老女達への風当たり
伊丸岡は最近、社会に対して不満を持っている。確かにやっとのことで開発した治療法は世界的に認められてはいる。しかし、憎き認知症を治療出来ても、老人達への風当たりは強い。特に老女達への対応は冷徹である。
少女から大人になるまで勉強を続け、仕事一筋で頑張ってきた女性、若いうちに結婚できて妊娠も出産も出来たが家事育児労働に追われてきた女性、運良く専業主婦になったけれども窮屈で外野から罵倒されてきた女性。世の中にはそんな辛い思いをしてきた女性ばかりだ。それなのに女性達は老いると社会の荷物として扱われる。さんざん家庭でも社会でも尽くしてきた女性達に社会は冷淡だ。
男性ならば老いても経済力が有れば若い女性と簡単に再婚できる。妻から確実に面倒を観てもらえる。年長者として大事に扱われる。
同じ人間なのに老いると女性達はババアと蔑まされ、男性達はお爺さんと尊ばれる。
伊丸岡はそんな性差別にもうんざりし始めた。介護現場でも医療現場でも、妻が夫を見限るよりも遥かに夫が妻を見限る例が多い。統計にも出てるぐらいだ。さんざん男達は妻の世話になっておきながら、妻が要介護になると躊躇わずに捨てるのだ。それでいて男達は手厚く介護される。こんな不条理の繰り返し。
性暴力や家庭内暴力を受けるのは少女や女性ばかり。男性や少年の二倍以上の被害が出ている。それなのに女性が歳を取ると社会からも家庭からも排除される。女性からの感情労働に対する礼をする者は少ない。
男女平等と叫ばれていても実態はそんなものだ。所詮、社会は男尊女卑。か弱い女性が妊娠出産しても、それを心から祝福し支えて感謝する者は少ない。子どもを産まずに仕事一筋の女性に対しても皆、冷たい。
「下らない。何やってるんだろう、俺は」
伊丸岡はせっかく開発した医療技術を教えるのを止めて暫く休暇を取ることにした。