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しめった朝

作者: 高速道路

 俺は、気づけなかった。

 気づくチャンスなんて、いくらでもあったのに。

 ――いや、気づきたくなかったのかもしれない。 



 夏の中でも八月の中旬は天気が一喜一憂して日本は湿気に包まれる。体はなんとなく重く、何かしたいのに何もできない、そんな日が続くと思えば終わる。夏休みというものは一時のプレッシャーから解き放たれたある意味、「覚醒期間」である。今、そんな覚醒期間が終わりを告げようとしている。


「あと、二日か。」


 夏休みが終わりを告げている。現在、8月29日時刻は0時00分。自分に残されたタイムリミットは丸々48時間。ひとまず、"しなければならないこと”が残っている。

 読書感想文、自由研究、数学ワーク1冊。こいつらの討伐が最優先だ。

「残った時間で何をするかを考えてそれを目標に効率を上げよう。」

 この夏休みでやりたかったことはなんだ?

 いざ考えてみると難しい。テスト期間中はテストが終わったらしたいことが山のように考えられたのにおわってみるとなにをしたかったのだと自問自答するように。頭が動いているようで動いていない。そんな風に頭の中で話の路線を変更していると、その線路に乗って電車が来たらしい。その電車の勢いで、空にいくつものアイディアが出てきた。


 博物館・美術館で優雅なゆっくりする自分だけの時間を過ごしたい、漫画喫茶というものにいってみたい、あのゲームがしたい。


 すごい勢いで出てきたアイディアはすごい勢いで消えていき、それをどうにかどうにか掴もうと手を伸ばそうとするが、どうにも力が入らない。第一関門クリアと思っていた時には俺は自分の部屋にいた。さっきまで俺は外にいたようだ。とりあえず、第二関門”夏休みの課題”をクリアするためにいざ課題するぞと思ったとき、視界は大きく変化した。

「これは何だ?」

 赤帽子の男が星を手にした時のようなこの躍動感、心臓が今にも爆発しそうになっているのを感じる気がする。そんな風に思っていると手を付け始めていた数学のワークは終わっていた。気が付くと読書感想文も自由研究も終わっていた。読書感想文は本すら読んでいないのになと思ったが、よくよく考えたらAIに書かせたのだった。

 とりあえず、二つの関門を乗り越えたことだから、やりたいことをやりまくろう!と思った矢先、俺は自分の部屋ではなく、昔、それとも最近、確信はないが必ずどこかできたことのある”場所”に来ていた。   なぜ、どのような意図でこの場所に来たのか、ここがどのような場所なのかは全くといっていいほど知らない。それでもここはきた経験のある場所で、心がなんだか懐かしさを感じる場所だった。さっきまで、課題で追い込まれ、心拍数があがった体が急速に落ち着いたせいかも知れないが便意が体を駆け巡る。トイレはどこにも見当たらない。あたりを見渡し、誰もみてないから大丈夫だなと思い、道というか壁というかその境界が曖昧な場所で用を足した。飛び散った液体が足につく。それは足につくというレベルではなかった。水たまりの上で転んだかのように俺のズボンは濡れた。


 濡れたズボンは俺に気が付きと焦りを教え、カレンダーの31の数字と部屋に差し込む太陽は濡れた俺に絶望をくれた。

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