビーコンも沈黙箱の流量正常。

 潜入準備、いつでもどうぞ』


その報告に、場の空気がわずかに張った。

静かな「夜の気」が、ひとつ、集まっていくのが分かる。


ユウキが椅子を引きかけたところで、

クリフさんがすっと前に出た。



◇【作戦前の“覚悟”】


(クリフ主導)


「……みんな、聞いてくれ」


よっしーの手が止まり、

ニーヤの尻尾が揺れを止める。

リンクとブラックも目を向けた。


クリフさんは拳を軽く握り、

まっすぐに言葉を落とす。


「今回俺たちが向かうアレクサル北鉱区には……

 俺の家族が囚われている」


沈黙が生まれる。

けれど、それは重苦しい沈黙ではなく、

“聞く”ために空いた沈黙だった。


「敵は命を奪う連中だ。

 “名”を物みたいに扱い、人を捧げ物にする。

 迷えば……こっちが消える」


彼は深く息を吸い――


「非致死は貫く。

 だが、“非致死・ほどほど”はここで解除する。

 本気で縫って止める。

 誰一人欠けさせないために。」


その言葉に、

まるで輪郭がひとつ締まったような感覚があった。


よっしー

「……クリフ。うちは最初から味方や。心配いらん」


ニーヤ

主人あるじ! わたしたち、ぜんぶ力貸すニャ!」


リンク

「キュイ(任せろ)」


リナ

「戻りましょう。全員で」


あーさん

「扉は開け閉め。締めどころ、開けどころ。

 今は“締め”でございますね。よろしゅう」


ミカエラ

『作戦モード切替完了。“本気で止める”に移行します』


ユウキは静かに立ち上がり、

クリフさんの横に並んだ。


「……俺は前に立つのは向いてない。

 でも、後ろからなら支える。

 絶対に一人になんてさせない」


クリフ

「ありがとう。ユウキ」


その空気の中で――


ガチャッ


よっしーが虚空庫からラジカセを取り出した。


「ほな……景気づけや」


キュルルッ、カチッ。


流れたのは――

Guns N’ Roses《Sweet Child O’ Mine》。


ニーヤ

「……潜入前の曲じゃないニャ……!」


リナ

「でも、なんか元気が……出ます……!」


よっしー

「せやろ!? ガンズは気合いや!」


ブラック

「……カァ(気分↑↑)」


場の硬さがほどける。

それでも芯は折れない。


クリフは仲間を見回し、静かに言う。


「行こう。

 家族を取り返す。

 名を奪われた人を救う。

 そして――

 “名を軽んじる連中”に、名の重さを思い知らせる」


ユウキ

「任せろ」


よっしー

「盾、整備済み。裏拍受けは完璧や」


ニーヤ

「風膜魔法《風紗ヴェール》、展開準備万端ニャ!」


ブラック

「……カァ(眠らせる役はまかせろ)」


ミカエラ

『従属首輪の無痛切断、即応可能』


あーさん

「名寄せ表も準備。違う名は違う列へ、きっちり分けます」



◆最終点呼(本文)


あーさん

「では、輪郭をそろえましょう。点呼にございます」


「ユウキ」

「よっしーや」

「クリフさん」

「ニーヤですニャ」

「リンク」――「キュイ」

「リナ」

「あーさん、相沢千鶴」

「……カァ(ブラック)」

『ミカエラ』


胸骨の裏に、小さな火が一つずつ灯る。

それは、言葉以上の誓いだった。



◆出立


ユウキ

「――アレクサルへ向かう。

 点で入って、点で戻る。

 静けさは扉。

 扉の蝶番は……俺たちだ」


よっしー

「……で、ガンズ止めてええ?」


ユウキ

「敵に聞こえるからやめろ」


よっしー

「ほな、イヤホンで聞くわ」


ニーヤ

「それはそれで怪しいニャ!!」


静かな笑いと、確かな覚悟。

拍がひとつにそろい――


アレクサル潜入編:第2話へ続く。


後書き(完成版)


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の第1話は、これまでとは空気が少し違ったかもしれません。

理由はひとつ――ここから先は、本気で命を取りにくる敵との対面になるためです。


この物語は “非致死・ほどほど” をひとつの芯にしてきましたが、

アレクサル潜入では、それだけでは守りきれない場面が必ず出てきます。


とはいえ、仲間たちの方針は変わりません。


「命は奪わない。ただし、手加減はしない」


この“非致死を守りながら本気で戦う”という矛盾をどう成立させるかが、

今回のアレクサル編のテーマのひとつです。


クリフが前に立ち、

ユウキが隣で静かに支え、

よっしーとニーヤ、リンク、リナ、あーさん、ブラック、ミカエラたちが

いつもより一段引き締まった拍で歩き出す姿を楽しんでいただければ幸いです。


次回は、いよいよ アレクサル北鉱区への潜入開始。

光隠魔法シャイニーハイド風膜護魔法ヴェールブリージングなど、

“影の仕事”が中心となる静かな戦闘シーンになります。


そして――

副官ヨレックとの因縁の火蓋も、そろそろ切られます。


応援コメントや評価、ブックマーク、本当に励みになっています。

次話もどうぞよろしくお願いいたします。


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