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短編集

枕詞

作者: 豆苗4

 枕詞を掘削し、そのまま埋め戻す。ただそれだけ。本当にただそれだけなのだ。もしかしたら雲に引っかかっているかもしれないし、波の間から半分顔を覗かせているかもしれない。それを……。それをしてどうなると言うのだ? 何の足しにもならないのに。被枕詞はシャボン玉の中に。白いワンピース、開かずの扉、セルビアの遊歩道。駅舎の裏手の風見鶏。牛車の横転。


「そんなことしたって……」

「そう、その通り」

「だったらなぜ……」

「……それの何が問題なんだ? 」

「えっ? 」

「だって……」

「ああ、そうだとも。それは痛いほどよく分かる。でも、いや、そうじゃない。()()()、やるんだ。とにかくやるんだ。これは儀式なんだよ」

「……儀式? 」

「そう。儀式。取るに足らないように思える。何ともないように思える。実際取るに足らないのかもしれない。注力するに値するものではないのかもしれない。でもそれが何だって言うんだ。それをいくら束ねたところでこれを退ける理由にはならない」

「………それでも、やったってやらなくったってちっとも変わりやしないじゃないか」

「その通り。本当にその通り。正しい。本当に正しい。貴方が歌っているならば! でもそうではないんだ。どうか落ち着いて聞いてくれ。これは歌なんだ」

「はっ? 」

「歌。ほら、聞こえるか? 目を閉じて耳を限界まで澄まして」

「………」

「……らららら〜」

「君が歌うんかい。それは聞こえるわ」

「しっ、聞くべきはこれじゃないんだ。これはあくまでも呼び水に過ぎない。然るべき時に然るべき音を聞くんだ」

「………」

「………」

「……やっぱり聞こえないよ」

「あら、小さかったか。なら踊るんだ。今ここで。そうしたら上手く聞こえるかもしれない」

「ここで踊れ? 」

「そうだ。踊るんだ。踊らずに踊れ」

「???」

「それが儀式だ」


 我々がついぞすれ違うことのない枕詞は、暗く濁った小さな湖の底でゆったりとした流れに揺られている。

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