精神科医
伊丸岡は病院に行って勤務時間を一日八時間、週休二日を徹底させた。日曜日や休日に働く場合は代休を取得する。病院側は伊丸岡の復帰を歓迎したが、第一線を退くと聴いて残念がった。
伊丸岡は外来の精神科医として様々な病状の患者を診察することになった。統合失調症以外にも適応障害や発達障害や躁鬱病も診始めた。伊丸岡は今まで認知症に特化していたので手間取ったが、患者の話を傾聴しては探るように診察した。多くの患者はその態度を評価した。
処方を何度も変えるように訴える患者、自分の話ばかりする患者、主治医の私情を質問ばかりする患者、投槍な患者。色んな態度の患者が来る。
時間が有れば伊丸岡は論文や患者達の手記を読んだ。精神科は他科よりも患者本人の視点が注目される。
統合失調症は適切な治療と投薬で寛解し、職場復帰している者も少なくない。重労働と長時間労働は禁物だが、適度な働きはむしろ精神衛生上好ましい。しかし、統合失調症患者への風当たりは強い。特にネットでは精神障害者を嘲笑する輩が多い。
障害者差別に憤る精神障害者も沢山いるが、自己卑下する者も珍しくない。障害が重くて生活保護を受けている者は負い目を感じる者の方が多い。精神科医を脅して支援をもぎ取ろうとする輩よりも精神科を避けて病状を悪化させる者の方が多い。
生産性の無い者は消えろ。納税出来ない者に権利はない。そんな社会の声が聞こえてくる。
伊丸岡は不快になったが、耐えた。労働条件が以前より軽くなったのと、職場仲間との交流が出来たからだ。また、患者本人も老女達より病状や障害を訴えている。
職場復帰後、私生活も順調だ。妻は相変わらず多忙だが、少しだけ仕事量を減らしている。家族水入らずの時も増えた。