最弱職【観察者】だった俺が、世界の理を知った結果、神を超えてしまった件
よろしくお願いいたします。
世界に存在する“適性職”という概念。人は生まれながらにして職業を与えられ、それによって生き方が決まる。戦士、魔法使い、僧侶、剣聖、賢者──そして、最底辺とされる“観察者”。
「シン、お前の職業……“観察者”? ぷっ、何それ、戦えないやつじゃん」
少年時代、職業を判明させる“神託の儀”で、俺は笑われた。
戦う力はない。支援もできない。ただ見ることしかできない。それが【観察者】だった。
けれど、俺は諦めなかった。
俺には──“全てが見える”。
【観察者】の能力。それは、対象のステータス、スキル、思考、行動パターン、さらには周囲の法則やエネルギーの流れまで、視認することができる力だった。
当初、俺はそれを戦いには使えないと考えていた。
けれど、ふと思ったのだ。
「見るだけでも、十分強くなれるんじゃないか?」
俺は冒険者ギルドに所属し、戦場に身を置いた。
パーティーを組まず、一人で行動し、強者たちの戦いを“観察”し続けた。
──剣技の軌道。
──魔力の収束。
──スキルの発動条件とタイミング。
見る。見る。ひたすらに見る。
そして記録し、理解し、解析する。
戦えなくても、戦いを知ることはできる。
そして、知識は力だ。
観察し続けて数年。俺の頭の中には、ありとあらゆるスキル・魔法・戦術のデータが蓄積されていた。
気づいた頃には、俺はそれらを“模倣”できるようになっていた。
それは【観察眼】スキルの進化系、《模倣眼》。
たとえば、炎の魔法【ファイアランス】を放つ魔導士を観察した俺は、翌日、全く同じスキルを放てるようになっていた。
もちろん、それだけでは終わらない。
俺のスキルは、模倣した技術をさらに“最適化”する。
【ファイアランス】を観察し、俺が放つ時にはより速く、より強く、より省エネな“改良版”となっていた。
「観察者……? 誰が最弱だって?」
そう言って笑う者はいなくなった。
なぜなら、もう誰も俺の戦いを見届けることができないからだ。
一瞬で、すべてが終わるから。
ある日、俺は“見えてはいけないもの”を見てしまった。
神の姿。
いや、正確には“神の情報”。
世界の運命を操作する“因果律”のコード。
魔法やスキルを支える“概念の構造式”。
それらが、まるで数式のように視界に浮かび上がっていた。
──ああ、そうか。
この世界は“書き換え可能”なんだ。
観察眼が進化し、《真理眼》へと変貌したとき、俺は世界そのものの設計図を理解した。
そして気づく。
神すら、この“世界のルール”に縛られている存在でしかないと。
だったら、そのルールを“編集”できる俺は──。
「神、以上だな」
王都が魔族に襲われたという知らせが届いた。
かつて、俺を庇ってくれた少女──リリアが、戦場にいると聞いた。
彼女は優しかった。強かった。
“最弱の俺”を、笑わずに守ってくれた唯一の存在だった。
俺は王都へ飛んだ。
そこには、絶望的な戦況が広がっていた。
魔族の王・バルドガルド。レベルは300。既存のスキルでは太刀打ちできない“災厄”。
だが、彼を見た瞬間、俺はすべてを理解した。
──彼の能力。魔力の流れ。弱点。過去。思考。恐怖。
──そして、それらを“超える方法”。
「よぉ。最弱のお荷物が来たぜ」
リリアが振り返る。目を見開き、呆然と俺を見つめる。
「……シン?」
「俺は、もう誰にも守られない。誰にも守らせない。守るのは、俺だ」
言葉と同時に、俺はバルドガルドの“存在理由”を観察し、破壊した。
バルドガルドは、俺の一歩すら見ることなく、崩れ落ちた。
「……あんた、何者なの?」
リリアが、俺にそう問うた。
「ただの、観察者さ」
俺はそう答え、空を見上げる。
そこには、神々が並ぶ天界。
俺を見下ろし、警戒し、恐れている存在たち。
──次に、観察すべきは“そっち”だな。
そう呟いて、俺は空へと飛び立った。
見ることで、すべてを知り。
知ることで、すべてを超える。
観察者──それは、世界を“超える”職業だった。
完
ありがとうございました。