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丸山長治

 一週間後。渡辺の言われた通りに伊丸岡は精神科に受診した。


 担当の医師は七十代の男性だ。名前は丸山長治まるやまながはる。丸山は伊丸岡と目が合うと、驚いた顔をした、

「『思い出し』を開発した伊丸岡先生ですか」

 「思い出し」というのは伊丸岡が開発した治療法の通称だ。伊丸岡は居心地悪そうに、

「それを開発して少し後悔しているのです」

 丸山が促す、

「と、言いますと?」

 伊丸岡は高齢者に冷淡な社会を非難した。せっかく認知症が治っても、若年層のように働けない高齢者は結局排除される。それを聴いた丸山は、

「まあ、お怒りはごもっともですね。でも、僕はこんな歳でもまだ現役ですよ」

 伊丸岡は俯いた。丸山は、

「社会に貢献した分、社会への不満が大きくなるのは仕方ないかもしれませんね」

 伊丸岡は暗い声で、

「『思い出し』が本当に役に立っているのでしょうか」

 丸山は明るい声で、

「自身持って下さい。僕の妻も『思い出し』で立ち直ったのですから」

「でもそれは当事者の皆が他人に遠慮しているからです。高齢者への風当たりが強くなければ認知症のまま天寿をまっとうした方が楽なのではないでしょうか」

 丸山は悲しそうな顔をして、

「周囲へのエゴは確かにありますが、認知症で苦しんでいるのは他ならぬ当事者ですよ」

 伊丸岡は、

「高齢者、特に女性の高齢者は周りばかりを気にして自分の幸福を考えていないのです」

 丸山は真顔になって、

「それは傲慢ですね。確かに彼女達は気を遣い過ぎてますが、自分を蔑ろにしているわけじゃありませんよ」

 伊丸岡は黙った。丸山は、

「やはり落ち込んでらっしゃるようなので年の為に薬を処方します。三ヶ月は飲み続けて下さい」

「復帰しない方が良いですか」

 伊丸岡が尋ねると丸山は、

「復帰したければ何時でも大丈夫ですが、長時間や重労働は控えて下さい」

 あと三ヶ月は休もうと伊丸岡は考えた。丸山は、

「社会に対して不満が有るので、あまり情報収集し過ぎないようにして下さいね」

「分かりました」


 伊丸岡は薬局で薬を渡されると帰った。今までネット記事を漫然と読んでいたが伊丸岡はそれを止めようと考えた。

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